表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの聖女、7歳からやり直します!~お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~  作者: みつまめ つぼみ
第5章 聖女認定の儀式編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/30

第25話 いざ王都へ!

 私のお披露目は、貴族たちの間で大評判だったらしい。


 社交場に出かけたお母様は、帰ってくるといつも上機嫌に話をしてくれた。


 どうやら私の所作や教養、あの日の対応は、この領地の貴族たちを納得させられたようだ。


 途中で倒れてしまったことで、私には『体が弱い公爵令嬢』というレッテルまで張られていた。


 町での騒動も、そんな私が『わが身を顧みず罪人に体当たりをした』という美談になってるそうだ。


 そして私はあの日以来、お父さんに稽古(けいこ)を付けてもらうことをやめた。


 エルメーテ公爵家の令嬢として、恥ずかしくない行動を取りたかったからだ。


 お父さんは寂しがったけど、お父様は胸をなでおろしていた。



 あの日からしばらく、お父様はソロカイテ伯爵の後始末に奔走していた。


 王都の用事は信頼できる部下に一任しているらしい。


 そんな部下から一通の手紙が届き、お父様がため息をついた。


「お父様? どうなさったの?」


「――シトラス。お前のお披露目の日が決まった」


 領内のお披露目は済んだばかりだ。


 となると、この場合のお披露目ということは――。


「では、『聖女認定の儀式』の日程が決まったということですわね」


 聖女が聖教会に認定されたあと、聖教会と王家が聖女を国内に布告する。


 そのためのイベントが『聖女認定の儀式』だ。


 貴族だけではなく、王都市民も大勢参加する、大掛かりな催し物になる。


 この儀式をすますことで、私は正式に国内に『聖女』として認めてもらうことになる。


「一週間後、王都で儀式を行うそうだ。

 前回の記憶があるお前に、儀式の説明は不要だね」


 私は静かにうなずいた。


 観衆の前で聖教会が用意した『聖水』を飲んでみせるだけ。


 聖女が『聖水』を飲むと、空から聖神様の祝福が降ってくる。


 『前回の人生』では花びらが降ってきていた。


 そんな小さな奇跡で、『私が聖女である』と広く知らしめる。


 お父様がうなずいた。


「王都の貴族が大勢参加することになるし、なにより陛下たちがお前の近くに来る。

 こればかりは避けようがないが、耐えられるかい?」


 私は静かに首を横に振った。


「……わかりません。ですが、なんとか耐えて見せますわ」


 国王たちと前回会ったとき、彼らの何気ない一言で気絶してしまった。


 今回も同じようなことにならない保証はない。


 儀式の最中に気絶してしまえば、聖女としては認めてもらえないだろう。


 ここで失敗するわけにはいかない。


 私の表情を見ながら、お父様がうなずいた。


「明後日から王都に出発しよう。

 王都でグレゴリオ最高司祭と打ち合わせを行い、極力シトラスの負担にならないよう段取りを詰める。

 だがあの陛下のことだ。婚約を思うとおりに進められなかったことで、お前に報復を考えるかもしれない。

 くれぐれも注意するんだよ」


「報復ですか? 私に何をしてくるというのですか?」


「それはまだわからない。

 だが部下に命じて、宰相や陛下たちの動きは見張っている。

 おかしな動きをすれば、必ず目に付くはずだ。

 事前に動きを察知できれば、対策を練ることもできるだろう」


 今は、それにすがるしかないか。


「わかりました。それでお願いします」


 私は深々とお父様に頭を下げた。


 今度は私が打ち負かされた、宮廷に巣食う亡者たちが相手だ。


 お父様の力を頼るしかない。


 不安を胸に押し隠しながら、私は部屋に戻っていった。





****


 王都に出発する朝、私は聖女の法衣で身を包んでいた。


 今から着ていく必要はないのだけれど、聖神様の加護を受けているという実感が欲しかった。


 あ~やっぱりこの法衣、落ち着くなぁ。


 私はしみじみとしながら、法衣の感触を確かめていた。


 そんな私を見て、レイチェルが笑みをこぼした。


「お嬢様、そんなに法衣がお好きだったのですか?」


「好きというより、気持ちがしゃんとするというか。

 『これから何かをするぞ!』という気にさせてくれる服ですわね」


 多分、兵士にとっての鎧のようなものだと思う。


 十年間、一緒に戦地を走り回った相棒のような服だし。



 騎士を含む私兵団に囲まれた馬車に、私たちが乗り込むと、すぐに馬車は出発した。


 車内にはお父さんとお母さんの姿もある。


 私たちは(なご)やかな雰囲気で王都に向かった。





****


「シトラス、顔色が悪いが大丈夫か」


 お父さんの声が聞こえる。


「大丈夫、大丈夫だよ、お父さん」


 王都が近づくにつれて、私の気分はどんどん悪くなっていった。


 窓の外から城壁が見える頃になると、体調は最悪になっていた。


 ――王都は、処刑の日を嫌でも思い出してしまう。


 悪夢で見るような、悪意を向けてくる民衆や国王たちの冷たい眼差し。


 そんなものが間近に迫っているのだと実感してしまい、私は震える手を止めることができなかった。


 そんな私の手に、お母さんが手を重ねてきた。


「大丈夫よシトラス。私たちがそばにいるわ。

 怖いことなんて何もないの。

 あなたを怖い目に合わせる人なんて、お父さんとお母さんが追い払ってあげる。

 だから安心して」


「お母さん……」


 その手のぬくもりが伝わってくると、私の手の震えも少しずつ収まっていった。


 前回の人生では死別してしまった両親の温もり、それがそばにある。


 それだけで心を強く持てるような気がした。


 お母さんの手の上から、お父さんやお父様、お母様にアンリ兄様が手を重ねてくる。


 お父様が私に優しく告げる。


「私たちだって付いている。お前は聖女、それは間違いがない。

 聖神様が必ずお前を守ってくれるだろう。

 油断をしてはいけないが、そんなに怯える必要もない。

 いつものシトラスであれば、かならず儀式を無事に終えられるはずだ」


「――そうですわね。私には聖神様の加護がついてますものね。

 聖女歴なら十年あります! 怖がる必要なんて、ありませんわね」


 今度は素直な言葉が口から出ていた。


 これだけの人たちがそばにいてくれる。


 そう実感できただけで、私の心には力がみなぎっていた。


 私の微笑みで、みんなの顔にも微笑みが乗る。


 今度はみんなが手を放しても、私の手が震えることはなかった。


 お父様が小さく息をついた。


「その様子なら、もう大丈夫そうだな。

 だが王都の中では、必ずギーグと共に行動してほしい。

 ここから先は気を引き締めていくぞ」


 私は微笑みを浮かべたままうなずいた。


 馬車が城壁の門をくぐりぬけ、王都の公爵家別邸に向かう。


 これからの数日間、私たちはそこで過ごすことになる。





****


 王都の公爵家別邸は、きちんと整えられていた。


 ……そりゃそうか。お父様が王都にいる間、ここで生活してるんだし。


 住み込みの従者や使用人もいるはずだ。


 お父様が私に告げる。


「シトラス、まだ少し顔色が悪いよ。お前は部屋で休んでいなさい」


「はい、わかりましたお父様」


 レイチェルに連れられて、私は自分に割り当てられた部屋に入る。


 公爵邸の部屋には見劣りがするけど、リビングとベッドルームが連なった立派な部屋だ。


「お嬢様、法衣をお召し替えにはならないのですか?」


「私は儀式が終わるまで、この法衣に身を包んでいたいのです。

 ……公爵令嬢がそれでは、だめかしら?」


「いいえ、お嬢様がそうお望みなら構いません。

 聖教会からは、替えの法衣も届いております。

 毎日お召し替えいただけるなら、問題ありません」


 やった! 許可が出た!


 旅の疲れを感じた私はソファに腰を下ろし、クッションを抱えて横に倒れこんだ。





****


 シュミット宰相が部屋で書類仕事を片付けていた。


 いかつい顔をした、神経質そうな壮年の男性だ。その目の奥にはギラギラと欲望が渦巻いていて、ただ物ではない気迫を感じさせる。


 彼の執務室に、一人の男が姿を見せた。


「よろしいかな? シュミット宰相」


 執務机の書類から目を上げたシュミット宰相が、不愛想に男に答える。


「何の用だ、フェルモ伯爵」


「『聖女が王都入りをした』と、部下から報告があった。

 今はエルメーテ公爵家の別邸にいるようだ。

 気づかれないように部下は配置しているが、やはりガードが堅いな」


 シュミット宰相が鼻を鳴らして答える。


「まぁ予想通りだ。直接手を出す機会は、おそらくないだろう。

 だが狙えるときは狙え。機会を逃すな」


 男――フェルモ伯爵が楽しげにうなずいて部屋から出ていった。


 シュミット宰相が一息つき、ペンを置いて窓の外を見る。


「聖女か……わが手にあれば、盤石だったものを」


 だがエルメーテ公爵の手にあるなら、握りつぶすまで。


 もたもたしている暇はない。一年後の開戦を予定して、準備を進めている。


 遅れるほど損害が大きくなる以上、邪魔者は排除するに限る。


 聖女がいないエルメーテ公爵なら、シュミット宰相の相手ではない。


 時間はかかるが、一年後のバイトルス王国攻略戦にはこぎつけられる。


 シュミット宰相が指にはめた蒼玉の指輪を見て口の端を上げた。


 バイトルス王国産出の蒼玉、その利権。それがもうすぐ自分のものになる。


 宝石の利権は莫大だ。金が金を呼び、さらなる富が約束される。


「あんな小国にはもったいないというものだろう?」


 誰もいない部屋でつぶやかれた邪悪なつぶやきは、静かに壁に消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ