あっちむいてよboy!(1)
豊満なバストがぷるるんと揺れ、目の前に迫ってくる。ああ、やめてください藤森先生…。俺そういうの免疫無いんです。
「あらいいじゃない。滅多にないわよ、こんな状況」
そりゃそうなんですけど、その谷間に顔を埋めたい気持ちは大ありなんですけど、でも俺勇気がなくて…。
「勇気なんていらないわ。だってこれは夢なんだもの。貴方のしたい事をしたいまますればいいのよ」
俺のしたいまま? やりたい放題? そうなんですか? なら…。
白衣の合わせ目から白い素肌の胸の谷間が盛り上がり、顔の前まで押し迫ってくる。これに顔を埋める…。男の浪漫だ。けれど俺にとっては恐れ多い。けど、一度は触れてみたい。
心臓のバクバクを耳に聞きながら、ゆっくりとその谷間に手を伸ばす。そっと触れた感触は天にも昇る柔らかさだ。世の中、こんなすべすべしたふわふわの感触があるなんて。
「あん、洋ちゃん。そんなにいやらしく触っちゃ駄目」
え? 藤森先生、そんなしゃべり方でしたっけ?
わずかな疑問を片隅に、一度触れた感触から離れられずに自然と手がもみもみと動く。
「やん…洋ちゃんがいじめるう」
「………」
突発的に目が覚めた。目の前には見知った顔。頬を赤く染めた幼なじみが、硬直している俺を気恥ずかしく見つめてくる。
憧れの保健の女医先生との逢瀬の夢は砕け散り、目の前の光景に時が止まる。
俺の右手が、何故か幼なじみの藍沢ちとせの生の胸に押し当てられ、夢で涎を垂らして眠っていた俺を間近でちとせがじいっと見つめている。まさかとも言えず、俺は無意識にちとせの胸を揉んでいたというのか?
「洋ちゃん、涎まで垂らしちゃってえー、可愛いの」
「……悪夢だ。離れろっ」
俺は反射的に悪寒を耐え、ちとせをベッドから突き放した。胸をはだけさせたままちとせが尻餅をつく。それを見届けもせずに俺はすぐさま奴に背を向けた。
朝から何かの冗談だ。悪気にも程がある。目が覚めたら興味もない相手の乳を揉んでいるなんて、俺の常識ではあり得ない。いや、もうあり得てしまった。俺の貞操観念が崩れ去る勢いだ。
「洋ちゃんがなかなか起きないからあ、ちょっと悪戯したくなったんだよ。だって寝顔可愛いんだもん」
「もんとか言うなっ、気色悪い」
「えー、いいじゃん。それが僕なんだから」
「開き直ってんじゃねえよっ」
そのとき、部屋の襖が開いて、母の麻理恵が顔を出した。
「ちー君、洋三起こしてくれた?」
「あ、麻理恵さん。ちょうど起きましたよ。なんかHな夢見てたみたいで」
「ええ? やだあ。これだから男って」
部屋に入ってくるなり、麻理恵がちとせの胸元に目をつける。
「あらちー君。また胸育ってない? いいわねえ、お肌つるつるで」
「こんなの育っても洋ちゃんがHなおかずにするくらいですよ、さっきだって」
バフッと枕をちとせに投げつける。麻理恵はくすくすと笑って身を起こすと部屋を出た。
「洋三、いくら休日だからってだらだらは駄目よー。神様君だってもうご飯食べ終わってるんだからね」
「あいつはゲームしたいだけだろがっ」
がばっと起き上がり、目を三角にして吠える。すると、ちとせは抱きしめていた枕を持って近寄ってくると、そっと俺に囁いた。
「朝の処理、手伝ってあげてもいいけど?」
枕を俺の股間に押しつけて色気のある目で顔を近づけてくる。俺は果てしない羞恥で目の前の顔を掌で押し返した。
「地球が滅んでから来い」
「何それ、告白?」
「いいから出てけ! 俺は着替えるんだっ」
問答無用で押し切り、ちとせを部屋から追い出すと、俺は枕を股間に押しつけながら大きな溜息をついて項垂れた。
そこへ、襖を少しだけ開けたちとせがにやにやと声をかけてくる。
「我慢しなくてもいいのに」
「失せろっ、このボケ!」
俺は再度枕を襖の隙間に投げ飛ばした。ちとせの高笑いが廊下に響き、去っていく。
最悪の朝だ。藍沢ちとせ、体は女でありながら、中身は男の神経を持つ、俺の母の友人の事実上は娘であるが、実際は男女。性同一性障害と言えるのか、今現在奴自身が通院してカウンセリングを受けているところだ。
そんなあいつは何かしら俺に興味を持ち、女の体を使って、あれやこれやと悪戯を仕掛けてくる、ふとどきな奴だ。そんなちとせに、俺はどんな態度を取るべきかいつもまごついてしまう。
さっきだって、普通ならあり得ない生の乳をさらして俺の手に押しつけて面白がっていた。自分の体を女と認識していない証拠だ。自覚があるなら男の俺にそんな淫らなことをするはずがない。ちとせは女としては確実にどこか破綻しているのだ。
俺はさっさとジーンズとシャツに着替え、ダイニングに向かった。テーブルには、襟を整えたちとせがカーキのベストを着てのんびりコーヒーを飲んでいる。それを一睨みしてから、俺は母に用意してもらった朝食を食べ始めた。
リビングのテレビの前では銀髪の外国人が夢中で乙女ゲームを攻略している。その隣では妹の小春が何やらアドバイスしている。かねては無口な妹が、この「神様」と名付けられた居候には心を開き、笑顔すら見せるのに、俺にはほぼ皆無だ。俺の日常はどこかおかしい。
「洋ちゃん、口にマヨついてるよ」
コーヒーを飲みながら、ちとせが指を伸ばして俺の口端をなぞる。
「あらあ、朝から熱いわねえ」
すかさず麻理恵がしゃしゃり出てくるのに、俺はふんと鼻先であしらってやった。ちとせは指を舐めとってにんまりと笑う。「洋ちゃんは、純粋なのに男っぽいとこがいいんだよね」
「あらそう?…ちー君くらいよ、この子の仏頂面わかってくれるの」
当人放って馬鹿みたいな会話してんじゃねえよ。
俺は乱暴にトーストにのせたサラダを頬張った。
「で? 朝からでけえ顔して居座ってるのは何故だ」
「やだよ、忘れたの? 新しいショッピングモールできたから遊びに行こうっていってたじゃん」
「何で俺が行くんだよ。女と行けよ」
「えーっ、洋ちゃんとデートしたいじゃん」
お前は男なのか女なのかもはや自分でも分別を投げやってるな。都合いいときばっか、ぶりっこしやがって。
苦々しい顔でコーヒーを飲んでいると、麻理恵がにこにこと口を挟んできた。
「あら、仲良く出掛けるなら、洋三にお小遣いあげてもいいわよ。ちー君センスいいから、適当にこの子の服みつくろってあげて」
「はいはーい、任せてください」
にっこりと人好きのする笑顔で、ちとせは両手を振って応じた。水谷家では、俺の意志は尊重されないのが常なのである。
「ちなみに、洋ちゃんの好みってある?」
騒々しい音楽が流れるアーケード街を歩きながら、ちとせがうきうきと聞いてくる。俺は某牛丼屋に目移りしながら適当に答えた。
「雨風しのいで、燃えなくて、獣に噛まれても傷一つつかず、軽くてちとせの目を忍べるやつ」
「…本当に地球が滅んでも生きてそうだね。僕もお揃いにしようかな」
二次元か宇宙にでも行く気か? 俺は自分で言っといて溜息をついた。
「服なんていらねーよ。ゲーセン行こうぜ」
「ええ、やだよ。洋ちゃんの格好いいとこ見たいもん」
「1人で想像しとけ」
「ついでに一緒に歩きたいじゃん」
飛びつくようにちとせが俺の腕に抱きついてくる。俺は心臓が飛び上がった。往来で男同士で抱きつくというのは、頭でもいかんともしがたい。
「やめろっ、馬鹿」
「いいじゃん、大丈夫。僕見た目女の子だし」
そういう問題なのか? 見た目も何もお前女だろっ。男として、自分が女と思われる事に関して何の抵抗もないのか? お前の性別観念は一体どうできあがってんだ?
「ほらほら、あそこのカーディガン、面白いデザインだよ」
紫と灰色のストライプの上着を指さし、ちとせがはしゃぐ。声は発達していないので本当に女の声だ。間違いなく、今の俺達の図はデートだろう。
けれど、俺はちとせに対する思いだけは未だに自分で理解することができない。
ちとせは自分自身を男だと認識していて、俺との関係もその延長の友情を強いてくる。けれど仕掛けてくることは、女の身体を使い、女らしさを使い、いつも俺を翻弄させることばかりだ。その矛盾が、きっとこいつ自身を自爆させていることでもあるんだろう。
俺達は手頃なブランドの店で服一式を揃え、ちとせはご満悦、俺は徒労の顔で帰途についた。
「面白そうな店たくさん出来てたね。また来ようよ」
「今度こそ女共と行け」
「ぶー、意地悪」
頬を可愛く膨らませたちとせは手ぶらでカフェの前に立ち止まった。とっとと先を急ぐ俺は蹈鞴を踏む。
「お茶して行こうよ。喉渇かない?」
「家で飲めばいいだろ」
「ケチ、ケチケチケチケチ」
店の前で小競り合いをしている俺達を通行人が好奇の目で見ていく。ちとせの足は一歩も譲る気は無いらしい。結局俺が断念せざるを得ないのだ。
チェン店のカフェに入ると、統制された客引きの挨拶がかかる。俺達は適当に注文をすませ、2人賭けのテーブルに落ち着いた。そこにすかさず歩み寄ってくるものがある。
「よお、マジ偶然じゃん。相変わらず仲いいなお前ら」
悪友の柳哲司だ。金髪のウルフカットに黒のノースリーブにデニムシャツ。じゃらじゃらしたアクセが見るからに鬱陶しい奴だ。ちなみにこいつはちとせに密やかな想いを抱いている馬鹿な奴。
「柳君はデート? 相変わらずモテるね」
ちとせが人好きのする笑みで彼の背後の少女を見やる。ミニスカートからスカルのフェイクタトゥーを見せている顔は性格の悪そうな美人だ。飾り気のないスマートなちとせを小馬鹿にしたような目で隣の席に座る。おいおい当然かよ。
柳は通路を挟んでちとせの隣に座り、注文した品物をのぞき込んでくる。
「ガトーショコラ? 美味そー。俺にも一口くれよ」
「いいよ。もう結構お腹いっぱいだから」
まんまとちとせの手のつけたスイーツをもらい、微かに柳がしたり顔をする。それを見逃さなかった俺は自分を呪いたい気分だ。
「あ、洋ちゃん。最後まで飲まないでよ。僕もココア飲みたい」
あっと声を上げる間もなく、ちとせは俺からカップを奪い取り、当然のようにアイスココアのストローにすいついた。一口飲み込んで、ふうと満足の息をつく。今度こそそれを見逃さなかったのは柳の方だ。頬を染めて可愛らしさ全快にするちとせを見て、物欲しそうな顔で見とれている。その彼の脛を相手の彼女が鋭いピンヒールで蹴った。
「お前ら、本当に付き合ってるとかじゃないんだろうな」
「え?」
先に反応したのはちとせの方だった。いやに鋭い目で柳を見やる。
「やだな、僕は洋ちゃんの幼なじみだからさ」
「俺は今でもお前が男だって理解できない」
柳がガトーショコラをもぐもぐと口に運ぶ。おい、話す内容選べよ。相手の女の目の色が変わっただろが。
「男って何? どういうこと?」
「僕、見た目は女だけど、正真正銘中身は男ってことさ、可愛い子ちゃん」
背もたれに片腕をかけてウインクしながらその手でキスを投げる。洒脱な雰囲気が、興味本位で話に加わった女にある意味火をつけた。
「中身が男って…あの病気のやつ?」
「そ、目下カウンセリング中」
「へえ、そういう場合、やっぱり女に興味持つの?」
「持つよー。美人な子は大歓迎。大好物。女子更衣室なんて楽園だね」
あはは、と笑ってちとせがココアをすする。何故か男2人がいたたまれない。俺はだんだんいらいらしてきて立ち上がった。
「行くぞ」
言葉すくなに俺は椅子の音を立てて挨拶もなくその場を後にした。
「洋ちゃんっ、速いよっ、待ってよ」
河川敷が広がる道を一直線に突き進んでいく俺をちとせが後ろから追ってくる。いくら人目を引く容姿でも、図体なら俺の方が上だ。足の長さも然りだ。
「調子にのったの、怒った?」
「知らねえよ、お前が好きでした話なんか」
「やっぱり怒ってるじゃん」
反省した様子のちとせに歩幅の速度を合わせてやる。
「だってさ、僕も頭にきたんだ。柳が不躾なこと言うから」
「ならのっかるなよ」
「僕は洋ちゃんみたいに人を無碍にできない性格なんだよ」
「悪かったな、無神経で」
俺の仏頂面を横目で見て、ちとせが嬉しそうに笑う。何喜んでるんだか。
「帰ったら、服着替えて見せてよ」
「何で帰宅してまでお前と付き合わなくちゃいけないんだよ」
「えー、だってすぐ見たいもん。洋ちゃんの変身したとこ」
「自分家でウルトラマンでも見てろよ」
」古」
そんな馬鹿な話で、いつの間にか麻理恵が待つ自宅へと俺達は到着してしまった。
「着替えたら、下りてきてねーっ。お茶とカメラ用意しとくから」
「はいはーい」
にこやかに手を振って、ちとせが俺の背後から階段を上がってくる。自室に入ると、等身大の鏡が一番に目に飛び込んだ。一言言っておくが、これは俺が揃えた品物ではない。後ろの化け物がいつかの誕生日に押しつけてきた代物だ。
「結構買えたよね」
ベッドの上にシャツやストール、ニット帽やチノパン、カーディガンやジャケット…。本当にいくらもらってたんだこいつ?
1冊でもエロ本でも買わせてもらいたかった心境になる俺をさておき、ちとせはあらかた品物を広げ終わると、黒いシャツを取って俺に突きつけてきた。
「はい、まずこれね」
」面倒臭い、嫌だ」
「我が儘言わない。麻理恵さんが泣いちゃうよ」
さらに面倒臭いことを言われてしぶしぶ着替えを始める
俺はブルーのニットを脱ぎ、中のTシャツも脱いで上半身をさらした。鏡の前で黒いシャツを着ていると、一瞬だけベッドに座ってこちらを見ているちとせと目が合う。
カフェで柳を見たときと同じ冷えた目。俺が知っている、こいつを根っから女の振りをしているように見れない、やはりちとせは男だと思える事実。ちとせは女を女とも見ていないし、男を男とも見ていない。
俺はシャツを着て振り返った。ちとせの表情はいつもの柔和な微笑だ。
こいつとは小学生以来の付き合いで、いつの間にか、ちとせが男の神経を持つことを俺は受け入れていた。最初はちとせも拘ってはいなかった。
けれど思春期に入ると、カウンセリングに通うようになっていた。こいつの中で、何かの心の葛藤が生まれた証拠なんだ。俺はそれも受け入れて、今も友人として付き合っている。
ちとせはその葛藤はおくびにも出さない。はぐらかして、誤魔化して、まるで自分にまで嘘をついているような気にすら思う。俺はその欠片を知る度に、ちとせのどうしようもない寂しさを感じて苦しくなる。
俺は、おもむろにちとせに近づき、買ったばかりのカーディガンを羽織らせた。ちとせが神妙な顔になる。
「洋三?」
奴が真面目になったときの呼び方で、俺に問いかけてくる。俺は静かに笑った。
「お前が着ろよ。一番似合う。本当は着たいんだろ」
「何? ふざけてんの?」
冗談も抜け落ちた顔でちとせが苛立つ。
「俺は、本当にお前を男として見れる。そう受け入れられる」
「………」
「お前が拘ってること、よくわかんねえけど、お前が男だっていうなら、俺は素直にそれを受け入れる」
俺なりの精一杯の励ましだった。長年の親友として。
俺の告白に、ちとせは涙を飛ばして瞬きをした。ゆっくりと唇を噛んで俯く。震える手がベストのボタンにかかった。息を呑む俺の前で、そろそろと衣服を脱ぐ。
「ち、ちとせっ」
シャツを全てはだけさせたちとせが突然俺の首に抱きついてきた。ふわふわした胸の感触が薄いシャツ越しに触れる。
「僕は男だよ。でも身体は女なんだ。どう足掻いても。でも」
腕を離したちとせがシャツをさらにはだけさせる。甘色の突起がふくらみの上で俺に眩暈を起こさせる。ちとせはそのまま俺に抱きついた。
「僕は洋三が好き。女の身体じゃなくて、ちゃんと男の身体で洋三を好きでいたい」
言ってることと、やってることが矛盾してる。けれど、俺は無意識にちとせを強く抱きしめていた。何度も唇でちとせの首筋をたどる。
「僕が洋三を好きになるには、この身体が邪魔なんだ。許せないんだ」
「…うん…うん」
涙を流して訴えるちとせの薄い背をそっと撫でる。俺は沸騰しそうな頭で必死にちとせの思いを受け止めた。
男が男を好きになる論点は俺には興味がないことだ。けど、男であるちとせが俺のことを親友以上に好きでいてくれる問題は重大だ。ちとせには許せなくても、俺は昔からちとせ自身が好きだった。身体がどうかなんて問題にならない。
俺は突き動かされるままに、ちとせをベッドに押し倒し、触れるだけの愛撫を繰り返した。唇で頬や口をなぞり、掌で服の上からちとせの身体の形を撫でる。何度も何度も。
「洋三…好き、好き…」
溶けていく2人の意識が今どんな状態なのかわからない。足が絡み合い手が素肌を求めて熱くなで回す。男女なんて関係ない。触れ合って、それだけで両者を確認できればそれで満たされる。
俺にとっては、ちとせが女であろうと男であろうと、心は変わらないのに。触れ合う心に異性なんて関係ない。ああ、それは俺の気持ちが堅いからか。
「ずいぶん時間かかったわねえ」
ダイニングでのんびり待っていた麻理恵が、階下に下りてきた俺達をまったりと迎えた。
「どう? 麻理恵さん。このまま雑誌にのれると思わない?」
ずいぶんと高揚したちとせが、頬を染めて俺の格好を見せびらかす。麻理恵はクッキーをくわえながらうんうんと頷いてカメラを構えた。
「色味も大人びてるから、長く着れそうね。経済的にもばっちりっ。さすがちー君」
誉めちぎられて、まんざらでもないちとせがにやにやと頬を緩ませっぱなしだ。俺は髪をかきあげる振りをして、赤い顔を隠した。
「マリエ、甘い菓子が食べられると聞いたが」
そのとき、「神様」と呼ばれる謎の居候の異邦人がダイニングに小春とともに現れた。長身の肩をそびやかして堂々と佇むこいつの方がよっぽど雑誌向きだ。
「そうよー。みんなで食べようと思ってたくさん作ったの。テーブル囲みましょ」
にこにこと円満に皆が席につく。実に異様な光景だった。