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カメラ天使ピュアフォトン  作者: 白木 玲
2/12

シャッタースピード

ピュアフォトンへ変身できるようになった心陽


カメじぃとの奇想天外な一日が幕を開ける

昨日の出来事が夢であってほしいという希望は、耳元で騒ぐソレに打ち砕かれた。


朝の湿気に田畑の香りがほのかにかおり、虫の音が聞こえる。


いつも通りの静かな通学路なのだが、私の横で浮遊するカメラのヨウセイことカメじぃが異質な1日へと変化させてくれる。


ここがベスト撮影ポイントだの、画角がどうのこうのと私、写田心陽の通学は賑やかになっていた。


カメラ本体を置いてこうにも、このカメラのヨウセイが連れていけと聞かないので、仕方なくゴツいカメラを持って通学している。


下手に家に置いてきて、ポルターガイストのような現象を妹に見せるわけにもいかない。


カメラについての長々としたウンチクに適度に相槌を打っていたら、学校も目前にせまってきた。


カメラのヨウセイこと「カメじぃ」に、周りの人からはあなたは見えてないので、いちいち応答はしませんよと念押ししようと

口を開いた瞬間に背中から声が聞こえた。


「おはよう、写田さん」


何事かと言わんばかりに大振りを振って振り返ってしまった。


振り返った先には耳にかかる長い髪をかきあげる女子がいた。


「ぁわわわ、おは、おはようございます!」


カメじぃに対して返答しようとしていた寸前に声をかけられたため、リアクションが完全に挙動不審になってしまった。


幸い、カメじぃに対して物申している瞬間を目撃されていなかっただけマシだったかも。


「んふふ、どうしたの?」


「ご、ごめんなさい、突然でびっくりしちゃって」


「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど」


そう、普通の人なら驚きはしないだろうけど、カメじぃに気をとられていた私は話は別だ。


すぐさま、ここにカメラのヨウセイがいてね、ずっと私に話しかけてくるんだ~と冗談めかしく話したいのだが


新しくできた友達に最早変な人認定はされたくないのでじっとガマンをする。


「昨日言っていた写真、持ってきたよ~」


「ぁ、本当!? ありがとう~私も持ってきたよ!」


自己紹介の時にカメラが好きだと言ったおかげで、私にはカメラ友達ができたのだ



友成 ゆり 1年生のころは別々のクラスだったけど、カメラ好きという共通点で話が合い、仲良くなれそうな子。


背丈は私と変わらない150センチちょい、色白で透き通った肌色が目を引く。


髪の毛がカタあたりまで伸びていて、ふわっとしたエアリー感のある髪型でとてもかわいらしい。


そんなかわいらしい女子が、お互いにどんな写真を撮っているのか見せ合いっこしようと持ち掛けてくれたのだ。



中学校で初めてできそうなお友達、失敗したくない


小学校のころは友達がいなかったわけではないが、中学校の学区割が最悪なもので、私の住んでいる地区は

生徒の割合がすくなかったのだ。


もともと友達が多くなかったのに加え、友達を作るときはひとまかせだったのが原因で中学での友達作りは失敗してしまった。


特に何もせずとも友達はできるものと過信していたのが、今もクイの残る思い違いだった。


そんな友達作りに敏感になっている私は、声をかけてくれているだけで浮足立ってしまうのだ。


ゆりちゃんに見えないようにカメじぃに対してシーっとジェスチャーをして校内に入っていく。



時間というものは不思議である、退屈な時はぜんぜん時間が経過しないのに

興味あることや関心のあることに熱中している時はすぐさま経過していく。


今、まさにその不思議を感じているのは後者が要因となっている。

ゆりちゃんに見せる写真のエピソードを思い返していたら、瞬く間に授業が終わっていく。


時計はお昼を示していた。放課後にしようか迷っていたが、お昼休みでも大丈夫でしょと焦る気持ちがまさる私は

ゆりちゃんの席に向かっていた。


「お疲れ様~」


「ふふっ、お疲れ様、写真見せてくれるの?」

上辺使いの瞳をランランと輝かせ聞いてくれる


「うん、コレっ」布の巾着ポーチに入れた写真を持ち上げる

今の私は良い点数とったのでテスト結果を見せたげな小学生のテンションである。


私たちはお互いに写真を見せ合った、ゆりちゃんの写真はどれも素敵で、カメラ素人の私でもわかる出来栄えだった。

私の横で浮遊しているカメラのヨウセイさんも高評価していた。


「あの~ いいかな?」


二人のカメラ談義を割って入ってきたのは、須川君だった。

そういえば、昨日、須川君にも写真を見せるという話だった。


今まで忘れてた原因は話せたことで舞い上がって頭がパンク状態だったからだろう。

この上がりグセ、直さなきゃならないと思いつつもなんだかんだできてしまっている。


「おおっ いいねぇ~」

アゴに手をあてて私たちの写真を褒めてくれる、その手が次の瞬間、胸の前で合掌ポーズになるとは予想はできなかった。


「ごめん!お願いがあるんだけど~聞いてくれるかな?」


「私たちでよいのなら…」

優しいゆりちゃんが答える


合掌ポーズの須川君は片目を開け、こう続ける

「今日の放課後、テニス部の試合があってさ~新聞部に写真撮影頼まれてるんだけど、うちの部員別件の撮影で回れなくてさ

 その~代わりに撮影してくれないか?」


須川君はきれいにおじぎをしてお願いをしてきた、これほどまでに直球な申し出に断る理由があろうか


「ごめんなさい、私は今日、写真だけで、カメラは持ってきてないの。」

ゆりちゃんは申しわけなさげにこたえる。


「わ、私は持ってきてるよカメラ」

片手を垂直にピーンと伸ばすも、表情ははずかしさ半分で申し出る。


「っぉ、写田さん! じゃお願いしてもいいかな?」

カメラ自体を貸し出す案も一瞬考えたけど、カメじぃがなんて言い出すかわからないし、自分で申し出を受けることにした。

「うん!私でよければ」



放課後、テニス部の部室に行くと、すでに新聞部の方がインタビューをしているところだった。


インタビュアーの方が私を見て会釈をした。


「あなたがカメラマンの助っ人ね、私は新聞部の中村です。話は聞いてます、撮影よろしくおねがいします。」


キューティクルが輝くオカッパの髪型、眼鏡を人差し指で上げて丸眼鏡をキラリと輝かせた。


「私は写田です、こちらこそよろしくお願いします」

ゴツいカメラを肩まで掲げ挨拶を済ませる。


中村さんがテニス部員へインタビューをする。

「それでは今大会における目標をうかがってもよろしいでしょうか?」


スポーツ刈りのテニス部部長が座り直し、力んだ様子で答える

「もちろん、地区優勝です。今季で顧問の先生が定年退職されるので、今までお世話になった恩返しとして、結果で答えたいと

 思っています。」

凛として、決意のこもった表情を撮影していく。


中村さんはそれからいくつかの質問をした後に、私にウィンクをし、インタビューの終わりを知らせた。


「せかしちゃって申し訳ないけど、隣の学校で試合が行われるから、そちらの撮影もお願いしたいの」

「っぇ、わ、分かりました! 行ってきます!」


反射的に答えちゃったけど、結構時間のかかる取材になってしまうなと後々思った。

「ごめんなさいね、良い感じに試合の写真を撮ってきて」


中村さんのフランクなオファーを2つ返事で返し、隣の学校へ急いだ。



隣の学校に着いたものの、初めて訪れる校内の勝手がわからず、校門付近で右往左往してしまう。


「コレ、はよせんと、試合が始まってしまうぞい」


「そんなこと言ったって、初めて来たんだもん、どこにテニスコートがあるかなんて分からないよ~」

あわてていた私は、下校中の生徒の視線も気にせずカメじぃに言い訳をしていた。


すると落ち着いた声が私に呼びかける


「何か探しているの?」


呼ばれた方へ振り返ると、ツインテールの女子が不思議そうに私を見ていた。


「はい、テニス部の試合の取材で来たんですが、始めてきたもので…場所が分からず…」


「テニス部ね、なら付いてきて」

そういうとツイテールの少女は校内を案内してくれた。


「あなた、良いカメラ持ってるね」


「ぁ、コレ、おじぃちゃんのなんです、まだ使い慣れてなくて」


「そう? 持っている姿、ずいぶん様になって見えるよ?」


「そうですか?えへへ、ありがとうございます。」

照れながら頭をかいていると、カメラのヨウセイが腕を組みながら目の前に出てきて

「写真の腕前はまだまだこれからだけどな!」

と余計な一言を言ってきた。


「シーっ」と言いながら、目の前を払いのけるように腕を振る。


ツインテールの少女はきょとんとした表情で私を見た後に続けた

「っさ、着いたよテニスコート」


私は深々とお辞儀をし、ツインテールの少女に別れを告げ

試合の撮影準備に取り掛かった。


幸いまだ試合は始まっていなかったようだ。


「速い被写体を撮影する場合は、シャッタースピードを上げるんじゃぞ」


カメじぃは空中で寝そべりながら私に助言をしてくれた。


ゴツゴツカメラ初心者の私にとってはありがたい助言だ。

「シャッタースピードを…」


はて、このボタンでいっぱいのカメラのどこをイジればシャッタースピードを変えられるのかと

バッグに入れておいた説明書をパラパラとめくっているとカメじぃがフラフラ飛んできて教えてくれた。


そうこうしている間に両校の選手がコート中央に集まり、試合開始の宣言がされた。


鮮やかなテニスボールが高々と上げられ、豪快なサーブでコート上を飛んでいく。

「パァン」

高速で動く緑色のテニスボールがはじける音と共に打ち返される。


パシャパシャと何枚か撮っていて思ったが、テニスという競技は

これほどまでにスピーディーでパワフルなものなのかと感じた。


撮影者として至近距離で見せてもらっていることで

ボールの音、選手の息遣いまでもが聞こえてきて、迫力倍増だった。


そんな迫力を写真に残したいと奮起する私であったのだが、いかんせんまだカメラの調整不足のようで

被写体がブレブレの状態だ。


「こんな時にはスポーツモードじゃな」

カメじぃはふと思い出したかのようにカメラの指示をする。


「そんな便利なものがあるなら先に言ってよ~」

すぐさまカメラのモード切替をして、ラケットを振り続ける選手を撮影する。


撮影写真を見て、ばっちり被写体が移っていることを確認

「ありがとうカメじぃ、これでバッチリだよ」


被写体を写せるようになり、画角や構図にまでこだわってみようとあれやこれやとしていると

試合も中盤に迫ってきた。


両選手から滴り落ちる汗、息遣いも荒くなり、試合も大一番にさしせまろうとしているところに

先日クラス写真の撮影時に感じた悪寒を感じた。


「この感じ、この前と同じ……」


「ドューーーム パシャッ」


鈍い重低音と、シャッターを切ったような乾いた音が鳴った瞬間にテニスコートは白黒反転のネガポジワールドに飲み込まれてしまった。


「邪念カメラじゃ、心陽気を付けい」

そうカメじぃが危険を告げると、テニスコートを挟んだ向かいにおぞましい黒霧につつまれた人物がカメラを握っていた。


黒霧の怪物のカメラから発せられた邪光に包まれたテニス部員は苦しみ始める。

「うぅう… 」


「また黒霧の怪物が、早く何とかしないと」

私がそういうと、カメじぃが目の前に飛んできて叫んだ


「心陽、フォトチェンジじゃ」


「うん!」


声高らかに「フォトチェンジ」と叫ぶと

先日と同様にまばゆい光に包まれ私の姿はピュアフォトン(私自身で命名した)へと変化した


黒霧の怪物の手元にあった、カメラは黒いオーラをまとったラケットへと変化し、私に向かってサーブを打ってきた!


バスゥン


「痛いっ!」


ものすごい豪速球が私の体に炸裂した。


その衝撃でテニスコートの壁まで吹っ飛び、勢いよく体を打ってしまう。


「平気か心陽!」

カメじぃが心配そうにフォローを入れてくれるが、全然平気じゃない。


「いたた、変身して幾分か丈夫になっているからこれで済んでいるけど、かなりしんどい~」


「あやつの速球を避けるのは至難の業じゃ、シャッタースピードを上げて、やつの動きを見極めるんじゃ」


「シャッタースピード? カメラを持ってないのにどうやって?」


「感じるんじゃ、おぬしの目力、被写体を見つめる力を増幅させるんじゃ」


カメじぃの意味の分からない説明がされているうちに、黒霧の怪物は2球目のサーブを繰り出した。


バシュン


「きゃっ!」

再び私の体に激痛とともに豪速球が撃ち込まれ、体はテニスコートに打ちつけられる。


「イタタ、速すぎる!」


「恐れて目をつむってはならん、見るんじゃ!」


「そんなこと言ったって~」


黒霧の怪物は休む間もなく、サーブを繰り出し続ける。


幾度となく私の体を襲う打球、その打球が体を打つだびに念のような物が脳裏によぎってきた。


「勝ってほしい、先輩に勝ってほしい」


黒霧の怪物の念が流れてきた瞬間、私はテニス部への取材を思い出していた。


試合にかける想い、毎日努力して、正々堂々勝利を目指している、それなのに。


私は黒霧の怪物に強い憤りを感じた。


「こんなことをして勝利しても誰も喜びませんよ、正々堂々の勝負に、こんな水を差すような真似

 見過ごすわけにはいきません」


再びサーブを繰り出そうとしている黒霧の怪物を見る私の目に、恐れはなくなっていた。


バシューーン


タァーン


私は寸前で打球を避け、乾いた打球音がテニスコートに鳴り響く。


「そうじゃ、そのいきじゃ、心陽」


「見える、見えるよカメじぃ。こんな戦い早く終わらせなくちゃね」


両手を画角を決めるポーズにとり、黒霧の怪物にフォーカスを合わせる


「はい、ピース!」


ドシューーン と両手からまばゆい閃光が走り、黒霧の怪物を射貫く


すると、黒霧の怪物の胸部からわずかながら弱弱しい光がチラついて見えた。


「うごうぅう」


苦しそうにうごめく黒霧の怪物、しかしまだその手には禍々しいラケットが握りしめられている


「アレがあやつのコアじゃ、接近して最大光量で浄化するんじゃ」


「分かった」


「ぐぅおおお!」


最後の力を振り絞ったかのように猛き狂い、黒霧の怪物はサーブを繰り出す


「レフ版シールドじゃ!」

勢いよく目の前に出てきたカメじぃが両手を目の前に突き出し指示を出す。


「れ、レフ版しーるど?!」

訳も分からず、目の前に両手を突き出すと、まばゆい光につつまれた光の壁が両手を覆うように出現し

豪速球の玉を反射した。


反射した玉は黒霧の怪物をつらぬいた。


「今じゃ、最大光量をお見舞いしてやれぃ!」


「フォーカスオン、思い出して素直な気持ち、ピースフォース!」


キュフィーーーン


黒霧の怪物は私の生み出した輝きにつつまれ浄化されていった。


浄化された光の中からピュアメモリを回収した。


「スポーツは正々堂々とですね、ね、カメじぃ?」

「そうじゃな」



後日、校内の廊下に人だかりができていた。


先日取材協力した新聞の掲載日だったからだ。


「写真、すごくよかったよ!」

ゆりちゃんがそう言ってくれて、私は肩の荷が下りたかのようにほっとした。


「ありがとう、取材写真なんて初めてだったから緊張しちゃっててさ」


「躍動感のある写真で、本当にすごかった」


「本当、良かったよ写真!」

突然割って入る男子の声、驚いて振り返る先には須川君がいた。


「写田さんの写真、写真部の中でも大好評でさ、今回は本当に助かったよ」

満面に笑みで無邪気に話してくれる姿に、道中苦労があったとはいえ、嬉しくなる。


「お力になれたようで良かったです」


「それでさ、それでなんだけど、写田さんの写真をもっと見てみたいからさ

 正式に写真部に入部してもらえないかな?」


「ぇえ!? 私が!? 写真部に?」


驚きとともに怒涛の新学期が私の生活を目まぐるしく駆け巡っていく感じがした。

評価していただけると幸いです。

よろしくお願いします。


次回はスカウトマンのお話です

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