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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

氷の姫と炎の勇者

作者: えおぢ

 ある大吹雪の日のことです。王様に仕える一人の騎士のもとに一通の緊急事態を知らせる封書が届きました。しかし騎士といっても彼はまだ見習い騎士で、とても事件や問題を解決出来るような能力はありませんでした。ですがこの時はそんな彼をも頼らなくてはならない程王様は切羽詰まっていました。


 彼——見習い騎士のハンニバル・ルーツェは久々の休暇だという今日も剣を振るイメージトレーニング行っていました。本心を言えば外で実際に剣を振りたいのでしょうが、外は生憎の大吹雪ですので泣く泣く家の中でイメージトレーニングというわけです。彼は封書に気づくとイメージトレーニングを一旦中止し、封書を手に取り、封を開け中にある手紙をゆっくりと取り出しました。彼はそこに書かれた内容を読み終わると一心不乱に家の中を駆け回り外出の準備を一分で済ませると大吹雪だというのに王様が住んでいるところとは別の、女王様が住んでいるといわれる塔へ向かって駆け出しました。


 彼がここまで焦っている理由は簡単です。

 あの手紙にはこう書いてあったのです。


【冬がいつまでたっても終わらないのだ。このままでは皆が飢え死にしてしまう。冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。 だから、お願いだ、この国を救ってくれ】


 彼は全てを悟りました。そして見習いとはいえ騎士である彼はこの緊急事態を見過ごすことは出来なかったのです。


 一目散に家を飛び出たのは良いのですが、彼にはこれといって秘策はありませんでした。あるのはただ一つ、王様の役に立ち騎士としての務めを果たしたいという熱い信念だけでした。無謀とも言える彼を止めるものは誰もいません、強いていうならばこの大吹雪だけでしょう。ですが彼は大吹雪などものともせず突き進んでいきました。


 彼が塔へ着いた時、塔は彼が知っている以前の塔の姿とは全く異なるものでした。かつて彼がこの場所に来た時は、辺り一面大輪の花が咲き並び、塔は銀色に輝き、美しい女王様をより一層引き立てていました。ですが今は草木は枯れ果て塔全体が氷漬けにされており、見るに耐えない光景へと変わり果てていました。


 これを見た彼は思はず「酷い有様だ」と呟きました。


 ひとまず彼は入り口を探しました。ですが一向に見当たりません。一体何故なのでしょうか、塔の周りを何周しても見当たらない入り口なんてあるのでしょうか。彼は次第に苛立ち始め八つ当たりのように塔を殴ってしまいました。

 するとビキッというようなひび割れる音がしました。見ると氷の膜にヒビが入ってるではありませんか。しかもそのヒビ次第に広がっていきます。彼が「あっ……」と声をあげた瞬間、バリィーンという大きな音とともに氷の膜が砕け散りました。なんとそこには、木製の扉に鉄製のドアノブがついた、塔に入るために入り口がありました。


 彼は喜ぶのもほどほどにすぐさまドアノブを掴もうとしました。ですが、触れる直前彼はピタリと手を止めました。ドアノブから発する異常なまでの冷気に気圧(けお)されたのです。意を決して軽く指先で触れてみると、やはり尋常じゃない冷たさで、指が焼けるようでした。

 彼はどうしたものかと悩んだ挙句仕方なく扉を壊すことにしました。王様に叱られるよりも女王様を助ける方が大事だと判断したのです。


 扉を破壊し中に入るとそこには、一人の召使いが震えながら立っていました。


「だ、誰ですか貴方は?」


「私は見習い騎士のハンニバル・ルーツェと申します。扉を破壊したことの無礼は承知しておりますが、王様からの緊急事態とのことでしたので」


「なるほど、ついに王様も動かれたわけですね。では騎士様早くこちらへ! 急がなくては手遅れになってしまうかもしれません」


 彼は召使いから走りながら事情を聞かされ、この事件の元凶となったものについて知らされました。


 召使いが言うには「氷の女王」が元凶らしいのです。彼は驚きました。春、夏、秋、冬の女王以外の女王が存在するなどと聞いたのはこれが初めてだからです。


 氷の女王は『私はこの冬の女王に取って代わる存在である』と高らかに宣言し、その後、言葉どうり塔に居座り続け、次第に彼女の能力で塔は氷漬けに、そしてあたりの草木もこの塔から発せられる圧倒的な冷気によって枯れ果ててしまったのです。しかも、塔に居た冬の女王は氷の女王に囚われてしまいました。このせいで冬が終わることもありません。もちろん、この塔に仕えるものたちはこの事態を見過ごそうとはしませんでした。必死に氷の女王を追い出そうとしましたが彼女に触れる直前誰もが氷漬けにされてしまうのです。圧倒的な力の前に為す術はなくなりました。外部に助けを求めようにも氷漬けにされた扉のせいで外に出ることすら出来ませんでした。おそらく、春の女王もこの鉄壁の氷の前に為す術なく諦めて帰っていったのでしょう。


 誰もが諦め、絶望した時、ある高齢の召使いが


「まだ希望はある、わしの占いによれば、数日後、王の(めい)により炎の勇者が現れ、わしらを救ってくれる」


 と言い皆を勇気付けたそうです。


 ハンニバルは少々不安げに召使いに


「炎の勇者とは誰なんだ」


 と尋ねました。召使いは当然の様に


「それは貴方です。ハンニバル様! あの氷を破壊しここへ入ってこられた貴方は間違いなく炎の勇者です」


 と答えました。ハンニバルは絶句しました。まさか見習い騎士の自分にそんな力がある訳がないそう思いました。


 しかし、現実逃避している余裕はありませんでした。彼らはついに氷の女王が居る部屋の前までたどり着いてしまったのです。泣いても笑っても戦う他に道はありません。彼は自分を信じ戦うことに決めました。


 彼は大きく重い二枚扉を開き召使いを置いて一人で部屋に入って行きました。開真っ先に彼の視界に入ったのは、美しい真っ青なドレスを着た女性でした。そしてその横には檻に入れらたこれまた美しい真っ白なドレスを着た女性が居ました。

 青いドレスを着た方が氷の女王で、白いドレスを着た方は冬の女王だと彼はすぐに理解しました。


 氷の女王は彼を認識するとこう言いました。


「貴方……初めて見る顔ですね……その格好、もしや貴方騎士ではありませんか?」


「正解だ! 俺は見習い騎士のハンニバル・ルーツェだ」


「ふふふ、見習い騎士ですか……見習い騎士が何の用です?」


「もちろん、あんたを倒しに来た」


 氷の女王は一瞬眉をひそめましたが、それはすぐに不敵な笑いへと変わりました。


「ふふ、ふふふ、ふははは、見習い騎士ごときに私を倒せると言うのですか? あまりふざけたことを言うと殺しますよ?」


 氷の女王の声は冷たいナイフを首筋に当てられているような錯覚に陥るものでした。


「自分でも勝てるかどうかなんて分かんないさ。でもな、お前のせいで罪のないこの国の人たちが死ぬかもしれないんだ、そう考えたら逃げるわけにはいかねえだろ!」


 彼は口調を荒げながら言いました。そして持っていた剣を鞘から引き抜くと正面に構え攻撃に備えました。


「愚かな騎士よ……死ぬがいい」


 そう言い氷の女王は右手を体の前に突き出し手のひらから彼に向けて轟音とともに氷の槍を打ち出しました。


 一直線に向かってくる攻撃を体をねじりながらなんとか躱すと彼は一気に間合いを詰めました。日々の鍛錬の成果でしょうか、体が彼の意思どうり思うように動きます。彼の剣の間合いに氷の女王が入った瞬間一気に剣を振り下ろしました。


 カーンっという音とともに金属の破片が宙を舞い、カーペットに突き刺さりました。完璧なタイミングの斬撃と思われましたが、氷の女王には傷一つつけることができませんでした。確かに彼の斬撃は当たりました。ですがその瞬間剣が凍りつき折れてしまったのです。こうなるともう誰も氷の女王を倒すことはできません。


 彼は折れた剣を投げ捨て一気に飛び退きました。彼の唇は真っ青になり震えが止まりません。彼は圧倒的な力の前に恐怖しました。そして、やはり自分には炎の勇者の力なんてないのだと思いました。


「その程度ですか? わざわざここまでやって来たのですから、もう少し歯ごたえがあるのかと思ってましたけど、勘違いみたいですね」


 氷の女王はあざ笑うかのごとく言いました。


 彼の心は凍りつき、一歩も指一本でさえ動かせなくなりました。つまり、彼は精神的に負けたのです。身体能力や超能力という以前に心が負けてしまっていました。


 氷の女王は一歩、また一歩とゆっくりと彼の元へ近づきます。確実に彼にトドメをさせる近さまで来ると、ゆっくりと腕を持ち上げ手のひらを彼に向けました。


 彼は薄れゆく思考の中で、様々なことを考えました。家族のこと、国の人たち、王様、いつか本物の騎士になるという夢、それらが走馬灯の様に脳内を駆け巡りました。彼の中には悔しさはありましたが、未練はありませんでした。彼はほんの僅かでも王様の為に国の人の為に騎士として戦うことができたと思ったからです。


 完全に思考を停止させようとしたその刹那、美しい女性の声が部屋中に響き渡りました。


「立って、立って戦いなさい! 貴方は騎士なのでしょ? それならば本当に立てなくなるまで戦いなさい! 諦めたら貴方はもう騎士ではありません、しかし、最後まで戦い続けるのならば貴方は……貴方はきっと真の騎士になれるでしょう。さあ、再び立ちなさい、そして剣を取りなさい!!」


「冬の女王……様」


「うるさいわね、黙りなさいっ!」


 氷の女王はそう言うと檻の中の冬の女王めがけて氷の槍を打ち出しました。檻は簡単に吹き飛ばされ壁に激突しゴンという鈍い音をたて落下しました。冬の女王はそのショックで気絶してしまいました。

 しかし、冬の女王の必死の呼びかけにより彼の闘志は復活し始めの何倍も強くなっていました。彼の心を凍りつかせていた恐怖という名の氷の荊棘も完全に溶け、指も足も思う様に動きます。彼の絶対に勝つという気迫からか彼の体の周りの空気が陽炎のように揺らめき始めました。


 反射的に氷の女王は攻撃をするのをやめ、体を仰け反らせ後ろに大きく飛び退きました。


「俺は諦めない! 絶対に……お前を倒すまでは倒れやしないっ!」


 彼の覇気に圧倒され氷の女王はまた一歩後ろに後ずさりしました。


「いいでしょう、万が一貴方に敗れる様なことがあれば、素直にここから立ち去ります……まあ、そんなことはあり得ませんけどね」


 彼の燃えるような闘志を前にしても氷の女王は冷たい笑みを浮かべます。一瞬の静寂の後、彼は二本目の剣を抜刀しながら、氷の女王は氷の剣を生成しながらお互いをめがけて駆け出しました。お互いの剣が衝突した瞬間キーンという甲高い音が響きました。ですが、今度は彼の剣が折れることはありませんでした。彼の剣は元々は銀製の陳腐な剣でしたが、今は彼の意思に呼応するよう真紅の炎を纏った剣へと変わっていました。彼の剣が氷の剣にさらに押し込まれると更に甲高くキィーンという音が鳴り響きました。彼の剣は少しずつ氷の剣に食い込んでいき、しまいには半分近く食い込みました。


「うっ……な、なんなの! この力は」


「これで終わりだぁあああっ!!」


 彼が更に強く剣を押し込むと、氷の剣からパキッという音がし、ヒビが入ったと思うと同時にガシャーンという音をたて砕け散りました。すかさず、彼は無防備な体に向かって剣を振り下ろしました。

 しかし、彼女の体から血が流れることはありませんでした。彼は彼女に当たる寸前に斬撃を止めたのです。


「なんで、斬らないのよ」


「だって、もう勝負はついただろ? それに、いくら敵だからって女を斬ったらそれこそ騎士として失格だ」


「ふっ、カッコつけちゃって……まあ、いいわ、私の負けよ。大人しくここから去るわ、でも勘違いしないでよね、感謝なんかしてないから」


「そんな事わかってるさ」



 氷の女王が腕を振り下ろすと突然部屋の中にもかかわらず吹雪が起こり視界が真っ白になりました。彼は攻撃を警戒しましたが、すぐに吹雪は止みました。そしてそこにはもう氷の女王の姿はありませんでした。



 彼は緊張感が解けたせいで体を動かすのが大変でしたが、任務を完遂すべく檻に囚われている冬の女王を助け、部屋の外で待つ召使いに知らせることにしました。


 冬の女王と共に部屋を出ると大勢の召使い達が待ち構えていました。ハンニバルはこの部屋で起こったことと、氷の女王は居なくなったことを彼らに伝えました。



 後日、ハンニバルは王宮へ呼ばれ褒美と真の騎士となった証の勲章を受け取りました。

 冬の女王と春の女王の交替も無事終わり、長い冬が明けこの国に皆が待ち望んだ暖かな春が訪れました。彼は多くの人から、感謝され尊敬され、勇者と称えられました。誰がいい始めたのか、いつからか次第に彼は炎の勇者と呼ばれるようになりました。彼の功績から彼は騎士団の副団長を任されました。その地位に就いた後も彼は実力を遺憾なく発揮し、最終的には王直属の騎士となり生涯を剣と王に捧げたのでした。そして彼の死後もこの話は未来永劫語り継がれたのでした。

お読みいただきありがとうございます。短編を書いたのは初めてなので上手くかけたか不安ですが、ここを読んでいただけてるということは、まずまず(ブラバしない程度)だったということでしょうか。

感想や評価、ブックマーク頂けると嬉しいですが、高望みはしないでおきます。読んでもらえただけでありがたいですからね。


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