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動物少女  作者: 愛姫
リイナ
10/12

人間vs動物

 テニトカとキリアはいつものように起きたが、シアナがいないことに気付いて、外に飛び出した。テニトカは森の空気を感じて異変に気付いた。森が静かなのにざわついていた。キリアにはわかりもしない変化だが、テニトカは悪い予感がして駆け出した。それに続いてキリアも走る。

 森には動物がいなかった。テニトカはざわめきの強い山の下のほうへとにかく走った。

 立ち止まった崖の下、テニトカは目を見開いた。キリアもハッと息をのんだ。森中の動物たちが集合していたのだ。森のリーダーであるテニトカでさえこんな集合を見たことがない。

「一体なんの騒ぎなんだ。こんな人里近い場所でこんな人数がいたら人間に見つかってしまう」

 テニトカは動物たちの身を案じて崖の下へ走り出した。この時はテニトカは知らなかった。動物たち自らで集まっていることを。

 人だかり、いや動物だかりにたどり着くと、みんなが驚いたような顔をしてテニトカを見た。テニトカは一番近くにいた鹿に静かに近づいて問う。

「これはどういうことだ。こんな人里近くにわざわざ集まるほど重要なことなのか」

「ええ、重要ですね。我々の誇りと生涯の大きな賭けなんです。テニトカさんは反対されたとか。シアナさんがついに決めたんです。人間への復讐を」

 テニトカは衝撃を受けた。あのシアナがそんなことをすることがないと、復讐は危険で虚しいことだと伝えたはずだと、頭が混乱した。

「テニトカ」

 キリアが指さした方に顔を向けると、そこにはシアナがいた。高らかに腕を掲げ、大声で何かを叫んでいる。正直、端のほうまでは声が聞こえない。それはそれだけ多くの動物がその場に集まっているということ。

 つまり、これだけ多くの動物が今のシアナの意見、人間に復讐するということを望んでいたのだ。

 テニトカは想像以上の光景に失望した。自分の意見に賛同してくれる者の少なさを、自分のやってきたことは本当に無駄だったのかと。森の動物たちが恨みを持っていることはわかっていた。自分がそれをどうにもできないこともわかっていた。だから希望であるシアナに託したのに、そのシアナが今自分と正反対の立場にいる。もうどうしたらいいのかわからなかった。

 絶望する者もいればとっさに動き出す者もいる。

「テニトカ、行こう。ただ事ではないんだろう?」

 言葉さえわからないが、キリアは動く。切れ者故のこの動き。テニトカはキリアに続いてシアナのもとへと走った。

 だがもう遅かった。リイナは自分に近づいてくる二人に気が付くと、すっと息を吸い込むと、

「進めーーー!」

 リイナの大声が森中に響くと、動物たちが一斉にうなりをあげ、走り出した。

 テニトカはその波に乗れず押し出されていく。シアナと名を呼んだもののその声は届くことなく、シアナとサリーは姿を消した。


     *


 進軍した動物の群れに人間たちは慌てふためいた。突然のことに何の準備もしていない住民たちはただ逃げていく。人間は今思い知るのだろう。自分たちが何の興味もなく、無関心だった動物という存在が、自分たちの最大の恐怖であることを。そして人間も生き残るため、行動に出る。

「構え! いいか、住民の安全を第一に考えろ! 撃て!」

 局長が第一線に立ち、合図をすると、軍隊が銃で動物たちを撃ちだした。前線を突き進んでいた獣たちは次々と倒れていく。その中でも倒れないものが二人。リイナとサリーだ。リイナが完璧によけているわけでは決してない。あえてよけた撃ち方をしていた。リイナはそれをわかっていた。だからこそ迷うことなく突き進んでいた。後ろを振り向かず、倒れ行く仲間を見ることもなく、ただサリーに乗って突き進む。

 そして軍隊との距離が徐々に縮まり、交戦と同時にそこは激しい戦場になった。前線にいた局長はサリーの突き飛ばしで軽々と吹き飛んでしまった。

 そのまま軍を突破しようとしたとき、空からの襲撃にサリーが倒れ、リイナが吹き飛ばされた。

 吹き飛ばしたのはテニトカだった。リイナとサリーの前に立ちふさがる。

「恨みのまま、憎しみのまま、相手を殺すな! それでは人間と同じだろう!」

「うるさいっ!」

 サリーがテニトカを抑え、リイナが落ちていた剣で腹部を突いた。

 テニトカは呻きをあげ、崩れ落ちた。

「人間にも同じ屈辱を味合わせてやる」

「シアナ、あのとき言ったじゃないか。争いは憎しみを生むだけだと」

 息も絶え絶えにテニトカが言うと、リイナは振り向かずにこぼした。

「私は、シアナじゃない」

 再びサリーの背中に跨って、戦場に姿を消した。


「テニトカ!」

 駆けてきたキリアは腹部から血を流し倒れているテニトカに驚いた。

「シアナはどうした。その傷は?」

 キリアは言葉がわからない。テニトカはシアナが言った方向へ目を泳がせた。

「あっちに行ったんだな。待ってろ」

 キリアはその場にテニトカを置いて争いの中に姿を消した。


     *


 そんなに走ることもなく二人の姿を見つけるとこができた。軍の数は国の大きさに比べて多い。さすがのリイナも先に進めていなかったようだ。

「シアナ!」

 その声に反応したのはサリーのほうだった。当のリイナは完全に無視していた。

 サリーはリイナとキリアを見て、そして周りを見て、リイナに声をかける。

「キリアだ。リイナはあいつを止めておいてくれ。あいつはかなり手強い。あいつをひきつけている間に私は先へ進む」

 リイナはちらっとキリアを見るとうなずいた。サリーはさっと向きを変えて走っていく。

 リイナはキリアに向かい立っていた。

 シアナの前に立ったキリアは真剣な表情で問いかける。

「シアナ、どうしてこんなことを」

「こうするしか世界を救えないからよ。私は私なりに考えたの」

 リイナはシアナのふりをしてはかなげな顔を浮かべた。

「君は誰だ」

 キリアの声にリイナは固まった。違和感があったか? と今の行動を振り返るが、

「メイリアよ」

 シアナで違和感があったならメイリアにすればいい。

 しかしキリアは余計に疑いを強くする。

「メイリアならなおさら怪しい。自分の命を犠牲にしてまで人の命を救う阿呆だぞ」

 リイナは心の中で舌打ちした。

「それにシアナ自身が気づいていないのかもしれないが、シアナはメイリアそのものだ。別人じゃない。だが君は誰だ」

 もう隠せきれない。リイナは表情を解いてキリアに冷たい視線を送る。

「わかってるなら、かまわないで」

「それはできない。君の体はシアナのものだ」

 突然、リイナはキリアに剣を投げつけた。キリアは自分の剣で弾き飛ばした。

「シアナのもの? だから傷つけることは許さないって? 馬鹿にしないで! 私は自分の体を生きたまま奪われたのよ!」

 驚いたキリアにリイナは怒りのままに、自分の成り立ちを打ち明けた。

「そんな自分勝手な人間に復讐を。そして呪いを。災いを。死を!」

 キリアはリイナに駆け出して、リイナはとっさに身構えた。次の瞬間にはリイナを強く抱きしめていた。

「シアナ!」

 キリアはリイナの耳元で大声で名を呼んだ。

 大声が脳に響いたのか、リイナは強い耳鳴りに呻き、自分の脳裏に向かってくる右手を視た。

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