表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

逆に異世界からこっち来いよ

作者: あかさたな


第一話(最終回)


【前回までのあらすじ】


紆余曲折あって、大人気ゲーム「ダンジョン・オブ・インフェルノ(dungeon of inferno)」の世界に転生してしまった高校生の佐々木。彼は艱難辛苦の苦しみを乗り越え、仲間と侃侃諤諤の議論を交わし、なんとか現実世界へと戻るチートアイテム「メタライド」をゲーム内で開発し、現実世界への帰還方法を獲得した。

しかし、それは新たなる困難の幕開けであった………。


「よし………これで、ようやく!」

照りつける日差しの中、佐々木は汗を拭いた。彼は今、デロルガリア帝国の王城の庭で、手に入れた設計図をもとに、ようやくチートアイテム(だから本当はダメ)である「メタライド」を完成させたのだ。

「おー遂に完成か。ほほほ」

すぐそばで見ていた、デロルガリア帝国の王であるスピノハルカは、その不思議な乗り物をまじまじと見る。

「これで、佐々木様の元いた世界に戻れる……という訳ですか?やりましたね!」

「王国一のイケメン」と評され、佐々木とも苦楽を共にした大切な仲間であるフィリーも、何だか楽しそうである。

「よく分かんないけど、やったじゃん、佐々木ちゃん!」

同じく佐々木の冒険仲間であるミナリは、ぴょんぴょんとその場で跳ねるようにした。彼女のピンク色のツインテールが、上下に揺れた。

「こら、暴れるなミナリ」

ミナリのすぐそばで、赤い髪の大人びた女性が、落ち着いた声で注意する。モールドというのが、彼女の名である。

「これで、君は元いた世界に帰れるという訳か」

「ええ」

モールドの言葉に、佐々木は力強く頷く。

「僕は、本当の世界へ帰らなくちゃならない」

「佐々木ちゃん……、まじで帰っちゃうの?」

ツインテールのミナリは、ぴょんぴょん飛び跳ねるのをやめて言った。

彼女の瞳は、どこか悲しそうだ。

「佐々木ちゃんが元いた世界に帰れるのは嬉しいけど……やっぱり寂しいよ」

「ミナリ……ありがとう。でも、僕は帰らないと」

佐々木も辛そうな表情だ。

彼らの間に、切ない雰囲気が流れる。

本当なら、喜ぶべき場面であるはずなのに。

祝福すべき場面であるはずなのに。

「………………」

佐々木はゆっくりと「メタライド」の中へ乗り込む。彼はシートベルトを締め、そしてハンドルを握った。

(もうここへはいられない)

彼は泣きそうになる。

(僕は元いた世界に、帰らなければならない)

(どんなに別れが辛かろうとも、元いた世界へ………)

…………………。

佐々木は静かに、冒険の日々を思い出していた。

辛いことも楽しいこともあった、長いようであっという間だった冒険の日々を………。



「てか思ったんだけど」

佐々木はミナリの言葉に我に帰る。顔を上げて彼女の方を見た。

「こっちから、その佐々木ちゃんが元いた世界?に戻れるんならさ。佐々木ちゃん、たまにこっちに会いに来ればいいじゃん」

「は?」

聞き返す。佐々木には、ミナリの言葉の意味が咄嗟にはわからなかった。

「あ、それはナイスアイデアだな」

イケメンのフィリーも頷いた。

「そうですよ佐々木様。たまに会いに来て下さいよ。月一、いや、週一くらいで」

「え、週一?」佐々木は聞き返す。

「ほほほ。それがよい。気が向いたら、いつでも帰ってくるがよい、我らが勇者よ」

スピノハルカ国王はそう言うと、「ほほほほ!」と高笑いをする。

「というか佐々木。君はそもそも、どうやって『こちら側』へ来たのか?教えてくれないか」

モールドは落ち着いた声で佐々木に問うた。

「えっと、轢かれたんです。車に。交通事故で」

「じゃあ、その『車』?とやらに、また轢かれればいいんじゃないのか?」

「そんな無茶な」

佐々木は首をぶんぶんと振った。冗談じゃない。何を言ってるんだこの女は。

「しかし佐々木、君はそうしないと『こちら側』へ来れないのだろう?」

「モールドさん、それはそうなんですけど、ちょっとそういうわけには……」

「あ、じゃあ逆に、アタシたちが佐々木ちゃんのいた世界に行くっていうのはどう?」

ミナリが手をぽんと打って言った。佐々木がミナリの方を見ると、彼女はニカっと笑った。

「どう?名案じゃない?」

「いや、そりゃまずいだろ」

「んー?何が?」

「いや、君たち、本当の世界じゃまあまあ人気者なんだぜ。普通にまずいって」

「よく分かんない。何がまずいのよ」

ミナリは不満げである。

佐々木は頭を掻いた。

(しまった。面倒なことになったぞ)

「佐々木様、私たちが人気者というのはどういうことでしょうか?佐々木様の他に、私たちを知っている人間が、『そちら側』には沢山いるのですか?」

フィリーが不思議そうにする。

「不思議ですね。私たちは佐々木様のいた世界を全く知らないのに、佐々木様の世界の住人は、私たちのことを知っている……と?」

「いや、それはほら、ゲームだから」

「『げえむ』とは何ですか?三大鍛冶職人の一人である『マークロット・ゲイム』氏のことでしょうか」

「誰だよ」

「佐々木ちゃん、アタシも連れてってよ!連れてって連れてってー!」

「いや、それはまずいんだって。ちょっとモールドさん、ミナリになんか言ってやって下さい」

「佐々木、結局『車』とは何だ?」

「ググって下さいよ」

「『ググ』?『ミニロアード・ググ』の守護神のことか?」

「何ですかそれ」

「ほほほ。勇敢なる勇者よ、いつでも戻ってくればよい」

「あなた話聞いてましたか」

「佐々木様、失礼を承知で言わせてもらえれば、佐々木様が、佐々木様のいた世界を『本当の世界』と呼ぶのは、少々私共としては、何だか悲しいものが御座います。私共にとっては、『こちら側』こそが『本当の世界』なのです」

「それはマジでごめん」

「ねー連れてってよー!」

「いや、この車見てよ!これ一人乗りなんだから!」

「あ、それも『車』なのか?それに轢かれたのか、君は」

「僕が轢かれたのはもうちょっと大型のやつです」

「じゃあもうちょっと大型のを作ってよ!アタシ達も乗れるような奴を!」

「無茶言うな!」

「佐々木様。向こう側の世界に帰還されましても、私達のことは忘れないで頂きたいのです」

「そりゃ勿論」

「そうだ佐々木。君、お土産にベクダムの実のジュースを持っていったらどうだ?」

「そういうことすると、地球の生態系が壊れる心配があるので……」

「佐々木様、『チキュウ』とは何でしょうか?『イノ・バチキュウ・コーデム』氏のことでしょうか?」

「誰それ………」

…………。

………………。


【完】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ