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レッドレッド王国にて その1

 異世界カーテンティアには四つの人間国家がある。この四か国は300年前に起こった人間と魔物との大規模な戦いの際に、手を取り合って勝利したという歴史があった。それは現在も、共通する宗教の名を借りて「メザイア大同盟」という形で残っている。


そんな同盟の一柱、レッドレッド王国の王城は大混乱に陥っていた。同盟結成以来、これほどの大混乱になったことはない。初代国王が建国してからおよそ500年、諸外国との戦争も同盟以前は無かったわけではないが、現在の騒ぎと比べればよっぽどましであった。


 城下町の見張りが血相を変えて報告に飛び込んできたとき、定例会議をしていた王国首脳陣は耳を疑わざるを得なかった。


「巨大なドラゴンの群れが、レッドレッド大平原に集結しています!」


 急ぎ会議室の窓から平原のほうを見やれば、上空には黒い影の集まりができている。王が精神を研ぎ澄ませ「望遠」の魔法を使うと、影はみるみる視界に近づき、やがて凶悪な竜の形相をあらわにする。それも一頭ではなく、見える範囲でも五頭はいるではないか。

 王は青ざめ、「望遠」魔法を解除する。視界が戻ろうとすれば、さらに多くの影が映っていく。それが、平原に集まる竜が五頭どころではないことをはっきりと示していた。


「なんと、いう、ことだ………」


 巨竜とはおとぎ話の存在などではない。ただ、竜は縄張りを出ることが極端に少ないために目撃情報が少ないだけだ。そして、目撃した者もほとんどの末路は知れている。宝に目がくらみ、竜の小腹を満たすに過ぎない。

 それに、過去に竜の討伐事例がなかったわけではない。この国にも、竜の討伐事例はある。だが、それは「事例」ではなく「伝説」となり、いつしか信憑されることはなくなってしまっている。だが、王として、竜の存在を「伝説」とするわけにはいかなかった。

 王国としては、万が一にも竜が現れた時の対応については、考えなくてはならない課題であった。


 だが。いくら何でも。あんな数をどうしろというのだ。

 竜の撃退「事例」は、せいぜい一頭をどうやって倒した、というのがせいぜいだ。複数の竜を相手取った中で、撃退に成功した「事例」は、王の記憶には一つとてなかった。


 隣を見やれば、国の防衛を担当するあんぐりと大臣が口を開けている。立派に蓄えた口ひげがあまりのショックにしおれてしまっていた。無理もない話だ。


「…奴らは、こちらに来るのか?」

「わかりませんな。それに、なぜあの平原に集まっているのかも………」

「ドラゴンは金銀財宝を縄張りに蓄えると聞くが……ドラゴンの求めるような資源があるというのか?」

「そんなことより、もしあの群れがこちらに向かってくるとなれば……!」

誰が言ったか、この言葉に会議場のざわめきが強くなる。

「そ、そうだ!戦っても勝ち目がないのであれば、一刻も早く逃げなければ!」

「すぐに馬車を手配しろ!私は領地に帰らせてもらう!」

 途端に貴族諸侯がざわめきだし、あわただしく扉から姿を消していく。

 王とわずかの側近は、動くこともできずにただ遠くの黒い影を眺めていた。

「………もし。奴らがこちらに向かってきたとして。……わが軍は、どれくらい持ちこたえることができる?」

「何をおっしゃいますか!半日たりとも持ちませんとも!」

「そうか。……こんな時に。これが、教会連中の言う「大いなる災い」なのかもしれんな」

王は顔を伏せ、眉間に指を押し当てた。


 数年前に、メザイア教の教皇が、「大いなる災い」の予言を言い放った。


 ――遠くない未来に、世界を絶望が包み込む。大いなる災いが、姿を顕わす――


 だが、教皇は同時に、「災い」に対抗する手段も併せて予言を残していた。なお、教皇は予言の後に恐ろしさのあまり発狂し、現在は隠居し静養している。


――「神」に選ばれし者が、人々を導き、「災い」を必ずや退けん――


「……結局、我々は、間に合わないのだな」

「ええ、我々は「災い」を退ける者を、「勇者」と呼んでおりますが、結局、世界のどこにもそれらしきものは。「勇者まがい」ならば山のようにいるのですが……」

「うむ……」

「とにもかくにも、目の前の巨竜の群れは紛れもなく本物ですぞ。早く逃げなければ。このままだと、逃げる間もなく竜に焼かれてしまいます」

「うむ。……城下の民に報せを出す。私自ら話をせねばな」


 しかし、結果としてこの報せを出すことはなかった。


 新たな報告として、竜の群れが王都とは反対の方向へと消えていったというのだ。


 報告を受けた王が玉座につくと、いつになく体に力が入らなかった。

 小さく「………そうか」とつぶやくと、人払いをしてそのまま目を伏せる。

 一体竜たちはどうして平原に集まったのか。そして、どうして消えていったのか。

 何より、竜たちはこの国に、この王都に、来る可能性が万が一にでもあれば。

 王は思考を巡らせるも、そのまま玉座にて深い眠りに落ちて行った。

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