107回目③
~pm8:55~
「ゴホッ・・ゴホ・・・召喚魔法・・ゴホ・“シャリ”・・ゴホ」
薄暗い樹海でソロル・ノウビシウムは煙に飲み込まれていった。
その中で呼吸を整える間も惜しみ召喚獣“シャリ”を呼び寄せた。
一本の鋭い角を持つ白い馬型の召喚獣“シャリ”は、何も言われなくともすぐに
低い体勢を取った。ソロルは“シャリ”に跨り強く握りしめ叫んだ。
「シャリお願い!」
ほぼ同時に背後から魔獣の雄叫びが聞こえ
「キキ!」
その瞬間バシュン!とソロルを乗せた“シャリ”はその場を離脱してた。
ジュバン!!と大きな音と共に魔獣の爪が地面を抉っていたが、
瞬く間に風上の煙幕外へ移動していたのだ。
「(うぅ!やっぱり眩暈が酷い・・)シャリ・・このまま“駿足”で・・行けるところまで・・・」
「ヒュヒーン!」
木々の合間を縫うようにソロルを乗せて走り出す“シャリ”。
「(こっちは風上、街の方角とも違う、シャリの“駿足”は十分ほどしか持たないけど、出来るだけ引き離す!)」
煙幕がはれていく中、動けずに居た魔獣は視界から消えた獲物を探していた。
鼻を小刻みに動かし、そして風上の方へ視線を送る。
風に乗って漂う獲物の臭いに反応しゆっくりと歩み寄り手近な木に手を掛けた。
魔獣は「キキ!」と鳴くと街と違う方向へ獲物を追い進みだした。ソロルの思惑通り。
ただ一つ大きな誤算を除いては・・・。
「(後8分このまま走り続けて出来るだけ街の遠くへ、最終的にはシャリの“気力”(MP)切れで追いつかれるけど、その前に私だけ木の上であいつをやり過ごせれば)」
「ヒーン!」
「シャリ・・!?」
バギ!
「キキキ!」
背後から木がなぎ倒される音と共に魔獣の鳴き声が響いた。
「嘘!早すぎる!まだ3分も走れてないのに!?」
後ろを振り返ったソロルの目に、木々を巧みに手で掴んでは自身の巨体を引き寄せ、
もの凄いスピードで追ってくる魔獣が映った。
「ブラキエーション!(しまった!あの魔獣は脚力より腕力に特化していたのね!これじゃすぐに追いつかれる!!)」
危機的状況を理解してか、“シャリ”はいきなり方向を反転させ最後の手段に打って出た。
遠心力で放り出されそうになるソロルを尻尾で支えそっと地面に落とし、
煙幕から離脱するとき使用したあの技能を発動させる。
「(瞬足!?)シャリ!!」
“肉体強度”特に“速力”の値が少ないと、その速度に耐えられず強い眩暈を起こす。
ソロルが乗っていない今、“シャリ”は最大出力で発動させた。
本来“シャリ”にとって“瞬足”は緊急避難用の回避技能ではない。
自身の鋭い角を相手の急所へ突き立てるための言わばトリガー。
技能を発動させた“シャリ”がソロルの前から消える。
ソロルの目ではその動きをとらえる事は出来ないが、魔獣に視線を移した。
そこには魔獣の胸に角を突き立て落下していく“シャリ”の姿が見えた。
ドスンと地面に落下した“シャリ”のもとに駆け寄ろうとしたが、
その瞬間戦慄が走る。
シュバン!
魔獣の鉤爪が“シャリ”を貫き、消滅させたのだ。
「(シャリが一撃!?つまり私も一撃で殺されてしまう)時間稼ぎはもうできない・・」
ソロルは茫然としながらも“鑑定”を使い自身のステータスを確認した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
氏名:ソロル・ノウビシウム 職業:召喚士(冒険者)
レベル:65 lv 年齢:20 歳 状態:普通
HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■□□
MP■■■■■□□□□□□□□□□□□□□□
技能:「召喚魔法(召喚獣:シャリ)」「召喚獣再生」
「空間魔法」「鑑定」
肉体強度:85 Rp 精神強度:105 Rp
命力:255 気力:315
体力:180 魔力:323
速力:155 知力:323
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そしてそのまま魔獣へ目を向ける。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
種族:猿魔獣オランアームレッド 個体番:13
レベル:166 lv 状態:普通
HP■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
MP■■■■■■■■■■■■■■■■□□□□
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「何度見ても絶望ね・・(シャリが倒されて“召喚獣再生”が自動発動してる・・シャリが召喚できるようになるまでは後数十分はかかるだろうし、シャリを召還出来て以来、他の召喚獣なんて成功したためしがない・・・ましてや残りの“気力”(MP)が少なすぎる・・・ユナ達が町に戻ってこの情報を基に、何とか体制を整えられれば被害を最小限で抑えられるかもしれない・・・)出来るだけ時間は稼いだよ・・」
ソロルは自分を陥れたアキトへの恨み辛みではなく、信頼する仲間への気持ちを抱き、
静かに死の覚悟を決めた。猿魔獣がゆっくり近づく中、ソロルは一筋の涙を零す。
キィィィィン!!!その時ソロルの頭に閃光が走り声が響く。
『召喚して!!』
聞いたこともない知らない声。でも確かに力強く。
直前まで無理だと諦めていた召喚魔法が今なら出来ると自信が溢れてくる感じさえした。
「魔法陣展開!!」
ソロルがそう唱えると、自身の身体が光り輝き確かな力が湧き出てきた。
今までにない感覚にソロルは成功を確信していた。
魔法陣の眩い光の中、猿魔獣は腕を振り上げる。
「召喚!!」
ソロルが技能を発動させた瞬間“気力”(MP)が全消費され、
身体から力が抜けていく。
意識が薄れていく中ソロルは確かに見た。
ガギーン!
シュパン!
動く二つの影を。




