表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第六章:騒乱前夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/209

116.尋問2

「セレスティアさん、これはまだ公表されていないことなのですが、実は少し前からブロキュオン帝国内で失踪者の報告が増えているんです。しかしその要因は不明で、現在ブロキュオン帝国はそれを調査している最中です。そして他の3国と貿易都市もその調査と情報提供に協力していて、次の八柱協議でもその議題が話し合われる予定なんです。

 でも今リチェが、『ブロキュオン帝国での失踪者増加にはサピエル法国が関わっている』とハッキリと証言しました。つまりこれは、ブロキュオン帝国に対する工作活動を肯定したという事です」

「更にサピエル法国は魔獣事件の首謀者という事実も発覚しました。そして先程の鉱夫の一人を拉致し尋問したという証言……、これはプアボム公国への完全なる敵対行為と言えるでしょう」


 ……何となくだが、二人の考えていることが読めてきた。そこから想像できる事態の大きさに、額から冷や汗が流れ出た。


「……つまりサピエル法国は、各国で起きていた今までの事件の裏で暗躍していた真犯人だという事でいいのかしら?」

「そういうことです」

「教皇親衛隊の地位に就く人物の証言ですから、信憑性を疑う余地はないでしょう」


 ……ここまでの情報を整理しよう。

 ストール鉱山で起きた魔獣事件、これはブロキュオン帝国から亡命した男を利用したサピエル法国主体の実験だった。その上サピエル法国は鉱夫の一人を不法に拉致して尋問に掛けている。

 そしてサピエル法国は、ブロキュオン帝国の失踪者増加の原因の主犯だという事も分かった。

 更にサピエル法国は、私達を調査するためにリチェ達を送り出し、無断で私の森に侵入した。


 つまりサピエル法国は、現在3つの勢力を敵に回しているという事だ。まあ私の所は抜きにしても、サピエル法国のしていることは平和の象徴である『4ヵ国協力平和条約』を完全に無視した冒涜行為だということは確実だ。


「これは、更に問い詰めたらもっと出てくるかもしれませんね……」


 そう言ってオリヴィエは更にリチェを尋問した。

 するとオリヴィエの予想した通り、サピエル法国のとんでもない裏事情が次々と出てきた。


 世界大戦中にサピエル法国が行っていた人間以外の種族を粛正する行為は、世界大戦終結後もバレない様に規模を縮小しながら続けていたこと。その中にはモランの祖父であるエールフィングさん達が暮らしていた翼人族の集落襲撃や、ついこの前にティンク達が依頼中に遭遇したワイバーン襲撃も含まれていたこと。

 サピエル法国は元々『4ヵ国協力平和条約』の内容に反発的だったこと。

 魔獣創造実験は、魔獣を強力な新兵器として運用する計画の第一段階だったこと。

 ブロキュオン帝国の失踪者増加の真実は、ワイバーン襲撃が失敗した代替え行為としてブロキュオン帝国の亜人を狙って拉致していたこと。

 サピエル法国は全ての準備が整い次第、他国を全て侵略して大陸を統一するつもりでいること。

 そしてこれら全てはサピエル7世が計画したもので、その計画の最終目標は“神に至る”ものだということ。


 簡単に纏めるとこんな感じだ。“神に至る”というのが何を意味するのかはリチェも知らなかった。リチェ達教皇親衛隊は教皇の命令通りに動いていただけらしく、その真の意味までは聞かされていなかったらしい。

 まあ計画の概要を聞く限りでは、碌なものでないのは確かだろう。


「……出てくるとは思ってたけど、まさかこれほどなんて……」

「正直な感想を言えば、これだけの悪事が今まで露見しなかったのが不思議でなりません……」

「それだけ計画が綿密で、実行する人間が優秀だったのでしょうね。でも今回は、敵に回す相手を間違えたようだけどね」


 そう言ってオリヴィエは私に視線を向けた。


「撃退したのは私じゃなくてユノよ」

「そうですけど、教皇がそこのリチェに命令したのはセレスティアさんの調査だったのですから、結局セレスティさんを敵に回したという事ですよ」


 全くもってオリヴィエの言う通りだ。サピエル法国からすればただの調査だったかもしれないが、私からすれば踏み込まれたくない領域に侵入した、私の研究の時間を邪魔する害虫以外の何者でもない。

 本当ならそんな輩は何かしらの手段を使って駆除したいところだけど、いかんせん今回の相手は国家だ。潰せば確実に何かしらの影響が返ってくる。

 だから、私が取れる手段は一つだけだ。


「国を相手するほど私は暇じゃないから、この件はオリヴィエに任せるわ! あとよろしくね!」


 面倒事は避ける。それが私の流儀だ。国同士のいざこざなんて私には関係ないし、私に迷惑のかからない範囲でやってくれるなら何も問題ない。だからここは国を治める一人であるオリヴィエに全てを託すのが最適解だ!

 さあ、そうと決まれば私は自室に戻って研究の続きでもしようかなー!


「逃げないでくださいセレスティアさん! セレスティアさんも関係あるんですから手伝ってくださいよ!」


 しかしオリヴィエは私を逃がすまいと、立ち上がろうとした私を引き留める。だが私も引き下がるつもりはない。


「関係ないわよ! 要は国同士のいざこざに、たまたま私が巻き込まれたようなものでしょう?! 個人的に対立してきたならともかく、国同士の揉め事ならどこの国にも属してない私には無関係なことだし、無責任に首を突っ込むのもごめんよ!

 そもそも私は研究者で、誰にも邪魔されず静かに自由に自分の研究に好きなだけ没頭していたいのよ! オリヴィエは私の気持ちを知ってるから分かるでしょう?

 マイン公爵家は淵緑の魔女の存在を隠し、淵緑の魔女の研究環境を守る。淵緑の魔女はその見返りとして、技術の提供とマイン領の危機に対して協力をする。これがかつて、初代マイン公爵と私の母とが交わした契約のはずよ!

 現状でマイン領は危機的状況という訳でもないのに、確実に私に面倒事が降りかかる案件に関わるなんて真っ平よ!」


 そう、今のマイン領は危機に瀕しているわけじゃない。マイン領の現状は簡単に言うと、サピエル法国にケンカを売られたので報復したいけど、どんな報復をするのが一番いいのかをプアボム公国全体でこれから考えようとしている、つまり国同士が喧嘩する寸前の状態という訳だ。プアボム公国どころか、どこの国に属していない私がそこに入り込む余地など、最初からない!

 魔獣事件の様な一刻を争う状態なら兎も角、喧嘩の準備をこれから始めるという前段階で私が手を貸す必要はないのだ。


「確かにセレスティアさんには、国の揉め事に首を突っ込む道理も権利もありません」


 私の主張をオリヴィエは正しく理解してくれているようだ。しかしオリヴィエには別の考えもあるようで、続けて私にこう言った。


「ですが、情報の提供元であるリチェを捕らえたのは他ならないセレスティアさんです! 情報だけなら私でもカールステンでも持って行けますが、その情報元である教皇親衛隊という高い地位に就くリチェを誰がどうやって捕らえたのかという証言は私達にはできません!

 例え『私達が捕らえた』と誤魔化しても、私の領地にリチェ程の大物を捕らえる技量も手段も無いことは他の四大公なら周知の事実です。そして他の四大公は既にセレスティアさんの存在を知っていますから、確実にすぐに嘘だとバレます! そして必ず『淵緑の魔女を連れて来て証言させるのだ!』と言って、セレスティアさんを連れて来るように圧力が掛かります!

 ……もしそれでもセレスティアさんが顔を出さなければ、それこそ他の四大公は四大公協定の権限を使って干渉してきますから、余計に面倒事になりますよ?」

「うっ……!?」

「それにサピエル法国が『4ヵ国協力平和条約』を破ってプアボム公国とブロキュオン帝国に干渉していたなんて情報を聞いたら、プアボム公国もブロキュオン帝国も確実に報復措置に乗りだします! つまり、まず間違いなく戦争になります! 

 そうなればマイン領も戦渦に巻き込まれないとは言い切れません! 勿論私はそんなことをさせる気は毛頭ありませんが、戦争に絶対などありませんので戦渦が収まるまではいつ危機的状況に陥ってもおかしくない状況になります!

 そして何より、戦争が始まればセレスティアさんの計画にも支障が出て、最悪中止せざるを得ない状態になるでしょう。

 どちらにしても面倒事になるなら、被害を抑えて脅威を少しでも早く打ち払えるように私達に協力してくれれば、結果的にセレスティアさんも得だと思いますよ?」

「ううっ……!?」


 オリヴィエの言い分は的確に状況を分析したうえで、オリヴィエと私の損得がそれぞれ納得できる形になるように最適解を導き出したものだった。

 故に、そこに修正を加える余地など無く、私は一言だけこう言うしかできなかった。


「……使うのは名前だけにしてよ」

「ありがとうございますセレスティアさん! それだけでも十分です!」

「後はマイン公爵様と私に任せてください! 必ずセレスティアさんに迷惑が掛からないようにします!」


 こうして私はオリヴィエ達に協力することになった。

 その後色々打ち合わせを行った結果、数日後に開かれる四大公会談にユノとリチェを出席させて情報を提示することになった。ユノは私からの使者、リチェは捕虜として扱われることになる。

 その会談で今後どうするかを決定することになるだろうとの事だったが、まあその結果は私もオリヴィエも火を見るより明らかだった。




 そしてそれから3週間後、ブロキュオン帝国とプアボム公国がサピエル法国に宣戦布告した。


第五章の本編はこれで最後になり、次からは第六章が始まります。

しかしその第六章を前に、来週は番外編を2話同時に投稿する予定です。


内容はミューダとユノに焦点を当てたもので本編の進行に関係ない話となりますが、今まで語れなかった二人の関係性や過去に迫る内容となっていますので、楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ