【電子書籍化記念SS】雪合戦
みんなで楽しくわちゃわちゃしてるだけのお話
「わー! すっごい積もりましたねー!」
「わっ、本当にすごいね。毎年二、三回薄っすら雪化粧する程度だったのに、こんなに積もったら王宮へ出仕できない者が多そうだな」
朝、窓から見える景色がチラチラしておりカーテンを開けると一面が真っ白な雪で覆われていた。
「ジュリアス様! 朝食を終えたら外に出ましょう!」
昨夜は稀にみる豪雪で、積もった雪は三十センチくらいあるだろうか。ワクワクしながらジュリアス様を誘うと彼は「そうだね」とニコッと笑う。
王宮に勤める者はやはりジュリアス様の予想通り、積もった雪で馬車を動かせず休む者が多かった。
侍女も休みの者が多かったので、できるだけ自分の支度は自分でする。しかし、普段使わない厚手のローブやブーツ、耳当てなどはどこに仕舞われているのかわからず、出仕できた数名の使用人たちで探し回った。
完全防備で庭に出て、まだ誰も踏んでいない雪を踏むとギュッと音がした。
「足跡がついた!」
「ははっ! エーファは小さい足跡だな!」
「ジュリアス様の足跡は大きいですね!」
外は寒くて顔が冷たいが、雪を踏んでいるだけでとても楽しい。
「エーファ! 雪だるま作ろう!」
「ルカス殿下! 良いですね。大きいの作りましょう!」
ルカス殿下も雪を見に完全防備で庭に来たようで、私はルカス殿下と一緒に雪を丸めてコロコロ転がし雪玉を大きくする。
「楽しそうだね、エーファ」
「あ、アルト! 見てないで暇なら手伝ってよ!」
庭の入り口のところに立つアルトに指示を出す。
「暇じゃないよ、今日僕はルカス殿下の側仕え役なんだけど」
どうやらいつもの侍従が出仕できずに代わりにアルトがルカス殿下に付いて一日過ごすらしい。
「おい、アルト、雪だるまの目や鼻になりそうな石を探してくれ!」
ルカス殿下が指示を出すと「ええー、僕は遊び相手じゃないんですが……」とぶつぶつ言いながらもアルトは石を探しに積もった雪をかき分ける。
「これなんかどうでしょうか?」
「おっ、いいな!」
アルトが探してきた二つの石を雪玉の隣に置く。
私はルカス殿下とえっしょ、えっしょ、と雪玉が大きくなるよう一生懸命転がした。
辺りの雪をたくさんくっつけた雪玉は私の背の半分くらいまで大きくなった。
「エーファ……大変だ……!」
「どうしました、ルカス殿下?」
「楽しくて大きくし過ぎた。この雪玉めちゃくちゃ重くてとてもじゃないが二つ積み重ねるのは無理だ!」
ルカス殿下が両手を広げて「ぐぬぬ」と力みながら雪玉を掴もうとするが、どうにも持ち上がりそうにない。
「アルトー! これ持ち上げれる!?」
私はアルトに助けを求めたがアルトはの答えは……
「いやいや、そんな大きいの無理だよ。いっそ一段にして顔だけにしちゃえば?」
なんて風情がない。
私はルカス殿下と一緒にアルトに冷たい視線を送ることにした。
「ふははっ! エーファ、私に任せてよ」
「ジュリアス様!」
ジュリアス様は自信満々に大きな雪玉を持ち上げる。
「おおっ!」
軽々持ち上げる様子にルカス殿下は感嘆の声を上げた。
「ふふ、簡単だ――あ゛あ゛っ!?」
「ああーっ!!」
ジュリアス様が得意げにしていると、まさかの雪玉がジュリアス様の腕の中で崩壊した。
「ああー……私の雪玉が……」
嘆くルカス殿下に「す、すまない!」と慌てるジュリアス様。
「ル、ルカス殿下……大丈夫ですよ。まだ雪はたくさんありますから、もう一度作りましょう!」
「うん……」
ルカス殿下はしょんぼりしていた。
だが、再び雪玉を大きく作り直すと徐々に元気を取り戻し、「今度は慎重にお願いしますよ、兄上!」とジュリアス様に雪玉を積み重ねてもらうようお願いし、無事に重ねられたときには「完成だー!」とニッコニコの笑顔を向けてくれた。
「エーファ、いっぱい作ろう!」
「はいっ」
それからまた雪だるまを作っていると……
「きゃっ!」
雪玉が身体にぶつかった。
「あー! アルトー!」
アルトがニヤニヤしながら雪玉を手に持っていたので、私も雪玉をいっぱい作って投げて遊ぶ。
「あっ、私もやるぞ!」
ルカス殿下も雪合戦に参加する流れになったので、生け垣に隠れながらルカス殿下にたくさんの雪玉を渡した。
「殿下! 今です! おっ、当たりましたよ!」
ルカス殿下の投げた雪玉がアルトに直撃して崩れていく。
「こちらも負けませんよー!」
アルトも雪玉を投げるが、アルトはちゃんと手加減をして弱めの威力で玉を投げており、遊び上手だなと感心する。
「ほら! エーファもぼさっとしてると当たるぞ!」
「きゃあ!!」
ルカス殿下に言われてすぐにアルトの雪玉が顔面に直撃した。
痛くはないがびっくりした。
「わわ! ごめん、エーファ! 顔に当てるつもりは……!」
アルトが慌てていると、鼻の辺りが熱くぬるっとした。
私の方を見ていたジュリアス様が真っ青な顔で「エーファ! 鼻血!」と叫び、傍にいたルカス殿下がすぐに手巾を取り出し私の鼻を押さえてくれる。
「アールートー……!」
地を這うような怒りの声。私の声ではない。
これは……ジュリアス様の声だ。
「私のエーファに傷つけるとは……! どうやらお前は腕の骨が折れたくらいじゃ物足りないようだな……!」
「ひぃっ……! すみません、すみません! わざとじゃないんです……!」
必死に頭を下げるアルトだが、ジュリアス様は人の頭くらいある雪玉を掌でぎゅ、ぎゅ、と圧縮しこぶし大の大きさにする。
とても硬そうな雪玉が出来上がったのだが、ジュリアス様はまさかアレをアルトに向かって投げようとしている?
鼻を押さえてくれているルカス殿下とハラハラしながら見守っていると、ジュリアス様はその雪玉をアルトに向かって……
「投げたー……!」
――わー、当たると絶対痛いわ……!
雪玉の向かう先はアルトの身体。しかし、アルトは咄嗟に逃げようとした。
「あっ……! 雪だるまが……!」
アルトが逃げると向こう側にはルカス殿下と一生懸命作った雪だるまがある。ジュリアス様の剛速球が当たれば雪だるまは確実に壊れてしまうだろう。
「ああっ! しまった!」
ジュリアス様も避けられることは考えていなかったようだ。
アルトはどうしようと思案しているようで額に汗をかいている。
――身体を張るか、ルカス殿下を泣かせるか……
アルトは雪だるまの腕代わりに挿していた少し太い木の棒を抜く。そしてそれを雪玉に向かって振りかぶった。
カキーンッ……という音はしなかったが、ジュリアス様が投げた雪玉は木の棒に当たって、放物線を描いて遠くへ飛んで行った。
「ふうぅぅぅぅ……」
ジュリアス様が大きく息を吐いて、ルカス殿下も「よかった!」と安堵する。
ジュリアス様は私が怪我をしたことに怒ってくれたようだが、別に痛くもなく、たまたま当たり所が悪くて鼻血が出てしまっただけなので、そんなに怒らなくても大丈夫です、と言おうとしたときだった。
ガシャーン……――。
遠くでガラスが割れた音がした。
「え」
皆がそろって声を上げて、雪玉の飛んで行った方を眺めた。
「アルト……雪玉……どこへ飛んで行った?」
「あの方向は……おそらく……陛下の執務室で……」
「うわぁぁぁぁ……」
陛下の護衛が「こらー」と飛んできて、雪遊びは強制終了したのだった。
大人も寒さを気にせずこれくらいして遊びたいけど……寒いんですよね……!おうちから出たくない。
ちなみに書籍の書き下ろしにありますが、陛下はエーファに甘いです。
「楽しく息抜きができたなら良かった」とエーファはお咎めなし。
ただしジュリアスは陛下の執務室の窓ガラスが直るまで、陛下の執務を引き受けます。
ということで、明日(2026/1/23)から電子書籍がシーモア・ピッコマで先行配信開始です!
(シーモア限定SSあり、その他サイトは2月6日からの配信となります)
※書籍はTLジャンルになるため注意してください!
書籍の詳細は活動報告に載せております。
この後書きをもう少しスクロールしていただくと活動報告に飛べるようリンクが設定してありますのでよければポチッと…!書籍の方もぜひぜひよろしくお願いします!
お読みいただき、ありがとうございました。




