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アメン  作者: 平 一
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6 政治宣伝に抗して

「以上のような説明を行った理由は、今なお帝国内に残る中枢種族からの情報操作の悪影響を除いて、偏見なき視点から帝国の現況を再認識いただき、不幸な歴史的経緯から旧帝国の軍事組織に参加された皆様の、武装放棄と社会復帰を支援するためです」


「旧帝国の逃亡政権は政治宣伝(プロパガンダ)のため、サタンを〝光輝帝(ルシファー)〟と自称して皇位簒奪(さんだつ)を図る〝闇の王〟と説明していました。しかしその名は周知の如く、彼女が文明開発長官の地位にあった時、開発途上種族に対する文明発展支援の功績から、〝知恵の光をもたらす者〟という意味で帝国の人々から与えられたものです。何よりも、支援のための神話において彼女が悪魔を演じたのは、将来における途上種族の帝国加入に備え、神に()された〝先帝〟種族への親近感を育むためであったという事実は、彼女が旧帝国の最も献身的な臣下であったことを物語る証拠でありましょう」


図26:光輝帝

m挿絵(By みてみん)


「アスモデウスもまた、〝欲望王〟と呼ばれました。しかし、彼女はサタンと外周星域を訪れた際、自らの惑星の電磁気・重力学的特性を彼女のものと同一に偽装して、派遣軍からの攻撃の危険を分散しました。この偽装は同地における最後の戦いの際にも、サタンを目標として殺到する敵艦隊を一時混乱させて、アドラメレクによる攻撃の成功に寄与しました。私欲のみで行動する種族に、このような行為は行い得ません。彼女の積極的な外交活動もまた、自己の権益追求のためというより、生来の社交性や他種族への共感能力、そして彼女がサタンと共有する〝全ての種族のための文明発展〟への情熱によることは、今日までの彼女の他種族支援事業での実績からも明白です。彼女なくしては現在の新帝国もなく、〝熱情王〟の別名もまた極めて正当なものといえましょう」


図27:熱情王

m挿絵(By みてみん)


「旧帝国の時代から銀河系最高の頭脳と称された科学長官ストラスを〝狂王〟と呼号するに至っては、もはや考案者自身の精神的健康を案ずる他はありません。確かに知性、すなわち環境変化に対応して活動を制御し、多様に変化させうる知的活動能力は、単純な本能と異なり、無限の可能性の代償として、結果的には無益や自滅に至る危険性も有する、一種の狂気とも称し得る属性です。しかしそうした哲学的な見方を除けば、彼女はむしろ技術の軍事利用のみに狂奔(きょうほん)した中枢種族より、遥かに健全な感覚を有する種族です。彼女の技術開発はその高度さゆえに一見過激なものと誤解されがちですが、実はそれまでの技術革新による経済・社会の変化を受けて、次に生まれる新たな需要や価値観に応えることを目指した、極めて適切な性質のものです。すでに彼女が生み出した多くの優良技術は帝国の発展に多大な貢献を果たしており、特に種族間融合体の形成技術は星間紛争を根絶し、新たな進化の可能性を拓く画期的成果として期待されています。彼女はまた、〝未来あるもの〟への参政権付与や軍事に代わる産業種族の育成など、社会工学の分野においても的確な数理分析と予測を提供し、現皇帝の政策立案を支援しました。こうした者には、〝賢明王〟以外の呼称は考えられません」


図28:賢明王

m挿絵(By みてみん)


「犯罪的中枢種族の討滅や内乱・分離勢力の平定に貢献したグラシャラボラス、アミーとヴォラクは、それぞれ〝暗殺公〟〝滅亡伯〟〝焦土伯〟という異名(いみょう)を与えられました。しかし、中枢種族ザフィエルに見えなかったものは暗殺者の剣ではなく、ただ一途に平和を求める〝純真公〟を守った、友好種族達の慈愛の盾でした。また双子姉妹のアミーとヴォラクにも、旧皇帝領の破壊者を討って同地の全滅を防いだ〝救国伯〟、中心星域の平定に際して犠牲の最小化に貢献した〝救命伯〟の称号こそが相応(ふさわ)しいものです」


図29:純真公、救国伯と救命伯

m挿絵(By みてみん)


「私の上官だった〝正義公〟アスタロトには、〝反逆公〟の名が進呈されています。しかし、これにつき私の報告を受けた彼女は、しばらく沈黙した後にこう応えました。すなわち、『先帝を滅ぼし、内乱を招いて帝国に滅亡の危機をもたらした逆臣賊将共から裏切者と呼ばれるのは、帝国の忠臣たるべく努めて来た私にはむしろ名誉の証です』と語り、一笑に付したのであります」


図30:正義公

m挿絵(By みてみん)


「私に冠せられた〝非情侯〟の名もまた、極めて不本意なものです。非情といえば言うまでもなく、先帝の名を(かた)って姉妹種族の私とカイムが相戦うことを強いた、中枢種族バラキエルにこそ向けられるべき形容です。しかしそのような仇名(あだな)を考えた種族は、よもや破壊されたカイムが私と融合して再生し、再会の喜びと共に彼女達への激しい怒りを以て戦っているとは、夢にも思わなかったことでしょう。ただし、私が彼女との戦闘において破壊を免れたのは、ひとえに統一力場障壁の効果と姉妹種族間の情愛のおかげです。従って新帝国の皆様からいただいた〝強健侯〟という命名もまた、有難いことながら過大評価かもしれません。しかし私は皆様の期待に応え、今後もその名に(あたい)する者となるべく、全力を尽くして任務を全うする所存です」


図31:強健侯

m挿絵(By みてみん)


「アドラメレクはその巨大惑星への適応と移住によって、〝怪物公〟と呼ばれました。しかしそもそも言うまでもなく、こうした異質性の認識とは相対的、つまりはお互い様のものであります。加えて今日では炭素・酸素系種族かどうかという基盤元素の相違よりも、個体群種族から種族融合体への発展の方が、構成物質の自由度や能力・特性において遙かに大きな変化をもたらし、従来の種族区分を変えてしまったことは、もはや全ての知的種族の科学的常識です。従ってかような命名こそ、他種族への無知と偏見を蘇らせて国内の種族間対立を煽動せんとする、正に怪物的にして忌まわしき政治的悪意の発露であり、断固排斥さるべき誹謗(ひぼう)の言辞というべきであります。なお現在、彼女の惑星ではその広大な容積と先進技術を活かし、多様な種族が快適に生活できる〝楽園〟区域、相互理解のため他種族の生活を学習・疑似体験し得る〝交流〟区域、さらには互いの長所を損なうことなく活かしあう新産業育成のための〝協働〟区域が建設され、ここを訪れる他種族の指導者や観光客を魅了・啓発することで〝美麗公〟の名声を一段と高めつつあることを、ここに付言するものです」


図32:美麗公

m挿絵(By みてみん)


「バールゼブルの〝地獄王〟、ベールの〝辺境王〟という異称については、いささか複雑な事情があることを認めざるを得ません。なぜならこれらの二つ名を、彼女達自身が愛称あるいは尊称の如く、好んで使用する場合があるからです。しかし彼女達が親しくその名を用いる時、私達は非人道的な超新星兵器が可住宙域を破壊してこの世の地獄と化す事実や、旧帝国では銀河系外周星域の文明開発に消極的であった歴史も想起すべきです。またこれら二つの星域では、大戦による超新星爆発の影響や武器の遺留、治安の悪化などの危険が今なお存在し、盗掘者、逃亡犯や興味本位の侵入者が自己または周囲に危害を及ぼす事態を防止すべき必要性があることにも、留意すべきです。ゆえにそうした状況が克服された暁には、彼女達に対し、旧皇帝領を戦前以上に復興させた〝再建王〟、永きに渡る星域間の格差と対立を解消した〝偉大王〟以外の呼称はあり得なくなることでしょう」


図33:再建王と偉大王

m挿絵(By みてみん)

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