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【完結】淵緑の魔女の苦難~秘密の錬金術師~  作者: 山のタル
第一章:計画始動

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12/209

幕間1-1.見透しの称号を持つ者1

 ゴーーン、ゴーーン…………。

 ゴーーン、ゴーーン…………。


「じゃあ、お疲れ様」

「「「ベル先輩、お疲れ様でした!!!」」」


 貿易都市に夜の刻(20時)を告げる大鐘の音が響き渡った。飲食店や宿屋以外の殆どの商店が店仕舞いを始め、自宅に帰宅する人々が都市に溢れる時間だ。

 黒髪のストレートヘアーに吊り上がった目が特徴の、ベルと呼ばれた女性もその一人である。

 ベルは後輩達に声を掛けて、足早に案内所を後にする。


 ベルは貿易都市の中心にある『中央塔』の中の『案内所』という場所で働いていて、そこでは貿易都市に関するあらゆる質問を受け付けて案内する仕事をしている。

 ベルは長年そこで働いているベテラン受付嬢だ。仕事の評価は高く面倒見も良いため、ベルを慕う後輩は多い。

 因みにそんなベルは、案内所の責任者も務めていたりする。


 案内所を出たベルは、中央塔の2階にある『案内所職員室』へと足を運ぶ。

 中央塔の2階から上の階は関係者以外立ち入り禁止になっており、主に各職員用の職員室、会議室に事務室、要人や重役の執務室等がある。

 ベルが足を運んだ職員室は管理区画にある各施設別の職員が利用する部屋で、職員用の掲示板、給湯室、談話室、資料室、更衣室等が完備されている。


「あ、ベル先輩お疲れ様です!」

「「「お疲れ様です!!!」」」


 ベルが更衣室に入ると、先程とは別の後輩4人組に遭遇した。

 いつもなら彼女達にも軽く声をかけてから帰るベルだったが、今日はどうやらいつもと違う様子だ。


「お疲れ……と言いたいけど、あなた達、昼休み時間に私だけ残してちゃっかり休憩に行ったでしょう?」

「「「「うげっ……!?」」」」

「この恨みは必ず晴らすから、楽しみにしてることね!」


 ドスの効いたベルの言葉に、一瞬で顔が青ざめていく後輩4人組。

 ベテランで責任者のベルの怒りに触れたらどうなるか、それを想像しただけで後輩4人組は震えあがる。


「そ、そんな~……」

「どうかご勘弁を……」

「あの時は丁度私達の列が切れたので、タイミングが良かったんです……」

「……明日、休もうかな?」

「言い訳無用! そもそも列が切れたからといっても、私の列に何人か並んでたでしょう? それを(さば)かずに勝手に休憩に行ってどうするの!? おかげであんな恥を――」

「「「「……恥ってなんですか????」」」」

「あっ、な、何でもないわ! ……とにかく、明日のあなた達のシフトは厳しくするからね!!」

「「「「うぇぇ~~~……」」」」


 何か口を滑らせかけたベルは、慌てて後輩達のシフトの話に持って行き誤魔化した。


 (……危ない危ない。危うく自爆するところだった……)


 今日の昼、後輩に先駆けされた怒りと悔しさと寂しさに胸を痛めながら並んでいた全員を捌き終えてようやく休憩に入れると思った矢先、セレスティア達が来たことによって休憩時間がほぼ無くなった事を悟ったベルの瞳からは、自然と涙が零れ落ちていた。

 利用者にそんな情けない姿を見せてしまうなんてベテランとしての恥である。そしてそれを後輩達にとても言えるわけがなかった。




 後輩達にこれでもかとキツイ説教を食らわせて、制服から私服に着替えたベルは中央塔の7階までやって来た。7階は重役の執務室が並んでいる階である。

 ベルはその内の1つの扉の前で足を止め、ポケットから取り出した鍵を使って中に入る。そして部屋に灯りを点けた。


 この部屋はベルの執務室だ。

 ベルの執務室は質素で装飾品の(たぐい)は殆ど無く、書類などが綺麗に整頓されている至って普通の部屋だった。

 そんな部屋に唯一ある特徴といえば、高さが優に2メートル以上ある大きな置時計ぐらいである。


 普通、執務室が与えられるにはそれなりの地位が必要で、決して案内所の責任者という一職員に与えられるものではない。

 しかしベルは案内所責任者で、ある程度の権限を持っている事と長年の仕事の実績を見込まれ、“特例”として執務室が与えられているのだ。

 ……しかしそれは表向きの理由だ。


 ベルは入り口の鍵を内側からカチリと閉めてから、大きな置時計の前に移動する。

 そしてポケットから指輪を取り出して右手の親指に嵌め、その右手を置時計に向かって突き出すように掲げて言葉を紡ぐ。


『“見透(みとお)し”の称号を持つ私が命ずる! 我が意思を汲み取り、深淵の地への道、ここに開け!!』


 ベルが紡いだ言葉に反応して指輪と置時計の上部にある水晶玉の装飾が、まるで共鳴するように淡く光を放ち始める。


 カチャリ――。


 すると置時計の(ふた)のロックが外れる音がして、「ギィィーッ」と軋む様な音を立てながら蓋が自動でゆっくりと開いていく。

 開いた蓋の中を見れば、先程までそこに存在していたチクタクと動いていた振り子の姿が消えていて、その代わりにモノクロ色の霧が蓋の中に充満していて怪しげな空間と化していた。

 ベルはそんな光景に(おく)した様子も無く堂々と、モノクロ色の霧の中にその身を投げ入れる。

 そしてベルの姿が霧の中に完全に消えて行くと、置時計の蓋がまた自動で動いて閉まり、「ガチャリ――」と音を立ててロックを掛けた。


 そして静寂が支配する部屋に、まるで己が主役だと主張するかのように、再び出現した振り子が「チクタク」という音を響かせていた。




 モノクロ色の霧の中に入ったベルだったが、霧に視界が奪われたのはほんの一瞬で、次の瞬間には霧をあっさりと抜け出していた。

 霧の先は先程の執務室ではなく、大きな丸テーブルと8脚の上質な椅子が設置されている『会議室』と呼ぶのに相応しい部屋に繋がっていた。

 そんな会議室には既に先客がいたようで、8つある椅子の3つに人影が座っていて、会議室に現れたベルに視線を向けている。


 ベルが現れた場所に一番近い椅子には、大きな丸渕眼鏡を掛け、背中まで伸びる金色の髪を三つ編みにした女性。

 そこから椅子一つを空けた右側には、全身を大きな黒いローブで包み、素顔を伺うことが出来ない黒ずくめの男性。

 そこから更に椅子一つを空けた椅子には、貿易都市の紋章である火を纏った女性が描かれた白銀の鎧を身に付け、テーブルに二本の刀を立て掛けている白髪の老人が座っていた。


「ごめんなさい、少し遅れました。……待たせてしまいましたか?」


 ベルは先に来ていた3人に遅れたことを謝罪しつつ、丸渕眼鏡の女性と白髪の老人の間の椅子に腰かける。


「大丈夫、そんなに待ってないわよ~」

「左様ですぞ。なにせ儂等(わしら)も今来たばかりですからな」

「……同じく」


 3人ともベルが遅れた事を特に気にした様子は無く、ベルはホッと胸を撫で下ろす。


「ありがとうございます。――それでは、全員集まったことですし、緊急のミーティングを始めましょう」

「おや、全員? あとの4人はどうしたのですかな?」

「それなんですが~、あの4人は今それぞれ自国に戻っているので、後日集まった時に今回の話をしようと思ってるんですよ~。ね、“見透し”?」

「ええ。“智星(ちせい)”の言う通り、彼らには後日集まった時に改めて今回の話をするつもりです」


 白髪の老人の質問に“智星”と呼ばれた丸渕眼鏡の女性が答えると、“見透し”と呼ばれたベルがそれに同意する。

 白髪の老人は「なるほど」と呟き、他の4人が居ないことに納得したようだ。


「話を戻しますが、今回急に集まってもらったのは、私が今日体験した()()()()()について、皆さんの意見を聞かせて欲しいのです!」

 

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