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第7話 手荷物検査

時間を少し遡る。

殺人事件があった9月29日の朝。

舞台は南部小学校の5年2組の教室。


ちなみに、当然この時はまだ原七海は生きていたが、

担任のクラスを持たない音楽教師である原は、授業がないのをいいことに、

保健室で「南部小の母」こと、小川保健師と一緒にお茶を飲んでいた・・・




山村遼は、青ざめた。


担任の加山が下校間際、突然手荷物検査をすると言い出したのだ。


「さあ、みんな。机の上にランドセルと道具箱を出して!」


加山は若く、なかなか2枚目の教師だ。

教育熱心で少々猪突猛進なところはあるが、生徒からも保護者からも人気がある。


だからこの突然の手荷物検査に生徒たちは「えー!?」と言いながらも拒むことはなく、

言われた通りにランドセルと道具箱を机の上に出した。


一昔前までは、ランドセルと言えば黒と赤だったが、最近ではその種類は多岐に渡り、

2組の机の上はまるで花でも咲いているかのように明るくなった。


が、遼の心は暗かった。



どうしよう・・・

見つかったらどうしよう・・・



加山が順にランドセルと道具箱の中を見て回っている。

30人以上の生徒がいるクラスだ。

そんな細かくチェックする訳ではない。

加山の目的は、CDや漫画本だから、ちょっと除けばすぐに見つかる。

ランドセルに手を入れ、がさごそと中を見て、「はい、終わり」である。


中には加山に目的の物を見つけられてしまう生徒もいたが、

加山はそれで生徒を罰したりはしない。

「もう持ってこないように」と注意するだけだ。



だけど、遼の持っているソレは「もう持ってこないように」で済むようなものじゃない。

一応ランドセルの底に隠すように入れてはあるが、

注意深く探せば見つけられるかもしれない。



ああ!次は僕の番だ!!



「よし。山村だな。ランドセルを開けて」

「・・・はい」


拒否すれば逆に細かく調べられるだろう。

遼はおずおずと紺色のランドセルの蓋を開けた。


加山が2,3冊の教科書を取り出し、ランドセルを覗き込む。

遼は心臓が止まるかと思った。


が・・・



「よし。じゃあ次は道具箱だ」


あれ?

見つからなかった?

・・・よかった・・・

ああ、よかった!!!



遼はこの時ほど、神様に感謝したことはなかった。






そして再び、殺人事件の翌日。

言うまでもなく、原七海はもうここにはいない。

南部小学校は朝から全校集会が開かれ、教師も生徒も悲しみに打ちひしがれたが、

そこはやはり元気な小学校。


1限の授業が始まると、辺りはたちまち活気に溢れた。


ただし一箇所を除いては。



「こちらです」

「お忙しいところすみません」


武上の相方の三山は礼儀正しく頭を下げた。

「相方」と言っても三山は40代。

武上の大先輩だ。


「保健室の方、空けてしまって大丈夫ですか?」

「はい。今は誰もいませんし」


小川は微笑んだ。

「南部小の母」と言われるだけあって、落ち着いた雰囲気の50歳くらいの女性である。


三山は殺された原七海のことを聞きに南部小に出向いたのだが、

校長室がわからずに校門の前でうろちょろしているところを小川に助けられた。



小川が校長室の扉をノックする前に、三山は訊ねてみた。


「小川先生は、原七海さんのことをご存知ですか?」


小川は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。


「え?もちろん知っていますよ?教師と生徒の名前と顔は全部覚えています」


三山は舌を巻いた。

教師はともかく、生徒も?

200人以上はいるぞ!?


「原先生は、若くてかわいくて・・・私から見れば、教師と言うより生徒みたいな存在でした」

「はは、なるほど」


50歳くらいの小川から見れば、25歳の原七海は子供みたいなものだろう。


「お嬢様育ちなのか、ちょっと世間知らずなとこはありましたけど、とてもいい先生でしたよ。

生徒からも人気がありました。実はこっそり私と保健室でお菓子を食べたりもしてたんです」


小川は笑顔でそう言って・・・目を伏せた。


「もう、そんなこともできないんですね」

「・・・」

「あ、すみません」


小川はすぐに教師の顔に戻ると、校長室の扉をノックした。


「失礼します。警察の方がみえました」

「お待ちしておりました、どうぞ」


中から快活な声がした。


「失礼します」


三山は目の前の校長を見て、自分の小学校時代の校長を思い出した。

いかにも「校長先生」という感じの優しそうな男だった。


「校長の尾高おだかと申します」

「警視庁捜査一課の三山です」

「お一人ですか?」

「はい。相方がいるのですが・・・別の場所で聞き込みを」


ラーメンを食べながら。


「そうでしたか。どうぞ、おかけください」


三山がソファに腰を下ろすと、小川が「失礼しました」と校長室を辞した。




三山は原七海が殺されたことにお悔やみを言い、すぐに本題に入った。


「早速ですが、原七海さんのことをお伺いします。何か人に恨まれるようなことはありましたか?」

「いえ、そんなことは・・・少々勝気でわがままなところはありましたが、

それも『原先生は子供だなあ』と笑って済ませられる程度のことです」

「個人的にトラブルなどは?」

「聞いていません。問題を起こしたこともありませんし」

「そうですか・・・」


だが、そういう人間こそ意外な一面を持っていたりするものだ。


「・・・」

「何か?」

「いえ・・・その・・・」


尾高校長は口を噤んだ。


「どんなことでも結構です。教えて頂けませんか?」

「そうじゃないんです。そういうことでしたら、私より適任者がいると思ったので」


来た。

これはいい流れだ!


「どなたですか?」

「・・・うちの加山という男性教師です。原先生と個人的な付き合いがあったようです」










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