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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第一章:計画始動

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13.新しい使用人を手に入れた!

「先程は失礼しました……。改めまして、私はモランといいます。よろしくお願いします」

「ミーティアよ。よろしくね」


 ガチガチに緊張していたモランが落ち着いたところで、机を挟んでお互いの自己紹介を済ませる。

 メールは私達の間に入るように机の横に座り、この面接を取り仕切ってくれている。


「しかし、“翼人族(よくじんぞく)”とは珍しいわね。地上には滅多に降りて来ることが無いと聞いていたのだけど?」


 改めてモランの背中から生えている大きな翼を凝視しながら、そんなことを呟く。

 翼人族とは翼をもった人々の総称だ。

 彼等は150年前の世界大戦の戦火から逃れるために、天空に浮かぶ巨大な島『浮遊島(ふゆうじま)』を作り、空の上に生活圏を移したと()われている。

 大戦が終わった現代でも翼人族は浮遊島から離れることは無く、地上には滅多に降りて来ることはないはずだが……。


「あ、確かにそういった人がほとんどなのは確かですけど、私はその……地上に憧れて、島を出てきたんです……」


 私が呟いた素直な疑問に、モランは口ごもりながらそう答えた。


「確かに、地上で暮らしている翼人族も数は少ないですが、いるにはいますね~。しかもその理由の大半が『島での生活に飽きた』だそうですよ~。モランさんもそう言った口ですかね~?」

「ま、まぁ、そんなところです。それで地上で生活するための住む場所と仕事を探していた時に、ミーティアさんの募集を見つけて応募したんです」


 モランが地上に降り、私の募集に応募した経緯は分かった。

 ……モランの気持ちは何となく分かる気がする。私も1ヶ月ほど部屋から出ずに研究を続けていると、たまに外の空気を吸って気分転換したい気持ちになることがある。

 まあ、私が研究に()()()ということは決して無いけどね。


 ……話を戻そう。モランは浮遊島を飛び出して地上に来た。そして仕事を探していたら、住み込みで働ける私の募集を見つけたと言う。

 確かに地上に来て何の当ても無かったモランにとって、私が出した募集は住む場所と仕事が一度に手に入るのだから魅力的だったことは想像に難くない。……給料が安いことに目を(つむ)ればね。

 まあそれもメールと相談して決めたものなので、そこに対して文句が出ることはないと思うけど。


「なるほど、分かったわ。……じゃあ一応確認するわね? 募集を見たなら理解出来ていると思うけど、私は新しい使用人を必要としているわ。モランは私の屋敷で働くにあたって、使用人としてどれくらいの仕事が出来るのかしら?」


 この確認は重要だ。使用人としてどれくらいの仕事が出来るのか、それによってモランを雇うか雇わないかが決まる。

 もし雇うならアインと二人で仕事をするのが基本になるだろうから、アインの負担を減らせるように、せめて最低限は掃除・洗濯・料理は一人でこなせるぐらいのレベルが欲しい所だ。


「ええと、家事は家にいる時も手伝っていたので、掃除・洗濯・料理・買い物・家具の修繕・裁縫などは一通り出来ます。あっ、ただ育児はしたことが無いのでそれに関しては役に立たないかもしれませんが、もし必要なら今から勉強して――」


 ――ガシッ!


 モランの話は途中だったが、私は勢いよく机に身を乗り出してモランの手をガッチリと掴んだ。


「――えっ、ええっ!?」


 話の途中で突然手を掴まれたことに驚いたモランは、何が起きているのか解らないといった顔をして、握られている自分の手と私の顔を交互に何度も見ている。

 メールも私の突然の行動に驚いて口を開けているが、今の私にはそんな事に気を割く余裕は無い。


 まさかこんなに早く見つかるとは……だけど、これは嬉しい誤算だ。

 この子なら問題ない。……いや、それどころか私が望んでいたよりもずっと良い掘り出し物かもしれない。これを逃す選択肢は無い!


「モランちゃん!!」

「は、はい!?」

「あなたこそ私が望んだ……ううん、それ以上の人材よ! 私は是非ともあなたを雇いたいわ! いいかしら?」

「ッ!? ――は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 こうして私はこの翼人族の少女、モランの採用を即決した。




「はい、これで契約完了です~。お疲れさまでした~」


 メールが用意した契約書に私とモランそれぞれ名前を記入して、無事に正式な契約が結ばれた。

 この契約書は労働組合が厳重に保管して、私がモランを解約するその時まで表に出ることは無いそうだ。


「ありがとうメール」

「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ~。また何かあればいつでも頼ってください~」

「ええ、そうさせてもらうわ! ――じゃあモラン、私は先に東門の広場に行って馬車を回しておくから、荷物を纏めて来てね」

「分かりましたミーティア様!」


 契約を終えて早速屋敷に戻ることにした私は、モランに荷物を持って東門広場に集合するように伝えた。

 モランは足早に労働組合を飛び出して、宿屋に預けた荷物を取りに行く。

 私もその後を追う様に労働組合を出て、管理棟横の馬車置き場で預けた馬車を受け取ると、そのまま東門広場へと馬車を走らせた。


 そして十数分ほど馬車を走らせると、東門広場が見えてきた。

 どうやら私が一番乗りだったようで、私は広場の中心にある噴水近くの邪魔にならない場所に馬車を停めて、待ち人を待つことにする。


「ミーティア様ー!」


 馬車を停めてしばらくすると、こちらに向かって手を振りながら二人の人物が近づいて来た。

 一人は私より背が少し高い黒髪の男で、軽装の防具と腰に一本のロングソードとちょっとした物なら入りそうな小さいポーチを装備して、その上から新緑色のローブを羽織っている。

 もう一人は、私より背が低いコーラルピンクの髪をした女の子だ。動きやすい服に最小限の革の防具と両手にガントレットを装備して、先端に丸い水晶の触媒が付いた杖を待っていた。腰の左右に一つずつポーチをぶら下げて、その上からこちらも男と同じく新緑色のローブを羽織っていた。

 そう、この二人は『ドラゴンテール』というパーティ名で、現在貿易都市を中心にハンター活動をしている“クワトル”と“ティンク”だ。


 この場所で二人と出会ったのは偶然じゃない。

 私が今日貿易都市に行くことを連絡したら、二人もそろそろ屋敷に戻ろうと考えていたそうで、折角なら一緒に帰ろうということになった。

 だからそれぞれの用事が済んだ後で、この東門広場で集合する段取りをしていたのだ。


「二人とも最近どうだった?」

「ええ、こちらは(とどこお)りなく」

「ねぇねぇミーティア様、新しい使用人は雇えたの?」

「ええ、即戦力になりそうな逸材よ。ここで集合することになってるから楽しみにしててね!」

「おお! これでやっと(わたくし)達も安心してハンター活動に集中できると言うものですね。実は先程ハンター組合でBランク昇格の話をいただきまして、これで更に難易度の高い依頼を受けれることになりそうです」


 ハンターへの報酬額は、依頼内容とその難易度によりハンター組合が決定する。そこに依頼主が追加の報酬を出すかというのはあるが、基本的に高難易度の依頼ほど報酬額は高くなる。

 そして高難易度の依頼を受けるためには、当然だけどそれに応じたハンターランクが必要になる。

 二人は現在Cランクだが、Bランク昇格が決まっていると言う。このまま順調にいけばAランク、更には最高位のSランクも夢じゃないかもしれない。

 そうなれば更に報酬額も増えて……ふふふ、笑いが止まらなくなりそうだ。


「期待してるわよ二人とも! ――あら、噂をすれば」


 思っていたよりも順調に計画が進んでいる事に内心で胸を高鳴らせていると、遠くから空を飛んで広場にやってくるモランの姿が目に入った。

 モランも私を見つけたようで、真っ直ぐにこっちに向かって来て、目の前でふわりと着地する。


「お待たせしましたミーティア様!」

「大丈夫よ、私も今来たところだから。――それで、荷物はそれだけなのかしら?」


 モランが持っていた荷物はトランクケース一つだけで、年頃の女の子の荷物にしては少なく感じた。

 普通の女の子なら沢山服を持っているものだし、アクセサリー等の小物類やその他諸々の必需品を含めると、モランの持っているトランクケースにはどうやっても入りそうにはない。


(……いや、モランは浮遊島を出る際に必要最小限の荷物しか持ってこなかったかもしれない。他に必要なものがあれば現地で調達すれば済む事だし)


 モランの荷物を見てそう考察したが、違う返答がモランから返ってきた。


「はい、これだけです。と言っても、実はこのケース“収納魔術”が付与された魔道具で、見た目以上の物がこの中に収納されているんです」


 収納魔術とは、ポーチや袋、モランが持ってるトランクケースの様な物を収納する入れ物に付与できる魔術のことだ。

 入れ物の中に亜空間を作り出すことで、収納容量を格段に増やすことのできる便利な魔術である。

 ……ただし、亜空間を安定させて入れ物に付与するにはとても高度な技術が必要な為、熟練の魔術師でも扱いが非常に難しい魔術と言われている。

 更に言えば、作り出せる亜空間の大きさは魔術師の魔力と技量に左右されるので、大容量の収納魔術を付与できる魔術師なんて世界に数えられるほどしかいないだろう。


 話は逸れたが、収納魔術が付与されているならば、モランの荷物がトランクケース一つだけというのも納得がいく。


「……ところでミーティア様、後ろにいるお二人は誰ですか?」


 そうだった。モランのトランクケースに気を取られていて二人を紹介するのを忘れていた。

 クワトルとティンクもモランの事が気になっていたようで、クワトルはモランの事を興味深そうに観察しているし、ティンクに至っては『早く紹介して!』と目で訴えかけていた。


「紹介するわね。この二人は私の知り合いで、『ドラゴンテール』というパーティ名で活動しているハンターよ。男の方がクワトル、女の子の方がティンクよ。二人とも私の屋敷まで同行することになってるからよろしくね」

「初めまして、クワトルといいます」

「ティンクだよ!」

「初めましてモランです。今日からミーティア様のお屋敷で働くことになりました。よろしくお願いします」


 お互い簡単に挨拶を済ませ、詳しいことは出発してからということにして、初めて見る翼人族に好奇心が臨界点に達しようとしたティンクを落ち着かせて馬車に乗り込み、私達は貿易都市を後にするのだった。


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