25話 ナンパ男
かなり少なめになってしまいましたが、一応、前話から一週間経ってしまったので更新します。
「では。ご注文の商品は三日後、ジェパルドまで輸送しますので、そちらでお受け取りください」
「りょーかい」
適当に返事をしながら、商品の注文書を受け取る。
美人と知り合いになるのに金貨200枚。……金持ちからすれば安いのだろうけど、今の俺からしたら恐ろしく高い買い物になってしまった。なんせ手持ちの金全額だし。
「またしても文無し野宿生活に逆戻りか」
サリューネと一緒にいる時はそれなりの満足感に満たされていたが、こうして一人になると、どっとむなしさが押し寄せてくる。
近くにある町までたどり着いた俺は、ギルドでキマイラにかかっていた懸賞金を受け取り、一旦サリューネと別れてすぐさま病院へと移動し、その場で頼まれていた薬品を注文した。だが、あいにくとこの街の病院では、頼まれていた品の在庫がないらしく、すぐに買い揃えることができなかった。で、どうにかできないかと聞いたところ、それならば別の街に連絡を取って注文しておくから、そこで受け取って欲しい、といったことを言われたのだ。
この世界には、音声伝達魔石という電話のような便利な機械があるため、別の村や町にある同系列の店と連絡を取り合うことができ、こういった客からの注文があった際や、仕入れの際にはそれを使って連絡を取り合うことができるらしい。
ギルドの手配魔獣なんかの情報も、そうやって仕入れるという話だ。
今回、俺が注文した物は、全て揃えようとするとかなりの値段になってしまうため、ここまで届けてもらうにはリスクがありすぎる、といった理由から、顧客である俺達が直接商品を受け取りに行くことになったというわけだ。
「独立自治都市ジェパルドか」
指定された場所の名前を口にしてみる。
それは俺がヴァドルを出た後、最初の目的地として定めていた場所だった。
俺が今まで仕入れてきた情報によると、なんでもジェパルドでは五年に一度、近隣国から人を集めて最強の剣士を決めるための闘技大会が行われるらしい。それが開催される年がちょうど今年。しかも近々開催されるという話だ。
その影響で、ジェパルドに近い町や村は、どこか活気付いているように見える。
最初は俺も闘技大会に出場することも視野に入れていたため、それなりに興味を持っていたのだが、その大会は国のお偉いさんに推薦された兵士のみしか出ることのできない、と聞いて以来、ほとんど興味を失っていた。正直、ジェパルドは無視して、他の場所に行こうかと考えていたほどだ。
別に無理して立ち寄りたいとは思っていなかったが、同じ様に遠ざかりたいとも思っていなかった。要するに、どうでも良いということ。
つまり、このままジェパルドまでサリューネと旅を続けるのに、何の問題もない、ということだ。
個人的にはもう少し、あの美女と一緒にいたいと思っている。だが、それには本人の了承を取る必要がある。強引に迫れば、彼女の性格上、たぶん断られないと思うが、無理矢理押し切るのは趣味じゃないし。かといって、仕方がないから一緒にいる、というような状況にもしたくない。できることなら、楽しく彼女と旅をしたいのだ。
「ど~したもんかな~」
何か自然に彼女と一緒に行動する方法がないかと……できれば、親密な関係になれるような方法はないかと、頭を働かせていた。
「ん~……。ん?」
腕を組みながら道を歩いていると、ふいに目の前で不自然に人が集まっていたことに気付く。
「なんだ?」
思考を一旦止め、意識を目の前にある人だかりに向ける。
見ると、彼らの全員が一つの方向に視線を向けていることに気付いた。どうやらこれは、その視線の先にある何かを見るために集まった野次馬らしい。
彼らの視線を辿ってみると、そこには明らかに平民とは違う、きらびやかな服に身を包んだ二枚目の男が一人の女性の前に跪きながら何やら訴えている、といった光景が目に飛び込んできた。
一瞬、どこぞの見世物小屋の連中が野外で演劇でもしているのか、と思った。だが、すぐにそれは勘違いだったと気付く。
女の方はサリューネだった。
再度男の方に視線を送るが、何度確認しても、その顔に見覚えはなかった。
「誰だ? あいつは」
「兄ちゃん。あの男を知らないのか?」
近くにいた気の良さそうなおっさんが俺の独り言を聞いて反応し、話しかけてきた。
「あの男はセルリウム・ボルドって言ってね。あの有名なボルド家の跡取り息子さ」
「へぇ。あいつがあの有名なボルド家の。そいつは凄いな」
適当に相槌を打ちながら、軽く驚いてみせる。どうやら、相手の男が有名な貴族のお坊ちゃんだということがその説明から分かった。ちなみに、当然のことだが、俺はボルド家なんてものは知らない。
「あっちの娘は? あれも貴族のご令嬢さまなのか?」
それとなくサリューネの身分についても探りを入れてみる。
「いんや。少なくとも俺は見たことないね。服装を見る限り、偶然ここに来た旅人なんじゃないかな」
どうやら、彼女が身分を偽っている、ということはないらしい。あれだけの美人を見ていながら忘れるなんてこと、男ならまずないだろうから信用はできるだろう。
俺はそのまま話しかけてきたおっさんにこの状況の詳しい話を聞くことにした。
なんでも、男の方がジェパルドで行われる闘技大会を見学するためにこの町に逗留していたところ、偶然町で見つけたサリューネに一目惚れしたらしい。
男はすぐさまサリューネに詰め寄って口説き落とそうとした。
相手は文句なしの貴族のご子息様。そんな男が、平民である彼女に声をかけたのだから、周りは一瞬騒然となったそうだ。
ここまでなら、名も知らない町娘が偶然居合わせた貴族の男に見初められ、恋に落ちるという、まるで映画やドラマのようなストーリーに思える感動的な場面だろう。だが、その後の展開は、映画のようにはいかなかった。
サリューネは貴族の男の誘いを一蹴したのだ。まあ、正確には申し訳なさそうに、やんわりと断りを入れたのだが、少なくとも誘いに乗る気がないという意思表示だけははっきりと示した。
で、男の方はまさか断られるとは思っていなかったらしく……というか、未だ断られたと思っていないらしく、しつこく彼女を口説き続けている、とのこと。
つまり、ナンパに失敗したことを受け入れられず、未練がましく彼女に付きまとっているというだけのことだ。なんとも滑稽な話だった。
「ふ~ん」
それであの状況になった、ということか。
事情を聞いた俺は、面白そうだったので、そのまま野次馬に紛れて成り行きを見守ることにした。




