表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの聖女、7歳からやり直します!~お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~  作者: みつまめ つぼみ
第4章 公爵家のおてんば姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

第20話 公爵家のお膝元

「――そして、三日前にこの家に引き取られました。

 以上が私の身に起こったことですわ」


 お母様とアンリ兄様は、ただ呆然と私を見つめていた。


 全てを信じろって方が難しいのは、自分でもわかってる。


 立場が逆なら、私だって信じられなかったと思うし。


 私は微笑みを浮かべながら告げる。


「信じて欲しいとは言いません。

 ですが、宰相派閥の貴族にはくれぐれもご注意ください。

 特にエリゼオ公爵やフェルモ伯爵は、宰相側でも厄介な相手です。

 私がこの家に引き取られたので、お父様が戦地に送られる危険はかなり減ったと思います。

 ですが、暗殺行為は常に横行しておりました。

 外出するときは、それを前提に動いてください」


 お母様が戸惑いつつも、しっかりとした目で私を見つめた。


「……いいえ、あなたの言葉ですもの。私は信じます。

 そう、あなたは処刑されたときの記憶が残っているのね。

 だからあれほど陛下たちに拒絶反応を示した……納得できる理由よ。

 でもね――」


 お母様の腕が、優しく私の頭を包み込んできた。


「決して一人で戦おうとはしないで頂戴。

 もっと周りの大人を頼ってもいいのよ?

 あなたを引き取ったことで、ヴァレンティーノの発言力はあなたの記憶よりもずっと強いものになってる。

 そう簡単に宰相に屈することにはならないわ。

 それに、途中で暗殺されてしまったグレゴリオ最高司祭も、このことを知っているなら事前に暗殺を阻止できるはず。

 焦る必要もないの。周りにいる私たちが、必ずあなたの負担を軽減してあげる。

 だから今は、その傷ついた心を癒すことに全力を傾けて欲しいの」


 ヴァレンティーノ……ああ、お父様のファーストネームか。


 『稀代の聖女』の養父なら、宰相と互角の戦いができるようなことを、お父様も言ってたな。


 膝に置いた私の手に、アンリ兄様の手が置かれた。


「話してくれてありがとう。

 そして、母上の言うとおりだ。シトラスが焦っても、すぐに何かをできるわけじゃない。

 苦しいかもしれないが、今はまだ耐える時だ。

 時期が来れば、父上が必ず動く。それまで、大人しく静養してほしい」


 静養か……でも、何をしても気が休まらないんだよね。


 そんな私は、どうやって静養したらいいんだろう。


 私が曖昧(あいまい)に微笑んでいると、お母様が不意に告げてくる。


「そうだ、シトラスはまだこの領地のことをよく知らないでしょう?

 午後からアンリと一緒に、アウレリオの町に行ってきなさい。

 それで少し気晴らしをするといいわ」


 町を見るのか。


 この領地は平和そうな空気を感じるけど、私が十年間見てきた町というものは、悲惨な光景ばかりが広がっていた。


 『ここはそうじゃない』と、頭では理解してる。


 でも『またあの光景を目にするんじゃないか』と思うと、足がすくむ思いだった。


 お母様が柔らかい微笑みで告げる。


「そんなに怖がらないで。

 あなたが救うべき人たちの、本来の姿をあの町で思い出して欲しいの」


 本来の姿……町の人たちの『本来の姿』って、どんなものだろう。


 確かに、私はそれを知らなかった。


 私はおずおずとうなずいた。


「わかりました。ではそうします。

 ――お兄様、よろしくお願いします」


 アンリ兄様が嬉しそうにうなずいた。


「ああ、案内なら任せて欲しい」


 アンリ兄様は私の手を一度強く握った後、お母様の部屋から出ていった。


 町かー。気晴らしになるといいな。





****


 昼食後、私たちは四頭立ての馬車に乗り込み、公爵邸近くにあるアウレリオの町に向かった。


 車外には騎兵たちの列。そして車内は私とアンリ兄様、そして――。


「ははは! シトラスと町に行くのは初めてだな!」


 そう、お父さんである。


 お母様が『一緒に連れて行きなさい』と、強く勧めてくれたからだ。


 なので護衛としてだけど、お父さんも同伴している。


 アンリ兄様は……なんだか不機嫌そうに口を曲げていた。


「お兄様、どうしたのですか? 午前中はあんなに楽しみにしてらしたのに」


「何でもない……護衛が必要なのも、理解している」


 何でもないなら、なんでふてくされてるのさ……。


 男の子の心理は、理解するのが難しそうだなぁ。


 私が小首をかしげていると、お父さんが楽しそうにアンリ兄様の肩を叩いた。


「ははは! そう簡単にシトラスと二人きりになれると思うなよ?!

 だが安心もしておけ! 護衛の仕事はお前たちを守ることだ!

 馬車を降りれば、私は後ろで大人しくしているからな!」


「ねぇお父さん、どうしてお兄様と二人きりになってはいけないの?

 私たちは兄妹なんだよ? 貴族でも、兄妹なら男女が二人きりでも問題にされないはずだよ」


 護衛なら、馬車の外を並走する騎兵たちのように、馬に乗ってもよかったはずだ。


 まぁ私はお父さんが一緒に乗ってくれて嬉しかったんだけど。


 お父さんが楽しそうな笑みを私に向けた。


「ん~? その鈍いところは母さん譲りか?

 今のアンリ公爵令息とお前を、二人きりになどさせられるものか。

 間違いがあってからでは遅いからな!」


 間違いって……七歳の私がなにをどう『間違われる』っていうの……。


「お父さん、心配し過ぎだよ。

 それじゃあまるで『お兄様が私を襲いかねない』って言ってるみたいだよ?

 私たちは兄妹で、子供で、なにより会って三日目だよ?

 そんなことがあるわけないじゃない」


 しかも相手は『冷血貴公子』のアンリ公爵令息だし。まったくイメージできない。


 私はアンリ兄様に微笑みながら告げる。


「ね! そうだよね、お兄様!」


 アンリ兄様は、どこか気まずそうに曖昧(あいまい)な微笑みを返してきた。


「あ、ああ……そうだな。ギーグの考えすぎだ」


 私はお父さんに向かって得意げに胸を張った。


「ほら! お兄様もこう言ってるし!

 第一、私に『その手』の心配はいらないよ。

 十七歳で死ぬまで、一度も男性からアプローチされたことがなかったんだから」


 自分で言っておいて、少しむなしい。


 改めて自分のドレスを見下ろして、小さくため息をついた。


 ドレスは綺麗だけど、こういうのは中身の問題だもんなぁ。


 私は自嘲の笑みを浮かべながらつぶやく。


「世界を無事に救えたとしても、公爵令嬢として嫁ぎ先を探さないと、か。

 そっちも大変そうだなぁ。相手なんて、どうやって見つけたらいいんだろう」


 お父さんの大きな声が車内に轟く。


「心配するな! お前は母さんに似て美人だからな!

 嫁ぎ先など、嫌になるほど見つかるだろう!」


 お父さん……それは『親の欲目』ってやつだよ……。


 実績として、『誰も言い寄ってこなかった事実』を私は知ってるんだし。


 でも――。


「ありがとう、お父さん!」


 私は満面の笑みでお父さんに答えた。


 ……なんで横で見ていたアンリ兄様が赤くなってるんだ?


 私、見ていて恥ずかしくなるようなことしちゃった?





****


 馬車がアウレリオの町に到着し、速度を緩めた。


 ゆっくりと走る馬車の中から、町を歩く人々の様子を眺めていく。


「思った通り、平和な領地ですわね。

 町の人の笑顔が明るい。

 ……そう、これが『普通の町の姿』なんですわね」


 私の知っている町の住人は、もっと陰鬱で殺伐とした、無気力な人たちだった。


 そんな人たちを少しでも救わなければと、毎日頑張っていたのが一か月前――『前回の人生』を送った私だ。


 だけどこの領地には、そんな人はいないように見えた。


 隣人を思いやり、自分たち以外にも愛を分け与えることを知る人たちが、目の前にいる。


 私が目指した平和な人々の暮らしが、ここにはあった。


 馬車が大通りの店の前で止まり、お父さんが先に降りていった。


 次にアンリ兄様が降りて、私に手を差し伸べてくれた。


「足元に気を付けて」


「はい、お兄様」


 アンリ兄様の手を取って、ゆっくりと馬車から降りる。


 頭上にある店の看板を見上げると、どうやら手芸店のようだ。


 店の様子を外から眺めていると、アンリ兄様が告げる。


「ここは母上がひいきにしてる店なんだ。

 刺繍を始めたなら、自分用の刺繍道具をそろえてもいいだろう。

 中で見繕ってもらうといい」


 私はアンリ兄様にうなずき、エスコートしてもらいながら店の中に入った。





****


 ドアを開けるとドアベルが来客を知らせた。


 カウンターの中から、赤い髪の女性がこちらに振り向いて告げる。


「いらっしゃいませ――あら、アンリ様じゃありませんか」


 店内にいたのは、背の高い三十歳くらいの女性だった。


 アンリ兄様が無表情で告げる。


「久しいな、モニカ。この子は今日、手芸を始めたばかりなんだ。

 初心者用の刺繍道具を見繕ってくれ」


 女性――モニカさんがカウンターから出てきて、私の顔をまじまじと見つめた。


「初めて見るご令嬢ですわね。もしかしてアンリ様の婚約者かしら」


 アンリ兄様が、どこか嬉しそうに答える。


「そうではない。先日、公爵家に引き取られた子で、私の妹となる」


 私はアンリ兄様から手を放し、すっと腰を落としてカーテシーで挨拶を告げる。


「エルメーテ公爵が息女、シトラス・ファム・エストレル・ミレウス・エルメーテです。

 お見知りおきください」


 モニカさんは驚いて目を丸くしていた。


「なんなの、その長い聖名は……それに公爵家の養女だなんて、どういうご事情なのかしら」


 私はニコリと微笑んで答える。


「聖教会から、聖女として認定を受けています。

 もう少しすれば、王都から正式に布告が出るでしょう。

 お母様がひいきとする店なら、私も利用することになると思います。

 よろしくお願いしますね」


 モニカさんは呆然としていたけど、慌てて私にカーテシーを返してきた。


「ダルサス男爵が妻、モニカ・レルム・ダルサスですわ。

 この手芸店の店長をしておりますの。

 こちらこそ、よろしくお見知りおきくださいませ、シトラス様」


 なんだか緊張してるみたいだけど、明るい微笑みでモニカさんは私に接客を開始した。


 子供用だけど本格的に刺繍道具一式を見繕い、袋に詰めて私に手渡してくる。


「ありがとう、大切に使いますわね」


 私たちはモニカさんに見送られながら、店を後にした。





****


 店の前で馬車に乗ろうとしたところで、嫌な気配を感じた。


 すぐそばからだ――視線を走らせた先で、一人の若い男性が目に留まった。


 彼が見ているのは、先を歩く老婦人。


 その若い男性が走り出した瞬間、私も手荷物を放り出して駆け出した。


「お父さん! 泥棒だよ!」


 馬車道を横断した先で、老婦人から手荷物をひったくった瞬間の男性に、私は肩から体当たりした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ