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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第七章:世界大戦へ再び……

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136.プアボム公国へ1

 王都を離れて二日目の夜を向かえた。

 今は街道から少し離れた開けた場所で夜営をしている。

 僕はシェーンと焚き火を囲い、その灯りを利用して地図を見ていた。


「今はこの辺りだな?」

「ええ。……思ったより進めまていませんね」

「ああ……」


 今確認しているのは王都を出てからの行軍速度だ。

 行軍速度は予想以上に悪い。当初の目論見であれば、今頃はプアボム公国まであと3分の1の所まで進んでいるはずだった。

 しかし実際は、まだ王都から3分の1の所までしか進めていない。

 その理由は単純で、寄り道に予想以上の時間を取られたからだ。


 僕達は急襲された王都をを救うための増援を求めにプアボム公国へと向かおうとしている。

 そしてその道中にある“新権派”の各領主邸に立ち寄り、現状の説明と出陣の要請をし、もしも増援を連れて来る前に敵が進軍してきた場合の足止めもお願いした。


 ……本来であれば使者を使って用件を伝えた方が手間がかからないのは間違いない。

 しかし、次期国王の僕が直接出向くことで事態の緊急性がしっかりと伝わるし、彼等の士気も高まる。そうすれば結果的に得られる時間は多い。


 それに同行していた第三騎士団を先行させて、既にプアボム公国へと向かわせている。彼等の交渉が上手くいけば、僕がプアボム公国に到着する前に出撃してくれたプアボム公国の援軍と合流することも可能だろう。

 そうなれば僕達は余計な距離を移動しなくて済む。つまりこの方法が様々な面での効率が最も良いのだ。


 ……だが、懸念が無いわけではない。もしも敵が予想よりも早く王都を攻略して進軍してきた場合は最悪だ。

 王都はムーア王国内で最も堅牢に作られている。それが予想よりも早く攻略されたとなれば、敵の戦力がそれほど強力だということになる。

 その戦力が王都を攻略した勢いそのままに進軍してくれば、領主軍だけでの足止めは意味を成さないだろう。


 “新権派”の領主達に会わなくてはならない、しかし時間を掛けすぎてはいけない。そして今はその時間を掛けすぎていることに、僕達は不安と焦りを感じていた。


「ルーカス様、明日は行軍のスピードを上げられてはいかがでしょうか? ここまでで約半数の“新権派”貴族達に声をかけています。その事実を(した)ためた書状を送れば、この先にいる貴族達もこれまでの貴族達と同様に奮起してくれることでしょう」

「……確かにそうだな。では残る“新権派”貴族達への連絡は第二騎士団に任せる事にしよう。ついでに第一騎士団の旗と“これ”も持たせれば、スムーズに事が運べるだろう」


 そう言って僕は、豪華な装飾が施された一振の剣を腰から外してシェーンに見せる。


「なるほど、宝剣ですか」


 この豪華な剣はムーア王国の国宝だ。名は『月光宝剣』。

 夜空の月を象徴するような、暗い紫と明るい黄金の二色が調和した世にも珍しい金属で作られた美しい刀身からこの名が付けられた。

 ムーア王家に代々と伝わる代物で、武器としての性能は皆無だが様々な儀式や祭典で用いられる剣である。


「この剣はムーア王国を象徴する物だ。これを見せれば使者(第二騎士団)の報告が何を意味するかは分かるだろう」

「しかしよろしいのですか? 宝剣はムーア王家の象徴です。それを一時的とはいえ手放すなど……」

「シェーンの言いたいことは分かる。確かにこの月光宝剣は王族が持たねばならぬものだ。

 ……だが、この宝剣の今の所持者は国王である父上だ。僕はそれを一時的に預かっただけに過ぎない……」


 そう、この宝剣は、王都を出る際に父上が「戦禍となる王都に宝剣を置いていて、万が一が起きてはならん!」と言って僕に預けたものだ。だから戦争が終わり王都に戻った際には、父上に宝剣を返す。……それが最も最良のなのだ。


「ルーカス様……」


 少し俯いた僕をシェーンが心配そうに覗き込む。


「……大丈夫だ。父上は時間を稼いでくれると言った。だから僕達は出来うる限りの手を使い、一刻でも早く、そして最大限の援軍を連れて父上達を助太刀するんだ!」

「はい!」


 僕が弱気になってはいけない。シェーンが心配してしまうからな。


「それじゃあシェーン、これを第二騎士団・団長のマリエルに渡して、明日からの行動方針を伝えて来てくれ」

「かしこまりました!」


 僕から宝剣を受け取ったシェーンは、第二騎士団・団長のマリエルがいる夜営地に歩いて行った。第二騎士団は第一騎士団から少し離れた後方に夜営している。


 共に行動しているはずの第二騎士団と離れて夜営しているのには理由がある。それはもしもの場合にいつでも第二騎士団が殿(しんがり)を努めて第一騎士団を逃せるようにするためだ。

 しかし行軍スピードを上げるためには、これからの交渉を第二騎士団に任せて、僕が率いる第一騎士団は先行した第三騎士団を追うのに専念した方がいい。


「さて、シェーンが第二騎士団の方に行っている間に、みんなに明日からの行軍方針を話しておかないとな」


 明日は少しでも多くの距離を移動したい。だったら明日の朝に伝えるより、今のうちに伝えておいた方が僅かとはいえ余計な時間を使わなくて済む。

 僕は第一騎士団の分隊長四人を集めて、明日からの行軍方針を伝えた。


 王国軍には12の騎士団があり、各騎士団の兵力は約5万だ。

 5万もの兵力を騎士団長と副団長だけで率いるのは物理的に無理がある。

 そこでその役目を担ってくれているのが各騎士団に四人いる分隊長達だ。

 副団長と四人の分隊長で兵力を5分割して運用するのが、王国軍の基本的な方針なのだ。


「――というわけで、明日からは先行した第三騎士団に追い付く勢いで行軍する。先頭をヨアンとミル、最後尾をバルフレットとモレニー、中央を僕とシェーンという編成で行動しようと思っている。何か意見はあるか?」


 一応他にいい案がないかと思って聞いてみたが、誰も口を開かなかったので問題はなさそうだ。


「では、各自兵士達に今聞いたことを伝え、明日に備えてしっかりと休息を取るように!」

「「「「はっ!!!!」」」」

「では解さ――」

「ルーカス様ッ!」


 解散の号令を掛けようとしたその時、第二騎士団の夜営地に行っていたシェーンが慌てた様子でこちらに駆けてきた。

 その様子から何かが起こったのだと、僕はすぐに察した。


「どうしたシェーン!?」

「つい先程、第二騎士団の後方に敵影が出現! 現在第二騎士団から少し離れたところで陣を張っている模様です!」

「なんだと!?」


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