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レッドレッド王国にて その3

 思っていたよりすんなり町の中に入ることができた蓮とエターナルは、顔を見合わせた。

 どうやらお互い、特にエターナルのほうが、兵士には「かわいそうな目に遭った」ように見えたらしい。

「……教会、行くか」

「……そうね」

 正門から入ると、物資や人が多く通る道らしく、日もくれた今は通りに面した酒場や宿屋から喧騒が聞こえてきていた。

 蓮が気になったのは、通りにある柱だ。柱の上に光の玉が浮かび、夜の町を照らしている。

「なんだ?あれ」

「ああ、あれは柱のに光の魔法球を置いてるのよ。魔力を込めると光るの」

「ふーん……」

 聞きながら蓮は町の人々に目を向ける。

 現代日本とはずいぶん違う、妹と見たゲームの攻略本にありそうな、いわゆる「布の服」みたいな恰好の人もいれば、全身鎧をまとってやたらとでかい剣を背負っている人物がさっそうと歩いている。しかも、全身ではなくとも鎧をまとっている人は一定数いるようだ。

「……ほんとに異世界なんだなあ、ここ」

「何よ、まだ信じてなかったの?」

「いや、こう、実際に鎧着ている人とか魔法の灯りとか見ると、実感する」

「ドラゴンと対峙しておいて、まだ実感なかったの……」


 蓮は町の人々に注目していたが、すぐに自分たちが注目されている立場になっていることに気が付く。悪目立ちする格好なので、当然だった。

すると人ごみを割って、恰幅の良い女性がこちらに近づいてきた。

「あんたたち、大丈夫かい?見たところ、この街に避難してきたみたいだけど」

「え?」

「女の子に至ってはほぼ裸じゃないかい。何があったか知らないけど、大変だったのはみりゃ分かるよ」

 すると、蓮の腕をつかんで、ぐいと引っ張る。思っていたより力が強い。

「とりあえず体を洗うのと、あとご飯も食べるかい?」

「あ、あの、俺たち教会に行けって」

「何言ってんだい!教会じゃ満足に食べるなんてできないよ!あそこの人たちみんな少食だから」

「は、はあ」

 結局は、「腹いっぱい食べられる」という一言に負けた。エターナルが。

(兵士さん、ごめんなさい……)

 女神は、兵士の親切よりも自分の食欲を優先したことを心の中で懺悔した。


 おばちゃんのところというのは娼館だった。

 娼館といっても、彼女の経営している娼館はほぼ宿屋と変わらない。食事、風呂、寝床の提供に、オプションで女性が相手をしてくれるシステムだ。お相手の内容も、何のこともない雑談から一晩の褥まで多岐にわたる。おばちゃん曰く、「案外話し相手が欲しいだけって客も多い」のだそうだ。


 お店に入るとひろびろとした食堂になっていたが、人はあまり多くない。男女の客であろう面々は酒やら飯をあおり、少し薄着の女の子が給仕をしている。

 二人はまず風呂に放り込まれた。お湯は沸かしてあったようで、石づくりの浴槽と木製の風呂桶が置いてある。シャワーの類はなかった。

 お湯は単純に沸かしただけのただのお湯だったが、使っていると自然と一日の疲れが取れる気がした。特に今日はほとんど歩きっぱなしだったし、いきなり知らないところだったしで、思っていた以上に疲れていたことを実感させられる。

 お風呂から出ると着替えがあった。町の人が来ていたような普通の服だ。着替えると、食堂に来るようにおばちゃんに言われた。

 出された食事は明らかに山盛りの肉に、これまた大量の野菜。豪快に焼かれた肉には香辛料が振りかけられており、「さあ、量を食え」と主張をしてくる。

 料理のボリュームに唖然とするエターナルだったが、蓮はためらいなくかぶりついた。

 肉は豚だろうか。鶏肉とは明らかに食感が違うし、牛肉のような風味もない。かといって羊のような臭みもなかった。

 野菜も見たことのない物ばかりだったが、実家の母も凝りだすと時々サラダに見たことない種類を入れたりするので、あまり気にしなかった。とりあえず食べられるものだろう。そして食べてみると結構おいしい。

「あはは、兄ちゃんはよく食うねえ。嬢ちゃんも食べな!食べな!」

豪快に笑って背中をバシバシと叩くおばちゃんの笑顔に、エターナルもつられて笑いながら料理を口に運んだ。


「あの、なんで私たちにご飯を?」

 結局、女神の胃袋に収まったのは最初の一皿だけで、残りは蓮やらおばちゃんやら、周りにいた人におすそ分けして何とか料理ははけ切ったところである。

 容量ぎりぎりのお腹をさすりながら、エターナルはおばちゃんに尋ねた。

「いくら何でも、見ず知らずの私たちに親切すぎる気がするんですけど……」

「……なんか、ほっとけなくてねえ。あんなにぼろぼろな見た目だと」

 エターナルの問いに、おばちゃん――名前はヴェロナという――は、今までも貧しい人たちにただでご飯を食べさせたり、部屋を貸したりしているらしい。

「まあ、さすがに女の子までは面倒見切れないけどね。そっちは有料だよ」

「はあ……」

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。正直な話、今朝の騒ぎでお客が一気に逃げちまってねえ。部屋も飯も仕込んでたのに、かなり余っちまってたんだよ」

「今朝の騒ぎ?」

「ああ。町の入り口の壁も、警備がやけに厳重だったろ?お城からの発表はなかったけど、なんでもドラゴンが出たらしくてねえ」

「ドラゴン?」

 反応したのは、山盛りの食事の残りを平らげて、それでも足りないからともらった干し肉をかじって話を聞いていた蓮だった。

「レッドレッド大平原にタイラントドラゴンが群れでいたんだとさ。一匹でも信じられないっていうのに、おとぎ話にもなりゃしないよ」

「平原……ドラゴン……」

「噂でねえ。ドラゴンが群れで襲って来るってなもんだから。真に受けたお客さんが何人か出てっちまったんだよ。迷惑な話さね」

 少しの沈黙ののち、蓮が口を開いた。

「……なあ、それっておr」

「ほ、本当に迷惑な話ですねえ!あー、もう、きっと鳥の群れかなにかと見間違えたんだと思うんですけどねえ!あははは!」

 俺がぶん投げたあいつらのことか、と蓮が言いかけるのを、エターナルはぶった切って黙らせた。にこやかに笑いながら、ほかの人に見えない足元で蓮のすねを何度も蹴り飛ばす。

『余計な事言うんじゃないわよ――――――っ!!』

 エターナルは蓮の精神に直接怒鳴りつける。

『この世界でドラゴンなんて、一生に一度会ったとしたらかなり奇跡的な部類なの!それが群れで現れたなんて言ったって、到底信じらんない物なのよ!私だって信じられないし朝のあれが本当のことだなんて信じたくもないっての!』

 にこやかに笑うエターナルとそれをにらむ蓮を交互に見合わせながら、ヴェロナは笑った。

「あんたら、仲いいねえ。付き合いは長いのかい?」

「「こいつが馴れ馴れしいだけだよ(です!)」」

 二人の言葉がぴたりとそろったの聞いて、ヴェロナはさらに笑った。


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