第12話 余り
武上は、三山の後ろを歩きながら少々不機嫌だった。
その理由は、三山の前を歩く和彦。
ただ、武上の横に寿々菜がいるので、多少はその不機嫌さも緩和されてはいたが。
一方、その寿々菜は和彦の横を優越感たっぷりに歩く(寿々菜にはそう見える)山崎に、
殺人的な視線を送っていた・・・。
「度々すみません、小川先生」
三山が申し訳なさそうに言うと、和彦の前を歩く小川が笑顔で振り返った。
「いえ。保健室から校門の辺りがちょうど見えるので」
あの来来軒での会合(?)から3日。
和彦が突然武上に「犯人がわかったから、南部小に行くぞ」と電話して来たのだ。
「・・・なんで俺がお前に呼び出されないといけないんだ」
と、武上は当然文句を言ったが、和彦には通じない。
「ついでにラパンのカードと、山村遼が盗んだ品も持って来い。後、山村夫妻と加山も呼んどけ」
加山は南部小の教師だから呼び出す必要もないが、
山村夫妻は、特に、山村昇平は仕事があるだろうから来れないだろうと武上は思った。
が。
「御園探偵の呼び出しなら、喜んで!」と承諾されてしまった。
しかも、犯人が分かるかもしれないとなると、先輩の三山にも来てもらわないといけない。
くそ!これで犯人が分からなかったら公務執行妨害で逮捕してやる!!
で、ぞろぞろと南部小学校へ来たところをまた小川が見つけてくれて、
こうして校長室へ案内してくれているのだ。
校長室へ入ると、尾高校長と加山が既に中で和彦たちを待っていた。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
武上は早速謝り、チラッと和彦を睨んだ。
しかし、尾高校長も加山も突然のKAZU登場に目を丸くするばかりだ。
ちなみに当然、というか、やはりスゥのことは知らないらしい。
寿々菜もこんなのは慣れっこなので、いちいちショックを受けたりしない。
もっともいちいちショックを受けてたら、心臓がいくつあっても足りないだろう。
「あの・・・犯人が分かったと言うのは・・・御園探偵、じゃなかった、KAZUさんが?」
「はあ」
尾高校長の言葉に武上は仕方なく頷いた。
加山など、自分が容疑者候補だとは知らず、目を輝かせている。
寿々菜と山崎も、また和彦の推理を聞けるのかと思うと、目の一つも輝かせたが、
同時に睨み合うことも忘れない。
だがまあ、今日ここに和彦が来れたのは山崎の巧みなるスケジューリング力のお陰ではある。
寿々菜もそれは認めざるをえない。
「和彦。さっさと始めろ」
「なあ、これで解決したらギャラって出ねえの?俺、結構走り回ったんだけど?」
「出るわけないだろう」
だが、
もしかしたら感謝状を出さなきゃいけなくなるかも・・・と思うと、武上は気が重かった。
「俺はいいけど、うちの社長は黙ってねーぞ?」
「・・・」
武上は、あの見た目はダルマ、中身は狸の門野社長の顔を思い浮かべ・・・
更に気が重くなった。
「ま、いいや。武上、山村遼が盗んだ物を盗んだ順に並べろ」
「俺はお前の助手じゃない!」
「わかってるさ。俺の助手は寿々菜だ。な?」
和彦が寿々菜に微笑みかけると、寿々菜はたちまち真っ赤になり、
武上に「私も手伝います!」と言って腕まくりをした。
こうなると、武上もやらざるを得ない。
三山は3人の様子を、笑いをかみ殺しながら見ていた。
そして、2分後には盗まれた12個の品が順番に机の上に並べられていた。
消しゴム、お菓子、雑誌、服、宝石・・・
その前に、和彦がカードを置いていく。
「これで、よし、と」
12個の品に、12枚のカード。
「・・・で?」
武上が和彦を見た。
「なんだ、武上。気づかないのか?」
「何にだ?」
「やれやれ」
和彦は山村昇平の方を向き、言った。
「なあ、あんた、寿々菜に金払ったか?」
「え?」
「寿々菜も山村遼から餃子を盗まれたんだよ。ちゃんと高額買取してくれるんだろうな?」
「そ、そうでしたね!おいくらお渡しすればよろしいでしょうか!?」
山村昇平が慌てて財布を出そうとする。
が・・・
「そうか」
三山と武上が同時に頷いた。
「和彦君が騒いでいたので逆に餃子なんて忘れてた。餃子はここにはない」
三山は机を指差した。
そりゃ、餃子はここになくて当然だ。
山村遼が食べてしまったのだから。
「そう。そして、餃子のカードNO.は『12』だった。だから本当のカードの割り振りは、
こう、だ」
和彦はカードをずらした。
NO.1のカードを消しゴムの前からお菓子の前へ、
NO.2のカードをお菓子の前から雑誌の前へ・・・
そして最後に、NO.12のカードをエア餃子の前に。
「くそ。餃子はなんでないんだ」
訳の分からない文句を言いながらも、和彦は全部のカードをずらし終えた。
そして、消しゴムだけがカードを割り振られることなく、
ポツンと一つ残ったのである。