第11話 ファン
「ふーん」
「・・・それだけか?」
「ラパンは捕まったんだ。俺にはもう関係ない」
場所は再び来来軒。
ただし時間は夜中の12時。
閉店直前に「ラーメン、チャーハン、餃子」と来た日にゃあ、店の人もイラッとしそうなものだが、
そこは常連の強味で、寿々菜用に杏仁豆腐までサービスしてくれた。
「あの。武上さん、お話の続きを・・・」
とりなすように寿々菜が言った。
「あ、はい。とにかく窃盗のラパン事件は解決しました。そして、ここからは殺人のラパン事件です」
「はい」
「容疑者は3人」
武上は手帳を見ながら説明した。
一人目は、山村昇平。本人は否定しているが、原七海と浮気していた可能性がある。
山村遼の父親なので、ラパンの正体が息子だと気づいていれば、ラパンのカードは手に入れられる。
二人目は、山村静香。夫が原七海と浮気していたと思っている。カードについては、昇平と同じ。
「そして三人目は、山村遼の担任の加山仁志。原七海の恋人です。
今日、三山さんが会ってきましたが、印象としては悪い人物じゃないようです。ただ・・・」
「ただ?」
「山村遼が警察に連れて行かれたと聞いた時の様子が普通ではなかったので、
三山さんが問いただしたところ、ラパンの正体が山村遼だと知っていたようなのです」
「え?」
和彦と寿々菜はラーメンから顔を上げた。
「原七海が殺された日の下校前に、生徒の手荷物検査をしたそうなんです。
その時に、加山は山村遼のランドセルの中に数枚のラパンのカードを見つけた、と言う訳です」
「それで、その先生はどうしたんですか?」
「どうもしなかったそうです。まさか、とは思ったらしいのですが、確信は持てなかったし、
仮に山村遼がラパンだとしても、自分の生徒を警察に突き出したりはしたくなかった、と」
和彦は愛おしそうに(?)餃子を食べながら言った。
「じゃあその加山って教師も、ラパンのカードのありかを知っていた訳だ。
なあ、殺害現場にあったカードは、本当に山村遼が作った物なのか?」
「きちんと鑑識で見てもらった。間違いなく同じだ」
「ほー。じゃあ犯人はその3人のうちの誰かだろーな。ま、頑張れ」
「・・・」
「あ、あの!」
寿々菜がまた助け船を出す。
アノ寿々菜がここまで気を使うのだから、
この場の険悪なムードがいかほどのものか理解して頂きたい。
「山村遼クンって、どうなっちゃうんですか?刑務所に入れられちゃうんでしょうか?」
武上は笑顔で寿々菜を見た。
「寿々菜さんは優しいですね」
けっ。
と思ったのは、もちろん和彦である。
「山村遼は未成年ですから、刑務所に入れられることはありません。それに、
今回は父親の山村昇平が全ての品を高額で買い取るということで、店側はどこも被害届を出さないことになりました」
「じゃあ・・・」
「はい。実質お咎めなし、です。ただ、これだけ世間で話題になってしまってますから、
マスコミに対しては何らかの説明が必要ですね」
「そうですか。よかった」
寿々菜は胸をなでおろした。
いくら窃盗犯とは言え、実際に小学生の山村遼を見てしまうと、寿々菜は同情せずにはいられなかった。
それに、元はと言えば「御園探偵」好きが高じての事。
寿々菜には、山村遼の気持ちが分からないでもない。
そうだ。それに、御園英志である和彦さんが、山村遼クン逮捕の手助けをした。
本当に「御園英志 vs ラパン」だわ。
寿々菜は半ば感激した。
「それにしても、一つ一つは安い物ですが、12個ともなると・・・しかも、高額買取となると、
結構な金額になりますね」
「いくら位なんですか?」
「さあ。5,6万はいくんじゃないですかね」
・・・・。
寿々菜は首を傾げた。
「寿々菜。今のは俺にも分かったぞ」
「え?」
「違和感、だろ?」
寿々菜は頷いた。
和彦は何故か少し嬉しそうだ。
「和彦?なんのことだ?」
「いや」
和彦は餃子を箸でつまんだ。
「山村遼ってのは、かなりの御園探偵ファンだな、と思ってさ」