スキル【回復魔法自動発動】の弊害から冒険者パーティを解雇された俺だが、【攻撃魔法威力究極強化】でヘッポコ魔法が二十万倍に。パーティに戻れと言われても誰が戻るかよ
遙か昔、俺の生きるこの世界に神が降臨した、其れも降臨の前まで世界最大の規模を誇っていた信仰対象でもなければ地方でひっそりと信仰されていたマイナーな神でも、頭のおかしい連中が悪事を行う理由にしている邪神でもない、只分かるのはその存在が世界中の人間の頭に直接声を届けた瞬間、誰しもが間違い無く神だと確信したし、降臨したって場所に行けば誰もが此処に神が降臨したって数百年経った今でも感じるって事だ。
……降臨した結果、何が起こったかって?
まあ、色々有るけれど、禄な事じゃ無いのは確かだって事だ。
「リオン、お前をパーティから外す。理由は言わなくても分かるな?」
俺の名はリオン・ジェード、十七歳。
少し陰気な感じがするってよく言われる見た目だ。
冒険者っつう日雇いでモンスターや盗賊退治っていう、本来なら税金から給料貰っている兵士の仕事の不行き届きの後始末をしたり、危ない場所に行って薬草を採取したりする職業をやっている身だ。
んで、そんな俺に対してパーティから外そうとしているのがリーダーのアレン、俺の実の兄貴、魔法も剣も得意で正義感の強いご自慢の八歳上のお兄様ってもんだ。
「さあね? 説明してくれよ、兄貴。姉貴達も分かってるなら教えてくれない?」
「え、えっとね、リオンはその……」
「冒険者に向いてないし、もう少し安全な仕事にしなさいって言っているの! ったく、アンタはどうしてひねくれた態度を取ってばかりなのよ!」
六歳上の双子の姉貴達で、大人しいのが上の姉貴のキュア、気が強くてガミガミ言っているのは下の姉貴でリーナ、んで俺は四人兄弟の末っ子で優秀な兄貴姉貴と比べられて育った落ちこぼれって奴だ。
「おーおー、分かった分かった。どうせ餓鬼の頃と同じ様に”この程度がどうして出来ない”やら”真面目にやれ”とでも言いたいんだろ? 天才達は違うねぇ」
我ながら自分が自分で嫌いなんだが、他に同年代の子供が居ないせいで優秀な自分達が基本、何でも出来る人達は何故出来ないのか理解するのは出来なかった、って奴だ。
「まあ、【身体能力強化】のスキルも取得出来ない上に魔力の放出量も制限された雑魚はおさらばさせて貰いますよ」
「待て、リオン! 俺がちゃんと次の仕事を見付けて……」
おうおう、兄貴は手際が良いってか、俺が従う事前提に動いてるな。
「何時までも鼻垂らした餓鬼でもねぇんだ、自分の仕事くらい自分でどうにかする。もう放っておけや」
村を出て冒険者になって、比較対象が増えたおかげで少しはマシになった兄貴達の認識。
自分達が優れていると知った後は他の連中じゃ危険な仕事を受けて大勢を救って、より大勢の為になろうと努力を重ねていった。
「リオン、落ち着け!」
「お願いだから話を聞いて、リオン」
「ちょっと待ちなさいよ!」
天才だからこそ可能な努力を重ねる天才達、そんなのに凡人が凡人に可能な努力を重ねた所でついて行ける訳も無く、顔も知らない誰かの為に危険を冒すって精神も持ち合わせていない。
その上、俺への認識は少し怠け癖のある弟から守らなければならない弟へと変わっちまった。
惨めだ、惨めでしかない。
だから俺は本気で俺の事を心配して言っている三人の言葉には耳を貸さずに家を飛び出す。
……ああ、本当に俺は世界中の誰よりも俺が嫌いで仕方無いな。
「ゴブリン退治ですね。しかし、この依頼は……」
俺達冒険者は大抵の場合、冒険者ギルドってのに仕事を回して貰うんだが、ズブの素人に危険な仕事を回さないのと同じで、新人に経験を積ませる為にも簡単な仕事を経験を積んだ奴にも渡さない。
今回俺が受けようとしているのはゴブリン退治、繁殖力は高いが知能と力は低いモンスターの群れの討伐依頼だ、兄貴達と相手をしていたドラゴンだのとは比較にもならない。
「……俺だけで受ける。どうせ祭の準備で浮かれてるんだ、新人は割の良い準備の手伝いに行って誰も受けないだろうが」
だからまあ、俺が受けようとしたら受け付け嬢は戸惑うが、俺一人だったら危険では無いって程度の内容、祭の準備にかり出されて受ける奴が居ないからかあっさりと手続きをしてくれた。
ゴブリンの巣の位置を渡された資料で調べ、少し歩いた先にある依頼者の村まで行こうとすると街中が騒がしい程に活気に満ちあふれている。
「神呪祭、世界に混乱をもたらした唯一無二の神を呪う祭か。……くっだらねぇ」
数百年前、突如降臨するなり世界中の人間の頭に話しかけた神によって今まで信仰されていた神の不在が告げられ、同時に魔法とスキルっつう特殊能力が人間に与えられた。
”他の世界の物語に出て来るし、実験だよ”、と与えた理由を告げたらしい神がしたのはそれだけじゃなく、人里離れた場所にのみ生息して縄張りからは出て来ない筈だったモンスターの種類と生息域を増やしやがった。
だから神に祈る祭は消え去り、代わりに祭を楽しむ口実にされたのが神への呪い、祈りの言葉ではなく恨み言を神に捧げる、それが神呪祭。
「待て待て~!」
俺の目の前を餓鬼の集団が走り去るが、その中の一人は頭一つ飛び抜けて速い。
そういったスキルを持ってるんだろうな。
「俺の【回復魔法自動発動】と違って使い勝手が良さそうだな……」
兄弟の誰もいないのに俺だけが持って生まれた固有スキル……他の奴が基本的に習得出来ない特別なそれの存在を知った時は嬉しかったし、兄貴達と肩を並べて戦えるって喜んだのを思い出し、自嘲の笑みが浮かんで来る。
結局はその固有スキルに足を引っ張られ、これから先は危ないからって一緒に戦わない道を示されたんだからお笑い草ってもんだ。
「ギャッ!」
「キキィ!}
どうも俺は悲観的過ぎるのかゴブリン共の巣に辿り着いても頭の中には自分自身への罵倒が浮かび、馬鹿だから俺が剣を抜いて近付いても逃げ出す様子も見せないゴブリン共に笑みを向ける。
「よぉ! 悪いが憂さ晴らしに付き合ってくれや!」
爪で引っ掻こうと飛びかかって来た一匹を殴り飛ばして地面に叩き付け、起きあがる前に首を剣で貫く。
仲間がやられたからか随分と興奮した様子なのを次から次へと切り捨て、もう直ぐ全滅って所まで行った時、其奴が姿を見せた。
使い古しのボロボロだが魔力を感じるワンド、他のより少しはマシな頭と魔法の適正を持ったメイジゴブリン。
「おいおい、あんなのが居るなら報告しとけっての。それとも調査部隊の怠慢ですか~」
他のよりはマシっつってもゴブリンレベルでの話、盾になる仲間の大半が死んじまってから出てくるのは馬鹿の証拠だ。
どうせ魔法も適当に撃つから簡単に避けてからぶった斬るのが普通だが生憎今の俺は不機嫌だ、だから性格の悪い倒し方をするとしようか。
「グギッ!」
正面から歩いて近寄る俺を不審に思う程度の知能はあったらしく警戒した様子でメイジゴブリンは魔法を放つ。
杖の先が光ると同時に拳大の石が俺に向かって飛んで来て、避けも防ぎもしないから当然命中、血が出る……前に瞬時に回復魔法が自動発動して傷を癒して、俺は驚いた様子のメイジゴブリンに近寄るなり足を払った。
「じゃあ死ねよ」
間抜けな顔で大きく開けた口に剣を突き刺して殺す、一流の冒険者なら最低限持っているべきスキルを一切習得していない俺でもこの程度なら楽勝だ。
ゴブリンの駆除は完了、最後の一匹だったメイジゴブリンを始末して五秒経った時、死体が消えて代わりに幾ばくかの硬貨が散らばる。
「スキルやらモンスターの群れを倒したら金が出てくるやら、異世界の物語ってのは不思議なもんだな」
スキルや魔法同様に神によって行われた世界の改変の一つに幼い頃から触れていても納得行かない物は納得行かない。
どうして死体が消えて金が出てくるんだと思いながらも拾い集めていた時、離れた場所に落ちていた硬貨に金貨が混じっているのを見付けた。
「ラッキー! 偶にこんな事があるんだからモンスター退治はやめられねぇぜ」
普段はボロい銅貨ばっかり落とすゴブリンだが、本当に稀に金貨を落とす。
今晩は美味い物でも食うかと思って近寄った時だ、横から鳥に金貨をかっ浚われた。
「……は? ざっけんな、ボケがっ! ライトニング!」
込み上げた怒りに任せて魔法を放てば出て来るのは腕くらいの太さの電流……但し普通ならばの話で、実際に出たのは親指程度の太さの電流、それも鳥に届く前に弱々しく消え去った。
「……糞が」
遠くに飛び去る鳥を睨みながら呟く、ああ、本当に腹立たしいぜ。
「糞みたいな固有スキルなんざ持って生まれなけりゃ良かったのに……」
俺の固有スキル【回復魔法自動発】はその名前の通りに自分と仲間が怪我をしたら即座に自動発動で回復させる、一見すれば便利なスキルだが、回復の規模は使える魔法に左右される。
俺、回復魔法の才能無いから初級のしか使えないんだよ。
しかも魔法ってのは一度に込めた魔力の量で威力が変わるんだが、放出量も多くはないのに自動発動する為に回復魔法の分が常時枠が埋まってる状態、攻撃魔法に注げる魔力はほんの僅かって事だ。
「……帰るか」
これもまた神の起こした改変の影響なのか依頼を達成したら自動で報告されるようになっている、だから特に証拠を集める必要も無く手ぶらで帰れるって……うん?
「……今、スキルを手に入れた?」
スキルの習得は才能によって成功率は変わるが、兎に角条件を満たせば良い物……【身体能力強化】もこれだ、俺は何百回繰り返しても習得出来なかったがな。
もう一つは新しい固有スキルの開花、何かの拍子に眠っていた才能が目覚める……まあ、俺程度の劣等感で腐りながらダラダラ生きていく程度の奴の才能なんてタカが知れているか。
それでも変な具合に発動しては困るからと頭の中に意識を集中すれば新しいスキルについて分かる。
常時発動タイプで名前は……【攻撃魔法威力究極強化】!?
「攻撃魔法の威力が……二十万倍!?」
絶対に有り得ない、何かの間違いだと思いながらも試そうと思った俺は前方に腕を突き出して、慌てて真上に向ける。
「ま、まあ、普通に何時もの威力が発動しても通行人に当たったらな? ……フレイムボール!」
本来は頭程度、俺の場合は拳程度の大きさの火の玉を出す魔法を発動すれば出て来たのは頭程度の大きさ、二十万倍で矢張り間違いだったみたいだが、これで兄貴や姉貴達と一緒に……。
「いや、ねぇな」
それだけは有り得ないと思い真上に向かってフレイムボールを放てば何処までも高く飛んで行き、上空で膨れ上がって空を赤く照らしながら周囲の雲を全て焼き払った。
「……マジか」
俺、本当に魔法の威力が二十万倍になっちまった。
こりゃ兄貴達を楽に超えたな……。
そして、それから暫く経った頃だ。
「リオン、冒険者として俺達のパーティに戻りたくないか?」
俺の前には俺をパーティから追い出した兄貴や姉貴達の姿、見るからにボロボロなクタクタ、見窄らしい姿は英雄視されている連中とは思えない。
戻りたくないか、か。
「戻る訳がねぇだろうが、寝言は寝て言え」
そう、俺は何と言われてもパーティには戻らないし、更に言うならば……。
「幾らドラゴンの群れと不眠不休で戦った帰りで腹が減ってても風呂も入らず着替えもせずに来るなんざ、弟の店を潰す気か!」
更に言うなら……俺は冒険者に戻る気さえない。
あのスキルを手に入れてから十年、兄貴達は更に英雄視され、俺は冒険者を辞めて飯屋を始めた、今じゃ結構な評判だ。
「あはははは。悪い悪い」
「顔を見たかったし、お腹も減ってつい」
「謝るからごーはーんー」
俺が戻る気が無い事に安心した様子でだらける三人に呆れかえる、そんなだらしない姿を見せるから結婚相手が居ないんだよ、特に姉貴達は強すぎて男が逃げるからな……口に出したら殴られるから言わないけれど。
「取り敢えずザッと作ってやるからバッと食ってさっさと家に帰れ。……ウチの餓鬼がアンタ達に憧れてるんだから変な姿は見せるなよ」
フライパンに油を入れながら三人に向けて言葉を掛ける。
取り敢えず俺が唯一結婚してるから俺の勝ちだな。
……魔法威力が二十万倍なのに冒険者を辞めた理由?
幾ら元がヘボでも二十万倍だ、どれだけ繊細なコントロールが必要なんだって話だし、アレを切っ掛けにさっさと諦めたわ。
良いんだよ、今が幸せなんだしよ。
口うるさい嫁とお転婆な娘が居て、偶に顔を店に来る三人の相手をして、俺はそれだけで満足だ。
だから……何を言われてもパーティに戻る気は無いんだよ、ボケ。
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リオン 主人公 一般的な冒険者よりは強いが周囲に優秀なのが多かったのでひねくれた 家族が大事
アレン 長男 剣も魔法も使える天才 家族が大事
キュア 長女 おっとり系 少し気弱 魔法が得意 家族が大事
リーナ 次女 キュアの双子の妹 気が強い 武術が得意 家族が大事