第22話 残された者たち
ジェスロが転移板で地上に行ってしまい、アリアはベルナと共にゴブリンキングの残した魔石やドロップ品を丁寧に回収していた。床には先ほどの激戦の跡が生々しく残っている。
本来傷がつくことがないはずの床が無残なほどぼろぼろになり、神殿は半壊していた。
ボスを倒した直後、アリアは自分の左手に光る玉が握られているのを感じた。能力玉だ。初心者ダンジョンでボスを倒すと一人につき一度だけ貰えるもの。
イレギュラーが起こり心配していたが、能力玉が出たことに安堵する。
ベルナの方を見ると、察した彼女も能力玉を掲げてみせた。
床にはボスモンスターであるゴブリンキングの巨大な魔石が転がっている。そしてその傍には、いくつかのドロップ品が落ちていた。一つは先ほどジェスロがあっさりと斬り伏せたゴブリンジェネラルのものだろう少しばかり無骨な剣。ジェスロが2本使っている剣と瓜二つだ。
なのでやはりキングのお付はジェネラルだったのだ。
そしてもう一つ、アリアの目を奪ったのは、自分だと完全に体を隠すことができるほどの巨大な刃を持つ両手剣だった。漆黒の刀身に禍々しい気配を感じる紋様が浮かび上がっている。まるで魔力を宿しているようだ。
おまけのように細身のエストックに似た様な剣も落ちていた。(レイピア)
アリアは武器に対して詳しくない。
目下勉強中だが、まだレイピアとエストックの違いを分かっていない。
分かるのはメイスだけだ。
これはベルナに作る関係から学んだからだ。
「ベルナ、ジェスロ様のことをどう思う?」
アリアはさりげない様子でベルナに問いかけた。彼女の心の中では、ジェスロの圧倒的な強さ、そしてあの不思議な行動の数々が渦巻いていた。彼の正体は一体何なのか?そして、自分をあの絶望的な運命から救い出してくれる救世主となるのだろうか?
ベルナは一瞬きょとんとした後、顔を赤くしてあたふたと話し始めた。
「えっ!ジェ、ジェスロ殿のことですか!?あ、あの・・・その・・・確かに、あのような、えっと、その・・・男らしい、というか・・・」
普段からアリアに見せる冷静さの欠片も見せず、視線を泳がせ言葉に詰まっている。
アリアはベルナの様子を面白そうに眺めた。
「ふふ。ベルナも、ジェスロ様に惚れたのですか?」
少しからかうように尋ねると、ベルナは顔を真っ赤にした。
「あ、アリア様ほどでは・・・!」
言いかけた途端、ハッとしたように口を噤み、アワアワと狼狽え始めた。
「あ、あ、あの・・・そ、そんなつもりでは・・・!」
その様子を見てアリアは少し悪い笑みを浮かべた。言葉遣いも普段と違い、素が出ている。
「あらあら、図星だったのね」
不敵な笑みを浮かべ、さらに追い打ちをかけた。
ベルナは分かりやすくますます顔を赤くしながら、慌てて話題を変えようとした。
「そ、それで!アリア様!あの能力玉のことですが!ジェスロ様が落下したあの時、何かが砕ける音がして・・・!そのような現象、聞いたこともありません!一体どういうことなのでしょうか!?」
明らかに無理やりな口調で言った。
アリアはベルナの分かりやすい誤魔化しに内心笑いつつも、能力玉に視線を移した。
「そうね、本当に不思議だわ。ジェスロ様のあの強さ・・・もしかしたら本当に、私の救世主様になってくれるかもしれない。きっと彼とならあの忌まわしい運命を打ち破れる気がするの。でもねベルナ。貴女にはちゃんと恋をして、好きな人と結婚して欲しいの。そしていつか、その素敵な惚気話を聞かせてちょうだい。」
ベルナは、アリアの優しい言葉に少し照れたように微笑んだ。
「アリア様・・・ありがとうございます。私にいつかそんな日が来れば喜んでお話します。そもそもちょろそうに見えて、あのジェスロ様には体を差し出しての引き込みはうまくはいかないでしょう」
落ち着いたのか冷静に分析してみせた。
「そうですわね。あの光はジェスロ様の能力玉が砕けたものでしょう。落下の衝撃で砕けたか、握りつぶしたのでしょう。意図したことかそうでないのかは分かりませんが、ジェスロ様が得た能力はなんだと思いますか?私たちが得た能力玉はジェスロ様が先に行かれたので未鑑定ですし、さすがにあの状況で得たのですから、期待してもよいですわよね?」
アリアが自分に言い聞かせるようにベルナに話したその時「誰だ!」とベルナが転移ゲートの方を向いて叫んだ。
その視線の先には一つの魔石が床を転げており、何で?と首を傾げた。
確かに何かの気配がしたと思ったのだが・・・戦闘の疲れ?偶々バランスが崩れ、魔石が転がり始めたのかしら?ベルナは首を傾げた。
二人はそれぞれの想いを胸に、能力玉を収納カバンにしまうと残りのドロップ品と魔石を回収し、ダンジョンから脱出すべく転移版へと向かった。
100を超えるゴブリンナイトの魔石や、ちょっとしたドロップ品を見ると、よく生き残れたものだと冷や汗が背中を伝う。
しかし、ジェスロという謎の男の存在が、自分たちの未来に一筋の光を照らしているように感じられ、彼が私にとっての白馬の王子様なのかしらとアリアは胸に手を当てた。
それを見ていたベルナは、やはりお嬢様は惚れてしまったのだと、胸が苦しくなった・・・




