表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/101

「魔女」の企み その1

すっかり心をへし折られてしまったポシェイドに変わり、ザバンが口を開いた。

「……やはり、呪いなのか、これも」

「呪い?」

 蓮の言葉に少し体を震わせるも、ザバンは続けた。

「実は、先ほどから言う、娘のメローラさまがここ数日の間行方が分からなくなっているのだ。海底中を捜索しているのだが、どうにも見つからなくて……王の心が疲弊しているところにこれだ。しばらく立ち直れまいよ」

 蓮は、ちらりとメローラの方を見た。てっきり、娘をさらった罪か何かで連れて来られてたのだと思っていたが、違うのか?メローラは首を横に振って、とある方向を指さした。

 彼女の示す方向を見ると、遠くでこのやり取りを見ている侍女らしい魚人がいた。なるほど、思っていたより顔が魚っぽい。本当のメローラの顔は、おそらく魚に近い顔をしているのだろう。想像してちょっとがっかりした。

とにかく人間になっている今では、ここに娘がいるなど思いもしないということか。まあ、こんな深海にすんでいれば、地上にいるなど考えないだろう。

「……なあ、ところで、気になることがあるんだけどさ」

「……なんだ」

「さっき言ったろ?あんたらでいうところのダムジャルクが地上にいたって」

「……ああ、言っていたな、そういえば」

「なんでも、あいつ、海の「魔女」?ってやつに言って、人間にしてもらったって言ってたんだけど……」

 その単語に、その場にいた魚人全員がざわつき始めた。

「……海の「魔女」?」

「なんか知らねえ?そいつの事」


「ま、まさか……」

 ポシェイドがゆっくりと起き上がり始めた。案外早い回復に、四人は驚く。


「娘が、メローラが奴と接触したとでもいうのか!?」


 ずい、と顔を近づけてくるのを手で制す。このジジイ、やはり元気だ。

 蓮は観念して、叫んだ。


「そうだよ!本人から聞いたんだよ!」

 その言葉に、ポシェイドは再び崩れ落ちた。

 そして、蓮の後ろにいる三人の女を見やる。

 うつむいている少女の、瑠璃色の瞳と目が合った。亡くなった妻と同じ色の瞳だ。ポシェイドは、わなわなと身体を震わせた。


「…………メローラ…………なのか?」

 ポシェイドの目から涙があふれる。メローラの目からも涙があふれ、互いに止まらない。メローラは涙ながらにうなずいた。


「メ、メローラ…………!」

 惜しむらくは、これが王の口からダムジャルクへの仕打ちを告白していなければ、さぞ感動の再会となったであろうことだろう。しかもダムジャルクへの仕打ちが、自分と親しくしていたことが原因であると、メローラ自身も自覚してしまっている。ポシェイドは、言葉を失ってしまった。

「すまない……すまない……!」

 もはやうわごとしか言えない父親を、メローラは抱きしめた。王のうわごとは、再び嗚咽へと変わる。

「……彼女がメローラ姫様、だというのか?本当に?」

「そうだよ。だから、「魔女」とやらに頼んで、こいつが帰れるように「契約」を何とか出来ねえか相談に来たんだよ」

「……それで、わざわざ?地上からネプティエまで来たっていうのか?」

「しょーがねえーだろーが。こっちだって用事あるの優先して、こいつの里帰りに付き合ってやったんだ。最後まで面倒見ないと気持ち悪くて仕方ねえ」

 で?と蓮は続ける。


「どこにいるんだよ。知ってんだろ?海の「魔女」の家くらい」


「あ、ああ。知ってはいる。知ってはいるが……」

 ザバンは、ばつが悪そうに言葉をつなげた。


「かなりここから遠くだぞ。あいつもダムジャルク同様、このネプティエを追放されている身だからな」

 蓮の血管が切れかける音がして、ザバンは思わず頭を抱えてかがみこんだ。



 本当に、自分は不幸だった。

 彼女は、これまでのことを思い返していた。

 はるか祖先のころ、ネプティエ王家より受けた「追放令」により、彼女の一族は揃って追放され、ネプティエ辺境の海底火山地帯へと追いやられた。

 それ以来、祖母からも母からも、ネプティエへの憎悪を植え付けられた。死と隣り合わせのこの地で生きるのは、王家のせいだと。時折、華やかなネプティエの都を眺めに行った。それはあまりにもきれいで、手を伸ばさずにはいられなかった。

 だが、伸ばした手は哀れにも弾かれた。

 町に入ることもできずに追い出され、蹴り飛ばされる。そして、一歩間違えば死のあの地へと再び帰る……。

 思えば、あの時だ。先祖代々受け継がれていた憎しみが、まぎれもなく自分のものになったのは。それからは、ずっと憎きあの都を滅ぼすさまを思い浮かべてきた。


 アレを見つけたのは、ちょうどそんな時だ。


 海底火山の奥底に眠るアレを、奴らは知らない。アレは父を殺しもしたが、どうでもよい。


 さらに、運のいいことに、自分のもとに転がり込んできた幸運は計り知れない。


 一つは、アレを受け止めることができる器。


 もう一つは、器を自在に操ることのできる力。


 その二つが、今、自分が意のままに操れる状況にある。こんなに喜ばしいことはない。


 もちろん、アレの本来の目的も忘れてはいけない。劇物なのだ。使い方を間違えば、取り返しのつかないことになる。


 懸念すべきは、最近現れた妙な連中だ。三人組の。特に二人。一人は大したことないけれど、二人からは大きな力を感じる。


 何とか排除したいが、今彼らがどこにいるかもわからない状況だ。わからないなら、自分ができることをするのみ。


 機は熟している。派手に始めよう。


 海の「魔女」は、誰にも見えぬように笑っていた。

 蓮たちは、海の「魔女」の家があるという、海底火山地帯にやってきていた。かなり遠いと言っても、蓮が走れるのならば大して時間もかからない。鎖で互いをつなぎ、電車ごっこの要領で、蓮が駆け抜ければ十分足らずだ。快適性は皆無だが、緊急事態なので四の五のいってはいられない。

 着いてきたのはアイシャ、エターナル、メローラ、ポシェイド、そしてザバンの五人だ。皆、到着時はグロッキー状態になっていた。

「……ここがその女のハウスか?」

 息も絶え絶えのアイシャが言う。ぱっと見、それらしいものは見当たらないが。

 火山地帯もへっちゃらの蓮が近くをひとっ走り見てみると、離れたところに小さい小屋のようなものがあるのを見つけた。どうやらここが「魔女」の家らしい。

 家の中に入ると、誰もいない。もぬけの殻のようだ。

「出かけてる……ってわけでもねえよなあ」

 もぬけの殻、というにも程度があるが、明らかにどこかに出かけている物のなくなり方ではなかった。荷物をまとめて出て行った、という方が正しいだろう。

「引っ越しでもしたのか?」

「馬鹿な!奴はこの海では、ここしか住めるところはないはずじゃ!」

 ポシェイドが叫ぶ。なんでも、一族総出の追放で、彼女たちが唯一与えられた土地がここだ。辺境も辺境で、ここ以外の地域にいれば王家にはすぐに伝わるようになっている。

「じゃあなんでいねえんだよ」

「そ、それは……」

「蓮、ちょっと通訳してもらえるか?」

 アイシャに言われて、蓮はポシェイドにいくつか質問を投げかけた。


●その知らせは、地域以外にいた時に発動なのか?

「う、うむ。そうじゃ」


●つまり、この地域からいなくなった時ではない?

「た、確かに。いなくなっただけでは、伝わらない……かもしれん」


●発動しない地域で、心当たりはあるか?

「いや、少なくとも、この海で、そんな場所を制定してはおらんよ!」


●この海ではない、ということは……?

「……まさか、地上か……?」


 ポシェイドは青ざめた。まさか地上に行くなど、想像してもいなかったらしい。

 通訳していた蓮も、表情には焦りが見える。

「……おい、じゃあ何か?こいつやダムザを人間にしたやつは、自分も人間になって地上にいるってのか?」

 こんなところに追放されているのだから、何かしらをやらかした人物なのは間違いないだろう。

「なあ、ダムザみたいに、あんたらがなんかいろいろやって追い出した、とかじゃないのか?この海の「魔女」ってのはさ」

「いいや。少なくともこの「魔女」は、ネプティエの都に侵入し、多くの魚人を殺害している。さらには、地母神カーリーの邪神崇拝をしていることもあり、思想もかなり過激で、ネプティエはおろか地上も滅ぼさんと考えている邪教徒だ」

 蓮は頭を抱えた。完全にアウトじゃないか。むしろ地上に出す方がまずいやつだ。もう出ているけど。

 そうなると、気になるというか、絶対に確認しないといけないことがある。


「…………名前は?」


「えっ?」

「だから、そいつの名前だよ!」

 そう。よくよく考えれば、蓮たちは彼女の名前を知らない。皆「魔女」で通じるせいか、誰も突っ込まなかったが、かなり初歩的なことだ。

「し、知ってると思っていたが……まあいい」


 ザバンはコホンと咳払いした。なんだか、妙に緊張感がある。


「まあ、「魔女」の、名前は…だな」


「もったいぶってねえではよ言えや!」

 蓮にどつかれて、ザバンは慌てて叫んだ。


「ひ、ひい!わかった、言うよ!」


「スキュレーだよ!「魔女」の名前は!スキュレー!タコ型の魚人さ!」


 蓮、アイシャ、エターナルの背筋に、強い悪寒が走った。加えて、全身の血が心臓に戻るような感覚が生じる。一瞬気を失うかと思ったほどだ。

 三人が思い浮かべるのは、共通の人物。

 よーく名前の似た女を、彼らは知っている。


 三人は目を合わせた。よりにもよって。三人はそろってしまっている。

 つまり、三人以外は誰もいない。


 同時に息を吸い、名前を呟いた。


「「「キュレー…………!」」」


 イチ島の島の守、ラウタの秘書と名乗った、あの女性。

 違うならそれでいい。だが、今考えれば怪しさは尋常ではない。

 秘書になったのは数日前だと、あの時は言っていた。


 確証があるわけではない。直観だ。


 だが、もし。この直感が当たっているとすれば。


 自分たちはとんでもない大ポカをやらかしている。


 超危険な邪神の信徒の、すぐそばに。

 あろうことか、その国の王子を置き去りに、自分たちは海の底にいるのだ。


「……せ」

「えっ?」

 つぶやいた蓮の声が聞き取れずに、ザバンが聞き返した。


「…………俺たちを地上に返せ!今すぐに!」

 肩を掴んで振り回された衝撃で、ザバンの右肩が吹き飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ