第27話 オッサンの黒歴史
街の中に入った後、馬車に揺られギルドに向かう中、トラブル体質の話題にされる俺氏。
アリア様がふとニーナの言葉を気にしたのか、少し身を乗り出して尋ねた。
「ニーナさん、先ほどジェスロ様はトラブルに巻き込まれる体質だと仰っていましたけれど、本当なのですか?」
まだその話続くのか・・・
俺は心の中でつぶやいたが、ニーナは嬉々として前のめりになりアリア様とベルナさんに、俺の黒歴史としか言えないような話を語り始める。
頼むからやめてくれ!と言いたいのだけどさ、残念ながらオッサンには女子の話に割って入るほどの気概はないんだよね・・・
「ええ、聞いてください!先輩は本当に災難に見舞われることが多いんです!」
俺はげんなりしながら窓の外に視線を向けたが、ニーナは気にせず熱弁を続ける。
こいつこんなに熱いやつだったか?
「この前、受付のハーニャさんがある冒険者の応対をしていた時のことなんですけど、その人がアイテムの鑑定を頼んできたんですよ。でも、そちらの冴えないオッサンって言いかけてから言い直して、唯一の男性窓口に並ぶように言ったんです。酷くないですか?」
——まぁ、確かにオッサンだけどよ。わざわざ言い直されると余計に響くんだよな。
「でもそんなことは大したことじゃなく、いつも通り鑑定待ちの列はひどく混雑していて、その冒険者の方がイライラして『そこの鑑定士!もっと早くしろよ!早く終わらせてハーニャさんを口説かなきゃなんだぞ!』って怒鳴ったんです」
知らんがな・・・俺の仕事を急かす理由がハーニャを口説くためってどういうことだ。
「先輩は冷静に『順番に鑑定しますので、もう少々お待ちください』と対応しただけなのに、なぜかその冒険者の方がさらにヒートアップして、『お前の態度が気に入らない!』って受付カウンターを蹴ったんです。その振動で鑑定中の物が飛び散って——」
ああ、あの時は確かに酷かったな。俺はニーナがあることないこと言うんじゃないかと気が気じゃないが、いざとなったら口を塞がないとな。
「あの時、先輩は取っ組み合いになった喧嘩に巻き込まれて、最後は殴られましたよね!」
「そりゃ殴られたけどさ・・・鑑定中の奴も気が短いやつだったな。一気に顔を真っ赤にし、糞がーとか叫びながら飛び蹴りを食らわせていたもんな」
俺は肩をすくめる。
「でも何で避けなかったんですか?」
そうなんだよ。こいついつもトラブル時にさ、何故か俺を盾にしているとしか思えない位置にいるんだよな。
ニーナの質問に俺はわずかに目を細めて答える。
「あの時何で避けなかったのかって聞かれてもな、俺が避けていたらお前さんが殴られてたんだぞ」
「えっ?」
ニーナが思わずきょとんとする。
「お前、俺の後ろに隠れてたろ。オッサンが殴られるのはよくはないが、まあいい。だが、女のお前さんが殴られるのはなぁ・・・男としちゃあ見逃せないのよ」
俺がそう言うと、ニーナは少し口を開いたまま固まった。そして数秒の沈黙の後、じわじわと顔をしかめる。
「え、ちょっと待ってください!それはそれで納得できないんですけど!?何で先輩はそんなに当たり前みたいな顔して殴られてるんですか!」
俺は肩をすくめる。
「怪我は治っても、感じた痛みや痛みによる恐怖は消えないんだぞ。それに俺はヒールが使えるから、時間をかければ大概のことは直せるぞ」
ニーナは驚いたように目を丸くする。
「えっ!?先輩って回復魔法使えたんですか!?」
俺はふっと笑って答える。
「まぁな。ただ時間がかかるのもありあまり戦闘中に役に立たないからか、冒険者には人気ないんだけどな。と言うか、ギルド職員は入ってから3年以内に習得が推奨されてるだろ!金が無い初心者がたまに泣きついてくるんだよ。まあ、エール一杯でチョチョイとやっとくんだけどな。見たことなかったか?」
「私まだ2年目ですもん!それよりも、なんかいろいろと納得いかないんですけど・・・お金じゃないけど、お酒で治すのって・・・」
ニーナがぶつぶつ言う中、俺はふっとため息をついた。
「そういうことだ。俺が殴られるのが一番丸く収まるんだよ。俺もケガしなかったし
「丸く収まるって、そんな納得の仕方ありますか!?しかも先輩以外は全員治療院送りになりましたよ!」
俺は少し驚いた。
「そんなにだったのか?」
まあ、確かに派手な乱闘だったが、殴られた俺が治療院送りにならなかったのは、それなりに理由があるだろ?
「いえ、あの人たち2人とも本気で殴り合って、仲良く治療院に送られたじゃないですか!なんで先輩だけ怪我してないんですか!」
俺は肩をすくめる。
「流石に俺相手に手加減したからだろ?派手に吹き飛んでも大して怪我はしなかったぞ。ちょっとだけ痛かったかな」
「いやいやいや、あの人たち、先輩を殴ったあとに本気の殴り合いをしていたんですよ!?それにどう見ても手加減するタイプじゃないじゃないですか!それに手加減されてたら、吹き飛びませんって・・・」
「まぁ・・・確かにそうだったな。打ち所が良かったんじゃないか?うん。きっとそうだ!」
ニーナは呆れ顔でため息をついた。
「もう、なんなんですかその耐久力・・・はあ・・・もう先輩、いっそ引きこもったほうがいいですよ!先輩はトラブ引き寄せ体質なんですから!」
「いや、それは違うだろ!俺、店でお酒飲むのが好きなんだよ!酒はな、その日の仕事を頑張った自分へのご褒美なんだぞ!」
俺の叫びに、馬車の中には笑い混じりの空気が流れた——。
ベルナさんがかすかに笑みをこぼしたように見えたが、こいつ見た目だけは俺のどストライクなんだけどさ、口の悪ささえなければ女神に見えてくるんだよな。
そこから更に3人に、正確にはニーナの話にアリア様が食いつき、ベルナさんは僅かに口角を上げて頷く。
「それより先輩はこの前、唾を・・・」
「ニーナ!それは流石に・・・」
するとベルナさんは冷たい眼差しを俺に向けた。
「女子の話に割って入るとは、ジェスロ殿はよほど御大層な身分なのですわね?」
その時、馬車の小さな窓が少し開き、御者席にいる執事のセバスチャンことグラハム氏の低い声が聞こえてきた。
「ジェスロ様、お嬢様とベルナには逆らわぬことです」
その短い忠告に、俺は小さくため息をつくしかなかった。
そうこうしているうちに、馬車はギルド前へと辿り着いた。




