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海底の都 その2

 結局、蓮はその後十分ほど逆さ吊りにされたのち、ようやっと解放された。

 現在、蓮はダムザとメローラ、そしてアイシャとエターナルを連れて、北の入り江へと向かっている。彼がネプティエ人なのも、北の入り江にケイトスがいることも、すべてダムザ本人の口から説明済みだ。

 アイシャはその辺の事情聴取含め、蓮とは一切口をきいていない。まあ、怒らせたのが自分なので仕方ないと言えば仕方ないのだが。

「……この島の近くで、ずっと念話を飛ばしてたのに、全然反応もなかったもんね」

 後ろにいるエターナルがチクリチクリと言葉を刺してくる。

「アイシャさん、気が気じゃなかったのよ。「やっぱり私も同行するべきだった!」って言って。昨日なんか一日中海を飛びまわってたんだから」

「……だから、本当に悪かったよ。でも、こっちにも色々あって……」

「そんなのわかってるって。そもそも色々なきゃ、ちゃんと帰ってくるでしょ?」

「あたり前だろ」

「本当に心配してたのよ、彼女。それで、すっごい神経とがらせているところに、あんな安心しきった寝顔見せられたら、そりゃあ、ねえ?」

 蓮には一切反論はできなかった。逆さ吊りから解放されたときに、メローラにも似たようなことを言われたのだ。

『逆さ吊りになってるあなたから片時も離れないで、起きるのをずっと待ってたのよ。遠目から見てたけど、ちょっと泣いてたみたいだし』

 そう言われてしまっては、蓮としてはどうしようもない。


(……愛の奴にも、似たような思いをさせちまったんだろうか)


 日本で、ちょうどこのカーレンティアに来る前に喧嘩してしまったバイト先の同僚の立花愛のことを思い出す。

 彼女に謝ることも、紅羽蓮が元の世界に帰るモチベーションの一つだ。時間をかけてしまうと、謝って仲直りしづらくなってしまうから、なるべく早く帰りたいのだが。

(どうにも、厄介ごとが多すぎるんだよなあ……)

 予言の「災い」。本来いないはずの、もう一人の勇者。そして、どういうわけか、愛そっくりの少女、アイシャ。どうにも気になり、放っとけないでいる自分。


 早く帰りたいのに、目の前の問題に引っ張られて、どんどん時間がかかっている。気づけば一月近くこの世界にいるのだ。

 何とかしなければならない。どうすればよいかはさっぱりわからないが。

(……くそ、せめてファンタジーなら、もっと単純なのにしろっての)

 彼の認識上のRPGゲームの世界のように、悪い魔王がいて、それを倒すのが目的、というのなら、さくっと行ってぶっ飛ばして終わりなのに。どうして自分はこんなイン●ィ・ジョーンズばりの調べものまでしているのか。

 つくづく自分の柄じゃない。蓮は舌打ちしようとしたが、目の前のアイシャにこれ以上変な誤解をされても嫌なのでしないでおいた。

 それにしても、相当心配をかけただろうから仕方ないのだろうが。

 アイシャは一言も口を利かないが、蓮の服の袖をひと時も離してもくれなかった。


 ともかく。ネプティエの手がかりについてつかんだ蓮たちは、北の入り江へとやってきた。ダムザが指笛を鳴らすと、入り江の水面が揺れて、丸いクジラのケイトスが顔を出す。

「うおお、本当にいた!」

 アイシャはケイトスに近づくと、体に触ってみる。濡れてはいるが、乾けばふさふさであろう毛並みに、「おお……」と声を上げていた。

「昨日も言ったが、こいつはネプティエ生まれだから、道を知ってる。だから」

 ダムザの言葉と同時に、ケイトスは口を大きく開けた。

「行きたいんなら、こいつの口の中に入れ。それで待ってりゃ連れてってくれる」

「なるほど……これで、故郷に帰れるな」

 アイシャはメローラの方を振り向くが、彼女の表情は複雑そうだ。

「まあ、解決してない問題もあるしなあ」

 

 今のメローラは人間になってしまっている。海の「魔女」とやらと交わした契約のせいで、声と引き換えに人魚から人間へと変わってしまっているのだ。こんな状態で、果たして帰れるものなのだろうか?


「……その海の「魔女」とやらのところに行くしかないだろうな」

「行くったってどうすんだよ?海の中だぞ」


 ネプティエの言葉じゃないとだめなのではないか?そもそも、海の中でどうやって会話するのか?問題は山積みだ。

「それは、ほら。彼に頼めばいい」

 アイシャはダムザを手で指した。だが、ダムザは首を横に振る。

「俺は駄目だ。ネプティエ近辺には行けねえよ」

「なんでだ?追放されたとは言っていたが……」

「それもあるけどよ、そもそも俺はネプティエには二度と近づけねえ。……そういう「契約」なんでな」


 ダムザの言葉に、蓮たちははっと気づいた。そもそも、ネプティエ人である彼が、どうして地上で暮らしているのか。


「そう。俺もその「魔女」と契約して、こんな姿になったわけだ。まあ、俺はもともと混じり者だったから、身長までは人間らしくならなかったけどな」


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