表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぼっち美少女の桜井さんは、無口な久我くんに癒される


 私は桜井柚李(ゆずり)。高校2年生。

 自他ともに認める美少女というやつです。


 ファンデいらずの真っ白な美肌に、マスカラいらずの長いまつ毛、色素の薄い茶色の瞳に茶色のサラサラな髪の毛。


 高校入学したその日には、各学年に名前が知れ渡っていたし、近隣の高校でも有名な美少女すぎる美少女。

 街を歩けばスカウトされまくるし、ナンパもすごいし、告白された人数なんてもう覚えていない。



 そんな私は、女として勝ち組! 幸せで充実した毎日を過ごしている



 ーーーーーーわけない!!



 通ってる高校や近隣の高校にまで、名前が広まってる? だから何?


 校内歩いてても、電車乗ってても、駅のホームに立ってても、毎日毎日知らない人からジロジロジロジロ見られて、自分の行動をずっと監視されてるみたいで最悪なだけ!!



 街を歩けばスカウトやナンパされまくる? それのどこがいいの?


 どのお店に入ろうか、周りを見ながらのんびり買い物を楽しみたいのに、目の前に割り込んできてスピーカーのようにベラベラと喋り出す。

 断っても断ってもしつこく隣を歩いてくるし、やっと離れたと思ったらまたすぐに違う人が入れ違いでやってくる。

 すごい人は駅のホームまで余裕でついてくるし、まともに買い物すら楽しめない!!



 告白された人数を覚えてない? 自慢だとでも思う?


 休み時間や放課後は呼び出されて時間なくなるし、教えてないのに何故か家にまで来る人もいるし、教えてないのにスマホに連絡してくる人もいるし、とにかくめんどくさい!


 断ってもすぐ引いてくれればいいけど、何度も何度もしつこい人もいるし、逆ギレする人もいるし、ストーカーになる人だっている!

 いきなり自作のポエムを送られたり、盗撮写真をオリジナル加工した画像送られたり、ただただ怖い!!



 それだけ可愛い顔をしてるならいいじゃないか?

 なに贅沢を言っているのかって?


 私だって、そりゃあ可愛い方がいいとは思う。

 でも、ここまでの美少女じゃなくて良かった。


 可愛すぎるという理由で、女の子の友達ができた事がないから。



 メイクの話をしてたって「柚李には関係ないね。必要ないもんね」って言われて混ぜてもらえないし、クラスの女の子を可愛いって褒めたら「嫌味?」って言われちゃうし、みんながアイドルの事を悪く言ってたからうんうんって同意してたら「自分のが可愛いと思ってるんだね」って私だけ言われるし。


 可愛すぎるからって、写真を撮る時には誰も隣に立ってくれない。

 可愛すぎるからって、男女で遊ぶ時には誘ってもらえない。

 可愛すぎるからって、並びたくない、遊びたくない、比べられたくない……ってみんな離れていく。



 話した事もない男の子に告白されて、「私の彼氏を誘惑した!」と怒鳴られた事もたくさんある。

 横を通り過ぎただけなのに、笑顔で笑いかけて惚れさせた男好きの女だと言いがかりをつけられた事もある。


 男子にモテればモテるほど、女子からは嫌われていく。


 そんな私は、友達が1人もいないぼっちだ。

 これのどこが幸せで充実した毎日だというの?


 

「おはよう! 桜井さん!」


「……おはよう」


「今日もめちゃくちゃ可愛いね!」


「……ありがとう」



 今朝も登校中からどんどん男子に挨拶をされていく。

 そして同時に感じる女子からの視線。


 笑顔で返事をすれば、女子から「男好き!」と言われるし、無視すれば女子から「自分の事可愛いと思って調子にのってる」と言われる。


 笑顔を出さないようにし、優しすぎず冷たすぎずの態度で返事をしなければいけない。これが地味に疲れる。



 女子からは挨拶される事なく自分の教室に入ると、目に入ったとある人物の姿が私の心を一気に癒してくれた。

 


 あ……もう来てる……!



 窓際1番後ろ……私の隣の席に座る、久我奏太くんは今朝も1人で黙々と本を読んでいる。

 静かに近づいて自分の椅子を引くと、その音で私が来た事に気づいた久我くん。



「あ。桜井さん、おはよう」


「お、おはよう……」



 それだけ言うと、久我くんはすぐに本に視線を戻してしまう。


 私の隣の席になった男子は、自分の事をずっと語ってくるか、私に質問をしまくってくるか、顔を真っ赤にして無言のままチラチラ見てくるかのどれかだったけど……久我くんは違う。


 私に必要以上に話しかけてはこないし、顔も赤くしない。

 授業中チラチラ見てくる事もないし、隠し撮りしてくる事もないし、物を盗んだりもしないし、不要なボディタッチもしてこない。



 基本ずっと本を読んでいる。私に全く興味を持たない男の子。


 そんな久我くんの隣にいる時だけは、心から落ち着ける。

 

 身長は165cmくらい、中性的な顔であまり笑顔は見た事がない。

 美容室になかなか行かないのか、髪は少しもさっとしてていつも後ろに寝癖がついてる。

 勉強も運動も普通で、クラスでは目立たない……本が好きな男の子。


 今日もそんな久我くんに癒されながら授業を受けていると、消しゴムを家に忘れてきた事に気がついた。

 


 ない! ない! 消しゴムがない!!

 どうしよう! これ提出するプリントなのに!

 ずっとこの漢字間違えて書き続けてたなんて……。直す箇所多すぎる……!



 チラリと隣に座る久我くんに視線を向ける。

 久我くんは聞いてるのかよくわからないぼーーっとした顔で授業を受けている。



 久我くんに借りるしかないけど……無理!! 無理無理無理!!!

 恥ずかしくて声かけられない……どうしよう。

 休み時間になっても借りれる友達なんていないし、授業終わったら先生に言って貸してもらおう……。



 間違えた部分に二重線を引いていると、久我くんがジッと見ている事に気づいた。

 久我くんは私のプリントから視線を離すと、消しゴムを持って小さな声で訊ねてきた。



「忘れたの? 俺のでいいなら使う?」


「え……あ、ありがとう」



 受け取ろうと手を出すと、久我くんがそっと手のひらに消しゴムを置いてくれた。



 うわぁーーーーーー!!! 久我くんの消しゴム!! 借りてしまった!

 しかも『俺のでいいなら……』って。

 いいに決まってます!!



「あの。ありがとう……」



 ありがたく使わせてもらった後にお礼を伝えながら返すと、久我くんは「ん」とだけ返事をした。

 そんなあっさりな返答が、また私を安心させる。



 お昼休みになり、私は屋上に向かうため教室を出た。

 屋上には出られないが、1番上の階段のところで毎日1人寂しくお弁当を食べているのだ。


 教室で1人で食べていると、男子が寄ってきて女子から冷たい視線を向けられるからである。

 友達がいない事を、久我くんに知られてしまうのも恥ずかしい……というのもある。


 久我くんと一緒に食べられたらなぁ……そんな事を考えながら廊下を歩いていると、階段の前に腕を組んだ状態で目をギラギラさせている先輩女子が、3人並んで立っていた。



 あ……これ、嫌な予感する。



 先輩女子3人は、私に気づくなり近づいてきた。

 制服を着崩していて、メイクもバッチリ。オシャレで可愛い顔をした3人組。



「桜井柚李、ちょっと来て」


「……なんですか?」


「いいから。黙ってついて来て」


「…………」



 こっちの意見は無視ですか!

 お弁当食べたいんですけど! しかも何で呼び捨て!?

 というか誰!?



 見た事もない先輩3人組は、黙ってついていく私を校舎の裏に連れ出し、壁に押しつけた。

 よく漫画とかで見かける、告白シーンかいじめシーンで使われるような場所だ。


 お決まりのごとく周りを囲われ逃げ場のなくなった私に、先輩の1人が文句を言い始める。



「あんたさぁ。後輩のくせに北澤に手を出すってなに考えてんの?」


「……北澤?」


「はぁ!? 3年の北澤圭吾だよ!! 知ってんでしょ!?」



 知りませんけど!?!?

 え、誰!?



「あの……誰だか……」


「え? なにこの女。私は北澤なんて知りませんって?

この学校で1番モテるのに? へぇ〜それはすごいですねぇ〜」



 真ん中に立っている先輩が、嫌味っぽい口調で睨んでくる。



 ……やってしまった。そんな人物だったのか。

 モテる男子の名前はしっかり覚えておかないといけなかったのに。


 モテる男子への接し方については、かなり細かい気遣いが必要なのだ。


 まず、できる限り会話をしてはいけない。

 会話、下手したら挨拶をしただけで、狙っているという噂を立てられかねない。


 興味ないフリや知らないなどと言ってはいけない。

 その人物よりも自分の方が上だと思って調子にのってる、と言われてしまうからである。



 あぁ……なんて面倒な女子の世界……。

 


「あ、あの。その北澤先輩が何か……」


「だから、その北澤があんたの事を気に入ってるって言ってたの!

2年のくせにどんな手を使ったの!?」


「いえ、あの、話した事もないですし……」



 私がそう言うと、左側に立ってる先輩が大きな声で威嚇するように怒り出す。



「はあぁ!? なにそれ!? 私は可愛いから、話なんてしなくても簡単に惚れさせられるって言いたいの!?」



 そんなこと一言も言ってませんけど!?

 何ですぐにそうやって、勝手に悪い方向に解釈するのよ!

 


 こういった八つ当たりのような言いがかりは、昔からよくある事だ。

 どんなに違うと説明をしても、「自分の事を可愛いと思ってるから……」って悪く思われて終わりだ。



「お前ら、なにやってんだよ!」


「北澤!!」



 そこに、噂の北澤先輩登場!!

 学校一モテるというだけあって、すらっとした長身にかなり整った顔をしたイケメンである。

 普通なら、ここはヒーローが助けに来てくれたー! とトゥンク展開になるところだろうけど、実際はそんな事はない。



「北澤……違うの、これは……!」


「お前ら、こんな3人で言いがかりつけるなんて、柚李ちゃんが可哀想だろ!」



 柚李ちゃんーーーー!?

 いやいやいや! 話した事もないのに、何故ちゃん付け!?

 しかもあなたの事が好きな女子達の前で!!


 ほらぁぁ!! めっちゃ睨まれてるじゃん私!

 


「文句があるなら、俺に言えばいいだろ!」



 そう言いながら先輩達の間をすり抜けて来ると、スッとイケメンヒーローのように私を背中に庇う。



 あーーーーだめ! やめて!

 私を背中に庇うのやめて!!

 このシーン、男子から見たら『美少女が女の先輩にいじめられている可哀想な図』にしか見えないかもしれないけど、女子から見たら『男に庇われて被害者ぶってるムカつく美少女』にしか見えないから!



「彼女はなにも悪くないんだ……。俺が、俺が……」



 え? ちょ、ちょっと……? やめてね?

 ダメだよ? その先をここで言ったらダメだよ……?



「俺が、勝手に彼女の事を好きになっただけなんだから!」



 言ったぁぁーーーーー!! 嘘でしょ!?

 ここで言う!? 私が何で今ここに呼び出されてるかわかる?

 ここにいる女の先輩達はあなたの事が好きだからなんだよ?


 そんな人達の前で私に告白なんてしたら、どうなるかわかってる? 

 わかってないよね? 

 

 漫画みたいにすんなり諦めてくれるとでも思ってる? 違うよ。

 もっとひどく執着されるんだからね!?



 女の先輩達は、一瞬ショックを受けた顔をしたが、すぐに私を鬼の形相で睨みつけてくる。

 『テメェ、この告白OKしたらゆるさねぇぞ』って顔をしている。


 そう。モテ男子から告白された事を知られると、『告白断れよ団体』が動き出すのだ……。

 これがまたしつこい上に、嫌がらせのレベルもなかなかに高い。



 そんなこと、男子はわかってないし知ろうともしてくれない。

 

 こんな時には、背中に庇われたいわけでも愛の言葉を言って欲しいわけでもない。

 相手の女子に怒って欲しいわけでもない。


 こんな時には、ただ……



「桜井さん」


「……え?」



 思ってもいなかった声に、うつむいていた顔をバッと上げた。

 3人の先輩の後ろに、久我くんが立っている。



 え? え? 本物……?



「桜井さん、担任が呼んでたよ。早く行った方がいいかも」


「え? ……あ、うん。わかった」



 私は、その場で誰に向けてかよくわからないような会釈をして、ささっと間をすり抜ける。

 そして、ポカンとしている先輩達を振り向いて確認する事もなく、私は久我くんの後についてスタスタと歩き続けた。


 

「く、久我くん。わざわざ呼びに来てくれてありがとう」



 校舎に入り、廊下を少し進んだところで私は勇気を出してお礼を伝えた。

 久我くんはいつもの無表情顔で振り返り、無言のままこちらを見る。



「あ、じゃあ。私は職員室に……」


「ごめん。担任に呼ばれてるって嘘なんだ」


「え……?」


「桜井さん、困ってたみたいだから。嘘ついて連れて来ちゃったけど、大丈夫だった?」



 少しだけ気まずそうに聞いてくる久我くん。

 気づけばその手には缶ジュースが握られている。

 あの近くに自販機があった事を思い出した。



 え? 嘘?

 あの場から私を連れ出すために……?



「大事な話をしてたっぽいのにごめんね」


「う、ううん!! 私、あの時……ここから離れたいって思ってたから……。

だから、すごく嬉しかった。本当にありがとう」



 私の言葉を聞いた久我くんは、優しい顔で笑ってくれた。

 その笑顔を見ただけで、さっきまでの嫌な気持ちが全て浄化されるように、胸の中が温かくなる。



 さっきのような場面では、イケメンヒーローの登場で救われる事はあまりない。

 女子からさらに嫌われるだけというオチである。


 女子から嫌われたって構わない、男子からモテればそれでいい、というタイプであれば問題ないだろうけど。

 私のような、女子にできるだけ嫌われたくないタイプには地雷だ。



 「やめろよ」とか「何やってんの」とか、変に口を出すこともなく……私だけを庇うような事を言ったり、先輩達を責めるような事も言わずに、ただただあの地獄のような場から自然に連れ出してくれた。


 そういうトコだよ、久我くん。

 目立たなくてヒーローぽくないかもしれないけど、私にとってはめちゃくちゃカッコいいよ。

 


「そういうトコが、好き……」



 すでに1人で歩き始めていた久我くんの後ろ姿に向かって、ボソッと呟いた。

 久我くんがピタリと止まり、こちらを振り向く。



「なにか言った?」


「ううん。言ってないよ」



 私は笑顔で返事をする。

 私の笑顔を見ても、久我くんは顔を赤くする事もなく「そっか」とだけ言ってまたスタスタと行ってしまった。


 やっぱり私に興味を持ってくれない久我くん。

 でもそんなトコが好きなのだから、仕方ない。


 興味を持って欲しくないのか欲しいのか……。

 自分でも矛盾してるな、と思いながら、私も歩き出した。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


初めての現実恋愛、楽しく書きました。



菜々

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ