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ぼっち美少女の桜井さんは、無口な久我くんに癒される

掲載日:2021/07/29


 私は桜井柚李(ゆずり)。高校2年生。

 自他ともに認める美少女というやつです。


 ファンデいらずの真っ白な美肌に、つけまやマスカラいらずの長いまつ毛、色素の薄い茶色の瞳に茶色のサラサラな髪の毛。


 高校入学したその日には、各学年に名前が知れ渡っていたし、近隣の高校でも有名な美少女すぎる美少女。

 街を歩けばスカウトされまくるし、ナンパもすごいし、告白された人数なんてもう覚えていない。



 そんな私は、女として勝ち組! 幸せで充実した毎日を過ごしている



 ――――――わけない!!



 通ってる高校や近隣の高校にまで、名前が広まってる? だから何?


 校内歩いてても、電車乗ってても、駅のホームに立ってても、毎日毎日知らない人からジロジロジロジロ見られて、自分の行動をずっと監視されてるみたいで最悪なだけ!!



 街を歩けばスカウトやナンパされまくる? それのどこがいいの?


 どのお店に入ろうか、周りを見ながらのんびり買い物を楽しみたいのに、目の前に割り込んできてスピーカーのようにベラベラと喋り出す。

 断っても断ってもしつこく隣を歩いてくるし、やっと離れたと思ったらまたすぐに違う人が入れ違いでやってくる。

 すごい人は駅のホームまで余裕でついてくるし、まともに買い物すら楽しめない!!



 告白された人数を覚えてない? 自慢だとでも思う?


 休み時間や放課後は呼び出されて時間なくなるし、教えてないのになぜか家にまで来る人もいるし、教えてないのにスマホに連絡してくる人もいるし、とにかくめんどくさい!


 断ってもすぐ引いてくれればいいけど、何度も何度もしつこい人もいるし、逆ギレする人もいるし、ストーカーになる人だっている!

 いきなり自作のポエムを送られたり、盗撮写真をオリジナル加工した画像送られたり、ただただ怖い!!



 それだけ可愛い顔をしてるならいいじゃないか?

 なに贅沢を言っているのかって?


 私だって、もちろんありがたいとは思っているし親にも感謝してる。

 でも、正直ここまでの美少女じゃなくて良かったとも思ってる。


 だって、私は可愛すぎるという理由で女子の友達ができたことないから。



 メイクの話をしていたって「柚李には関係ないね。必要ないもんね」って言われて混ぜてもらえないし、クラスの女の子を可愛いって褒めたら「嫌味?」って言われちゃうし、みんながアイドルのことを悪く言ってたからうんうんって同意してたら「自分のが可愛いと思ってるんだね」って私だけ言われるし。


 可愛すぎるからって、写真を撮るときには誰も隣に立ってくれない。

 可愛すぎるからって、男女で遊ぶときには誘ってもらえない。

 可愛すぎるからって、並びたくない、遊びたくない、比べられたくない……ってみんな離れていく。



 話したこともない男の子に告白されて、「私の彼氏を誘惑した!」と怒鳴られたこともたくさんある。

 横を通り過ぎただけなのに、笑顔で笑いかけて惚れさせた男好きの女だと言いがかりをつけられたこともある。


 男子にモテればモテるほど、女子からは嫌われていく。


 そんな私は、友達が1人もいないぼっちだ。

 これのどこが幸せで充実した毎日だというの?


 

「おはよう! 桜井さん!」


「……おはよう」


「今日もめちゃくちゃ可愛いね!」


「……ありがとう」



 今朝も登校中からどんどん男子に挨拶をされていく。

 そして同時に感じる女子からの視線。


 笑顔で返事をすれば、女子から「男好き!」と言われるし、無視すれば「自分のこと可愛いと思って調子にのってる!」と言われる。


 笑顔を出さないようにして、優しすぎず冷たすぎずの態度で返事をしなければいけない。これが地味に疲れる。



 女子からは挨拶されることなく自分の教室に入ると、目に入ったとある人物の姿が私の心を一気に癒してくれた。

 


 あ……もう来てる……!



 窓際1番後ろ……私の隣の席に座る、久我奏太くんは今朝も1人で黙々と本を読んでいる。

 静かに近づいて自分の椅子を引くと、その音で私が来たことに気づいた久我くんがこちらを向いた。



「あ。桜井さん、おはよう」


「お、おはよう……」



 それだけ言うと、久我くんはすぐに本に視線を戻してしまう。


 昔から私の隣の席になった男子は、自分のことをずっと語ってくるか、私に質問をしまくってくるか、顔を真っ赤にして無言のままチラチラ見てくるかのどれかだったけど……久我くんは違う。


 私に必要以上に話しかけてこないし、顔も赤くしない。

 授業中チラチラ見てこないし、隠し撮りもしてこないし、物を盗んだりもしないし、不要なボディタッチもしてこない。



 基本ずっと本を読んでいる。私にまったく興味を持たない男の子。


 そんな久我くんの隣にいるときだけは、心から落ち着ける。

 

 身長は165cmくらい、中性的な顔であまり笑顔は見たことがない。

 美容室にあまり行かないのか、髪は少しもさっとしていていつも後ろに寝癖がついている。

 勉強も運動も普通で、クラスでは目立たない……本が好きな男の子。


 今日もそんな久我くんに癒されながら授業を受けていると、消しゴムを家に忘れてきたことに気がついた。

 


 ない! ない! 消しゴムがない!!

 どうしよう! これ提出するプリントなのに!

 ずっとこの漢字間違えて書き続けてたなんて……。直す箇所多すぎる……!



 チラリと隣に座る久我くんに視線を向ける。

 久我くんは聞いてるのかよくわからないボーーッとした顔で授業を受けている。



 久我くんに借りるしかないけど……無理!! 無理無理無理!!!

 恥ずかしくて声かけられない……どうしよう。

 休み時間になっても借りられる友達なんていないし、授業終わったら先生に言って貸してもらおう……。



 間違えた部分に二重線を引いていると、久我くんがジッと見ていることに気づいた。

 久我くんは私のプリントから視線を離すと、消しゴムを持って小さな声で尋ねてきた。



「忘れたの? 俺のでいいなら使う?」


「え……あ、ありがとう」



 受け取ろうと手を出すと、久我くんがそっと手のひらに消しゴムを置いてくれた。



 うわぁーーーーーー!!! 久我くんの消しゴム!! 借りちゃった!

 しかも『俺のでいいなら……』って。

 いいに決まってます!!



「あの。ありがとう……」



 ありがたく使わせてもらった後にお礼を伝えながら返すと、久我くんは「ん」とだけ返事をした。

 そんなあっさりな返答が、また私を安心させる。



 お昼休みになり、私は屋上に向かうため教室を出た。

 屋上には出られないけど、1番上の階段のところで毎日1人寂しくお弁当を食べているのだ。


 教室で1人で食べていると、男子が寄ってきて女子から冷たい視線を向けられるからである。

 友達がいないことを、久我くんに知られてしまうのも恥ずかしい……というのもある。


 久我くんと一緒に食べられたらなぁ……そんなことを考えながら廊下を歩いていると、階段の前に腕を組んで目をギラギラさせた先輩女子3人が並んで立っているのが見えた。



 あ……これ、嫌な予感する。



 先輩女子3人は、私に気づくなり近づいてきた。

 制服を着崩していて、メイクもバッチリ。オシャレで可愛い顔をした3人組だ。



「桜井柚李、ちょっと来て」


「……なんですか?」


「いいから。黙ってついて来て」


「…………」



 こっちの意見は無視ですか!

 お弁当食べたいんですけど! しかもなんで呼び捨て!?

 というか誰!?



 見たこともない先輩3人組は、黙ってついていく私を校舎の裏に連れ出し、壁に押しつけた。

 よく漫画とかで見かける、告白シーンかいじめシーンで使われるような場所だ。


 お決まりのごとく周りを囲われ逃げ場のなくなった私に、先輩の1人が文句を言い始める。



「あんたさぁ。後輩のくせに北澤に手を出すって何考えてんの?」


「……北澤?」


「はぁ!? 3年の北澤圭吾だよ!! 知ってんでしょ!?」



 知りませんけど!?!?

 え、誰!?



「あの……誰だか……」


「え? なにこの女。私は北澤なんて知りませんって? この学校で1番モテるのに? へぇ〜それはすごいですねぇ〜」



 真ん中に立っている先輩が、嫌味っぽい口調で睨んでくる。



 ……やってしまった。そんな人物だったのか。

 モテる男子の名前はしっかり覚えておかないといけなかったのに。


 モテる男子への接し方については、かなり細かい気遣いが必要なのだ。


 まず、できる限り会話をしてはいけない。

 会話、下手したら挨拶をしただけで、狙っているという噂を立てられかねない。


 興味ないフリや知らないなどと言ってはいけない。

 その人物よりも自分のほうが上だと思って調子にのってる、と言われてしまうからである。



 あぁ……なんて面倒な女子の世界……。

 


「あ、あの。その北澤先輩が何か……」


「だから、その北澤があんたのことを気に入ってるって言ってたの! 2年のくせにどんな手を使ったの!?」


「いえ、あの、話したこともないですし……」



 私がそう言うと、左側に立ってる先輩が大きな声で威嚇するように怒り出す。



「はあぁ!? 何それ!? 私は可愛いから、話なんてしなくても簡単に惚れさせられるって言いたいの!?」



 そんなこと一言も言ってませんけど!?

 なんですぐにそうやって、勝手に悪い方向に解釈するの!?

 


 こういった八つ当たりのような言いがかりは、昔からよくあることだ。

 どんなに違うと説明をしても、「自分のことを可愛いと思ってるから……」って悪く思われて終わりだ。



「お前ら、なにやってんだよ!」


「北澤!!」



 そこに、突然イケメンがやってきた。

 先輩たちの反応から察するに、彼がその噂の北澤先輩なのだろう。

 学校一モテるというだけあって、すらっとした長身にかなり整った顔をしている。

 

 漫画なら、ここはヒーローが助けに来てくれた! とトゥンク展開になるところだろうけど……実際はそんなことはない。



「北澤……違うの、これは……!」


「お前ら、こんな3人で言いがかりつけるなんて、柚李ちゃんが可哀想だろ!」



 柚李ちゃんーーーー!?

 いやいやいや! 話したこともないのに、なんで下の名前でちゃん付け!?

 しかも、あなたのことが好きな女子たちの前で!!


 ほらぁぁ!! めっちゃ睨まれてるじゃん私!

 


「文句があるなら、俺に言えばいいだろ!」



 そう言いながら先輩たちの間をすり抜けて来るなり、北澤先輩はスッとイケメンヒーローのように私を背中に庇った。



 あーーーーだめ!! やめて!!

 私を背中に庇うのやめて!!

 このシーン、男子から見たら『美少女が女の先輩にいじめられている可哀想な図』にしか見えないかもしれないけど、女子から見たら『男に庇われて被害者ぶってるムカつく女』にしか見えないから!



「彼女は何も悪くないんだ……。俺が、俺が……」



 え? ちょ、ちょっと……? やめてね?

 ダメだよ? その先をここで言ったらダメだよ……?



「俺が、勝手に彼女のことを好きになっただけなんだから!」



 言ったぁぁーーーーー!! 嘘でしょ!?

 ここで言う!? 私がなんで今ここに呼び出されてるかわかる?

 ここにいる女の先輩たちが、あなたのことを好きだからなんだよ?


 そんな人たちの前で私に告白なんてしたら、どうなるかわかってる? 

 わかってないよね? 

 

 漫画みたいにすんなり諦めてくれるとでも思ってる? 違うよ。

 もっとひどく執着されるんだからね!?



 女の先輩たちは、一瞬ショックを受けた顔をしたあと、すぐに私を鬼の形相で睨みつけてきた。

 『テメェ、この告白OKしたら許さねぇぞ』って顔をしている。


 そう。モテ男子から告白されたことを知られると、『告白断れよ団体』が動き出すのだ……。

 これがまたしつこい上に、嫌がらせのレベルもなかなかに高い。



 そんなこと、男子はわかってないし知ろうともしてくれない。

 

 こんなときは、背中に庇われたいわけでも愛の言葉を言ってほしいわけでもない。

 相手の女子に怒ってほしいわけでもない。


 こんなときには、ただ……



「桜井さん」


「……え?」



 思ってもいなかった声に、うつむいていた顔をバッと上げた。

 3人の先輩の後ろに、久我くんが立っている。



 え? え? 本物……?



「桜井さん、担任が呼んでたよ。早く行ったほうがいいかも」


「え? ……あ、うん。わかった」



 私は、その場で誰に向けてかよくわからないような会釈をして、ささっと間をすり抜けた。

 そして、ポカンとしている先輩たちを振り向いて確認することもなく、久我くんの後についてスタスタと歩き続ける。


 

「く、久我くん。わざわざ呼びに来てくれてありがとう」



 校舎に入り、廊下を少し進んだところで私は勇気を出してお礼を伝えた。

 久我くんはいつもの無表情顔で振り返り、無言のままこちらを見る。



「あ、じゃあ。私は職員室に……」


「ごめん。担任に呼ばれてるって嘘なんだ」


「え……?」


「桜井さん、困ってたみたいだから。嘘ついて連れてきちゃったけど、大丈夫だった?」



 少しだけ気まずそうに聞いてくる久我くん。

 その手に缶ジュースが握られているのに気づいて、あの近くに自販機があったことを思い出した。



 え? 嘘?

 あの場から私を連れ出すために……?



「大事な話をしてたっぽいのにごめんね」


「う、ううん!! 私、あのとき……ここから離れたいって思ってたから……。だから、すごく嬉しかった。本当にありがとう」



 私の言葉を聞いた久我くんは、優しい顔で笑ってくれた。

 その笑顔を見ただけで、さっきまでの嫌な気持ちがすべて浄化されるように、胸の中が温かくなる。



 さっきのような場面では、イケメンヒーローの登場で救われることはあまりない。

 女子からさらに嫌われるだけというオチである。


 女子から嫌われたって構わない、男子からモテればそれでいい、というタイプであれば問題ないだろうけど。

 私のような、女子にできるだけ嫌われたくないタイプには地雷だ。



 「やめろよ」とか「何やってんの」とか、変に口を出すこともなく……私だけを庇うようなことを言ったり、先輩たちを責めるようなことも言わずに、ただただあの地獄のような場所から自然に連れ出してくれた。


 そういうところだよ、久我くん。

 目立たなくてヒーローぽくないかもしれないけど、私にとっては誰よりもかっこいいよ。

 


「そういうとこが、好き……」



 すでに1人で歩き始めていた久我くんの後ろ姿に向かって、ボソッと呟く。

 久我くんがピタリと止まり、こちらを振り向いた。



「何か言った?」


「ううん。言ってないよ」



 誤魔化すように、笑顔で返事をする。

 私の笑顔を見ても、久我くんは顔を赤くすることもなく「そっか」とだけ言ってまたスタスタと行ってしまった。


 やっぱり私に興味を持ってくれない久我くん。

 でもそんなところが好きなのだから、仕方ない。


 興味を持ってほしくないのかほしいのか……。

 自分でも矛盾してるな、と思いながら、私も歩き出した。

 


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


初めての現実恋愛、楽しく書きました。



菜々

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