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カメラ天使ピュアフォトン  作者: 白木 玲
3/12

プライバシーの権利

須川君から写真部へのオファーをもらった心陽


はたしてどうなるか

須川君からの直々の写真部へのオファー。


私は嬉恥ずかしで、身じろぎしながらあれやこれやと思いを巡らせるが、ふと我に返る。


「返事はちょっと待ってくれませんか、家庭の事情がありまして…」


「そう、うちはいつでもウェルカムだから、ゆっくり考えてみて~」

そう気さくに話すと須川君は自席に戻っていった。


「家庭の事情って?部活禁止にされているの?」

とゆりちゃんが聞いてきた。


「そうじゃないの、うち、両親がいないから家事とかしなきゃならなくてさ」

頬を指でかきながら、家庭事情を説明する。


「ごめんなさい、私、全然知らなくて」


はっとして申し訳なさそうに謝るゆりちゃんにすかさずフォローを入れる。

「全然、気にしないで!」


気にしないで、という言葉を使う時点で、自分自身が一番気にしているのだ。


それを見透かされているのか放課後の帰り道にカメじぃが話しかけてくる。


「おぬし、写真が好きなのじゃろ?じゃったら、家族に相談してみたらよいんじゃないか?」


「うん、考えてみたよ、けど、それを言ったらきっと負担をかけちゃうと思ってさ」


うちにはまだ小学生の妹のナツミがいて、私たち姉妹は、母方のおばの元で3人で暮らしている。


おばは仕事で帰りが遅いので、夕食の準備などは私がしている。


その状況をカメじぃに説明し、うつむいたまま帰路を進んでいく。



「状況は分かった、しかし、おぬしがすべてを背負いこむことはないんじゃないか?

 家族なら、一度相談してみるべきじゃ」


「そうかな、わがままにならないかな」


「おぬしの写真好きは、カメラを通して伝わってきとる。好きなことを簡単に諦めたらいかんぞぃ」


「…ありがとう。じゃ、伝えてみるよ」



夕食の食卓にて短いポニーテールで、あどけなさが残る妹のナツミに打ち明けてみる


「私ね、今日、写真部に入らないかって誘われたんだ、けど断っておく。」


「なんで? お姉ちゃんカメラ大好きでしょ?」


きょとんとした顔で、箸を止め、私を見つめるナツミ


「うん、カメラは好きだけど、ウチはさ、家事もやらなきゃでしょ?」

負担を強いてしまうような後ろめたさを感じつつ口にする。


「家事なんて大丈夫だって、私だって食事の支度ぐらいできるし、心配いらないよ」

想像した通り、ナツミは私を気遣ってくれた。


「そう? 洗濯も掃除も任せちゃうかもしれないよ?」


「うん、まかせなさい! お姉ちゃん今までやりたいこと我慢してたでしょ?

 だからこれからは好きなことやってもらいたいんだ~」

献身的な妹の申し出に目頭が熱くなる。


「ありがとうナツミ、それじゃ、前向きに考えてみるね。」



登校中の足取りが軽い、やはり私は写真部に入りたかったのだと改めて認識する。


「理解のある、しっかり者の妹でよかったのぅ」

と私の横を浮遊するカメラのヨウセイが話してくる。


「本当、しっかり者の自慢の妹だよ」

リズミカルにステップをする。


「んふふ、また独り言かしら?」


気が付くと背後にゆりちゃんがいた。

私は慌てた様子で手を大きく振る。


「えへへ、ちょっと嬉しいことがあってね」


「言わなくても分かる、顔に書いてあるもの」

ゆりちゃんはそう言うと、私の顔を覗き込んでくる。


「入部、決めたんだ。」

私は目を見開き、本当に顔に書いてあるのかと驚きながらも

ゆりちゃんの言葉に続ける


「妹が入ってもOKって言ってくれてさ」


「っじゃ、今日から写真部としての新生活の始まりだね」

とゆりちゃんは私の背中を押してくれた。



ガヤついている教室内、授業が始まる前の生徒同士の談笑で賑やかな音に包まれている。

私は写真部のことで頭がいっぱいだった。


ガラガラッ と教室の扉を開く音と同時に先生が入ってくる


「ほらー 授業始めるぞ~ 席につけ~」


という先生の合図とは裏腹に、教室は笑い声に包まれた。


「先生なんスか? その恰好~ウケる~」

と、クラスのお調子者が先生をイジる。


ふと先生に視線を移すと、確かにプッと吹き出してしまいそうな格好だった。


担任の福山先生は真ん中分けのヘアースタイルに眼鏡、真面目一辺倒といったたたずまいが印象の方なのだが今日は違った。


Yシャツの襟が垂直に立っており、いつもとは真逆のワイルドさを醸し出していた。


先生の真面目な表情と、主張する襟とのアンバランス感に生徒たちは笑っていたのだ。


クラスのお銚子者がスマホを手に取りパシャっと写真を撮り

「先生~ カメスタにUPしてもイイっすか~?」と笑いながら冗談まじりで質問する。


カメスタとは、巷で話題の写真投稿型のSNSアプリだ、若者を中心に流行っていき、カメラ好きも愛用している。


先生は笑いながら慌てて襟を直し


「コラ!無断でアップロードするんじゃないぞ!肖像権の侵害にあたるからな!」


「なんスかそれ?」


「みんなにはプライバシーの権利というものがあって、その中に肖像権というものがある。

 無断で写真を公開するなどもコレに抵触する恐れがあるから気を付けるんだぞ~」


ぽけ~っと事の成り行きを見ていた私だったが、カメラを扱うものとして気をつけねばならぬことだと肝に銘じておくことにした。

他愛のない、クラスの談笑も勉強になることがあるものだ。



放課後、私は須川君に写真部入部の件について話しかけた。


「あのぅ~ 須川君」


「あ、お疲れ、写田さん! 入部の件、考えてくれた?」


帰り支度の最中の須川君は手を止め笑顔で応対してくれた


「そのことなんだけどね、一度仮入部っていう形で参加させてもらえないかな?」

私の考えだした答えは、仮入部してみて、妹も含めた私生活で問題がなければ入部するというものだった。


「OK!そのほうが部活の方向性と、写田さんがやりたいことの照らし合わせができて良いよね、仮入部OKだよ!」

さわやかな笑顔で返答されると、写真部の部室まで案内してもらった。



教室半分くらいの広さで、教室とはどこか違った香りのする写真部部室


部室に入ると3人の部員が中にいた。


「あ、あなたが新入部員候補の?」

と大げさ振りに問い、中腰構えになる長身の男子 

「俺は斉藤 健夫 さいとう たけお タケチって呼んで」と自己紹介をしてきた。


続けて、小柄な男子がなぜか敬礼をして自己紹介をし始めた

「僕は山島 正樹 やましま まさき マッキーでよろしくです」


そんな敬礼男子に「なんで敬礼?」っとボソりと突っ込みを入れる小柄なメガネ女子が続ける

「私は鈴木 亜子 すずき あこ あーちゃんでいいよ。」


いきなりの怒涛の自己紹介に驚きながらも、慌ててお辞儀をする。

「私は写田 心陽 です。よろしくお願いします」


「写田さんは、今日は仮入部ってことで来てもらったから、皆よろしくね!」

と須川君が付け足してくれる。


サササっと鈴木亜子こと、あーちゃんが駆け寄り、耳元でささやく

「きっと気に入るよ、この部活、自由だから」

と肩を動かしほくそ笑む。


「それじゃ、今日は校内撮影でもしに行こうか!」

須川君は写真部一同を見て提案する。


「あいあいさー」と長身のタケチ


「ラジャ」と再敬礼するマッキー


「ほぃ~」と気だるげに手を振るあーちゃん


私は再度、お辞儀をした。



校内をカメラ片手に写真部の方達と周り、写真を撮っていった。


写真を撮る気で校内を見渡すと、また違った見え方がするものだと思った。


なぜなら、隣にいる須川君がカメラのレンズについて、画角における印象操作等、カメラ撮影における

テクニックを親切に教えてくれていたからだ。


普段見慣れた校舎も、どう撮影しようか悩む素敵な被写体へと変化した。


撮影に集中していた私たちは、夕暮れになるまで夢中になっていた。


「お疲れ、今日のところはこれぐらいにしとこうか」

背伸びをしながら須川君が私に声をかける


「うん、とっても楽しかった、ありがとう」


「いつも撮影しっぱなしってわけじゃなく、部室でまったり写真の鑑賞会なんかもしたりするからさ

 また遊びに来てよ!」

そういうと須川君は手首でカメラを振った。


「鑑賞会、楽しそう! 是非今度参加させてください~」


「個性豊かな写真が見れるよ ふひひ」

と肩を上げてあーちゃんがほくそ笑む。



部活動の楽しさの余韻にひたりつつも、夕暮れの中、足早に帰路を辿る。


「少し遅くなっちゃったかな。」


「楽しそうじゃったな」


「カメじぃこそ、嬉しそうじゃなかった?」


「ふむ、カメラ好きの同士じゃからな、話を聞いているだけでも楽しかったわい」

と言いつつも、須川君のカメラ知識に付け加えて、耳元でウンチクを言い続けていた事実は私しか知らない。


「ただいま~」

帰宅すると、いつもならすでに家にいるはずの妹、ナツミがいないことに気づく。


「夕飯の買い出しにでも行っとるんじゃないか?」

呑気なカメじぃの予想を聞き流す。


最近、行方不明のニュースが流されているのを思い出し、不安に駆られた私は妹に電話した。

「……出ない」

荷物を置き、私はあわてて妹を探しに通学路を巡っていく。


家から小学校への道中のちょうど中盤にきたところで、抱えていた不安が確定的なものとなる。


ッザっと体中に悪寒と、重苦しい圧縮感を感じた。


「ドューーーム   パシャッ」 と重低音と共に、乾いたシャッター音が鳴り響いた。


先日から感じるようになった、あの黒霧の怪物が出現するときのアレだと思った私は

邪気を強く感じる方へ急行する。


現場へ到着した私が見たのはうずくまっているナツミの姿だった。


すぐ異常事態だと察した私は叫んだ

「フォトチェンジ」

まばゆい光に包まれた私の体はピュアフォトンへと変化した。


パシャパシャッ とドス黒い光の光線が発せられ、妹のナツミの体を包み込んでいく。


「ぁぁ、ぅうぅう」

ナツミが苦しそうにうめき声を上げる


すぐさまナツミの前に割って入った私は、レフ版シールドでドス黒い邪光から妹を庇う。


「あそこじゃ、心陽」

カメじぃが一方向を指さした


そこには遮蔽物に隠れながらナツミを撮影する黒霧の怪物がいた。


「なんでこんなことを!」

私はピースフォースと命名した画角を決めたポーズで発せられる光線を黒霧の怪物に浴びせながら接近する。


邪光を発していた光源が突如2つに増え、私を襲う。


「2台持ち!?」


「気を付けい心陽、近づきすぎるとあやつの邪念に飲み込まれるぞぃ」

カメじぃの忠告を受け、いったん距離をとり、遮蔽物に身を隠す。


その間にも、ナツミに向けてシャッターを切り続け、邪光を発し続ける黒霧の怪物。


ナツミのそばに設置したレフ版シールドもいつまで耐え続けられるか分からない。


焦った私は、再び飛び出し黒霧の怪物を画角に収め、ピースフォースで射貫く


「ぐぅぅおおおぅぅ」

身をひるがえした黒霧の怪物から数枚の写真がこぼれ落ちた。


「あやつから何か落ちたぞぃ、アレをスキャンするんじゃ」


「分かった!フォトンスキャニングー!」

私の合図と同時に、画角を決めた両手からピースフォースとは異なる光の柱が流れ出る。


地面に落ちた数枚の写真を捉えた瞬間、写真に幽閉された者たちの助けを求める声が聞こえてきた。

同時に、写真に幽閉されるまでの過程が脳内に流れ込んでくる。


夕刻の路地裏にて、人々を選別するようなまなざしで見入る一人の男がいた。


通過していく人々の中から男は取捨選択したかのように少女達に声かけをしていた。


「お嬢ちゃん、モデルにならないかい?」


男は断る少女に対し、執拗にせまりカメラを向けシャッターを切った。

その瞬間、目の前にいた少女はカメラの中に幽閉されてしまったのだ。


一連の流れを見て、私は強い憤りを覚えた。


「なんてヒドいことを、捉えられた方たちすべて救い出します!」

強い語気を放ち、私は画角を決める。


「良い掘り出し物をあらかじめ精査しようってんだ、お眼鏡にかなえばデビューまでできる! ありがたいことだろう!」

邪念に満ち溢れた声が脳内に響き渡ってくる。


「独りよがりの戯言じゃな、心陽よ浄化してやるのじゃ」

カメじぃが勢いよく指差し鼓舞してくる。


「うん、こんなこと許せないよ! あなたのしていることは盗撮です!」


私は勢いよく地面を蹴り、黒霧の怪物へと距離を詰める


「撮られて嫌な人も嫌だと言えない、あなたはプライバシーの侵害をしている!」


黒霧の怪物から放たれる邪光を、体を左右に振り、寸前でかわし、射程圏内に入った。


「ピースフォース!」


キュピーーーンという輝かしい音とともに黒霧の怪物が光に包まれて消えていく。


「ぐうぅっぉおおわぁああ!」


白黒反転のネガポジワールドも解放された。


黒霧の怪物が手にしていた邪念に包まれていたカメラは消滅し、写真に幽閉されていた少女達も

解放された。


黒霧の怪物が浄化されていく光の中からピュアメモリを回収した。


怖い記憶が残っているためか、解放された少女たちは泣いていた。

学生服姿に戻った私はすぐさま少女たちのケアに回る。


「何があったの!?」


そこへ現れたのは、先日、隣の学校へ行った際にテニスコートへ案内してくれたツインテールの少女だった。


「そこの人が、この子たちを盗撮して……」

と、事情を説明する


「どうする!? 警察に突き出す?」

と強い語気で切り出すツインテールの少女に対し、私が返答に困っていると

黒霧の怪物だった男はあたりを見回した後に、空を見上げぼそりとつぶやく

「お、俺はいったい何を……」


「あなた、覚えてないの?」驚いて盗撮犯に聞き返すも

強い頭痛を訴え、スカウト中から記憶が飛んでると言う。


カメラで少女達を幽閉していたという超常現象を警察に説明しても

理解してもらえないだろうと思ったが、

警察に事情を説明してみるとツインテールの少女に話した。


後日、行方不明になっていた少女達の発見のニュースが大きく取り上げられていた。


私は黒霧の怪物の脅威が自身の妹にまで迫っていたことに危機感を抱くのであった。

評価していただけると幸いです。

よろしくお願いします。


次回はフィギュアのお話です。

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