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CRY I  作者: やひろ
19/42

19話 盗賊対化物

 ここからは椿と詠二が別行動を取ることになるので、時々三人称視点になることがあります。

 ヴァドルの首都から五十キロほど西にある森の外れまで椿とフェンリルは移動していた。

 時刻はまだ魔物すら活動しないような深夜。ヴァドルの西の城壁をぶち抜いてから、まだ一時間ほどしか経過していない。本来なら、もう少しゆっくりと旅を楽しむつもりだったのだが、フェンリルが城壁を飛び越えることに失敗し、周囲の注目をこれ以上ないくらいに集めてしまったため、全力で逃げるように移動した結果だった。

「こんの馬鹿犬が! あんな場所に大穴開けちまったら、結局門をぶっ壊すより高くついちまうだろうが!」

「きゅ~ん……」

「次からは、できねえことはできねえってはっきり言え! もし言わなかったら、どっかその辺に売っぱらっちまうからな!」

「きゅ~ん……」

 怒鳴りつける椿の前で、子犬モードで項垂れているフェンリル。可愛らしいその体形でいる方が説教が短くなるんじゃないか、などという打算がフェンリルにあったかどうかは分からないが、少なくとも椿の方はその姿を見て、怒る気が幾分か削がれていたのは確かだった。

「ったく。……ん?」

 この辺で説教は止めてこうかと考えていたところで、椿は自分に向けられる無数の視線に気付いた。

「っ!?」

 一瞬送れて、フェンリルもその気配に気付く。

 気配のした方向には深い森がある。その隙間から僅かに見えた存在は、獣の類ではなく、明らかに人の姿をしていた。

「(盗賊の群れか)」

 数はおよそ14、5人。だが、気付くのが早かったことと、背後は隠れる場所のない平原だったため囲まれてはいない。

 巨大化したフェンリルに乗って移動すれば、余裕で逃げ切れる。当然そのことは椿も気付いていた。だが椿は、あえてそれをできなくする行動を取ることを考えていた。

「フェンリル」

 盗賊達の隠れている方向にうなり声をあげていたフェンリルを徐に掴みあげる。

「ちょっとしたテストの時間だ」

「わん?」

「優秀な犬ってのは、一度も行った事のない土地に置き去りにされても、必ずご主人様の元に戻ってくるんだそうだ」

「……」

 こんな状況であるにも関わらず、急にそんなことを言い出した主の真意を図りかね、しばらくの間首を傾げた状態で固まっているフェンリル。だが、数秒後。

「きゅ~ん……」

 動物的直感で何かを察したらしく、体を小刻みに震わせ、その顔も微妙に青ざめさせた。

「結構本気出すけど、お前なら死ぬことはないよな?」

 笑顔で語りかける椿と、猛烈な勢いで首を横に振っているフェンリル。

「まあ、獅子も我が子を谷から突き落とすって言うし、それに比べりゃ楽なもんだろ。って、わけだから――」

 そんなフェンリルの反応を無視し、ゆったりとしたモーションでフェンリルを持つ右腕を構える。

「――ちょっと行って来いや!」

 掛け声と共にそのまま全力で空に向かって投げつけた。

「きゃいん! きゃいん! きゃいん――」

 鳴き声を上げながら矢のような速さで地平線の彼方へと飛んでいくフェンリル。

 想像以上の速度で飛んで行くそんな飼い犬の姿を見ながら、力加減を間違えたか、などと僅かに後悔と懺悔をする椿。

「なんのつもりだ?」

 それまで黙って潜んでいた盗賊のうちの一人が、木の陰からその姿を現した。そして、一人目が現れるのを境に、周囲からも次々と潜んでいた盗賊達がその姿を現し始める。

「別に。ただ、ようやく俺の異世界のデビュー戦なわけだし、邪魔されるのも嫌だと思っただけだよ」

 軽口を叩きながら手荷物を地面に置き、現れた盗賊の群れと向かい合う。

 今のような危機的状況には不釣合いな軽い態度。その顔には満足そうな笑顔さえ浮かんでいた。

 椿は一つの不安を抱えていた。あの国の人間は温厚な人達ばかりで、もしかしたら、この世界の連中全部があんなんじゃないか、と。だが、そんな不安は盗賊を前にしたことで杞憂だったことが分かった。

 前の世界にいた街中に巣食う不良やごろつき連中とは明らかに違う。脅す気ではなく、殺す気でいる。そのことがあからさまに伝わってくる。それがただ単にうれしかった。

 一方、盗賊側からすれば、椿の態度は不信感を抱くことを通り越し、不快なものとして映っていた。

 傷の一つもない顔。武器を見に付けず、街中をうろつく若者のような軽装。実際に年も盗賊達から見ればガキに過ぎない。そんな奴が、へらへらとした態度で自分達を見下しているのだ。

 警戒心を薄れさせ、椿の拳が届く範囲内まで無警戒で足を踏む込ませてしまう人間が出てくるのも、無理のないことだった。

「てめえ、この状況が分かっているのか?」

 一番近くにいた男が苛立ちを隠さない様子で、椿の首元に剣を付きつける。

「命が惜しくなかったら、とっとと――がっ、……ひゅ」

 男は全てを言い切る間もなく、口から奇妙な音を発し、地面に膝をついた。

「状況なら分かってるっての」

 膝をついた男に向けて返事をしながらも、その男のことを無視するように素通りし、他の盗賊達に向けて足を進めている。

「こういうことだろ? あんたらは大人数。しかも全員が武装している。けど、こっちは素手の人間がたった一人。つまり、あんたらの方が絶対的に有利な状況ってことだ」

 盗賊達はなぜ仲間がなぜ振り上げた剣を降ろし、椿の行動を見過ごしているのかが分からず、怪訝な顔をしながらその光景を見ていた。

「こんな状況だというにも関わらず、お前等は仲間を一人殺されたんだぜ? それも、獲物はまるで臆した様子も見せていない。むかつくよな。許せねえよな。殺しでもしねえと、気が晴れることなんてねえよな?」

 椿が口にした不吉な単語は、盗賊達の視線を仲間の男の集めた。

 そこで気付いた。

 膝をついている男が手に持っている剣の先がいつの間にかへし折れていたこと。そしてその消えた剣先は男の首に突き刺さっているということに。そしてそれをやったのが目の前にいる青年であるということを。

「魅せてくれよ。味あわせてくれよ。元の世界じゃ味わうことのできなかった特上のご馳走を! この世界特産の、純粋で粗野で狂おしいほど激しい、本物の殺意って奴をなぁ!」

 叫び声に呼応するかのように、背後で男の首から噴水のように血が噴出させ、そのまま呻き声をあげることもなく絶命する。

 椿がその狂気に満ちた本性を露わにすると同時に、盗賊達の方は椿の注文通りの感情を乗せた凶悪な視線を椿に向けて叩きつけた。

 


 椿が盗賊と遭遇している頃、詠二は西の防壁に開いた穴を下から眺めていた。

 時間が深夜であることや、それ自体が一瞬の出来事だったため目撃者は少ない。その僅かな目撃者にしても、何か白くて大きな物体が通り抜けた、という曖昧な証言しかすることはできなかった。何が起きたかを正確に把握している人間はいないということだ。だが、状況から考えて、こんなことをやらかすのは椿以外に考えられなかった。

「あの男は……」

 西の防壁に空いた大穴を見上げながら、隣で忌々しげに呟いているエリス。そんなエリスの雰囲気に気圧され、声をかけることができずにいた。

「折角エイジ様が温情で助けてやったというのに、それに泥を塗るような真似をして……」

「温情?」

 エリスが不可解な発言をしたことで、ようやく口を挟む。

「忘れたのですか? あの男は初めてこの世界に来た日に一度、兵士達との諍いをエイジ様が止められたことを」

 言われて、エリスが何のことを言っているのかに気付いた。それは不当な発言をした椿に対して、エリスが兵士を差し向けようとした時のことだ。

 それをさも、椿が勝手に兵士達と諍いを起こしたかのように言ったことが気にはなったが、今は聞かなかったことにする。

「……それは違うんだけどな」

 詠二は言ってあげたかった。あの時、僕が助けたのは、ツバキじゃない。君達の方だ、と。だが、言ったところで今のエリスには無駄な気がしたので口にはしなかった。

 仕方なく話を逸らすことにする。

「ツバキが向かったのは西か……。確か西の森には少数で移動する人間を標的にする盗賊がいるんだったよね?」

「……ええ」

 詠二が椿を救出のための人員を派遣する、なんて言い出すかもしれない。それを危惧したのだろう。返事をするエリスの声は、あからさまにトーンが落ちていた。

 今、国が抱えている案件の中に、盗賊の被害に遭い、物資の流通が遅れているというものがある。

 西の森を拠点とし、近くを通る商人や旅人を手当たり次第襲い、ヴァドルの流通に打撃を与えていたため、国としても見過ごせない存在だった。

 だが、護衛を雇わず、少数で移動していると必ずと言って良いほど襲撃に遭うが、護衛の数が多かったり、あからさまな強者がついていたりすると姿を現さないことや、少数の相手に対しても必ず武装した十人以上の人間で襲撃してくる、といった用心深さもあるため、対処をするのが難しいのだ。

 何度か討伐隊を組んで森を探索しているのだが、仕掛けてある罠や地の利を生かした戦法に、今のところ全てが失敗に終わっている。

 対処する方法として最も確実なのは、大人数の討伐隊を結成し、森をしらみつぶしに探索して拠点ごとつぶしてしまうことだが、今のヴァドルに盗賊の討伐するためだけに大人数の討伐隊を作るだけの余裕はなかった。

 残された方法は、少数で、装備もあまり整えず、なおかつ十数人に囲まれても対抗できるだけの人間が囮となっておびき出す、というものだ。

 近いうちに天剣を持つ自分が対処する必要があると詠二は考えていた。だが……

「もしかしたら、盗賊の脅威は今日限りでなくなるかもしれないよ」

 確率的には五分と考えていた。それは、椿が盗賊を駆逐できる可能性ではなく、椿が盗賊と遭遇する可能性だ。遭遇しさえすれば、殲滅されることは間違いない。それは、盗賊という職業、そして、その者達が盗賊になることを選んだ気性、さらに木崎椿という男の人間性を考えれば誰もがそう考えることだった。

「……」

 エリスは、詠二が懸念していた命令を出さなかったことには安堵した。だが、椿を信頼しているようなその発言に対して不満を覚えていた。

 本腰を入れていなかったとはいえ、今まで誰も解決することができなかった盗賊の問題を、椿がたった一人でどうにかすることを確信しているような詠二の言い方。

 詠二は、あの性格の悪い友人のことを過大に評価し過ぎている。そうエリスは判断していた。

「信じられないかい?」

「……いえ」

 否定はしていたが、本心は逆だということがその顔にありありと浮かんでいる。

 そんなエリスを見て軽くため息をつく。どうせなら旅立つ前に、椿にはもう少しエリスと仲良くなる努力を欲しかった、などと思ってしまう詠二だった。

 不満そうな顔をしているエリスに、仕方なく詳しい説明をする。

「僕の通っていた道場はかなり特殊なところでね。素手や剣とか、そういう型や武器に一切拘らず、とにかく近接戦闘において最強であることを目指していたんだ。その特異性からかな。あまり公にはされてなかったけど、一部の間ではそれなりに有名で、世界中から猛者達が集まって来てたんだ。当然、僕なんかより強い人なんていくらでもいた」

 自分より強い人間などいくらでもいた、と当然のように話す詠二に対して、とっさに口を挟もうとしたエリスだったが、あまりにも当然のことであるかのように語るため、それを否定することができずにいた。

「けど、ツバキ勝てる人間は一人もいなかった。どんなに強い人が相手でも、そんな人達が何人集まっても。どんな武器を使っても、ね」

 椿はこちらに来てまだ一度も戦ってはいない。だが、この世界での戦闘経験がある詠二は確信していた。あそこにいた人達は、たとえ魔法という未知の力があったとしても、この世界の兵士達よりも遥に強い。そして、そんな人達が敵わなかった椿を、盗賊如きが束になったところでどうにかできるわけがない、と。

 詠二は今現在の実力と年齢を考えれば、間違いなく天才と呼ばれる類の人間だ。だが、椿は格が違うのだ。

 天剣がなかったとしても、かなりの腕前がある詠二が未だに椿に頭が上がらないのは、本人がそういう性格というだけではなく、そういった理由があったからだった。

「エイジ様は、自分が敵わなかった人達があの男に敗れるのを見続けていた所為で、ご自分の中であの男を大きくし過ぎているのではないですか?」

 どうやら、椿の強さをある程度理解したようだが、今度はそれを過大に言い過ぎたことに不満を持ったようだ。

 この世界での漂流者の強さは、前の世界での強さとイコールでは結ばれない。たとえ前の世界で落ちこぼれだったとしても、召喚の儀によってその強さのバランスは大きく変動する。

 落ちこぼれでも、呼び出した武器によっては天才を超えることが可能だ。

 その召喚の儀によって呼び出される武器の中でも最強と言っても過言ではない天剣を呼び出した詠二が、未だに友人に劣等感を抱いていることに納得ができなかった。しかもその友人が、自分の嫌う人間だというのだから、エリスの不満が大きいのも仕方のないことかもしれない。

 詠二としては、エリスはあまりにも椿を軽視し過ぎていることが気にかかった。

「それならいいんだけどね……」

 このまま放置したら、自分の知らないところでエリスは椿に手を出そうとするかもしれない。そんな危機感を持った詠二は、少し真剣に話を聞かせることにした。

「ツバキのとんでもないところはね、ただ強いだけじゃなくて、強くなることを目指しているはずの連中のほとんどが、一度負けて以降、二度と椿には近づこうとしなくなることなんだ」

 ある程度力のある人間が、手っ取り早く今以上に強くなるためには、自分より強い人間と戦うのが良い。

 武術を身に付ける人間にとって、自分より強い人間というものはそれだけで価値のある存在なのだ。にも関わらず、強くなるために集まったはずの詠二の同門達は、自分より強者である椿を避けるようになる。

 それは、対戦の際、椿が強さ以上の恐怖を相手に刻み付けているということだ。それがどれだけ異常なことなのか、詠二は詳しく言って聞かせるが、いまいち分かっていない顔をしているエリス。

 仕方なく、もう少し分かり易く説明する。

「天敵って言葉、知ってる?」

 生物界にはこういった個体差だけではどうすることのできない絶対の捕食者……天敵と呼ばれる生物が必ず存在する。ポピュラーなものを挙げるなら、蛙に蛇。蝶に蜘蛛といった感じだ。

 そういった存在がいないからこそ、人間は万物の頂点に立つことができていた。自分達を霊長類だと言い張ることができていた。だが――

「まるで人という種族に対してのそれのようだった。ツバキと対戦した相手は皆、口を揃えてそういったよ。いつの間にか、それに見合ったあだ名で呼ばれるようになってた」

 彼がギルドに登録する際、付けた偽名。あれも、元々椿が自分に付けられていた忌み名を引用したものだ。

 クラウドとは漢字にするとこう書く。

 『喰奴』と。

食人鬼マンイーター。ツバキは向こうの世界でそんな風に呼ばれていたんだ」

 ぞくり、と。言葉を聞いただけで、エリスの背筋には寒気が走っていた。

 まともな人間に付けられる名前じゃない。ただ強いだけでは決して付けらることのない忌み名だ。

 似たような二つ名を付けられた人間はこの世界にも何人かはいる。だが、その全てが猟奇的な嗜好を持つ殺人鬼か、そんな化け物を連想させる外見をしているかのどちらかだった。

 が、椿はそのどちらでもない。外見は文句なしに普通の青年だ。そして、大して長い期間を一緒にいたわけではなく、あまり好ましく思っていない存在だったが、無意味に他人に危害を加えるような人間じゃないことはエリスにも分かっていた。

 だが、どちらでもないというのにも関わらず、食人鬼マンイーターなんていう二つ名が付けられたことが逆に恐ろしく思える。

 それは元々は椿が時々口にする口癖からついたあだ名だと思われていた。だが、それが単なるあだ名なんかではなく、あの男の本質を正確に表しているものだということを、椿と戦闘行為を行った人間は全員が気付いた。特に普段から椿の傍にいた詠二が一番良く理解していた。

 他人から敵意を向けられることに喜ぶ。そのくらいならまだ良い。本当に怖いのは殺意を向けられた時だ。

 本人は病気と言う。話だけ聞いた人間はただの衝動だと思いこむ。だが、『あれ』はただの病気や衝動なんてもので収まるものなんかではない。

「この世界の僕には天剣があるし、天剣を使うことで身体能力も遥かに向上する。実際、この世界でも僕と対等に戦える人なんてそうはいないんじゃないかってくらいの自身もある。実力的にはツバキよりも強くなってるのかもしれない。けど――」

 元の世界では、椿に敵意を向けることのできる人間がいなくなっていたため、すっかりなりを潜めていた。詠二としても、もう椿が『あれ』になる恐れなんてなくなったと安堵していた。

 だが、先日それが間違いだということを思い知った。

 目が語っていた。この国の兵士達に敵意を加えられていたときの椿の目は、明らかにあの感覚を……獲物を前にした捕食者の感覚を忘れてはいない、と。

「それでも僕は、『あれ』と敵対するのだけは死んでもごめんだ」

 この世界において最強の象徴とも呼べる天剣を持つ青年は、怯えとも取れる表情を見せながら、そんな台詞を口にしていた。



 椿は小山の頂上に座り、飼い犬の到着を待っていた。

「わん! わん!」

「お~。無事戻ってきたか。意外と賢いじゃねえか」

 真っ直ぐに自分の元へと駆け寄り、そのまま飛びついてきたフェンリルを軽くキャッチする。

 まるで、生き別れた主を追って未開の地をはるばる旅をしてきたかのように、うれしそうに尻尾を振りながら再会を喜んでいる子犬。そしてそれを純粋に褒めている飼い主。別れる原因を作ったのが飼い主の方だという事実などなかったかのようだ。投げられた方も投げられた方だが、投げた方もそんな反応で良いのかと思ってしまう光景だった。

「よし。じゃあ、夜が明ける前に近くの村にでも行くとするか」

「わん!」

「あ、いや。その前に、水場を探した方がいいか。これじゃあ、村を見つけても門前払いされかねねえし」

 自身の格好を見て考え直した。

 本人は全くの無傷であるにも関わらず、服だけは至る所まで朱色に染まっているその姿を見て、笑顔で迎え入れてくれる村なんて存在しないだろう。

 服を確認した椿の視線は、そのまま流れるように足元にある小山に……山状に積み重ねられている物体に移った。

「ったく。……全然、喰い足りねえよ」

 盗賊達の屍の山の上で返り血に染まった拳をなめ、口元を血で汚しながら不満そうにつぶやいているその姿は、二つ名に違わぬ食人鬼マンイーターそのものだった。

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