『選ばれなかった未来』
命を選ぶという行為は、残酷な物語の始まりにすぎない。
たった一つの「指先の選択」が、誰かの未来を切り落とす。
けれど、本当に怖いのは、
それを“人は受け入れてしまえる”という事実かもしれない。
この物語はフィクションだ。
だが、どこかで読者自身にも問いかけてくる。
「お前は、選ばない側でいられるのか?」
『セレクターズ』第2話──静かに、命が確定する。
部屋の中には音がなかった。
そこにあったのは、“白”の影と、冷たい足音だけ。
……少女の乾いた唇から、じわりと血が滲んでいた。
(……ゴクッ。)
喉が鳴った。音だけが、異様に大きく聞こえた。
少女の指先が、宙をさまよい──
未来画面の“最も救いのある死”に、触れた。
……それは、生き残る誰かを守るための“他人の死”。
彼女の中の何かが、そこで止まった。
震えた指先で、少女は画面を指差したまま動かない。
……いや、動かすことができなかった。
その背後から、柔らかく、包み込むような声がした。
「……選んだのは、誰なんだろうね?」
声は優しかった。
それなのに、顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
「名前を……口に出して言うんだ。それで、全部終わる」
真っ白な天使のような容姿。
少女のそばで、慈愛 のように微笑んでいる少年を、
煉は、じっと見つめていた。
(……何か、異質な色を感じた)
未来は、確定した。
選ばれなかった者の運命は、静かに処理される。
モニターに映るのは、倒れた少年。
顔ははっきりと映らない。
路地裏のコンクリートに、赤黒い液体が静かに滲む。
その“温度すらない死”が、ただの事務処理のように映された。
残された少女は、映像の中でも泣いていなかった。
ただ、立ち尽くしていた。
表情は読めない。まるで、何も感じていないようだった。
それが、なによりも“現実”だった。
僕は思う。
……人は、他人を切り捨てるときだけ、“正しい言葉”を探し始める。
綺麗ごととは、選ばれなかった者への言い訳にすぎない。
結局、誰だって守りたいのは“自分の大切なもの”だ。
それが家族であれ、恋人であれ、自分自身であれ……。
誰かを選ぶということは、
誰かを選ばないということだ。
それを“悪”だと責められるほど、
人は強くなんかない。
むしろ──
他人なら、切り捨てられる。
それが、人間だ。
「未来選定、第三案にて確定しました」
無機質な合成音声が、部屋に響いた。
パシン、と乾いた音を立てて、少女の手からコインが落ちた。
金属音が、硬質な床に3度、跳ねた。
最後の一音だけが、部屋のどこかでいつまでも響いていた。
それは、“命を選ばれなかった音”だった。
その音だけが、この部屋の“選択”を証明していた。
静かな部屋に笑い声が響いた。
「……そんなもんだよな。人間なんてさ。」
斎の笑みは、どこまでも無邪気だった。
まるで、“次はもっと面白くなる”とでも言いたげに。
透き通る声の裏には漆黒になりきれない“悪意”ある感情に満ちていた。
……まるで、ゲームを楽しむかのような少年。
“白”という印象からは、あまりにも遠い。
何を考え、何のために生きているのか。
この少年からは、それすらも分からなかった。
その少年の名は──御國 斎。
正義でも、悪でもない。
選ばれなかった命は、ただ“存在しなかった”だけ。
でも、彼らは忘れない。
誰かが、確かに“誰かの未来”を殺したということを。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回描かれたのは、“選ばれなかった未来”。
正義でも悪でもなく、ただ静かに排除された命。
斎の笑みの裏にあるもの。
煉の沈黙に込められたもの。
この物語は、まだ始まったばかりです。
ここから先、さらに“倫理と本能”が衝突していきます。
次に選ばれるのは、誰か。
それを見届けたいと思ってくださった方へ──
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