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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第七章:世界大戦へ再び……

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123.大工房計画1

 メールが帰ってから二日後、貿易都市の別荘の警備を任せているシモンからとある連絡が入った。


「……ありがとう。すぐに向かうわ」


 私はシモンに短く返事を返してすぐに仕度を済ませると、別荘に転移した。

 転移した先では既にシモンが待機していて、シモンはそのまま私を客間へと案内する。

 そして客間に入ると、そこには見覚えのある人物が私を待っていた。


「お久しぶりですなミーティアさん!」

「ええ、久しぶりねイワンさん」


 私は立ち上がったイワンさんと握手を交わす。

 イワンさんは貿易都市警備隊の総隊長を務める老練の老人だ。そして同時に、貿易都市を経営する八柱(オクタラムナ)の一人でもある人物だ。

 以前に顔を会わせた時は、まだお互いに腹の探り合いをしていたような状態だったけど、今は協力関係を結ぶことに成功したので、以前のようなぎこちない雰囲気になることはなかった。


「あっ、この場合はセレスティアさんとお呼びした方がいいですかな?」

「別に好きに呼んでもらって構わないわ。でも、人目があるところでは『ミーティア』と呼んで欲しいわね」

「承知しましたぞ!」

「それじゃあイワンさん早速だけど、イワンさんの『計画』について教えてちょうだい。手伝うとは言ったけど、私は一体何をしたらいいのかしら?」


 イワンさんの計画を手伝うという話は、一昨日の八柱と私達が協力関係を結ぶという交渉でメールが出してきた条件だ。

 詳しくは後程とのことだったので、まだその計画の詳細を私は知らない。しかし()()()()()()としてではなく、()()()()()としての力が必要とのことだったので、カグヅチさんが絡むような案件だというのは何となく見当はついていた。

 そしてその見当は、概ね正解だった。


「実は今度の戦争に貿易都市はブロキュオン帝国とプアボム公国の両方に後方支援を約束したのですが、その為には戦争に必要な武器や防具、その他物資を大量に生産する必要があるのですぞ。

 そこで儂は大量生産体制の確立とその為に必要な人員を確保するために、貿易都市中の工房に協力を要請して、全ての工房が協力連携する『大工房計画』を立案したのですぞ!

 ……しかし貿易都市の工房の数は多く、お恥ずかしいことに未だ全員の意見や要望の調節に難航して纏まっていないのが現状なのですぞ……」

「成る程ね。それを纏める為に私に力を貸して欲しいという訳ね」

「その通りですぞ!」


 確かユノの話では、戦争は早くて2週間後に開戦すると言っていた。2週間後と言っても、今から2週間後ではなくユノが参加した八柱協議から2週間後だ。

 現在は八柱協議から既に1週間は経っている。つまりあと1週間後には計画が実行されており、尚且つ武器防具の量産がある程度完了している状況が望ましいわけだ。

 ……どう計算しても、時間的猶予はもう無い。


「……時間的余裕は無いわね」

「その通りなのです……。だから何としても今日中には計画を始動させないといけないのですぞ!」

「因みに、その計画にはカグヅチさんも参加しているのよね?」

「勿論ですぞ! 奴の腕は貿易都市一ですからな、しっかり計画の要に組み込んでますぞ! ……ですが、当のカグヅチはあまり乗り気でないようで、セレスティアさんにはその説得もお願いしたいのです」

「ええ、任せておいて!」

「助かりますぞ。では早速ですが、この後中央塔で『大工房計画』についての話し合いを行う予定なので、一緒に来てもらってもよろしいですかな? 表に馬車を用意しておりますので、詳しいことは移動中にでも」

「分かったわ」


 私とイワンさんはすぐにイワンさんが用意した馬車に乗り込んで中央塔へと向かった。道中でイワンさんから計画の現状を詳しく聞いたが、正直言って私が想像していたよりもかなり酷い現状だった。

 貿易都市中の鍛冶師の力を集結するという、イワンさんの『大工房計画』。この計画自体には貿易都市の鍛冶師達は賛同するつもりでいるらしいのだが、二人の鍛冶師がその計画の内容を自分達の都合がいいものへ変更を要求しているというのだ。

 しかもその変更を要求した二人の鍛冶師の意見はお互いにすれ違ったもので、主張は平行線のまま着地点を見失い膠着(こうちゃく)状態になり、それが今日まで『大工房計画』の始動が遅れている原因だという。


 さらに厄介なのが、その変更を主張している二人の鍛冶師、“ヴァルカン”と“アルベリヒ”という名前らしいのだが、二人は貿易都市に数ある鍛冶師工房の中でも“二大勢力”といわれる大手鍛冶工房の工房主なのだ。

 当然その発言力も強く、他の鍛冶師達は口を挿むことが出来ない。なので他の鍛冶師達は、どちらか片方の意見に賛同するか、丁度いい落しどころが出てくるまで傍観する姿勢を取るしかできないらしい。


「つまり、私はその膠着状態を破壊するための起爆剤になればいいのね?」

「そういうことですぞ。……どうにかなりそうですかな?」

「う~ん……方法が無いわけじゃないわ」

「本当ですかな!?」

「ええ。でもその為に『大工房計画』の内容を私が調節することになるけど、いいのかしら?」


『大工房計画』はイワンさんが発案した計画で、当然そこにはイワンさんの思惑がある。

 それを私が勝手に内容を変えてしまえば、イワンさんの思惑から外れた方向に計画が動いてしまう可能性がある。

 そう思っての確認だったのだが、イワンさんの答えは予想外に軽いものだった。


「どうぞ、セレスティアさんの好きなようにやってください!」

「……聞いておいてアレなんだけど、それでいいの? イワンさんの思惑から外れた方向に行くかもしれないわよ?」

「メールから話を聞きましたぞ。セレスティアさんは貿易都市の中でカグヅチの腕を一番だと見込んで、資金稼ぎの計画に組み込んだのだと。だったら何も心配する必要はありませんぞ!

 儂はただ、カグヅチの腕を有効的に活用できる場所を用意したかっただけですからな! なんでしたら、『大工房計画』もセレスティアさんの計画の一部に組み込んでくださっても構いませんぞ!」


 そう言ってイワンさんは、誇らしげな笑みを浮かべた。

 なんだか私の考えていることを見透かされているような気分だ。……まあ実際そうするつもりだったので、これはこれで信用されている感じがして悪いものではなかった。


「そこまで言われちゃ妥協は許されないわね! 必ず『大工房計画』を私もイワンさんも、そしてカグヅチさんも満足いくものにしてあげるわ!」

「期待してますぞ!」


 それから中央塔に到着するまで、私はイワンさんに考えを伝えて打ち合わせをした。

 そして丁度打ち合わせが終わる頃に、目的地の中央塔に到着した。


 馬車から降りて見上げる中央塔は、相変わらず首を痛めそうになる高さと迫力で(そび)え立っていた。

 中央塔を訪れるのはこれで二度目になる。

 一度目は貿易都市に始めて来た時だ。あの時に中央塔の受付で八柱の一人であったベルと偶然出会い、私達が八柱に監視される切っ掛けになった。

 しかし今回は、その八柱の協力者として訪れることになっている。まさかこんな状況になるなんて、あの時の私は想像もしていなかった。本当に運命というか人生は、どう転がってどんな結果を生むか分からないものだ。


 中央塔に入ると、上の階に続く階段を警備している人の横をイワンさんは軽く手を挙げて通過する。

 中央塔の一階は出入り自由だが、二階から上の階は関係者以外立ち入ることが出来ないようになっている。イワンさんは八柱の一人であり、貿易都市警備隊の総隊長でもある人物だ。当然その顔は知れ渡っており、何も言わなくても顔パスで通過できる。

 そのイワンさんに続いて歩いていた私もイワンさんの関係者ということで、当然何も言われることなく通過することが出来た。

 八柱の協力者となったということは、この手の警備を通過する時に楽になる。地味だがかなり有り難い恩恵だ。


 階段で二階に上がったイワンさんは廊下を奥に向かって進み、突き当りの大きな両開きの扉の前で立ち止まった。


「ここが会議室ですぞ。鍛冶師達は既に中で待っています。準備はよろしいですかな?」


 準備が出来ているか? その問答は必要ない。ここに来た時点で、私は既に覚悟は完了している。

 だから私は余裕の態度を崩さず、一言だけこう言った。


「勿論よ!」


 私の返答を聞いたイワンさんはニカッと笑みを見せる。


「では、行きますぞ!」


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