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偽りの聖女、7歳からやり直します!~お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~  作者: みつまめ つぼみ
第5章 聖女認定の儀式編

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第27話 聖女の資格

 私はコッツィ司祭と一緒に、礼拝堂そばの診療所へ迷うことなく駆け込んだ。


 診察台には、腹部から血を流している男性が力なく横たわっている。


 そばにいる医師が、諦めたような表情でコッツィ司祭に告げる。


「腹部を深く刃物で刺されています。もう長くはもたないでしょう」


 この医師は薬の処方は得意だけれど、外傷を癒すことは苦手な人だ。


 そもそもこんな場所に、そんな高度な技術を持った人材なんて、来てくれるわけがない。


 コッツィ司祭が私に振り返り、すがるような目で見つめてきた。


 私はその視線を、微笑んで受け止める。


「任せてください――≪慈愛の癒し(セイント・ヒール)≫!」


 たちまち怪我人を白い光が包み込んでいく。


 やがて光が消えると、怪我人が穏やかな寝息を立てていた。


 慌てて医師が怪我人の状態を診察していく。


「怪我が……完全にふさがっている?! どういうことですか?!」


 コッツィ司祭が安心したように深いため息をつき、医師に答える。


「こちらは聖女シトラス様だ。偶然礼拝堂にいらしてたので、ここに来ていただいた。

 今のは聖女が使う癒しの奇跡。もうその患者は大丈夫だろう」


 医師は呆然と私を見つめていた。


 ああ、懐かしいなぁ。『十年前』にも、同じ視線を受けたっけ。


 私は微笑みでその視線を受け止めた。


「その方が助かってよかったですわ。

 この奇跡は一日に何度も使える力ではありません。

 ですが重症の方がいらしたら、いつでもご相談ください。

 今はエルメーテ公爵家の別邸に居ますわ」


 私たちは感謝を述べるコッツィ司祭や医師と別れ、その場を後にした。





****


 貧民区画から公爵邸へ戻る道で、不安げなレイチェルが私に告げる。


「お嬢様、あのようなことを申し出てよろしかったのですか?

 このような場所に何度も足を踏み入れるなど、お嬢様のためにはなりません」


 私はレイチェルに振り返って微笑む。


「私には人を癒す力があります。

 そして、あそこには癒しを待つ人がいる。

 ならば何を迷うことがあるのでしょうか」


 レイチェルは私の表情を見て、口を閉ざした。


 私に腕を抱えられているアンリ兄様が、小声で告げる。


「シトラスは、『前回の人生』でもああやって人々を救っていたのか?」


「ええ、そうですわよ?

 貴族社会から弾き出されていた私は、空いている時間をあそこで過ごしていましたわ。

 エリゼオ公爵家に居ても居心地が悪かったですし、私にとっては(いこ)いの場所でしたわね」


「だが、エリゼオ公爵領は王都から少し遠い。

 なのに王都にずっといたというのか?」


 私は苦笑を浮かべて答える。


「私は領地から追い出されるように、王都にある別邸の一室に押し込まれました。

 王都から出陣する軍に同行する日々でしたから。

 宰相が命じるままに戦地に向かい、戻ってきたら貧民の救済をする――そんな十年でしたわ」


 ――ああ、でもそんな中で、私にも唯一の友人ができたっけ。


 マリア……彼女は今、どこでどうしてるだろう。


 宰相派閥の彼女の家と、『今回の人生』で関わることは多分、ないだろう。


 彼女にも『花びらの奇跡』を見せるため、一緒に貧民区画に通ったことを思い出す。


 孤独な中で、唯一癒されるのがマリアとの関係だった。


 アンリ兄様が少し厳しい声で告げる。


「今回もそんな人生を送るつもりか」


 私はきょとんとしてアンリ兄様の顔を見上げる。


「どういう意味でして?

 今回は宰相の思い通りにはさせませんわよ?」


「あんなことをしては、『あの場所に運び込まれる怪我人を癒してくれ』と頼まれ続けるだろう。

 お前の時間が、民の救済で食いつぶされることになる。

 それで構わないというのか」


 私は小首をかしげて答える。


「目の前に救いを求める人がいる。

 私には彼らを救う力がある。

 ならば何を悩むことがあるのでしょうか。

 確かに、一日に何人もの命を救うことはできません。

 それでも救える命があれば、迷う必要はないと思いますわ」


 アンリ兄様が前を見ながらため息をついた。


「……そうか、やはりお前は聖女なのだな」


 どういう意味だろう?


「お兄様? おっしゃる意味が分かりません。

 私が聖女であることを、お兄様はご存じですよね?」


「お前は『聖女になるべくしてなったのだ』と、思い知っただけだ。

 この時代にお前以上に相応しい人間がいないというのも、納得できる」


 そうなの? 何がどうなったら、そんな考えになるんだろう?


 誰だって、困ってる人が目の前に居たら、手を差し伸べたくならない?


 私が眉をひそめてアンリ兄様を見上げていると、優しい微笑みが返ってきた。


「十七歳で処刑された記憶があるというのに、お前の心は七歳の少女のように無垢なままなのだな。

 だがそれでは今回も、お前が救済ですりつぶされてしまうだろう。

 私たちは、それを認めることはできない。

 父上に相談してみよう。

 あの場所に腕の良い軍医を派遣できれば、お前の負担を減らせるはずだ」


 認めることができない? どういうこと?


 聖女が人を救うのは、当たり前のことだよ?


 私は小首をかしげながら、公爵邸へ戻った。





****


 夕食の席で、アンリ兄様がお父様に今日の出来事を報告していた。


「――ですので、父上の伝手(つて)で軍医を派遣することはできませんか。

 このままではシトラスの生活に影響が出ます」


 お父様がしっかりとうなずいた。


「そういうことであれば、手配してみよう。

 これから公爵令嬢として生きるシトラスが、貧民区画に出入りするのも決して良いこととは言えない。

 ――シトラス、今後その場所に行きたければ、私の許可を得てからにしてほしい」


「ですがお父様! あの場所は王都で最も聖神様の力が強い場所ですわ!

 聖女が足を運ぶ場所として、間違った場所とは言えないはずです!」


 お父様が優しい微笑みで私に告げる。


「救えない民が出ることを恐れているのかい?

 だが軍医が充分な物資を得れば、今日のような傷を治療することは可能だ。

 その手配を含めて、私に任せて欲しい。

 決して足を運ぶなとは言わない。だが今後はなるべく控えるんだ」


 お父様の決定は変わらないみたいだ。


 私の(いこ)いの場、遠くなっちゃうな。


 私はがっくりと肩を落としながらうなずいた。


「わかりました……」


「そう落ち込むことはない。

 たとえば、『グレゴリオ最高司祭と共に慰安する』という名目でなら、言っても構わない。

 『建前を用意できれば良い』ということだよ。

 建前もなく貧民区画に通っていては、悪い噂の元になる。

 お前は公爵令嬢なのだということを、どうか忘れないで欲しい」


 そうか、公爵令嬢は貧民区画なんて、普通はいかないもんね。


 私も聞いたことがなかったし。


 『公爵令嬢として恥ずかしくない行動を取る』と決めたんだから、これは諦めないといけないことだ。


「はい、分かりました」


 お父様が微笑んでうなずいた。


「分かってくれて嬉しいよ。

 五日後の儀式まで、大きな騒ぎは起こさないで欲しい。

 明日はおとなしく、家の中に居なさい」


 私はうなずいて、夕食を口に運び始めた。





****


 翌日は退屈な一日を部屋の中で過ごした。


 童話も刺繍道具もないので、ひたすら聖神様への祈りを捧げた。



 三日目の午前、侍女が部屋にやってきて私に告げる。


「グレゴリオ最高司祭様がいらっしゃいました。お嬢様にお会いしたいそうです」


「グレゴリオ最高司祭が?」


 なんだろう? 儀式の前で忙しいはずなのに、何の用かな?


 私はいそいそとソファから立ち上がり、応接室へと向かった。


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