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第2話 応援と苦情

「山崎さん。KAZUさんにお客様がみえてるんですが」


スタッフの女の子に声をかけられ、和彦のマネージャーの山崎は顔をしかめた。


「見ての通り、KAZUは仕事中ですから。待ってもらうか出直してもらってください」


山崎は眼鏡を直して、スポットライトの中で次々とポーズを取る和彦を見た。

いや、見つめた。


最近色気が出てきた噂の山崎。

その原因こそ、和彦その人である。

早い話が、山崎は和彦に惚れているのだ。


和彦は、と言えば、いくら色気があると言っても30歳の、しかも男に惚れられても、

全く嬉しくない。

はっきり言って迷惑である。


が、山崎のマネージャーとしての腕は確かだ。

弱小の門野プロダクションは人出も少ない。


という訳で、渋々我慢している。


今もカメラの前に立ちながら、山崎の熱い視線には気づいているが、

敢えて気づかない振りをしている。


「演じる」ことは、和彦の特技である。




「あの、でも・・・」


まだ立ち去ろうとしないスタッフに、山崎は少しイライラした。



和彦さんは仕事してるんだ!

邪魔するんじゃない!



「警察の方、なんですけど」

「警察?」


さすがに山崎も驚きを隠せない。

が・・・


「それはもしかして・・・武上さんという人ですか?」

「はい。そうです」


どうしてそれを先に言わないんだ!!



山崎は撮影スタジオの出口に向かって走り出した。


武上、というのは、殺人事件を扱う捜査一課の若き刑事である。

和彦の顔見知りなのだが、この二人、事あるごとに対立している。


和彦ヒイキの山崎からすれば、和彦の敵である武上は面白くない存在・・・

であるはずだが、実はそうではない。

山崎はある理由で、武上を「応援」しているのである。



「武上さん!」

「あ、山崎さん、こんにちは。すみません、お忙しいところ」

「いえ」


山崎は愛想よく武上に近づいた。


武上は一目で仕事中と分かるようなスーツ姿だ。

しかしそのスーツは、山崎のような上等な物ではなく、

至って庶民的なお値段のスーツである。


「和彦さん、今雑誌の写真撮影なんですが・・・お急ぎでしたら、呼んできますよ?」


武上としては、和彦が仕事中だろうがなんだろうがどうでもよかったが、

ここは一応社会人として、礼儀を優先させた。


「いえ。待たせていただきます」

「そうですか。申し訳ありません。・・・あの」

「はい?」

「時に、武上さん。スゥとは・・・どうですか?」


武上と山崎が意味ありげに視線を交わす。

そんな必要は全くないのだが、二人は思わず周囲に人がいるかまで確認した。


「まあ・・・たまに食事に行ったりはしますが」

「そうですか。頑張ってください」


山崎は「応援」した。


そう。

山崎にとっては、和彦の敵である武上よりも、

和彦に惚れている寿々菜の方が邪魔な存在である。


寿々菜の「個人的なファン」である武上と寿々菜がくっついてくれれば、

山崎としては万々歳なのだ。



だが武上は、曖昧に「はあ」とだけ答えた。

なんせ寿々菜は、武上の気持ちに全く気づいていない。

「一般市民を食事に連れて行かなきゃいけないなんて、お巡りさんも大変ですね」ときている。




山崎ははっとした。

寿々菜のことに気を取られていたが、

仕事中の武上が、わざわざ嫌いな和彦に会いに来たのだ。

これはもしや・・・


「武上さん!もしかして、和彦さんに推理のお願いにきたんですか!?」


和彦は、御園探偵シリーズで鍛えた(?)推理力で、

以前、武上が担当する殺人事件を解決したことがある。

そして山崎はそんな和彦に惚れたのだ。



もしかしたら、またあの実写版「御園英志」が見れるかもしれない!



しかし武上はそっけなかった。


「そうじゃありません。一市民として、一言文句を言いに来ただけです」

「文句?和彦さんにですか?」

「和彦に、というか、御園英志に、というか」

「?」


ちょうどその時、撮影の休憩に入った和彦がやってきた。

仕事中は、カメラが回っていてもいなくても営業スマイル全開の和彦だが、

武上を見たとたん「素」になった。


「なんだ、てめーか、武上。何の用だよ」

「用って程じゃない。なあ、御園英志はいつになったらラパンを捕まえるんだ?」


和彦は、「意外だ」と言うように、目を見開いた。


「お前、御園探偵なんて見るのか?俺が出てるのに?」


その聞き方はどうかと思うが。


「見るわけないだろ。でも仕事上、仕方なくさっき見た」

「さっき?」

「婦警が家で録画してたのを持ってきてもらったんだ」


訳がわからない。

どうして仕事中の刑事が御園探偵なんぞ見なくてはいけないのか。


理由によっちゃあ、税金の無駄遣いだ!と、トーク番組で非難してやろう、

と、心に誓う御園探偵の主人公である。



だが。


和彦も山崎も、

武上が上着の内ポケットから取り出したビニール袋を見て、目を疑った。



そこには怪盗ラパンの予告状が入っていたのだった。






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