第八話:五蘊その5【識(しき)】:ボクこそが、正義。
おじいちゃんカモメは、蒼龍くんを「ただの親切な龍」として受け入れました。
しかしシャリホは、世界を「自分へのサービスセンター」だと思い込んでいます。
今回は、彼がどれほど自分に都合のいい「色眼鏡」をかけているか、その滑稽な正体を暴きます。
般若心経の最後にして最大の難所、【識】。それは「ボクの常識、世界の非常識」に気づく物語です。
泥沼に腰まで埋まりながらも、シャリホは胸を張りました。
「そもそも、この道に泥沼があるのが間違いなのです。
私が通る道は整えられているべきなのです。
私は価値ある男なのですから」
(17時00分。世界の設計ミス。改善要請)
「なあ」
カモメが言いました。
「その“価値ある男”ってのは、誰が決めた?」
「私の経験です!」
シャリホは即答します。
「高い酒を頼めば、皆が頷いた。
私の話は常に歓迎された!」
カモメは泥に映るシャリホを見ました。
「その時、みんなは何を見てたんだろうな」
「……何を、とは?」
「顔か。
財布か」
風が止みました。
泥の水面に映るのは、
宝石を握りしめた、泥まみれの男。
「……違う」
シャリホは言います。
しかし、その声はわずかに弱い。
「彼女たちは、私の知性を……」
「かもしれないな」
カモメは肩をすくめました。
「でもさ。
泥は、あんたを特別扱いしてない」
シャリホは泥を見下ろします。
泥は何も言わない。
ただ、同じ重さで彼を受け止めている。
手帳を開こうとした指が、初めて止まりました。
「……やれやれだぜ」
人は、自分の見え方を「世界」だと思い込みます。
同じ泥でも、
ある者には罰に見え、
ある者にはただの地面に見える。
正しさとは、
もしかすると“慣れた景色”のことなのかもしれません。
次回、第九話。
【色即是空】――!?あのシャリホが気づいてしまう??世界の真理に!?




