第14話 武器創造
ドロップ品を探しに行っていたアリア様は、左右の手に一本ずつ角を握りしめながら戻って来た。
小柄な彼女が持つせいか、戦いの中で見たときよりも角が大きく見えた。
「・・・ホーンラビットの角ですわ。ジェスロ様、あのう・・・」
最初の言葉は少し小さくて聞き取りづらかったが、どうやらホーンラビットが角をドロップしたらしい。普段鑑定する武具の素材よりも、心なしか大きいような気がする。先ほどの激しい戦いを終え、ようやく落ち着きを取り戻したアリア様は、少し頬を赤らめながらも先を続ける。
「先ほどは大変失礼いたしました。もう落ち着きました」
濡れてしまった白い衣類が、彼女の繊細なボディーラインをあらわにし、アリア様はそれを意識してか、無意識にか胸元を隠すかのように腕を組んだ。
「その・・・ドロップ品なのですが、ジェスロ様が倒された2体のものですので・・・後ほどきちんと代金をお支払いいたしますから、今回わたくしに使わせていただくことは可能でしょうか?」
うるうるした目で俺の目を見ながら遠慮がちに続けた。
「お金の話はこのダンジョンを出てからにしましょう。生き残るための最善を考えればよいのですから使ってください」
俺はアリア様の申し出を快諾するも、ハッとなり続ける。
「使いたいというのは、武具創造でしょうか?もしそうならば、戦力が上がると言うことは生存率も上がるということです。これからも遠慮なくどんどんやってください」
アリア様はベルナさんのメイスを2本、こちらに差し出してきた。
1本は大きなヒビが中央あたりに入っており、先ほどのホーンラビットの角を受け止めた時の衝撃がまざまざと伝わってくる。またもう1本は無惨な状態で、角の形状に合わせてグニャリと変形していた。
なるほど!この痛々しい状態になったメイスを武具の素材にするんだな。そんな話を聞いたことがある。モンスターの素材を使うことでより強固になったり、特殊な能力を持った武器の創造が可能になるとか。
「・・・ホーンラビットが落とした魔石も一緒に使ってもよろしいでしょうか?」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、アリア様はドロップした魔石について小さな声で尋ねてきた。
「ええ、もちろん構いませんよ」
視線を感じてベルナさんを見たが、こちらを見る目が先程までの氷のように冷たいものから、幾分か和らいでいる気がする。
気のせいか?いや、気のせいじゃない。少しだけ、本当に少しだけだが、口元が緩んでいるように見える。
ベルナさんはこれまでのところ凛とした表情が多いが、笑うと年相応の可愛らしさが出るんだな。
「ジェスロ様、お嬢様をお助け頂き本当にありがとうございます」
ベルナさんは深々と頭を下げ、改めて俺にお礼を述べた。
「気にしないでください」
俺かそう答えると、早速ドロップ品を使った武具創造に取り掛かるようだ。
「念のため周りの様子を見ておきます」
一言言うと背を向け、少し離れた場所へと移動した。
生活魔法で灯したライトの明かりだけでは、薄暗いダンジョンの中にいると色がはっきり分からない。
しかしアリア様が持っているホーンラビットの角は、心なしか黄金色に輝いているように見えなくもない。
二度ほどアリア様の方からまばゆい光が溢れ出したが、それはまるで後光がさしていて、小柄なアリア様が神々しく輝いたかのようだった。
真剣な眼差しは一瞬大人顔に見えるほどで、少し見惚れてしまったのは内緒。
「できましたわ!」
そして光が収まると同時に先ほどまでの不安げな声とは打って変わった、嬉しそうな声が聞こえた。
そこに現れたのは黄金色に輝く、榊の枝ほどもある立派な2本のメイスだった。派手だなあ、と思わずにはいられない。
しかし、魔物の素材を使うとこんなにも光り輝く武器に仕上がるのかと、少し感心してしまった。
「・・・ホーンラビットの素材で作られたメイス・・・お二人に感謝し、大切に使わせていただきますわ」
アリア様は立ち上がると、ほんの少し体がふらついた。その小さな揺れを見逃さず、俺は咄嗟に彼女の腰に手を回して支えた。
「アリア様、これは魔力枯渇ですね。完全な枯渇には至っていないようですが、少し休んで魔力を回復しましょう」
「大丈夫です」
俺がそう言うと、アリア様は少し恥ずかしそうにしながら収納袋から小さな瓶を取り出した。それは淡い光を放つ魔力回復ポーションだ。
俺が頷くと彼女はそれを一気に飲み干した。
「もう大丈夫ですわ」
先ほどよりも幾分か明るい声で言ったが、俺は首を横に振る。
「それだけではまだ完全に回復しません。俺の魔力を少し分けます。そうすればかなり楽になると思います。では失礼します」
俺は一言断ってからアリア様の肩に触れ、そして流れで脇腹、最後に太ももへと軽く手を添え、その小さな手を取った。
俺がアリア様の体に触れた瞬間、ベルナさんが一瞬息を呑んだように見えたが、俺がしたのは魔力譲渡のための一時的なパスの構築だと理解したのだろう。
彼女は何も言わずにじっとこちらを見ている。俺の魔力は人より多いらしいが、それでも決して豊富ではないので節約したいところだが、一度魔力枯渇に近い状態にまでなると、完全に回復するまで動きに支障が出る。しかし、現状3人しかいないので、アリア様が動けるまで魔力を譲渡する選択しかなかった。




