三馬鹿貴族に名前はない
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「はぁ……はぁ……何とか間に合った」
息も切れ切れに何とか残り五分でブレイブ学園の校門が見えてきた。
ギリギリ出発したのもあって、通学路を歩いてる学生は全然いなかった。唯一いたのは攻略キャラのタンク=ローラー。重戦士のぽっちゃりキャラ。パンを両手に持ち、一生懸命走ってたんだけど、それを私が追い抜いた形だから、多分……じゃなく、確実に遅刻するはず……
タンクもメシア様やセシル同様、【テアワン】と全く同じ姿。まんまるクマさんと渾名が出来るぐらいの癒しキャラ。
彼は【テアワン】二周目から攻略可能で、Cクラス所属。初日から遅刻するイベントがあるんだけど、その途中を見たんだと思う。
「まだです。クラスを確認して、各クラスの集合場所まで行かないと駄目なので」
こっちは汗もダラダラ流れるのに、モモは涼しい顔で、息一つ切れてないのを見ると、実力の差を感じてしまう。
それは仕方ないとして、私がEクラスなのは分かってるし、集合場所も旧校舎前なのも知ってるから、掲示板なんか見ずに直接行って、時間短縮したいところなんだけど……それを先に知ってる事で、モモに怪しまれたくはないから。
「……その前に性格の悪い、暇な貴族がいますね。ヒート様の悪口を言いたくて仕方ないのでしょう」
クラス発表の掲示板前にいかにも馬鹿っぽい男三人組がこっちをニヤニヤ見て、私達を待ち構えてる。
それも見覚えがある顔触れだ。【テアワン】でヒート以外で、セシルに絡んでくる三馬鹿貴族だ。主要キャラじゃなく、名前も貰えてないモブキャラ達。セシルやセシリーだけじゃなく、ヒートにまで絡んできてたんだ……
「庶民にも負けた元貴族のラインバルトさんよ〜」
「そんな実力でこの学園に来れたもんだな」
「どれだけ頑張っても、地位を取り戻すのは無理な話だ。なんせ、五人しかいない最下層のEクラスなんだからさ。お前以外は全員庶民。しかも、お前が負けた奴も同じEとは笑かしてくれる」
セシルに対して、似たような台詞をこの三馬鹿が口にしてた。『ヒートは没落貴族だから、実力が同じだと思うな』とか色々……
予想通り、私はEクラスみたいだ。【テアワン】だと四人のはずだけど、セシルとセシリー両方いるのだとしたら、六人になるかな?
「そうなのか? クラスを教えてくれて、助かる。集合場所は旧校舎だな」
三馬鹿の相手をして、遅刻するわけにもいかない。召喚に失敗するとしても、重要な出来事があるんだから。
掲示板が見えたフリをして、さっさと旧校舎の場所へ。MAPがなくても場所は分かってるし。
「な、何だ!! その態度は!! 頭を下げるなり、媚を売るなりしろよ」
「実力の差を見せてやる」
「遅刻だけで済めばいいけどな」
真ん中が激昂して、左右が魔法を唱えようとしてる。ヒートの体質を考えると、受けても大丈夫な気はするんだけど……なんせ、実力の差とか言ってるけど、三馬鹿はDクラスだったはず。
「ヒート様。旧校舎の場所はここから東側にある門から行けますので」
「がっ……」
「「なっ!!」」
モモは三馬鹿が気付かぬ内に掲示板まで移動しただけでなく、真ん中のモブの首元に手刀を打ち込み、気絶された。勿論、その動きを私自身ちゃんと見えたわけではないんだけど……
「実力差というのであれば、私はAのようですね。貴方達が我が主に言われたように、遅刻だけで済まないようにしてもいいですか?」
「「ひっ!!」」
モモは笑顔で気絶されたモブの頭を踏みながら、二人に吐き捨てると、その怖さに腰を抜かしてる。
「今回、ヒート様も急ぎの身なので許しますが、またこのような事があれば……相手が貴族であろうと、ヒート様に悪意ある者は罰を与えます。さっさと彼を連れて行きなさい!!」
「お、覚えてろよ!!」
左右のモブは真ん中のモブを担ぎながら、モモから離れていく。私も出来るだけ、彼女を怒らせないようにしないと駄目な気がする。
「ヒート様!! 私もAクラスの召喚の儀に行かなければならないので、残念ながら同行出来ません。召喚に失敗しても、落ち込まないでくださいね」
「だから……一言多いって」
私とモモはそう言いながら、別の方角へ。
モモはAクラスらしく、別の場所で召喚の儀を執り行う。それは他のクラスもそうなんだけど、例外が一つある。




