第5話 怒鳴られまくり
「武上!なんとかしろ!!」
あれ?俺、30分前にも同じ言葉聞いたような・・・
でも声が違うな。
「おい!聞いてんのか!?」
武上は思わず携帯から耳を離した。
「うるさい!そんな大声で話さなくてもちゃんと聞こえてる」
「だったらさっさとラパンを逮捕しろ!!」
「それは俺の仕事じゃない。むしろお前の仕事だろ」
「俺は岩城和彦だ!御園英志じゃない!」
岩城和彦が御園英志を演じているのだから、この台詞は間違っていると言えるが、
今の和彦にそんなことを言っても火に油を注ぐようなものだ。
武上は耳と肩で携帯をはさみ、アパートの鍵を開けると靴を脱いで部屋に入った。
地方出身者の武上は大学時代から東京で一人暮らしをしている。
一人の生活もいい加減なれたが、やはりそろそろ結婚もしたい。
俺は24歳だけど、寿々菜さんはまだ16歳だ。
そりゃ16歳でも結婚できるけど、まだやっぱり早いよな、うん、高校生だし。
せめて寿々菜さんが20歳になるまでは待とう。
後4年か・・・長いな。
それまでに俺の給料も少しは上がるかな?
「武上!聞いてるか!?」
「なんだっけ?」
「ふざけるな!!!!」
「えーっと、ウサギがどうかしたんだっけ?」
「ウサギじゃない!ラパンだ!」
「和彦。ラパンってのは、フランス語でウサギのことだ」
「~~~~~~!!!!」
しばらく二人の噛み合わない会話が続いたが、
非生産的なので省略しよう。
とにかく、現実のラパンに餃子を盗まれた和彦が烈火のごとく怒り、
武上に電話をしてきただけである。
「だから。それは俺の担当じゃない。それに、その餃子を盗んだのは本当に、
あのラパンなのか?それこそドラマの小道具で誰かがイタズラしたんじゃないのか?」
「どっちでもいい!!とにかく餃子を盗んだ奴を捕まえろ!!」
「・・・」
無茶というか、無茶苦茶な話である。
「ったく!せっかく寿々菜が持ってきてくれたのに・・・」
「・・・なんだと。その餃子、寿々菜さんの差し入れか?」
「そうだ」
「・・・」
武上は迷った。
寿々菜が持ってきた餃子が盗まれた、というのと、
和彦が食べようとした餃子が盗まれた、というのは、
武上にとっては天と地ほど意味が違う。
寿々菜さん・・・せっかく心をこめて(?)餃子を持ってきたのに、
それを盗まれてしまうなんて・・・
さぞ、心を痛めたことでしょう・・・
実際には、寿々菜は「ラパンだ!」とそのカードに夢中で、
餃子のことなどすっかり忘れていたのだが、そんなことは武上には知る由もない。
「・・・わかった。そのカードを担当課に回すから持って来い」
「お前が取りに来い」
「・・・」
それからまたしばらく押し問答が続いたが、口では和彦には敵わない。
結局武上は、明日和彦に会いに行く約束をさせられた。
そして、ため息をつきながら携帯を切った・・・と、同時に携帯が鳴り出した!
なんだ!?
ディスプレイを見ると「野原課長 (>Д<) 」。
ちなみに顔文字は武上の後輩が勝手に入れたのだが、気に入っている。
武上は脱ぎかけた上着を羽織り、
再び玄関で靴を履きながら通話ボタンを押した。
「武上!今、どこにいる!?」
今日はよく怒鳴られる日だ。
「自宅・・・を出ようとしているところです」
「お。さすがだな。現場はF町のJRの高架下だ」
捜査一課の課長からの電話といえば、事件の呼び出し以外ないだろう。
「被害者は?」
「身分証明書を持っていた。南部小学校の女性教員・原七海、25歳。
ナイフで刺し殺されているが、指紋は期待できないだろうな。それと・・・」
野原が楽しそうな声を出した。
殺人事件だというのに、何が楽しいのやら。
「あったんだ」
「あった?何がですか?」
「ラパンのカードだ」
「は?」
武上は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「遺体の上に、例のラパンのカードが置いてあった。鑑識でちゃんと調べないとわからんが、
おそらく窃盗現場のと同じカードだ」
殺人?
ラパンが?
「御園探偵」のラパンは「怪盗」ってだけあって、人殺しなんてしないんだろ?
それなのに、なんで現実のラパンが人殺しするんだ!
模倣犯なら模倣犯らしく模倣しとけ!!!
意味不明なことを考えながら、武上は部屋を飛び出した。
こうしてラパン事件はめでたく武上の担当となったのである。