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第9話 激怒

「どのガキだ!」

「か、和彦!」


武上は焦って、和彦を制した。

なんと言ってもここは、警察署内だ。

たださえでも目立つ和彦にこんなとこで大騒ぎされては困る。


「和彦さん。落ち着いてください」


思わず寿々菜も和彦をなだめる。


「餃子なら、また差し入れしますから」

「そーゆー問題じゃない!」



武上は心の中で舌打ちをした。

自分の考えた作戦で見事ラパンを逮捕したことを、得意になって和彦に電話してしまったのだ。


てっきり和彦は地団太を踏んで悔しがると思ったのだが、甘かった。

和彦はラパンこと山村遼が連行された警察署に押しかけてきたのだ。


「俺の餃子を、よくも!」


とにかくロビーでは目立って仕方ない。

武上はやむを得ず、和彦と寿々菜を山村遼のところへ連れて行った。

といっても、もちろん直接会わせるわけにはいかない。


和彦と寿々菜を一応「ラパンの被害者」ということで、

なんとか取り調べ室の隣の部屋へ入れる許可を取ったのだ。

そこからは、マジックミラー越しに山村遼を見れる。


「本当はここは、一般人は入れないんだぞ」

「俺と寿々菜は芸能人だ」

「・・・」


武上はもう何も言わないことにした。




山村遼は相変わらず真っ青だったが、とりあえず自分が殺人犯扱いされていないことに安心したらしく、

取調べにも素直に応じていた。


「あいつか・・・」

「本当にまだ子供ですね」


寿々菜の言葉に武上は頷いた。


「はい。小学5年ですからね。盗んだものも全部手をつけずに家に隠してあるそうですし・・・

大した罪にならないといいのですが」

「手をつけずに、って餃子は食ったんだろ」

「・・・」

「それだけでも重罪だ!」


どうやら和彦の頭からは殺人の件は綺麗さっぱり消えているようだ。



と、その時。

廊下が騒がしくなった。


「遼!」


武上が椅子から立ち上がり、廊下を見る。

どうやら、山村遼の両親が来たようだ。


担当の刑事が対応している。


「息子は!?」


必死の形相の女性は山村遼の母親のようだ。

まだ若いだろうが、ずいぶんと白髪が目立つ。


「今、取調べ中です」

「取調べ・・・」

「窃盗については罪を認めています」

「窃盗については、というのはどういうことですか?」


母親よりは落ち着いているのか、父親らしき男性が刑事の言葉に敏感に反応した。


「実は、昨日起きた殺人事件の現場にもラパンのカードが落ちていました」

「なんですって!?」


母親がふらついた。

その腕を父親が取ろうとするが、母親はそれを振り払った。


「遼が人殺しなんてするはずありません!!」

「ですが、殺害現場のカードは間違いなく遼君が作ったものと同じです。

それに殺されたのは、遼君の小学校の音楽教師です。遼君も教わったことがあります」


今度こそ母親は床に座り込んでしまった。


「そんな・・・遼が・・・あの音楽教師を・・・」



武上たち3人は、取調室の隣の部屋のドアから顔だけ出してその様子を見ていたが、

寿々菜が突然和彦を見上げた。


「和彦さん」

「お」


来た。

違和感だ。


あの母親の様子。

何かおかしい。

あの取り乱し様は、自分の子供に殺人容疑がかけられているからだけではないようだ。


「よし。任せろ」


和彦は勢いよく部屋を出て行った。


「おい!勝手に・・・!」


武上の制止も全くきかず、和彦は山村遼の母親の前に立った。



「あ!」

「・・・御園英志?」


父親と母親がすぐに和彦に気づき、唖然とする。

こんな状況でも和彦のことを「KAZU」とは言わず、「御園英志」と言ってしまうほど、

「御園探偵」好きらしい。


でもそのせいで、息子がラパンの真似事なんぞするんだ。


と、和彦は心の中で毒づいた。

御園英志役の和彦としては、喜ぶべきことでもあるかもしれないが、

それで餃子を盗まれるのでは、たまったもんじゃない!



「ど、どうしてこんなところに・・・」


和彦は鼻を鳴らした。

さすがにKAZUモードで行く気はないらしい。


「俺も、お宅の息子さんの被害者なんで」

「え?ドラマの話ですか?あれ?でも息子は、現実に・・・」


混乱してるらしい。

まあ、当然である。


「ドラマの中でも怪盗ラパンにしてやられてるけど、現実にも山村遼に餃子を盗まれたんだよ」

「ぎょ・・・餃子、ですか」

「そうだ。前の日曜に、公園で俺がCMの撮影をしている間に、盗みやがった」

「・・・ああ!そうだ!」


父親が頷いた。


「息子とY公園に遊びに行ったら、たまたまあなたがいて・・・

うちはみんな『御園探偵』のファンなんで、見学させてもらったんです」

「そ、そうか」


さすがに面と向かって「ファン」と言われると、悪い気はしない。

いや、ダメだ。

餃子だ、餃子!


「あの時、まだ昼ごはんを食べてなくて、息子はお腹をすかしてましたから・・・

思わず食べてしまったのかもしれません。申し訳ありませんでした」


父親は和彦に深々とお辞儀をした。

一方母親は、まだ状況が理解できないらしく、床に座ったままぽかんとしている。


「謝るんなら、代わりにちょっと答えろ。おい、あんた山村遼の母親か?」

「え、は、はい」


母親が慌てて立ち上がる。


「遼の母親の山村静香と申します」

「あ、私は父の山村昇平です」


俺はなんて名乗ったらいいんだ?

KAZUか?岩城和彦か?御園英志か?

まあ、俺のことは知ってるみたいだから、どうでもいいか。


「殺された音楽教師・・・なんつったっけ?原?そいつのこと知ってるのか?」

「え・・・」


二人は固まった。

顔に「はい」と書いてある。


「よし。こっからは担当の刑事が窃盗専門の奴から殺人専門の奴に変わるからな」


和彦に振り向かれた武上は、げんなりとした表情になった。













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