幕間 午前七時
立花愛は目覚まし時計の音で目を覚ます。今日は土曜日で学校はお休みだ。その代わりバイト先にて、家政婦の仕事をすることになっている。
バイトを始めたのは、3ヵ月くらい前だったろうか。とある案件の相談に行った際に、とてもよくしてくれたので、お礼としてここで働きたいと自分から申し出たのだ。
とはいえ、自分にできることと言ったら家事くらいしかなかったことと、バイト先の人たちが壊滅的に家事ができない人ばかりであるという奇跡的な一致から、家政婦として雇ってもらえることとなったのだ。
ふと、昨日のことを思い出して、胸がチクリと痛む。思わずムキになって、あまつさえビンタまでしてしまった。
「…蓮さん、朝からだったっけ」
バイト先のシフト表を眺める。簡単なエクセルで作られた1枚の用紙だが、今日は自分が昼から。蓮は朝から出勤で、終わりは同じ時間になる。終わった後に少しくらいなら時間が取れるかもしれない。
謝らないと。愛は自分が折れようと思っていた。このままわだかまりを持っていたって、いいことは決してないのだから。
なんてことはない。ただ、「昨日はごめんなさい」と一言謝ればいいだけのことである。
たとえ、自分の趣味が「女の子らしくない」とバカにされたとしても。
結論として、この日、彼女は蓮に謝ることができなかった。
蓮は非常に珍しく、無断欠勤したのだ。