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第6話 良い子?

翌日。


仕事で寝不足の和彦と武上と、

すっかり寝不足が解消された寿々菜の3人が来来軒に集まった。


「これで心置きなくラパン逮捕に乗り出せるな」


ニヤニヤ顔の和彦。


「俺が担当しているのはこの事件だけじゃないんだ」


イライラ顔の武上。


「アイドル探偵、再び!ですね!!」


ワクワク顔の寿々菜。



ちなみに山崎は、和彦が全力で振り切ってきた。



「はあ・・・あれか」


ニヤニヤしていた和彦の表情が一瞬で曇った。


以前、和彦が武上と寿々菜と共に殺人事件を解決したことがあるのだが、

社長の門野が「これは視聴率が取れる!」とテレビ局に特番を組ませた。


その名も「アイドル探偵」。

KAZUとスゥの名付け親である門野が考えたネーミングだ。

この程度で勘弁してやってほしい。



「しかも、ラパン事件ですよ!和彦さん以外の誰が解決するんですか!」

「・・・御園英志でも出てこないかな」


和彦は本気で言った。


「はいよ。ラーメン3人前に餃子3人前」

「お!おばちゃん、ありがと!」

「それと、これでよかったかい?」


来来軒のおばちゃんは、ラーメンの横に地図を置いた。

配達で使う物である。


「悪いな。明日新しいやつ買って返すから。武上が」

「おい」



和彦は、先日食べそびれた餃子を頬張りながら地図を見た。

箸を赤ペンに持ちかえる。


「窃盗事件があったのが、こことこことここと・・・」

「あと、こっちもだ」

「それと・・・」


次々に事件現場に赤丸をつけていく。


「それに、昨日殺人事件があったのが、ここだ」


武上がF町の高架下を指さした。

和彦がそこにバツをつける。


「武上さん。昨日のニュースじゃ、殺人現場にラパンのカードがあったことは報道されてませんでしたけど」

「全力で隠しています。たださえでもこれだけ話題になっているのに、

殺人事件にまで発展したとなっては大騒動ですからね。

それに、ドラマの御園探偵の方にも影響がでるかもしれません」


ドラマの模倣犯で殺人が起きたとなると、ドラマを自粛せざるを得ないかもしれない。

そのあたりは一応警察も気を使っているのだ。

いや、婦警から猛反発があったというのが真相ではあるが、

そんな和彦が喜びそうなことをわざわざ教えてやる必要もない。



「殺人事件と窃盗事件は、同じ犯人なのか?」

「カードは同じ物だった。だけど、警察としては別の犯人だと睨んでいる」


殺人事件は、話題の「現実のラパン」に乗っかった通り魔との見方が強い。


「理由は?」

「色々あるが・・・模倣犯というのは『模倣する』ことに重点を置く。

それなのに、殺人をするなんてそのポリシーに反すると思うんだ」

「ふむ」

「それに、これだ」


武上は一枚の紙を取り出した。


「きったねー字だな」

「うるさい。昨日、窃盗担当の刑事に教えてもらって走り書きしたんだ」


そこには、窃盗事件の詳細が記されていた。


「発覚しているだけで、窃盗事件は12件起きている。最後の12件目がお前の餃子だ」

「おお。許せねえ。ドラマのラパンもまだ5個しか盗んでねーのに」


先日放送された「御園探偵」が第5弾なのだから、当然である。


「犯行時間を見てみろ。まあ、犯行時間というか、盗まれたのがわかった時間だから、

実際の犯行はもう少し前の時間帯だろうけどな」


和彦と寿々菜は頭を寄せ合って、それを見た。



雑誌・・・H書店 9月8日(水) 午後4時半頃 ラパンのカードのNO.は「3」

服・・・Rショッピングモール 9月13日(月) 午後6時頃 カードNO.は「4」

宝石・・・E宝石買取センター 9月21日(火) 午後5時頃 カードNO.は「5」


等々。


ちなみに餃子は「Y公園 9月26日(日) 午後1時頃」である。

カードNO.はもちろん「12」。


「ふーん」

「で、昨日の殺人事件が、9月29日(水) 午後10時、だ」

「なるほど、殺人事件だけ妙に遅い時間だな。

でも、窃盗は人にまぎれる為に人が多い時間帯、殺人は人目につかない時間帯、ってだけなんじゃないか?」

「うん・・・そうかもしれないけどな。なんとなく一貫性がない、って言うか」

「そうだな。殺害現場にあったカードのNO.は?」

「それが、そのカードだけNO.がないんだ」

「・・・」


武上と和彦が腕を組んで唸っていると、

地図と武上が出した紙を見比べていた寿々菜が首を傾げた。


「・・・和彦さん」

「ん?」

「・・・なんか・・・」

「おっ。来たか?」


和彦がぱっと顔を上げた。


寿々菜は、和彦のような推理はまるでダメだが、どういう訳か、勘が鋭い。

少しでもおかしなことがあるとすぐに違和感を感じることができる。

もっとも、その違和感の原因を探るのは和彦の仕事だが。


「違和感、って言うか・・・殺人事件と餃子以外は、全部似たような犯行時間ですよね」

「そうだな。午後4時から6時ってとこか」

「それに犯行現場も・・・全部近いですよね。どうしてでしょうか?」

「どうしてって?」

「なんていうか、どうしてこんな時間も場所も限られてるんでしょうか?

すぐに捕まっちゃいそうじゃないですか?もっとバラバラにすればいいのに」

「・・・確かに」


和彦は地図を持ち上げた。

現場は本当に狭い範囲内だ。


「犯行現場が限られてることは警察内でも注目してたんですが・・・

なるほど、犯行時間と組み合わせると・・・

窃盗犯に関しては、午後4時から6時に、この範囲を動ける人間ってことですね」

「逆だろ」


和彦が言った。


「え?」

「だから。午後4時から6時にこの範囲を動ける人間、じゃなくって、

午後4時から6時にこの範囲しか動けない人間、だ。しかも平日のな」


餃子は日曜だった。

それだけは午後1時だが、後は平日の午後4時から6時だ。


和彦は、地図の赤丸を線でつなげて行った。

それは放射線を描いている。


その中心は・・・



「南部小学校!?」


殺された原七海が勤めていた学校だ!


「なるほどな。これなら犯行時間が午後4時から6時ってのも頷ける」


和彦は、ニヤッと笑った。


「良い子は学校が終わったらさっさとお家に帰らないとダメだもんな」





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