ダンジョン都市アドマイア その2
イェロウ王国、トパズ領。領主であるトパズ家が代々収める地であり、古代より存在するダンジョン「アドマ」と、それに付随するダンジョン都市「アドマイア」を中心として、周辺の砂漠を含む一帯を管理している。
アドマイアの町の大きな特色は、何と言っても巨大な闘技場があることだろう。ここでは多くの剣闘士たちの血沸き肉躍る戦いが繰り広げられ、それに付随する賭博事業が非常に大きな利益となっている。冒険者というのは腕自慢の者が多く、自分の力を誇示し名誉を得るために参加したりするのだ。
そして、ダンジョン都市の特徴として、イェロウ王国管理下の冒険者ギルドがある。ギルドの施設は非常に大きく、町の中心部のほとんどを占めている。
蓮たち一行も、そんな冒険者ギルドの大きさに圧倒されていた。
「はあーーーーー、でっけえなあ」
「これだけの規模の町だからなあ。しかしこれほどとは……!」
アイシャは目を輝かせながら建物を眺めている。元々田舎貴族であるアイシャにとって、このような巨大な施設は憧れであった。
「あ、蓮、見ろ!人が出てきたぞ!あれ、たぶんこのギルドの冒険者だ!」
アイシャが指を指したのは、三、四人で歩く男女だ。いずれもがっちりとした体格であり、各々思い思いの武器を装備している。片手剣だったり、斧だったりだ。
「はしゃぐなよ、恥ずかしいだろうが」
蓮はアイシャの上がるテンションを何とか制すと、冒険者ギルドの扉を開けた。
ギルドの建物内に入ると、すぐ横に受付嬢が柔和な笑みを浮かべて待ち構えている。その横には大きな建物の地図が設置されていた。
どうやら、建物は三階建てで、一階、二階が露店になっている。そして、一、二階の中央は中庭になっており、そこが食事できるスペースになっているようだ。三階はギルドの執務スペースだろう。
「いらっしゃいませ。アドマイア冒険者ギルドへようこそ!」
受付嬢の声は大きく、はきはきとしていた。入ってくる一人一人に言っているのだろうか。少し気になったが、とりあえず目先の目的を優先する。
「あの、買い物に来たんすけど」
「お買い物ですね。登録証はございますか?」
「登録証?」
蓮は首を傾げた。受付嬢は、困ったような表情になる。
「……失礼ですが、外国の方ですか?」
「ん?そうだけど」
「……そうですか。説明させていただきますと、当ギルドでは冒険者登録をしている者でないと、この施設を使えない制度になっているんです」
「な、何だって!?」
アイシャは思わず、受付嬢に詰め寄る。一方の蓮は、「まあ、そういうもんか」とどことなく納得していた。
なにしろ、国の人口の三割が冒険者だ。一体その三割で、まともな人間というのはどれほどだろう。一獲千金を狙えるなら、短絡的な連中がいることも十分考えられる。冒険者ギルドというのは、そんな連中から「まともな冒険者」を探し出すための組織だろう。
その為の第一の関門として、冒険者としてギルドに認められる必要がある。それが冒険者登録証。受付嬢が大声で全員に話しかける理由もわかる。ここでまずはふるいにかけないといけないわけだ。そして、登録証があるかないかで、客かどうか確かめる。
(大変な仕事だろうなあ、相当)
蓮は受付で、現在進行形でアイシャに詰め寄られている受付嬢に同情した。きっと、あるかないかで弾くので、外国人の場合の対応パターンは普段はないのだろう。彼女の慌てぶりが、それを物語っている。ふわふわのツインテールが、激しく揺れていた。
そんな彼女の様子を見かねたのか、後ろから助け舟を出す声があった。
「何やってんの。買い物だけでも、ちゃんと施設は使えるよ。外人限定だけど」
「あっ、先輩!」
先輩、と呼ばれる女性が、小さな首飾りのようなものを持ってやってきた。後輩受付嬢は、彼女を救いの女神のように感じているのか、涙目だった。
「ごめんなさいね、この町に外国人って、来るの珍しいんですよ」
「そうなのか?」
「だって、ダンジョンが近くにあるってことは、ここ、魔物の巣の近くってことですよ?いくら資源が取れても、そんなとこ寄りたくないでしょ?」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。だが、この町の人はここに住んでいるわけだし、そんなに問題ない気もするが。少なくとも蓮は気にならなかった。
「ま、外国には冒険者ギルドってないんですもんね。そりゃあわからないですよ」
そう言って先輩受付嬢が渡してくれたのは、いわゆる仮登録証だ。「出るときに返してくださいね」と釘を刺される。
「すまない、ありがとう!」
アイシャは受付嬢たちに礼を言うと、蓮とエターナルの腕を引っ張って進みだした。
「さあ、ギルドを見て回るぞ!」
「服を買え、服を」
どうして自分が、服を買うことをアイシャに突っ込んでいるのか。蓮は何とも不思議な気分だった。
冒険者ギルドを見て回っていた蓮は既視感を感じていた。当然、こんなところに来るのは初めてなのに、だ。
ぶらぶらと店を眺めながら、ふと思い当たる。
(……ショッピングモールだ、これ!)
装備品という名の服飾店に、アクセサリーのお店。アイテムショップという何がなんだかわからない物を置いている店に、書店など、その店の種類は幅広い。そのうえ、同じ種類の店が複数存在し、互いに競争しあっている。蓮の地元にもある、ショッピングモールのような施設だった。
「うわあ、どの店にしようか……!」
アイシャは目を輝かせながら店という店を眺めている。
「適当でいいだろ。さっさと決めて、飯でも食おうぜ」
「そういうわけにもいかないだろ。そもそも、蓮はどういう装備がいいんだ?」
「どういう?」
アイシャに言われ、蓮はふと考える。そんなことを今までろくに考えたこともなかった。なにしろ、大半の攻撃は彼には効かないのだ。それに、剣や杖といった武器も売られていたが、それを装備する気にはならない。恐らく使いこなせないし、最悪一回使うだけで壊れてしまう気がする。やはり、自分はステゴロが一番だ。
「とりあえず、動きやすけりゃなんでもいいんだが……」
「武器は……いらない感じか?」
「そうだな」
「となると、武闘家的な装備かなあ」
アイシャはそう言いながら、近くにあった装備店に入った。少しして、蓮を手招きする。
「こんなのはどうだ?」
アイシャがあてがってきたのは、ドラゴンのウロコらしき装飾が施された服だった。なんでも、このウロコが炎攻撃を軽減してくれるらしい。
「うーん……これじゃねえかなあ」
蓮のお眼鏡にはかなわなかった。何しろ、服のセンスが乏しい蓮でもわかるくらいに、ダサいという感想が出てくるデザインだった。
「ええ、そうか?私これいいと思うんだがなあ……」
アイシャはそう言って、また服を物色し始める。どうやらこの店で買う気のようだと、蓮はほっと息をついた。
蓮も、何か適当な服はないかと選び始めた。いつも、服を買いに家族で出かけると、母のみどりが暴走して終わるのに二時間くらいかかるのだ。蓮にとってはその時間が面倒だったので、最近は母ではなく自分でさっさと決めてしまう戦略を取っている。そうすれば「まあ、蓮ちゃんがいいなら」と母も納得してくれるのだ。
だが、今回の相手はアイシャであり、母親ではない。
蓮は適当に見繕った服を、アイシャに見せた。さっきよりはマシだと感じる武闘着で、黒をベースにしたオーソドックスなものだ。これなら特に悪目立ちせず、問題ないだろうと思ったのだが。
「ダメだ、そんなの!何というか……センスがない!」
アイシャには評判がよくないようで、一蹴されてしまった。
「私が選んでやるから、ちょっと待っていろ」
そう言って、アイシャは店の奥へと消えてしまう。ちらりと自分が持っている武闘着を見やった。ダサいとはっきり言われてしまった自分のファッションセンスに、少しショックを覚える。
「蓮!」
戻ってきたアイシャが、今度は何を持ってきたと、蓮は身構えたが、彼女は首を横に振った。
「ここには蓮に合いそうなのがないな。ほかの店も見てみよう」
その後、蓮はしばらくの間、「ああ」か「ええ」しか言わなくなってしまった。ずっと隣で見ていたエターナルも最初は同情していたが、そのうち飽きたのか「アクセサリーを見てくる」と言ってどこかに行ってしまった。
その後、蓮がようやっと納得できる武闘着を買えたのは、正午を三時間も過ぎたころだった。




