8.妖精パニック!!
マイス頑張るの巻
あ、今回ハルちゃんがエセ関西弁を使っていますが、あくまでエセなのであしからず!
風の妖精三人組が飛び立ってから、数分もしない内にポツポツと妖精さんが現れ始めて、1時間もする頃にはわらわらやってきた。
マジでタイムセールって感じ!店内すべてー50パーセーントオーフでーす、なんちゃって、アハッ。
アハちゃうわな!多いわ!!
いや可愛いよ!?もうみんなめちゃくちゃ可愛くてお持ち帰りしたいくらいなんだけど、多いの!
みんな小さいから言っても大した量には見えないんだけど、キラキラがね!すごいの!!ラメ落ちまくりよ!それ集めてグリッターにして売ったろか!って感じよ!!何それあたしも欲しいわ!!!
そんな感じで、次々来る妖精さん達を出迎えて、質問に答えたりたわいない話をしたりしてなんだかんだ楽しく過ごしてたんだけど、おやつ時位になったら、みんないきなり静かになったの。
妖精だけじゃなくて、ダンジョンモンスターや花達までピタッと止まったような静けさ。
気付いたら静寂の中に衣擦れの音がしていて、見上げると綺麗な女の人が歩いてくるの。
てか、あたし今まで無意識に頭下げてたみたいでちょっとおびびなんですけど…。
「失礼するわねぇ。私はこの辺りを任されている大地の精霊マグノリア。妖精達が世話をかけていてごめんなさいねぇ」
「い、いえ!全然大丈夫です!あたし可愛いの好きなんで!」
「あらぁ、それは嬉しいわねぇ。お詫びと言ってはなんだけれど、これ良かったらどうぞぉ」
マグノリア様が──麗しさがすごいので自然と様付けしちゃってるけど──お詫びにと下さったのはガラスの小瓶。中には鼈甲のような色をした艶のある液体が入っている。
傾けるととろりと流れるその液体にはどこか見覚えがあって……。
「私の眷属の黒曜蟻が作った蜜、オニキスハニーよぉ。とっても美味しいのぉ」
「あ、ありがとうございます!あ、そうだお茶も出さずにすみません!」
「あら、ありがとう〜」
急いで席を用意してあたし達が普段飲んでいるマイス特製のハーブティーをお出しすることにした。
通販で買ったティーカップは二客しかないので、マグノリア様と私とで使うとして……他の妖精さん達にはどうしようかと見渡してみると、どこから出したのかみんなとても小さなティーカップを掲げていたの。もう!ちゃっかりしてるじゃない!
マイスは袖から出した蔓の触腕を器用に使ってお茶を妖精達に注ぎながら、等分にカットしたトレントベリーとフォーク、それにどこから出したのか綺麗なナプキンもテーブルに載せる。
頂いたオニキスハニーも一言断ってから開けて、スプーンを添える。今できる限りの丁寧なサーブをして、あたしの後ろに戻ってきた。
やだ、マイスったら本気出したわね!凄いじゃない!
マイス特製のハーブティーは白カーミルってハーブをメインに色んな花をブレンドしているから、ふわっと華やかな香りがしつつも落ち着いた飲み口になっているの。
ハーブティーもトレントベリーもとても美味しいと喜んでもらえたのよ!
「このハーブティーなら、オニキスハニーをほんの少し入れるのも素敵だと思うわぁ」
早速オニキスハニーを一匙入れて混ぜてみると、淡黄色のハーブティーが綺麗な狐色に染まった。
一口飲んでみるとハーブティーとは思えない程に濃厚な味わいになっていて、程よいのにしっかりと感じる甘みに頬が緩んじゃう。しかもなんだか身体がポカポカしてきたし!この蟻蜜(?)すごいわ!
マグノリア様もオニキスハニーを入れてまたお茶を楽しみ始めて、最初の緊張が嘘みたいにお喋りが弾んだ。
なんでも、オニキスハニーは花の蜜とオニキスアントの蟻酸とが混ざって発酵することで、味わい深い甘さと酒精が生まれるんだって!マイスも滅多に見ることのできない高級品だって教えてくれたし、納得〜。
陽が傾いて影が伸び始めた頃に、マグノリア様は飲み終えたティーカップを置いて席を立った。
「そろそろお暇しようかしらぁ。お茶会楽しかったわぁ。ここはとても綺麗で穏やかな空気が流れているのねぇ。きっと妖精や精霊が気に入って遊びにくると思うのだけど、何か困りごとがあったら私に伝えて頂戴ねぇ」
小さく上品に手を振って振り返ったマグノリア様は何歩か歩くとスッと溶けるように消えていった。
いっぱいいた妖精達もほとんどいなくなっていて、まだのんびりお茶を飲んでいる子やお昼寝してしまった子、遅くにやってきた子はまだ残っているが、いつものダンジョンに戻った感じ。
「き、緊張しましたぁ〜!なんなんですか、もうっ!土地憑きの大精霊が出てくるとか!生きた心地がしなかったですよぅ〜」
普段よりも柔らかい感じでマイスが泣き崩れてるけど……さては酔ってるな?
まぁ気持ちは分かる。よく分かんないあたしでもめっちゃ緊張したし。
今日はパパッとお風呂入って寝ちゃおうねー、ほら行くよマイスー。
マイスの手を引いてお風呂に入って、上がる頃には酔いが抜けて代わりに眠気がインしたみたい。お風呂後のケアもそこそこに二人でお布団に倒れ込む。
「今日はお疲れ様。ウッディもおやすみ」
「……おやすみなさいマスター……」
輝く西日で朱く色付いた空に黒蜜を溶かしたような空を眺めながら、昨日よりもどこか活気のあるダンジョンに嬉しくなって自然と笑みが溢れる。明日はどんな日になるんだろう。
白カーミルはカモミール似の薬草です。
オニキスハニーはミ○プルーンをイメージしてもらえたら。