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第10話 2人の容疑者

結婚したことのない武上にもわかる。


山村夫妻はうまく行っていないようだ。

そこに、息子の窃盗事件。

加えて、まだどう関係があるかわからないが、息子の小学校教師の殺害事件。


話を聞くにしても、別々の方がよさそうだ。




山村静香を廊下で待たせ、武上は山村昇平と小さな部屋で向かい合って座った。

山村昇平の職業など一般的な質問の後、早速本題に入る。


「山村さんは、原七海さんをご存知ですか?」


山村は首を振った。


「いえ。あ、顔くらいは知っています。以前、日曜参観があって、その時音楽の授業で・・・。

でも原先生と話したりしたことはありません」

「そのわりに、奥様が原七海さんのことで動揺されてましたが」

「・・・あの、これはあくまで私の意見なのですが」


山村は声を潜めた。


「なんですか?」

「原先生を殺したのは・・・妻かもしれません」






「原先生を殺したのは、主人かもしれません」

「はあ。そうですか」


なんなんだこの家族は。

さすが「御園探偵」のファンだけあるな。

和彦め。


山村昇平から話を聞いた後、

今度は同じ部屋で山村静香から話を聞こうとしたのだが・・・


開口一番、コレである。


さすがに武上も面倒くさくなった。


更に面倒くさいことに、この夫婦。

どちらも本気なのだ。

本気で、自分の配偶者が人殺しをしたと思っている。


もちろん、どちらかが演技をしている可能性もあるが。


「なるほど。では、ご主人が原七海と浮気していた、と?」

「はい」

「どうしてそう思うんですか?」


ここで、女の勘です、とでも来たら、武上はもう取り調べを終わろうと思っていた。

だが、返ってきた答えは意外な物だった。


「手紙が来たんです」

「手紙?」

「はい。昨日の朝、うちのポストに。そこに『山村昇平は原七海と浮気している』と書かれていたんです」

「なんですって?」


武上は身を乗り出した。


「その手紙は!?」

「それが・・・捨ててしまいました。宛名は私だったんですが、差出人も書いてなかったし、

イタズラだろうと思って。一応主人にも話しましたが、そんなことはないと笑っていました。

でも夜になって、原先生が殺されたというニュースが流れて・・・」

「浮気がバレたご主人が、原七海を殺したと思ってるんですね?」

「はい」


逆に山村昇平は、浮気を疑った妻が怒って原七海を殺した、と思っている訳だ。



武上は頭を抱えた。






その頃。

南部小学校の中にいた三山は、

(まさかその外で武上が「お上の威厳」作戦を決行していたとは露知らず)

原七海と個人的な付き合いがあったという加山教師と対面していた。


既に10分近くが経過していたが、話は一向に進まなかった。

なぜなら・・・


「ぐすん、ぐすん」

「・・・お気の毒です」

「はい・・・彼女は本当にいい子で・・・」


この会話がエンドレスに繰り返されていたからだ。


武上ではないが、三山も頭を抱えたくなった。


だが、ここでこうしていても犯人は捕まらない。

三山はなんとか本題を切り出した。


「原七海さんとは、どれくらいの期間、お付き合いなさってましたか?」

「ちょうど1年です。そう、あれは一年前のこと・・・」


思い出話に突入する前に、三山は素早く軌道修正する。


「原さんが何か人に恨まれるようなことはありましたか?」

「そんな!」

「いえ、そんな人ではないと校長先生からも伺いました。

でも、個人的に原さんと親しかった加山さんでしたら、他の人が知らないようなこともご存知かと・・・」


三山は、あえて加山の優越感をくすぐる言い方をした。

「他の人は知らないけど、恋人のあなたなら・・・」という訳である。

加山のような男は、こういう手に限る。


案の定、加山は照れながら「うーん」と考え込んだ。


「かわいい人ですからね。同性から妬まれることや、振った男に逆恨みされることはあったかもしれません」

「はあ」

「悪気なく、さらっときつい事を言ったりもしましたし」


じゅうぶん恨まれる要素を持ってるじゃないか!


三山はなんとか堪えた。


「あの、一応お聞きしますが、加山さんは昨晩の10時頃何をされていましたか?」


だが加山はそれがアリバイを聞かれてるとは思わなかったらしい。

三山は、「白木寿々菜の男版だな」と考えたりした。


「家にいましたよ?」

「ご家族は?」

「一人暮らしです」

「・・・」


まあ、一応。

本当に一応、加山のアリバイ確認はしておこう。

時間があれば。



その時、若い女性教師が教室に駆け込んできた。


「加山先生!!」

「どうしました?」


その余りの慌てように、加山がギョッとする。


「山村君が警察に・・・!」

「何だって!?」


勢いよく加山が立ち上がった拍子に椅子が倒れ、

その音が教室中に響き渡った。










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