フィギュア大混戦
今回は写真部がフィギュアの買い出しに行くお話です。
昼休みの体育館裏、上下左右を見回し、周りに人がいないことを確認してから口を開く。
「3回だよ、3回も会ったよね、あの黒霧の怪物!」
両手に力をこめ、上下に大きく振って話を切り出す。
「そうじゃな。」
私のテンションに対し、冷静なカメラのヨウセイこと、カメじぃ。
「なんなの? あの黒い霧をまとった怪物は?」
「あやつらは邪念に満ちたカメラに支配された傀儡と言うべき者じゃろうか?」
腕組みをし、少し首を傾かせ答えるカメじぃ
「傀儡? じゃ、原因はその邪念に満ちたカメラってこと?」
「そうとは言い切れん、心陽がカメラ好きという純真な心のおかげで変身できるように
そのまた反対で邪念に満ちた心が、黒霧をまとった原因なのやもしれん」
左手で右ひじをささえ、右手でアゴをさわりながら私は考える。
「それとなんで私が変身できて、私のこの力はなんなの?」
「う~む、ワシの見立てでは、おぬしのカメラに対する素直な気持ちが…」
「だったら、写真部のみんなだってカメラへの熱意はスゴいよ?」
「となると、やはりワシとの関係性が重要なのかもしれん」
両手を腰に当て、胸張り答えてくるカメじぃ。
アゴをさすっていた手を頬に添え、質問を続ける。
「結局、カメじぃって何者なの?」
数秒沈黙が続き、カメじぃの姿勢がしだいに丸まっていく。
「いや~、ワシも記憶が飛び飛びでな。
前にも言ったが、心陽の幼少期の記憶などもあるから、おぬしの祖父に関係があるのだとは思う。」
「おじぃちゃんか、おじぃちゃんのカメラをさわってからだもんねカメじぃと会ったのは」
「うむ…、ワシは目覚めてからボンヤリとだが、自分のなすべき使命みたいなものは感じとる」
再び手を腰に当て、胸を張るカメじぃ
「なすべき使命?」
「うむ、心陽が黒霧の怪物を浄化した際に回収する、きらめく結晶【ピュアメモリ】というんじゃが、
それを集めなくてはならんと感じとる」
「【ピュアメモリ】って何なの?」
再びカメじいが丸くなり、頭をななめにする。
「アレを回収すれば、心陽、おぬし自身のパワーアップにも繋がる、それとワシの記憶の断片も蘇っていく
感じがするのじゃ」
両腕を下ろし、カメじぃに頭を下げる
「ごめんね、カメじぃ。記憶が飛び飛びのところにあれやこれやと聞いちゃって」
「無理もないわい」
私は両手を背中で組み、地面を足でなぞりながらしゃべり続ける
「身近なところまで危険が迫ってきてさ、私、急に怖くなってきちゃって」
カメじぃが目の前に飛んでくる
「黒霧の怪物に臆せず、おぬしはカメラ好きという純真な気持ちを持ち続けることが肝心じゃ、
それがおぬし自身の力になるはずじゃ、ワシもフォローするし、キバっていこう」
「そうだね、あの白黒のネガポジワールドに包み込まれたとき、周りのみんなは記憶がないみたいだし
自由が利くのは私たちぐらいだから、警察も頼れないしね。」
両者決意を新たに固めたところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
放課後、私は写真部部室の前に立っていた。
先日の妹が盗撮被害にあったことで、改めて妹と私の部活動について相談した。
妹はかたくなに私の活動を優先してきかなかったので二人で決め事をした。
一人では帰らないこと、もし、友達と帰れない場合、学童クラブに行き、私の迎えを待つこと。
この2点を決めることで、先日のような状況を回避しようと決めたのだ。
そんなわけで、仮入部中の写真部に来たわけだが、妹のことを考えると後ろ髪惹かれる思いで
写真部の扉に手を伸ばせずにいた。
ガララッ
元気のよい声とともに、扉は開かれた。
「っぉ! 写田さん! お疲れ様!」
「お、お疲れ様です。」
右手を肩ぐらいまでかかげ挨拶をしてきたのは須川君だった。
「ちょうどよかった、これからみんなとフィギュアを買いに行くんだ!」
親指立て、背中の方をつんつんと差しウィンクしてくる。
親指の立てた方向には、両手をめいいっぱい広げ、大げさな挨拶をしているタケチ
敬礼ポーズのマッキー、眼鏡をかけなおすしぐさをするあーちゃんがいる。
「フィギュア?」
私が不思議そうにそう尋ねる
「モデルの代わりさ、タケチが買いに行きたいって」
「マクロレンズで撮ると良い感じに撮れるんだぜ~!」
とタケチがカメラのレンズを絞るような仕草をする
「フィギュアには興味ないけど、ジオラマは作ってみたかったのよね」
あーちゃんが肩を小刻みに揺らしてほくそ笑む。
「なるほど! 被写体を撮る良い練習になりますね! 楽しそう!」
と私は写真部のフィギュアの買い出しに同行することにした。
「理解が早い! それでは一同しゅっぱーつ!」
と号令を唱えるようにマッキーが腕を大きく前にかざす。
全蓋式アーケード商店街、入口から50mぐらい入った所に目的地の模型店はあった。
その簡素な入口はガチラボ模型と書かれた立て看板が立てられていなければ、お店であることが分かりずらい見た目であった。
少々不気味な薄暗い入口を通り抜け、中に入ると、店内は蛍光灯で明るく照らされていた。
店内はフィギュア臭というのだろうか、独特の匂いに包まれており、不快ではない、どこか懐かしさを感じた。
入口からは想像ができないほど、細長い店内の壁には所狭しとディスプレイ用のフィギュアケースが並べられている。
そのフィギュアケースの中にはいろいろなフィギュアが飾られていた。
「あるねあるね~」
と両手をこすり合わせ、肩を上下に動かしながらテンション高めなタケチは足早に店内の奥へと消えていった。
私は店内を覆うように敷き詰められているフィギュアに圧倒されていた。
どこから見始めたら良いのか分からないぐらい個性豊かなフィギュアが飾られている。
中には幼少期に見ていたアニメのフィギュアなんかもあったりして懐かしさもこみ上げてくる。
フィギュア鑑賞に夢中になり、方向転換しようと振り返った瞬間に肩をぶつけてしまう。
「っぁ、ごめんなさいっ!」
「こちらこそ、ごめっ…」
肩をぶつけた相手は、先日隣の学校の案内をしてくれ、妹が盗撮被害にあった際も、相談してくれたツインテールの少女だった。
「っぁ、この前はどうも」
「そんな、大したことしてないって」
「フィギュア好きなんですか?」
「探し物があったんだけど、ここにはなかったみたい、あなたのお目当てはあった?」
「私は付き添いで来ただけなんですけど、いろいろ良いものがありすぎて目移りしちゃって」
「そう、出会いは巡り合わせだからね、あなたに合った掘り出し物があるといいね」
「はいっ!」
そう言い残すと、ツインテールの少女は手を振り去っていった。
フィギュアで埋め尽くされた店内を物色しはじめ、何分たったのだろうか
いまだに全部見切れていないのに疲労感が出てきた、それほどにここの商品数はスゴイのだろう。
「あれ、タケチは?」
と須川君がタケチを探し始める。
一番ノリノリで買う気満々で来たであろう本人の姿が見当たらない。
「さっき、店長と話して奥に入っていったの見たよ」
とマッキーが答える。
「そろそろ時間も、時間だし連れてくるわ」
と須川君が店内奥に入ろうとした瞬間、全身を走る悪寒にさらされた。
その瞬間 「ドューーーム パシャッ」 と重低音と共に、乾いたシャッター音が鳴り響いた。
間違いない! 邪念カメラだ! あの禍々しいカメラのシャッターが切られたのだ。
すぐさま写真部員の無事を確認するため、足早に店内を移動する。
あーちゃんはいる、マッキーも無事、店内奥に入ると須川君がいた。
しかし、先にここの奥の部屋にきていたはずのタケチの姿が見当たらない。
あーちゃん、マッキーも奥の部屋に入ってくる。
ここで私は困惑する、先ほどの全身を走る悪寒は邪念カメラのだと予想したが
空間は白黒のネガポジワールドに変化していないし、周りの写真部員は普通に動いている。
その違和感に頭を悩ませていると、背後からけだるげな低い声がした
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
さきほどタケチと話していた模型店の店長だった。
「すみません、うちの部員がここに入っていったのを見たんで、探しに。」
と須川君があたりを見回しつつ答える。
この奥の部屋、改めてみると、店内にも負けず劣らずフィギュアが点在している。
先ほどの店内と明らかに違うのは、紫色の蛍光灯が部屋を照らしており、怪しさただよう見た目になっているところだ。
「ほら、いないだろう、早く出て行ってくれ」
扉の位置からこちらを手招きするように気だるげに促してくる。
「ちょっとまって~」
マッキーはそういうと携帯を取り出し電話をかけ始めた。
ブーーー ブーーー
携帯のバイブレーションの音がここの奥の部屋から聞こえてきた。
「君たちもフィギュアが好きなんだよね、こんなにあるフィギュア
に囲まれて写真を撮りたくないかい?」店長が話を持ちかけてきた。
その手に持たれていたカメラは邪気に満ちており、危険に気づいた私は、
「友達を探しているので」と先を急ぐことを話し、部屋を出ようとするも、扉の前で食い下がる店長。
「いいじゃない、お店に来た記念、普段この部屋には誰も入れないんだよ?」
首から下げたカメラを手でなぞりながら上目遣いでこちらを見てくる店長
「友達のタケチを探しているんです! これはタケチの携帯、
店長、タケチはどこですか?」
と須川君が店長を問い詰める。
「いいから、撮影を…」とカメラを構えこちらに向けてくるも
「店長!答えて下さい!」と詰め寄る須川君
その瞬間
「うるさーーーっぃ黙って写真撮らせろよ! フィギュアは反論しねーんだよ!
俺様のいう事を聞け!」
その暴言と同時に、扉を閉め、鍵をかけた。
私達は店長の豹変ぶりに恐怖し、たじろいだ。
「いいよーその表情! 恐怖、旋律を感じたその表情こそ至高。
僕はね、長年フィギュアを愛でている間に飽きてしまったんだ、決まった表情、
同じ笑顔。顧客へ媚びるだけの単調なフィギュアにね!
あんなの魂が感じられない! 響いてこない、ここが! 胸が!
湧き上がる衝動を満たしてくれない!」
異常な熱の入りようを見せつつ、カメラ片手に熱弁する店長
写真部員達はあっけにとられ、ただただ呆然と聞くしかない。
「ふふふ、そんな時にね、このカメラに出会ったんだ。見てよ、これ」
店長はポケットの中から1体のフィギュアを取り出し見せつける。
「タケチッ!」須川君が叫んだ。
なんと、店長の手にあるのは、つい先ほどまで行動を共にしていたタケチの姿をしたフィギュアだった。
「すごいだろー撮ったその場でフィギュア化! プリンターも必要なし!
手軽で場所も取らない理想のカメラを手にいれたんだよ。」
両手を広げ天を仰ぐように、天井を見つめた後、再びカメラに手をうつしこちらをのぞき込んでくる店長
「さぁ、一人じゃかわいそうだ皆も撮らせてよ」
「やめてください! タケチ君を返して!」と私が言って入ると
「つべこべうっせーんだよぉおらぁ! フィギュアは俺様のいう事を聞いてればいいんだよー!」
瞬間的に店長を禍々しい黒い霧が包み込む。
パシャッ
視界が一気に狭くなり、体の力が抜け、視線は天井へ向かう。
何秒、いや何分経ったであろうか、私は呼び起こす声のおかげで目を覚ました。
「こりゃ、しっかりせんかい心陽!」
私の頭を揺らすカメじぃ
「いた、いたた、何があったの?」
頭をさすりながら、周りを見渡す。
すると、倒れた時に頭を打っておかしくなったのかと思うような光景が広がっていた。
デカい。先ほどまでいた紫の蛍光灯がたかれる奥の部屋が何十倍ものサイズにデカくなっていたのだ。
「え? これどうなっているの!?」と慌てふためく私に対し、カメじぃが答える。
「あやつの邪念カメラによって撮影され、おぬし達の姿がフィギュアサイズまで縮小してしまったんじゃ」
「うっそ!」と体中を一通り触るが、異変があったのは体のサイズのみで、
フィギュアのような構造のおもちゃになったわけではなかった。
「すまんが、ワシ一人の力ではおぬし一人しかかくまえんかった」
「そう、あの店長のカメラやっぱり邪念カメラだったんだね、寸前まで黒い霧に覆われてなかったから油断しちゃったよ」
「心陽、やれるか?」
「うん、試してみる!」
カメじぃの問いかけに答え、机の柱に隠れながら声をあげる
「フォトチェンジ!」
まばゆい光と、はじける音とともに私の姿が変化する。
フィギュアサイズまで縮小してしまっていた私の体であったが、なんとかピュアフォトンへチェンジすることはできたようだ。
「テーブルの上にある、フォギュアショーケースの中にみんながいるかもしれない」
頭上、はるか高くにそびえるテーブルの上にどうやって行こうか悩んでいると
「心陽、以前使ったレフ版の力を応用するんじゃ」
普段からふわりと浮いているカメじぃが私に語り掛ける
「レフ版の力の応用?」
レフ版という私の言葉に連動したのか、
パシュン というはじめる音ともに私の背中に飛行機の羽のようにレフ版が装着された。
「わっ、何これ?」突如出現した背中のレフ版に驚くも、カメじぃは私に説明を続ける。
「背中から力を解放するような意識を持って飛ぶんじゃ」
ヒュルリヒュルリと身をひるがえしながら、飛ぶのは簡単かのように言ってくるカメじぃ
「背中から力を解放って言ったって」
目を閉じ、やや中腰になり、全神経を背中に集中させると、足が床から浮いていくのが分かった。
音もなく、どういう原理なのかはまったく分からないが、目を開いた瞬間に私の体は浮いていた。
運動神経がたいして良くない私は、すぐにバランスを崩しそうになり、両手を大きく振って体をのけぞらせた。
「わっ ぁわわわわー!!」
勢いよく何回転か宙がえりしたところで、カメじぃが私の体を支えて、バランスを保ってくれた。
「コレ、意識を集中させるんじゃ」
「ええーっ 飛ぶのなんて初めてだからさ~」
「ほれこっちじゃ」
ピューっと先を飛んでいくカメじぃ、遅れをとらぬよう意識を集中させカメじぃのあとを追った。
左右へ体を揺らしながらも、なんとか進行方向をコントロールできるようになった私はテーブルの上に降り立った。
テーブルの上は、オレンジ色のつぶつぶの砂で敷き詰められたジオラマの床が広がっており、
ひらけた荒野のような見た目になってた。
邪念カメラを持つ店長に見つかると大変なので、なるべく凹凸のある岩陰の段差に身を屈めながら写真部員を探していく。
「カメじぃ! あんまり先に行かないで!」
私はカメじぃを呼び止める、普通の人には見えないカメじぃも、邪念カメラを持つ相手には見えている可能性は捨てきれない
仲間を見つけ出すまでは慎重に進まなくてはならない。
先ほどから、一定間隔ごとに上空を確認するのだが、私たちを縮小させた張本人である邪念カメラの持ち主である店長の姿が見当たらない
不安もそこそこに、ジオラマの木々を潜り抜けるとそこには仲間たちの姿があった。
無造作に倒れている4人のフィギュア、急いで駆け寄り状況を確認する。
直立ポーズのまま横たわっている仲間達のそばにくると、仲間たちの視線と口が動いていることが確認できた。
「どうなってるんだよー おぃ~」タケチが大声でボヤいている
「っく、動けないっ!」マッキーが食いしばりながら口にする
「いったい何なのコレは~」とあーちゃんが声を震わす。
「どうしてこんなことに」と視線を上げた須川君と目が合った。
「よし、心陽、みんなをスキャンするのじゃ」
シーっと、口に指をあて、横たわる4人に静かにするように指示した後、4人を画角に収めるように指で四角を作った。
シャーー っという音とともに全身が光に包まれていく4人
光が収まっていくとともに、直立ポーズだったのが、自然体なポーズへと変化していった。
「あ、ありがとう! あ、あなたは!?」と目をパチクリさせ、私をのぞき込んでくる須川君
まさか自己紹介するときがくるとは思ってなかったが、自分の変身後の名前を考えていた私は恥ずかしながらに答える。
「ピ、ピュアフォトン…です。」
「天使…」とボソりとつぶやくあーちゃん
「いや、そんな天使なんかでは…」と両手を目の前であたふた振る。
「そんなことより…!」と今の状況を4人に説明した、自分達がフィギュア化され、ジオラマ世界の中にいることを。
「そうだ! 店長に店の奥に通されて、それからカメラを向けられた後に気を失ったんだ」とタケチが事のいきさつを話す。
「心陽! あやつがきおったぞぃ」
なんと店長は自分自身も縮小化して、ジオラマ上を歩いてこちらに向かってきていたのだ。
「うわっ カメラが浮いている!?」とマッキーが両手を上げてのけぞり驚く。
「っぇ、カメじぃが見えるの!?」
私は驚き、口に手をあてる。
「え、さっき心陽って?」
須川君が岩陰に隠れつつ言った
「えぇい、話はあとじゃ、はよ隠れぃ!」
全員が岩陰に隠れたことで、カメじぃがギリギリ店長を確認できる位置へ移動し話はじめた。
「助かる方法は店長を浄化するか、あのカメラを再度使えば元に戻れるかもしれん」
「私の力じゃ、無理そうなの?」
「おぬしの力で回復できるのは、今のように動けることまでのようじゃ、あやつの邪念の力が強すぎる!」
「そう、じゃ、店長のカメラを拝借しないとね!」
私は決意を固め胸に手を当てる
「話は分かった、僕らも手伝うから何でも言ってくれ!」
小声でも熱意の伝わる申し出をしてくれた須川君、心強い。
「うぉおおおーー!」
ものすごい雄たけびとともに岩陰から飛び出る人物が一人、店長めがけて猛ダッシュする。
タケチだ。
店長へと勢いよく詰め寄ることは出来たが、周辺には身を隠す遮蔽物がないタケチは無防備同然。
冷静にカメラを構えた店長はシャッターを切った
ズッキューーン 空間を凝縮するような重低音が鳴り響き、タケチは直立ポーズのまま横たわってしまった。
「また突っ走りやがって! 何やってんだよ!」とマッキーも飛び出そうと腰を上げた瞬間その手を止める須川君
「見ただろ! 今闇雲に突っ込んでもタケチの二の舞になるだけだ!」
須川君はマッキーを強引に下げ、再度身を隠す。
「はーっはっは、他のみんなも出ておいで! 私のコレクションにしてあげるよ!」
店長は両手を広げ天を見上げ、高笑いを続ける。
「一度向こうの森林地帯へと移動しよう! あの辺なら隙をつくことができるかも」
眼鏡をかけなおす仕草をしてあーちゃんが提案してきた。
「確かにそれならチャンスがあるかもしれない!」
マッキーが再び中腰になり、すかさず森林方面へと移動していく。
私は須川君と、あーちゃんと目を合わせ、皆でうなづくのを確認した後、マッキーの後に続いていく。
「ここかな~!」
店長は岩陰をのぞき込んだが、そこには誰もいなかった、私たちは数秒早くその場を走り去っていたのだ。
一定間隔に配置されている山岳部を店長の死角になるように走っていく。
森林地帯にそろそろ到達しようという時に、雑草に見えていた草原部分の床が突如として浮かび上がった。
ピピーーッ!
「隊長ターゲット発見いたしましたー!」
甲高い笛音とともに迷彩軍隊服を装備した軍隊フィギュアが大声で店長へ伝達する。
「そんなところにいたのか~!!」
店長の走ってくる足音が近づいてくる
「伏兵!? みんな早く森の中に隠れて」
マッキーは叫び手を仰ぎ、私たちが森林部へ駆け込むのをフォローする
必死に森林部へ身を隠すように走る。
パシュン
振り返ると、軍隊兵の放った捕縛玉に絡めとられたマッキーの姿があった。
「マッキー!」
須川君は叫び駆け付けようとするが、あーちゃんが服を引っ張り静止させる。
「あなたたちは逃げて!」
あーちゃんは須川君の背中を押し、私に頼むように頭を下げた。
「逃がさないんだよな~!」
ズキューン ズキューーン
黒い邪光に射抜かれたマッキーとあーちゃんは直立不動になり横たわってしまった。
「くっそ!」
ドンっ! と木を叩き、もどかしさをぶつける須川君
「おちついて、ここなら死角をついて不意打ちができるかもしれない」
肩を大きく揺らし、息絶え絶えに伝える。
「あやつらの増援も考慮せんと、カメラを奪取するのは厳しいぞぃ!」
最大限に息を殺して木に身を隠しながら店長の姿を伺う。
増援の軍隊兵もじりじりと距離を詰めてきている
須川君は足元に転がる小石を拾う
「囲まれちゃったな……僕が注意をそらした瞬間にカメラを奪いに向かう、君はそのスキに逃げて!」
握った石を2、3度、手の上で放り、握りなおし、こちらを見つめる。
「わかりました、だけど私も援護します!」
大きく深呼吸して、息を整え、決意のこもった表情で須川君を見つめなおす。
「OK、分かった。サンキュー、じゃ、僕が合図を出すからその時はヨロシク頼むぜ!」
「うん!」
「みんな待っているよ~ 早く出ておいで~!」
地面におちている小枝を踏み鳴らす音が近づいてきている、もう見つかる!その瞬間
須川君が小石を放り投げた!
パサりっと小石が落下する音が響く
「そこかぁーーい!」
ズキューーン
邪念カメラのシャッター音が鳴り響き、邪光が誰もいない空間を射貫く。
「今だっ!」
小さく覇気のこもった声を出し、店長目掛けて走り出す須川君
私も、木から身を乗り出し画角決めポーズで狙いを定める。
俊足な須川君は店長の背後に回り込むことに成功し、その手が邪念カメラに届く
「隊長ー! 後ろです!」
軍隊兵がそう叫んだ
すかさず私はピースフォースを軍隊兵にお見舞いする!
ピシューーン ピシューーン
店長の両サイドを陣とっていた軍隊兵を射抜き、邪念の光が体から浄化されていくのが見えた。
須川君は!
「てっめ、このやろっ! 放せ!」
「放すものかっ! みんなを解放しろっ!」
店長と、邪念カメラの奪い合いでもみ合いになっていた。
店長めがけてピースフォースを撃とうとさらに接近したその時、軍隊兵のさらなる増援が後方に待機しているのを目撃する。
「須川君! 離れてー!」
敵の増援に対し、ピースフォースを打ちつつ、須川君に逃げるように伝えたが遅かった。
増援の軍隊兵に背後から羽交い絞めにされた須川君は店長から引きはがされ、その直後、邪念カメラに射抜かれてしまった。
パシューン パシューン
私めがけて捕縛用のネット弾が打たれてくる、超低空飛行で瞬間的にそれらを避け、再び森林内へと非難した。
「みんな、やられちゃったよ……どうしよう、敵が多すぎる」
店長とのシャッターの切り合いになったとしても、敵の増援の援護射撃でこちらが先に行動不能になる確率は高い
真正面からの打ち合いは不利だ、唇をかんで必死に状況を打破する方法を考えているとカメじぃがひらめいた。
「そうじゃ、心陽! あやつらの戦術を真似すれば良いんじゃ!」
「戦術を真似!? どういうこと!?」
「あやつらが増援を呼んだように、こちらも増援を作れるやもしれん!」
「そっか! なるほど!」
カメじぃの提案した作戦は、この部屋にあるフィギュアで自分の援軍となってくれる者を探し出すということだった。
超低空高速飛行で森林部をくぐりぬけ、ジオラマの終端部分、テーブルの端まで到達した。
見下ろしたその先にあるダンボールの中にフィギュアが無造作に積み上げられている、あの中に味方になってくれる者がいるかもしれない。
テーブル上から滑空し、ダンボール内に入った私は、フィギュアを探した。
商品パッケージに包まれているのはダメだ、今の私の力では封を切るほどの力はない。
そんな中、パッケージングされていないフィギュアを見つけた。
それは偶然にも私の知る幼少期に見たアニメキャラクターであった。
「マジリッチ戦士 ピュアガール」幼少期に見ていた変身美少女アニメだ。
【出会いは巡り合わせだからね、あなたに合った掘り出し物があるといいね】と
店内でツインテールの少女の放った言葉が脳裏に蘇ってきた 私にとっての最高の巡りあわせかもしれない!
「お願い! 力を貸して、フォトンスキャニング!」
シャラララーーン
軽快な音とともにピュアガールの体がまばゆい光に包まれていく。
ピュアガールが瞬きをした! 成功だ!
両手を胸の前で合わせ、ピュアガールの第一声に期待を膨らませる。
シュバッ
天高く飛翔、身をひるがえし着地し、戦闘ポーズで身構えるピュアガール
「ここは……?」
こぼれんばかりの笑みを浮かべピュアガールを見つめ続ける私は、見とれてしまって状況説明するのを忘れてしまっていた。
「ピュアガールさん、私はピュアフォトン、あなたに助けてもらいたくて呼ばせてもらいました」
「うん、さっき、私の体が光に包まれていた時、一連の流れは伝わってきたよ」
「私に力を貸してくれますか?」
「もちろん! あの禍々しいカメラをどうにかすればいいんだよね!」
「はい!」
「っほほ! 心強い味方ができたのぅ」
空中でくるくると回転してテンションがアゲアゲのカメじぃ、私も憧れのヒロインとともに共闘できるなんて
夢のようだと感じていた。
「こちらです」
再びテーブルの上のジオラマ地帯に戻ってきた私とピュアガールは、雑木林越しに見える無数の軍隊兵と店長を目視した。
「なかなかの数だけど、やれないことはないね!」
右手を握りしめ、ぐっと腰に引き付けやる気満々のピュアガール
「本当ですか! あの邪念カメラにはくれぐれも注意してください」
「OK! ピュアフォトン、あなたの力も信じてるよ! 援護よろしくね!」
「わ、わかりました!」
「さぁ! 行くよ!」
ドンっと地面を蹴り、残像が残るほどの速さで駆け出したピュアガールは敵地へと到達した
「よくも今まで散々な扱いをしてくれたねぇ!」
威勢よくそう叫びながら店長の周りを囲う軍隊兵を蹴散らしていくピュアガール
うぉぉわっ ぶへぇえっ のわっ
低い男の叫び声が次々と鳴り響く。
「捕縛弾 ってーい!」
パシューン パシューン
軍隊兵の掛け声とともに捕縛用のネット弾がピュアガールめがけて飛んでいく
「そう、やすやすと!」
体を左右へ振り、稲光のごとき素早さでネット弾を避ける
私も遅れをとらぬよう後方射撃を開始する
「ピースフォース!」
ピシューーン ピシューーン 2体を無力化
気づけば、残るは店長のみとなっていた。
じりじりとお互いの間合いを取り合うピュアガールと店長。
「フィギュアごときが俺様にたてつこうたぁ! 生意気なんだよぉ!」
シャッターを切り、混沌に包まれた邪光がピュアガールの体を射貫いた。
「私は、私なんだよ!」
射抜いて見えていたのは残像だった、高く飛翔したピュアガールはそのまま店長めがけてキックをした。
ガスん!
「いってぇ、てんめぇチキショー!」
「ピュアフォトン! いまだ!」
ピュアガールの掛け声に大きく頷き、最大集中のピースフォースを放った!
「ピースフォース!」
ピシューーン
邪念カメラと共に店長を射抜いた浄化の光は次第に広がっていき、写真部員達も包み込んでいく。
店長の体から放出される光の中からピュアメモリを回収した。
私の体も邪念カメラの効果が切れてきたのか、体中から光が天に向かって放たれてきた。
「ピュアフォトン!」
ピュアガールが、駆け寄り私にウィンクをした。
「一瞬だったけど、あなたとのコンビ最高だったよ」
と肩を上げるピュアガール
「私も、憧れだったあなたと一緒に戦えてよかった!」
夢のような共闘に終わりを告げるように、意識がだんだんと薄れていくのが感じられた。
「最後に、1つだけわがまま言ってもいいかな?」
茶目っ気なウィンクしつつ、私の耳元でピュアガールは囁いた。
気が付いたら、私たち写真部員達は模型店の奥の部屋で横たわっていた。
次々に目覚める写真部員達、店長も眠りから目覚めたようだ。
起きていく様をドキドキしながら見つめていた私は、次に聞く部員達のセリフにほっと胸をなでおろすことになる。
「あれっ、なんでこんな所で寝てたんだ」
「タケチ、お前を探してここまで来たんだぞ~」
どうやら邪念カメラの一連の記憶はないようだった。
「あれ、私もどうしてココに。」
店長もボソりとつぶやく。
「っさ、時間も時間だし目当てのフィギュアを買って、早く帰ろっ!」
そう私が部員に声をかける。
お会計を済ませた私の買い物バッグの中にはピュアガールがいた。
ご評価いただけますと幸いです。
よろしくお願いします。
次回はピクニックのお話です。