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無計画な冒険者 ―何とかなるだろ なりませんから―

 男が少女に出会ったのはまったくの偶然であった。

「生きたいか」

 男は地面にうずくまり息絶えそうな少女に問いかけた。

 少女は顔を男に向けた。

「誰なの」

 消えそうな声で少女は答えを返した。

「俺が誰なのかは今は関係ない。再度聞こう生きたいか」

「生きたよ、でも……」

 諦めの気持ちがにじみ出る声が男には聞こえた。それと共に微かに生きたいと、まだ死にたくないと裏腹に隠された言葉の裏側に隠された本当の気持ちを。

「分かった。お前の肉体を造り替える、その身に宿った力に押し潰れないように」

「えっ、何でそのこと知っているの」

 少女は自分の肉体に起きている不調を短時間で見抜いたことに驚きを隠せなかった。

 魔力制御不全、幼い子供が特になりやすい障害で成長と共にそのほとんどが魔力の扱いになれ治るのだが。その中でも過剰魔力制御不全と呼ばれるものがある、成長過程で治るはずの魔力制御不全が自身の成長と共に増える魔力の量が多く扱いなれない者がなる障害。それだけではなく過剰に魔力を作ってしまう体質、過剰魔力生成により少女の肉体は蝕まれていたのだ。

 男の手が少女の体に触れる。

 少女は男の手から伝わる温かさを感じながら意識を失った。

「始めようか、神をも畏れぬ大罪を」

 光が少女を包み込む。

「なるほどね、自分の力で自分の命をすり減らしていたのか。完全な人間に治すことは出来ないが仕方ないか」

 男は一呼吸して目をつぶり集中し、少女の肉体を作り替え始めた。

 日が沈み始め、周囲が暗くなる頃に少女の新たな肉体が完成した。

「ふぅ。外見は元の形を参考にしたが、中身の構造は上手く出来上がっているかな」



 数時間後、寝ていた少女は眼を開けた。

「あれ、私何で寝てたんだろう」

 体を起こし辺りを見渡す少女の目に意識を失う前の男が地面に片足を曲げ木にもたれかかっていた。

「気分はどうだ出来る限りのことはしたが」

「貴方は」

 少女は男の顔を見て、自分が意識を失う前の出来事を思い出した。

「あれ体が軽い。私、助かったの」

「そうだな、取りあえず自分の力で寿命を縮めることはなくなったかな」

「そうですか……、ありかとう……ございます」

 少女の頬を一筋の涙がつたった。

「体には異常はないんだな」

「は、はい。体に力が上手くはいらないぐらいです」

「新しく創った体の使い方に慣れないだけだろう、時間がたてば慣れるはずだ」

「一つ聞いていいですか」

「ああっ、いいが」

「貴方は何者なんですか」

「俺かっ」

 男は少し考え口を動かした。

「そうだな。禁忌を犯した罪人かな」

「禁忌ですか」

「人の体を創り変える、要するに老いても新しい体を創り長い時間を生きられ。本来なら死ぬはずの寿命を無理やり延ばしてることになるからな」

「寿命を延ばすことは罪なんですか、生きたいってことは罪なんですか」

「いいや、長生きをしたいことは罪ではないよ。俺の力は本来なら生きれないはずの時間を生きれてしまうことなんだよ、何十年、何百年と」

「えっ」

 少女は男の言っていることに息を呑んだ。

「寿命が長くなるだけで死ぬには死ぬけどな、それに元となる肉体が無ければできないし万能ってわけじゃない。あっ、言ってなかったけど息の体を創り変える時、人間の体の構造だとまた同じことの繰り返すになるから精霊の体の構造を取り入れたから。今の君は半人半精霊と言ったところになってるから」

 精霊それは不確かな存在、あらゆる所に精霊は住み着いているがそれを目にするものは限られている。そして無限に近い魔力を蓄えることができる。

「ちょっと待ってくださ何ですか半人半精霊って」

「正直なとこ俺にも分からん、何しろ人間と精霊の特徴を持っている者なんて知らないし。でもこうして生きていられてるんだから結果オーライってことで」

「あのもしかして、失敗するかも知れなかったんですか」

「あっいや、そんなことは……」

 誤魔化そうとする男に少女は問い詰める。

「失敗したらどうなってたんですか」

「あのですねそれはですね肉体が爆ぜてたかもしれません」

 少女のにじみ出る殺気に男は顔を引きつらせながら答えた。

「えっ肉体が爆ぜてた…………フッフフ、そうだったんですか」

「えっ、あのこれは最悪の場合のことで」

 男の目を少女は光が消えた瞳で見つめていた。なんとか弁解しようと必死になる男。

「そんな目で俺を見ないでくれ。悪かったって」

「まっ、こうして体の不調がなくなったことには感謝します。ありがとうございます」

 少女が怒りを収めたことに胸をなでおろした。

「いいや、君には悪いことをしたのかもしれない。人でも精霊でもない中途半端存在にしてしまい、先に謝っておこう。すまない」

「私は貴方に救われたのです、家族にも捨てられた私を貴方だけが救ってくれたのです。だから私は幸せです、これからも生きて世界を見ていけるんですから」

 少女は微笑みながら男に言った。男には少女の顔に浮かぶ微笑みはまぶしく映った。

「そう言ってもらえると、こちらとしても治したかいがあるよ。それじゃいつまでもここに居るわけにもいかないから、近くの村まで行こうか」

「そうですね、暗くなってきましたし急いで森を抜けましょう」

 木々により太陽の光は平地に比べ早く暗くなる。そうなると夜行性で暗闇の中でも自由に行動できるモンスターと、暗闇の中に潜むモンスターを認識し難い人間は不利になってしまう。

「でっ、どっちの方向が森を抜けれるんだ」

「知らないんですか、どうやってこの森に入ってきたんですか。そもそも何で森の中にいたんですか」

「迷いまして」

「えっ、もう一度聞いていいですか」

「適当に歩いてたらいつの間にかここにいたんです」

 男は何の計画もなしに何となくでこの森に入っていたのだ、冒険者だとしたら何の準備もしないで人か住まわない森に入ることはない。この男は冒険者としては駆け出し冒険者以下なのだ。

「貴方は本能で生きているのですかその頭は飾りですか、人間なら考えた行動をしてください」

「あっははは、大丈夫だって。モンスターの一匹二匹ぐらい」

「一匹二匹なら私も逃げれた思います、でも今の周りを見てください」

「周りって…………」

 男が周囲を見渡すと動くことないものが動いていた。

「あれもモンスターなのかな初めて見るな、世界には不思議で溢れているな」

「現実を見てください。あれは肉食樹種のモンスター、滅多にお目にかかれない貴重なモンスターでもあります」

 男と少女を囲むように肉食樹の群れが動いていたのだ。

 人が入り込まないそれも限られた一部の森の奥にしか生息していない肉食樹、それ故にこのモンスターをしる冒険者は少ない。

「君、意外と物知りだね」

「読書くらいしかやれることがありませんでしたから」

「そっか。そんじゃ逃げますか」

「逃げるんですか、倒すんじゃなくて」

「さすがに数が多すぎる、それに君を庇いながら戦える自信がないからな」

「すいません、足手まといになってしまって」

「気にすんなここで会ったのも何かの縁だろ」

 少女を背負うと男は肉食樹の間を縫うように走り出した。

 肉食樹の枝が男と少女を捕えようと襲いかかる、少女の後ろでは空を切る音が聞こえ目をつぶった。

「こここっこれ大丈夫なんですか、後ろから」

「心配しなさんな、生きてこの森を出てみせるから。だから口を閉じとけ舌噛むぞ」

 そう言って男は走る速度を上げた。徐々に肉食樹との距離は離れていき、木々を抜け草原に出た。

「森を抜けたから放してくれ、首が締まって呼吸がしづらい」

 恐怖で無意識に腕に力が入ってた腕から力をゆるめ少女は背から降りた。

「す、すいません」

「ほら無事に出れたろ」

 男は草原の空に浮かぶ満月を見上げながら言った。

「そうですね、私っ生きているんですね」

 地面に膝立ちになり涙を流していた。

「泣くなよ。何であそこにいたかは聞かないが生きていればどうにか成らない事もある、でもなだからどうしたそこで君は諦めるのか。俺なら諦めずしぶとくしがみつく、どんなにその姿が醜くても」

「そうですよね、私諦めていたんですね生きることに。これからは生まれ変わった気持ちで生きてきます」

「生まれ変わったんじゃなくて創り変えたんだけど、どっちも同じようなことか」

「私が生まれ変わったと思ってるんだからいいじゃないですか。いつまでも草原にいないで村に向かいましょう、あそこに光が見えますし」

 少女が指さした方角には明かり見えている。

「そうだな。その前にこれ着とけよ」

 男は自分が着ていたローブを渡した。

「寒くないですから着なくても大丈夫ですが」

「いやな、君は今の自分の格好を見てみなさい」

 少女が自分の格好を見て顔を朱くした。

「あっなな何で」

「どうやら、体を創り変えるまでは膨大な魔力が成長を阻害してたんだろな。本来の姿に成ったんだろ」

「見ないでください」

 自分の胸を腕で隠し、恥ずかしさの余りしゃがみこんでしまった少女。

 薄での白色ワンピスースの服を窮屈そうに胸が主張していたのだ。

「分かったから、早くこれを着てくれ」

 男からローブを受け取った少女は素早く着た。

 それを見た男は小さく笑うのでった、それを聞いた少女は男を睨んだ。

「悪かった、あまりにも年相応対応と思って」

 頭を下げながら少女に謝罪をしたが、少女は恥ずかしかったのか早足で明かりが灯っている場所に向かうのだった。男はそんな少女の後ろを笑いをこらえながら追っていった。

 少女は少し気になる事があった、ローブの下に武器も道具袋も持ってないことに。仮に冒険者だとしなくてもモンスターと出くわしたときの為に準備くらいして旅たつのではないかと。この男は普通じゃないのかと思いながら。





 こうして男と少女の出会いと、これから始まる奇妙な冒険の始まりだった。

 男の目的、少女の正体。その真実を世界が知ったとき真実の世界があらわになる。



「何とかなるか、今までもそうだったし」

「なりませんから。どうするんですか――」

 無計画な男に少女は今日も声を上げるのであった。

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