【テアワン】コスプレ会場?
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「勝者!! セシル=エンドール!! 素晴らしい一撃だったぞ」
この台詞……勿論、知ってる。【テアワン】のオープニング。戦闘のチュートリアルでセシルとヒートが対戦して、セシルが勝利する場面。剣術科のムサシ先生の声で褒めるところだから間違いない。
意識が無くなったのは覚えてるけど、私がやってたのは【テアワン2】。TRUE ENDの画面で止まってはず。無意識でメシア様とヒートのやり取りを見るために【テアワン】を始めた? 全く記憶にないんだけど……
それにしても頭が痛すぎて、なかなか目を開けられない。あそこまで酒を飲んだのは初めてだから、その影響? 明日から仕事……
「今何時!!」
一週間の有給を取ったのも御局様から嫌な目で見られたのに、復帰一日目から遅刻するようなものなら、延々と愚痴を聞かされる羽目になる……
「……あれ? 何? コスプレ会場じゃないよね。ここは……」
私の部屋じゃないどころか、外にいるんだけど? しかも、大勢の人に囲まれていて、全員が【テアワン】のメイン舞台、ブレイブ学園の制服を着てるとか、そんな事ある? それだけじゃなくて、攻略キャラに瓜二つな人達もチラホラと。後で一緒に写真を撮って欲しいぐらい……
「ヒート=ラインバルト。コスプレ……とは何かの呪文か? 勝負は決した。貴様の負けだ」
倒れていた私にムサシ先生? 侍姿の再現力も凄い……のは置いといて、彼が手を差し出してきた。その先……ムサシ先生の後ろにはセシルに似た誰かもいる。銀髪に右眼が青、左目が赤のオッドアイにしてるのヤバい。ちなみに双子の女主人公セシリーはオッドアイが逆になるから。
思わず、私は差し伸べられた手を掴もうしたんだけど……
「……あれ? 私の事をヒート=ラインバルトって……」
私の手がいつもよりもゴツゴツしてただけじゃなくて、声も男性の声……ヒート=ラインバルトの声優の声が、私の台詞の通りに声が出てるから。
「そうだが……大丈夫なのか? セシル=エンドールの一撃で記憶が混濁してるようだな。ここが何処なのか分かるか? 一応、医務室に行った方が良さそうか」
「それなら僕が……」
ムサシ先生? だけじゃなく、セシル? も心配して、私の方に歩み寄ろうとしてくる。ムサシ先生とセシルも全く同じ声だし……
セシルとヒートの戦闘終了後、CGでセシルがヒートの頭に木刀で一撃を与えるシーンがあるんだけど……私の頭痛は酒のせいじゃなくて、木刀で頭を叩かれたせいなの!?
私は自分の体の至るところを触れてみる。本来の私の体と全然違う。なんなら、男性にあるべき部分もある!?
という事は……私がヒート=ラインバルトになってるの!? 酒の飲み過ぎで、【テアワン】に異世界転生なんてある? 鏡があるなら、すぐに確認したいんだけど!!
「ヒート様!! ご無事ですか!! 私の事が分かりますか!?」
セシルを押し退けて、駆け付けてきたのは【テアワン2】で仲間になるヒートのメイド。本人だとしたら、彼女の名前は……
「……モモだよね?」
「良かった。ヒート様は私がお運びしますので、後の事はお任せください」
モモはムサシ先生とセシルに頭を下げて、私を担ぎ上げる。二人の戦闘後、ヒートがどうなったのかは描写されてなかったけど、モモに医務室に運ばれた?
彼女はヒートのメイドなんだけど、ブレイブ学園の生徒でもあるから。制服じゃなくて、メイド服を着てるから、生徒と知った時はビックリしたのを覚えてる。
【テアワン2】だと攻略キャラの一人に昇格してる。メイドという事もあって、ヒーラーかと思いきや、職業は暗殺者。桃色のロール髪で、小柄で百四十センチ、【テアワン】の中で一番背が低い。情報収集や隠密、罠解除にも役立ってくれたキャラで、ヒートが主人公に対して勝負を仕掛ける時、何かしらの罠があるのはモモの仕業だった……じゃなくて、そんな彼女に担がれ、運ばれる姿を周囲の学生達に見られるのは恥ずかしいでしょ。
「ちょっと!! 本当に……」
体に寒気が走るような視線を感じて、その方向に目をやってみると……そこにいたのはメシア様!!
メシア様似の誰かじゃなく、本人。声を聞かなくても分かるから。佇まいもそうだし、モニター越しに感じてた雰囲気と同じイメージ。
彼女に会えた興奮で血の気が上がり、頭の痛みも相俟って、フラッと意識がまたしても飛んでしまった。