第20話 キング戦(ベルナ視点)
ゴブリンナイト。彼は、あの小型の群をジュニアなどとよく分からぬことを言っていたが、あの100体ほどはいるであろう群に、何の躊躇もなく突っ込んでいくとは!・・・普段のジェスロ殿は温厚で争い事を好まない、無害な非戦闘系の所作をしている。それが、まさかこれほどまでに熱い、戦闘狂の気質を隠し持っていたとは。
あの群れを見た瞬間、私なんかは恐怖で思わず後ずさってしまったのに、彼の目は生き生きとしており、明らかに喜びに満ちていた。よくもあれほど好戦的な本性を隠し仰せていたものだ。やはり、只者ではないというのが、そのような普段とのギャップからも窺える。
(婚約者・・・断じて、リスティア公国の変態にアリア様を嫁がせるわけにはいかぬ!)
あの婚約を回避するための条件は、攻略不可と言われるダンジョンを攻略すること。
それに必要なのは、この初心者ダンジョンで上級のギフトか、何でも良いから加護を得ること。あるいはアリア様の守護者としてSランクの冒険者相当の力を得るかだ。しかも無理難題を告げてきた。先月時点で既知の加護持ちの入国を拒否するというのだ。勿論加護持ちが国を超えるのは政治的に根回しをしないと、戦争をするのかと捉えかねない。
今回のジェスロ殿との同行で、冒険者として活動する許可は得ている。表向きは私とアリア様の二人という形になっているが、やはり【あの方】はアリア様に甘いのだな。
ギルドの職員として、初心者ダンジョンの監督官として同行しているとばかり思っていたが、やはり【あの方】が手配した凄腕の剣士なのだ。間違いない。あの身のこなし、常人離れした速度、そして先ほどから繰り出される目に見えない斬撃。のらりくらりとしているのは、正体を悟られないようにしているからだろう。
辺境伯の懐刀か?いや、しかし、彼は20代前半のはず。あの落ち着き払った態度からは想像もできないが、アリア様がおっしゃっていた。辺境伯が変装しているにしては、いささか若すぎる。年齢が合わない。では、一体誰がこのような逸材を秘匿していたというのか!
是非ともこのジェスロ殿をお嬢様の守護者にしなければ!なんなら、婚約者に!これほどの剛の者ならば、例え平民の出であったとしても・・・いや、やはり、私の体を差し出してでも繋ぎ止める価値がある。
だが、あの様子を見る限り、彼はそのような安易な接近を好まないだろう。むしろ警戒され、逃げられてしまうかもしれない。困った。男女の色恋というものは、本当に分からない。
そんな私の思惑など露知らず、ジェスロ殿はA級のゴブリンキングと互角に渡り合っている。そもそも、先ほどB級のゴブリンジェネラルを、まるで雑魚を払うかのようにあっさりと斬り伏せたのは、一体どういうことなのだ?彼は剣の力だと誤魔化しているが、私が治療を受けた時に握られた手の感触は、かの剣聖様のそれよりもずっとゴツゴツとしていた。手のひらに刻まれた物凄い剣タコが、彼の途方もない鍛錬の度合いを物語っている。
ジェスロ殿は目の前のゴブリンナイトの群れを「ジュニア」と呼んでいたが、あれほどの数を相手にするのは容易ではない。ゴブリンナイトを小型のゴブリン以下と豪語するが、確かに彼の実力からしたら、ナイトなんて子供に見えるのだろう。
本来ここのボスはゴブリンファイターか、稀にゴブリンナイトが出ると聞いているがなんでキングなのだ!お嬢様と私だけならそもそもこの部屋にすら辿り着いていなかったであろう。
ジェスロ殿はジェネラルを難なく倒しているのだから、ゴブリンキングと互角、いやそれ以上に渡り合えると信じるしかない。
私もアリア様を守りながら、このナイトの群れをなんとかしなければ。ジェスロ殿の脚を引っ張るわけには行かない。幸いなことにお嬢様からの援護はかなりの戦力だ。武具創造のギフトで作られた無数のナイフが、アリア様の【スロート】というスキルによって意思を持つかのように宙を舞い、正確にゴブリンナイトの喉元を射抜いていく。その光景はまるで精霊が舞っているかのようだ。この援護があればジェスロ殿がジェネラルとキングを倒すのを待つことができそうだ。
見た目は本当にどこにでもいる冴えない中年男性、世間一般でいうところの「オッサン」そのものだが、物腰はお祖父様ほど柔らかい。取ってつけたようなため口で、必死にその出自を隠そうとしているが、やはりどこかの有力な家に仕えているのだろう。あの只者ではない剣技は、並大抵の鍛錬で身につくものではない。
ジェスロ殿どうかご無事で。そして、願わくば、このベルナのことも少しは気にかけてくださると・・・無理ね。私は彼から距離を置かれているようだ。最初にかなりきつく当たったからか?勘違いから殴ったから?どうやら嫌われたようだ。
やはり彼が好きなこの胸を最大限餌にするしかないのだろうか・・・




