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剥がれた鍍金

作者: John

妻と口論になった。口論の理由は私が自分本意で思慮に欠けているという妻の当て擦りだった。その言葉は私が言いたい事だと思ったが妻の生え際からは、今にも角が突き出してきそうな気配だったので思い止まった。私はむしゃくしゃとした晴れない気分でシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら顔を手で擦ると違和感を感じた。掌を見ると銀色の薄膜みたいな物が付着していた。顔を鏡で覗き込むと頬から顎にかけて鍍金が剥がれたようになっていた。私は自分の目を疑った。顔、肩、手、胸、腹、背中、腰、尻、足を無我夢中で擦った。すると、垢のようにボロボロと薄膜が剥がれていった。黒ずむ掌。血も肉も無くただボロボロと何層にも上塗りされた鍍金が剥がれていく。私は金属で出来た髑髏となるのだと推測したがそれは違っていた。私は木製の髑髏から形成されていたのである。言わば木片男だ。いや、寧ろ木の妖精、いや、妖怪?妻が浴室に入って来た。さもありなんと言わんばかりに妻が威張って言った。「ほら、私が言った通りじゃない。とうとう鍍金が剥がれて本性を現したわね。あたしは、あなたを結婚当初から中身が空っぽな軽薄な軽い男だと思っていたのよ。やっぱり、あたしの思ってた通り。骨格もメタルじゃなくて木だったのね。通りで軽い筈だわ」そう言うと妻は隠し持っていた木琴を鳴らすマレットで私の頭蓋に当たる木片の髑髏をポンと打ち鳴らした。木魚のような諸行無常な音色が浴室に響き渡った。「ほら、ご覧なさい。あなたのおつむは空っぽじゃないの」この一言に私のハートは木っ端微塵に砕け散った。だって、私は木で出来ているのだから…離婚訴訟で私は黒のスーツに黒のタイを締めて木片の髑髏として至って神妙な面持ちで調停に出席した。書記係の男が調停が閉廷し弁護士と少し打ち合わせの話をしていたら話し掛けてきた。「あの、お話中のところ申し訳ありません。私は、カイル コナリーと申すのですが、私の弟が葬儀社を営んでおりまして、出来ればその葬儀社のイメージキャラクターに貴方になっていただけないかと思いまして…」良い条件提示であったが、私は丁重に断った。こうして、鍍金の剥がれた私は裁判官の心証も良くなく、妻の思いのままに調停を進められ、妻が欲しいと言った物は全て明け渡し妻との12年に渡る結婚生活に終止符を打ち、円満とは程遠い離婚をした。何もかも失った私は森に行った。倒木の傍らで私は静かに横たわった。現在、その倒木のある場所は人骨の形に見える木片が横たわっているとして森のパワースポットとして有名になっている。

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんというか、惹きつけられる感じがしました。
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