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偽りの聖女、7歳からやり直します!~お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~  作者: みつまめ つぼみ
第3章 エルメーテ公爵家

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第7話 新しい我が家

 アンリ公爵令息がポニーでゆっくりと近づいてくる。


 その後ろには従者二名が棒を肩に担いで、シカをぶら下げていた。


 多分、アンリ公爵令息が背中の弓で仕留めたのだろう。


 近くまで来たアンリ公爵令息――アンリ兄様が、ポニーから降りてお父様に尋ねる。


「何かご用ですか父上」


「紹介しよう。今日から養女となるシトラスだ。

 聖教会に認定された聖女だよ。

 これから貴族教育を受けることになると思うが、お前の義妹となる。仲良くしてやりなさい」


 私はお父様に背中を押され、一歩前に出た。


 アンリ兄様は十歳にして、既に美術品のような端正な顔立ちが完成していた。


 無表情なのは相変わらず。その視線も――あれ? でも、なんか違う?


「……アンリだ。私のことはお前の好きに呼ぶといい」


 不愛想だな?! この人、子供の頃から不愛想なの?!


 私は必死に微笑みを取り繕って挨拶を返す。


「シトラスです。私のことも、お兄様のお好きにお呼びください。

 これから仲良くしてくださいね」


 アンリ兄様は私の愛想笑いをしばらく見つめたあと、フイッと視線をそらして屋敷の中に入ってしまった。


 ……うーん、対応間違えたかな?


 お父様が楽し気に笑みをこぼす。


「アンリの奴、照れているな? 珍しく緊張していた」


 お父様? とてもそうは見えないのですが?


 どう見ても素っ気ないし、表情にも変化なんてなかったけど?


 私が混乱していると、お父様が背後のお父さんに話しかける。


「ギーグ、お前がここに居るということは、仕官の話を受けてくれると思って構わないな?」


 この場合の仕官とは、エルメーテ公爵領の私兵として公爵家に仕えることを意味する。


 それはお父さんが嫌い、拒み続けた人生だ。


 だけどお父さんはしっかりとうなずいた。


「あんたが娘を粗末にするとは思わんが、娘をそばで守ってやりたい。

 そのためなら堅苦しい仕官だろうと引き受けてやるさ」


 お父様が小さくうなずき、グレゴリオ最高司祭と目配せした。


 グレゴリオ最高司祭が、人の好い微笑みを浮かべてみんなに告げる。


「立ち話で済ませられるものではありません。

 中で人払いをしてから、お話ししましょう」





****


 私たちは応接室に通され、それぞれがソファに腰を下ろした。


 お父さんにお母さん、お父様とグレゴリオ最高司祭、そして私。


 グレゴリオ最高司祭の語る話を、お父様は真剣な顔で聞いていた。


「……なるほどな。宰相が好き勝手に振舞った結果、聖玉が砕けるのか。

 充分にあり得る未来だろう。

 それを防ぐのが、シトラスの目的というわけだな?」


 私は静かにうなずいた。


「聖神様は『次はない』と私に言いました。

 これが最後の機会です。今度も失敗すれば、世界の滅びを止めることはできないでしょう。

 私に何ができるのか、今も分かりません。

 ですが、できることはやっていきたいと思っています」


 お父様が顎に指を置き、深く考え込んでいた。


「……反戦派の私が聖女であるシトラスの身柄を確保した。

 現状で宮廷での発言力は、私の方に分があると言っても過言ではあるまい。

 少なくとも一年後にバイトルス王国と開戦することにはならないはずだ。

 シトラスにはすまないと思うが、戦争を起こさないために『聖女の発言力』を私が勝手に使うことを赦してもらえるか?」


 私は小首をかしげて尋ねる。


「それは、どういう意味でしょうか?」


「たとえば私の方で、『君が戦争を起こすべきではないと告げた』と勝手に言うこともある、ということだ。

 その時は事後で口裏を合わせてもらうことになる。

 聖女の発言なら、あの陛下でも無碍(むげ)にはできない。

 君の本意ではないこともあるかもしれないが、国や民を守るため、協力してほしい」


 それなら、問題はないかなぁ。


 私は静かにうなずいた。


「構いません。他に何かありますか?」


「君は公爵家の養女となった。つまり公爵令嬢としての教育を受けてもらう。

 ここまでの所作を見てきて、苦労をすることにはならないだろう。

 だが社交界に出る必要はあると思う。君はそれに耐えられるかい?」


 私は暗い気分で首を横に振った。


「あんな世界に慣れることは、きっとできないと思います。

 人の悪意が渦巻く世界なんて、できることなら近寄りたくないです」


 お父様が小さくため息をついた。


「そうか、そうだな。ここまで見てきて、君は社交界に向いていないと判断する。

 だがそれでも、最低限の関わり合いは持っていかねばならない。

 君に関わる人間は、私が厳選しよう。

 前回の人生ほど、悪意にのまれることにはならないはずだ。

 誰かに社交場に誘われても、必ず私の許可を得てから参加してほしい。

 ――それと、社交場にはアンリを同伴させる。あいつが君を守るだろう」


 私は思わず目を見開いて声を上げる。


「お兄様ですか?! あのアンリ公爵令息が社交場で私を?! 無理ですよ?!」


「無理なわけがないさ。どうしたんだい?

 ――ああ、『前回の人生』で、アンリとうまくいかなかったのかい?」


 私はおずおずとうなずいた。


「敵意や殺意を込めた眼差しで睨まれた覚えがあります。

 それに冷血貴公子と呼ばれたお兄様が社交場で私を守るなんて、とても考えられません」


「冷血貴公子? アンリがかい? ……ふむ、あの子はどうやら、誤解をされやすいのかな。

 今のまま成長すれば、それも仕方ないのかもしれない。

 だが共に生活していれば、シトラスにもアンリのことを理解できるようになるはずだ。

 安心するといい」


「あはは……安心、ですか」


 『前回の人生』でアンリ公爵令息は、『殺意を込めて睨んでくる年上の男性』という印象しかない。


 そんな人に社交場で常に付き従われるなんて……余計に社交場が遠くなりそうだ。


 だけど、公爵令嬢が社交場に出ないわけにもいかないというのは、『前回』で思い知らされてる。


 社交を疎かにした結果が、貴族社会で孤立する結果になったのだから。


 私はそれ以上何も言えなくなり、乾いた笑いでその場をごまかしていた。





****


 結局、政界ではお父様とグレゴリオ最高司祭、そして彼らの派閥が矢面に立って戦ってくれることになった。


 私は『社交界を利用して聖女派閥を作るのが本当は望ましい』とは言われたけれど、『無理はしなくていいよ』とも言ってもらった。


 お父様が両手を打ち鳴らして告げる。


「共有しておくことはこれぐらいでいいだろう。

 あとのことは大人に任せておいて欲しい。

 君には一人、専属侍女をつける。何かあれば彼女に気兼ねなく言うと良い。

 今日のところは、この家に慣れるところから始めて欲しい」


 今は七歳の子供だけど、記憶だけなら十七歳だ。


 子供扱いされたのは不本意だけど、これ以上ここに居てもできることは……ないか。


「分かりました。ではあとはお任せします」


 お父様がうなずくと、一人の侍女を部屋の外から呼んだ。


「レイチェル・ワイズと申します。お見知りおきください」


 まだ若い、優しい印象の笑顔の女性だ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「さぁシトラス様、お部屋へご案内します」


 私は彼女に案内されるまま、応接室を辞去した。





****


 レイチェルに付き従いながら廊下を歩いていると、彼女が微笑んで私に告げる。


「今日から公爵家に引き取られたと伺いましたが、所作が平民のそれではありませんね。

 聖教会でも貴族の所作を教えているのでしょうか?」


 公爵家のような貴族の屋敷に居ると、意識しなくても『前回』で叩き込まれた振る舞いが出てしまう。


 それこそ文字通り、泣きながらエリゼオ公爵家の厳しい講師に躾けられた所作だ。


 体感時間でおよそ十年間、公爵令嬢をしていた記憶が私にはある。


 また農家の娘のふるまいを思い出せと言われても、逆に難しかった。


「あはは……そんなものだと思って頂ければ結構ですわ。

 そんなことより、この家の使用人や従者は表情が明るいですね。

 誰も彼も楽しそうに、誇りを持って仕事をしているのが分かります」


 私が苦し紛れに話題を変えてみると、レイチェルは嬉しそうに微笑んだ。


「旦那様は貴族としては珍しい高潔なお方。正しく働けば、それに見合った報酬も与えてくださいます。

 逆に不正に対してはとても厳しい方なので、不埒な輩はこの屋敷に長居できません。

 他人を陥れるような人間も、それとなく旦那様に報告が上がり、屋敷から追い出されます」


 要するに、働き甲斐があるということかな?


 不正といじめが蔓延してたエリゼオ公爵家とは、雲泥の差だ。


 私は肩から力が抜けていくのを感じて、小さく息をついた。


「公爵家と聞いて緊張していましたが、ここは過ごしやすい家のようですね。安心しました」


 ――そう、ここは新しい我が家。


 私は今日からこの家の一員となり、貴族社会で生きていくんだから!


 私が小さく胸の前でガッツポーズをとって意気込んでいると、レイチェルがクスリと笑みをこぼした。


 ――おっと、うっかり公爵令嬢らしくない所作がっ!


 私はあわてて姿勢を正し、すまし顔でレイチェルの背中を追いかけた。


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