第3話 カード
黒い眼帯をしたウサギの顔が描かれたカード。
間違いなく、「御園探偵」の怪盗ラパンが使う予告状だ。
「武上。ドラマの小道具盗むなよ。警察のくせに」
「そんな訳ないだろ。これは正真正銘本物だ」
「・・・本物?」
和彦は眉をひそめた。
「どういう意味だよ、本物って。まさかラパンが現実に出たとか言わねーだろうな?」
そんなバカな、と思いながらも一応言ってみる。
しかし、武上は頷いた。
「そのまさかだ。ただしこれは警察に送られてきた予告状ではなく、犯行現場に置かれていた」
「犯行現場?」
「昨日、宝石店で宝石が盗まれたんだ。そこにこのカードが置いてあった」
「なんだって?」
和彦の声が大きくなる。
「さすがにドラマみたいに、警察に予告状を送るなんて大胆不敵なことはできなかったんだろう。
でも、これでもじゅうぶんに警察を舐めてる」
「・・・模倣犯か」
「この場合、模倣犯というか、ただのお遊びだ。ある意味、愉快犯」
愉快犯というのは、目的があって犯罪を起こすのではなく、
犯罪を起こすことを目的に犯罪を起こす・・・つまり犯罪を楽しむ人間のことである。
「昨日たまたま宝石なんかが盗まれたからわかったんだが、
最近あちこちで同じような事件が起きてる」
「はあ?」
「数箇所の交番に被害届が出てたんだ。でも盗まれたものが、安い物ばかりだったから、
警官もあまり真面目に対応してなかったらしい」
「・・・ひどいもんだな、警察も。で、その現場にもこのカードがあったのか?」
「そうだ。だから警官も『ドラマを見た子供のイタズラだろう』と思ったそうなんだ」
「ちょっと貸せ」
和彦は武上からカードの入ったビニール袋をひったくった。
・・・よくできている。
本当にドラマの小道具みたいだ。
が、やはり本物とは少し違う。
恐らくウサギの絵を手で描いて、パソコンに取り込み、プリントアウトしたのだろう。
「鑑識の結果、それを作ったパソコンもプリンターも多く出回っている品で、
誰がどこで作ったか特定は難しいそうだ」
「ふーん。ところで武上。お前、いつ捜査一課から移動になったんだ?
お前の専門は殺人だろ。窃盗は他の部署がやるんじゃないのか?」
よく知ってるな、くそ。
武上は心の中で毒づいた。
「この事件を知って、上司に思わず『御園英志を知ってます』と言ったら、
ラパンの捕まえ方を聞いて来い、って言われたんだよ」
「・・・」
上司は冗談で言ったのだろうが、こうやって真面目に聞きに来るところが武上らしい。
「せっかく来てもらって悪いんだが、それを知ってりゃ御園英志も苦労しない。
仕事の邪魔だ、さっさと帰れ」
和彦は手をひらひらさせて武上を追い払うと、さっさとスタジオへ戻って行った。
ま、期待はしちゃいなかった。
そもそもこの事件は、俺の担当じゃない。
武上はスタジオを出ると、近くのバーへ入った。
何も昼間っから飲もうと言う訳じゃない。
それこそ税金の無駄遣いだ。
別件の殺人事件があり、その聞き込みの最中なのだ。
寿々菜の声を聞くのが目的で、「和彦がどこにいるか知ってますか?」と電話したら、
間髪入れずにこのスタジオを教えてくれた。
マネージャー並に和彦のスケジュールを把握している寿々菜だからこそできる技だ。
それがたまたま、聞き込みに行こうと思っていたバーの近くだった。
それだけである。
それにしても、この偽ラパン。
結構色んな物を盗んでいる。
本、服、宝石・・・
昨日盗まれた宝石を含め、金額的にはどれも大したことはない。
全て1万円以下くらいの安い物ばかりだ。
だが、数が多い。
もう10点以上の物が盗まれているらしい。
そう言えば、ドラマのラパンを真似てるからなのか、
被害にあってるのは全て店である。
個人宅から何か盗まれたという話は聞いていない。
しかも・・・
武上は再びラパンのカードを取り出してみた。
ウサギの右目の上、つまり黒い眼帯の上に、「1」という数字が白い文字で書かれている。
これもドラマと全く同じ。
ドラマの中のラパンは、こうやって眼帯の上に数字を書いて、
その予告状が何枚目のものか分かるようにしているのだ。
『本日午後9時にS美術館からクロード・モネの絵画を頂く』 →眼帯のNO.は、「1」
『明後日午前1時にA宝石店からダイヤの王冠を頂く』 →眼帯のNO.は「2」
と言った具合だ。
何故ドラマのラパンがこんなことをしているのか武上は知らないが、
演出上のことだろう。
全く、どうなってるんだか。
和彦も武上も、この事件のことはすぐに忘れた。
二人とも、寿々菜みたいに暇じゃないのだ。
だがその3日後、二人は再びこの事件を思い出させられることになる。
それは全く違う方法ではあったが・・・
限りなく不愉快な方法、という点では共通していた。